67:特別任務
アナスタシア様から文官補佐に関する諸々の説明を受け終え、私は今メモを見返している。
貿易周りは色々とやることが多そう。ちなみに、アナスタシア様とユリアさんは「このままこの部屋にいるように」と言い残し、どこかに行ってしまった。
メモを見返しながら、うーん、と唸っていると、ロゼさんがハーブティーを入れてくれた。ありがたや。
「ありがとうございます」
「いえいえ!」
「ふわぁ、生き返る〜」
「ふふ、それはよかったです」
そんな感じでのんびりとしていると、部屋のドアがノックされた。
「はい。どうぞ」
ノックに対して返事をすると、アナスタシア様が戻ってきた。ユリアさんと、もう1人女性がいる?30代くらい?誰だろう?
「この人が誰か説明しますね。その前に」
アナスタシア様はドアに魔力を通したみたい。
「これでしばらく誰も入ってこれません。先ほどみたいに変な人がくると困りますからね」
おっと!つまり、それだけの中身のあることを話そうということでしょうか!そこのところどうなんですか、王女様!
「テミスさん、セレーネさんの目の前の席と横の席のどちらがよろしいですか?」
「アナスタシア様はどちらに?」
「わたくしは目の前の席に座ろうと思っております」
「それでは私もそうします」
そうおっしゃり、お二方は私の前の席に腰をおろした。ユリアさんがさっと紅茶をだす。
さすが、できるメイド!
・・・じゃなくて、今テミスさんって言った?聞き間違いだと嬉しいなぁ・・・。
「セレーネさん、先ほどわたくしが”内政についても少し手伝ってもらう”とお伝えしたのは覚えていますか?」
「・・・」
「その様子だと覚えてる様ですね」
厄介ごとの匂いがプンプンするから黙秘しようとしたのに!
「こちらにいるのは、マーサ・テミス女公爵です」
「貴女がセレーネ嬢?」
「はい。セレーネ・ケニルワースです。マーサ様はテミス公爵家のご当主様でしょうか・・・」
「そのとおりですね」
微笑みながら言われたけど、私の悪あがきは一瞬で終わった!テミス公爵家って監査のトップじゃん。その当主様と、王女様と一緒に密室で密談?
「・・・アナスタシア様。セレーネ嬢がこの世の終わりの様な顔をしているのですけど、事前になんと説明しているのですか?」
柔らかい雰囲気を出しているけど、監査のトップよね。これは優しげな雰囲気は擬態?
「何も説明しておりませんわ。こういうのはサプライズが大事だと、ラズウェル家の令嬢から言われておりましたの。セレーネさんは聡明ですから、面倒ごとの気配を感じたのでしょう」
確かにその通りだけど!ラズウェル家のご令嬢ってミラだよね!
「あらあら。そうですか」
おほほほほ〜みたいなノリでマーサ様が笑ってる。
「わたくしから説明しますね」
「はい・・・」と言いながら、私はアナスタシア様に説明をお願いした。
「まずお聞きしますけれど、セレーネさんは今の王国の統治についてどう考えていますか?」
「えっと・・・?」
「何を言っても不敬には問いません」
「・・・そうですか。信じます」
「ええ」
「わかりました・・・。王国は傾いていると思います。国王陛下が第二王妃を寵愛し、国王としての執政能力を失っていると思います。その上、様々な権力濫用や無駄遣いのせいで、国に損害がでている。と思ったり思わなかったり・・・」
・・・大丈夫?ほんとに不敬にならない?
恐る恐るアナスタシア様の様子を伺うと、マーサ様にアイコンタクトをしていた。そして、マーサ様はうなづいていた。
それを確認して、アナスタシア様がまた話し始めた。
「セレーネさん、その認識は正しいです。しかしながら、一点間違いがございます。国王は執政能力を失ったのではなくて、元からありません」
どういうことだろう??
「これは王家の恥なので、あまり外部に伝えてないのですけれど、わたくしのお父様は元から無能です」
「はい?」
「無能なのです。執政能力は元からありませんでした。お母様がその能力をかわれて王家に嫁いで、あの裸の王様の代わりになんとかしていたのが実情ですわ」
「・・・なるほど?」
「しかし、第二王妃が現れ状況が変わりました。あの第二王妃様が国王陛下にわがままを言う様になり、今まで上部だけで王様として振る舞っていれば良いだけだった国王陛下が、周りに指示を出し始めたのです。その結果が今ですわね。至るところに損害が出ています」
「そうでしたか・・・」
「ええ。そして、今問題が2つあります。1つは、国王陛下の昔からの取り巻きですね。国王陛下が前に出る様になったので、それに乗じていばり始めました。そして、2つ目は、第二王妃派ですね。第二王妃は主に男性を中心に派閥を作り上げ、王宮内における自分の立場を確立しました。これにより、文官をはじめとした現場にもわがままが通ってしまう状況になっています」
「はい」
思ったよりも王宮内が大変なことになっている。この話を聞かされたと言うことは、私これに関わるの?
「そして、セレーネさんには、1つ目の問題に対する手助けをお願いしたいと考えておりますわ」
「できることでしたらご期待に添いたいのですけれど、私は王都では名前も知られていないような男爵家の二番目の子供です。貴族として最下層の身分なので、できることがあるかどうか・・・」
これは本心だ。悪あがきとかではなくて、身分の関係のない第二学園内ではなくて、身分や権力が正義であるこの王宮内において大したことはできないと思う。正式な文官でもないし。
「逆ですわ、セレーネさん」
「逆、ですか?」
「ええ。今のセレーネさんの状況は、文官ごっこを実現してくれるほど王女のお気に入り、とも見て取れます。国王陛下の昔からの取り巻きは次世代の王族であるわたくしに取り入るチャンスを伺っていたので、あなたにも近づいてくるでしょう。『地方の男爵家なら世間知らずに違いない。この娘をたらしこめば、王女にパイプを作れる。これで、王族が代替わりしても安心だ』といったところでしょうね」
「そうなんですか・・・?」
思わずユリアさんを見るとうなづいていた。次にマーサ様を見ると同じくうなづいていた。アナスタシア様をみると、うなづいていた。
「そこで、近づいてきた貴族たちにボロを出させてほしいのです。いわばスパイのようなものですね。もちろん危険は伴うのですが、この任務をお願いできないでしょうか?ちなみにですが、今ならまだ断っていただいても問題ありませんし、その場合でも文官補佐は継続してもらって構いません」
「アナスタシア様、1つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「身分証としていただいたこのネックレスですけど、魔道具ですよね?身分証以外の機能もありませんか?例えば、状態異常無効とか」
「!これは驚くました。その通りです。なぜわかったのですか?」
「魔力の感じ的になんとなくですかね・・・?」
「そうでしたか。優れた魔法師なのですね」
「あ、ありがとうございます」
「照れますか?」
「て、照れてません。それより、先ほどのお話ですが、この任務をお受けします」
「・・・いいのですか?」
「はい。身分と、自衛する戦闘力があるという点で、おそらく私が適任だと思います。適材適所です。それに、このネックレスのこともあるので何かあれば守ってくれると思いました」
「100%確実とまではいきませんができる限りバックアップはします」
「わかりました」
「では、ここからはテミス公爵と具体的な話をしてください。なにせ、この方が監査のトップですから」
「やっと私の出番ですね。では、セレーネ嬢打ち合わせを始めましょう」
私は、テミス公爵と色々と話し合った。




