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7:冒険者ギルドでアルバイト

「こんにちはー!事務作業の手伝いで来たセレーネです!」


今日は、学園の週末の休みを利用して、初めて王都の冒険者ギルドにきた。

冒険者としてクエストを受けるのではなく、事務作業の手伝いのアルバイトのためだ。

年度の変わり目ということもあり、この時期は学園以外の組織も忙しいらしく、冒険者ギルドもその例に漏れない。


あくまで、アルバイトにきただけで、今後を見据えて王都の冒険者ギルドに恩を売っておこうとしたとかではない。純粋に!アルバイト!文官のために事務系の経験を積んでおきたいというのもあるけど!


「初めまして、セレーネさん。受付をやってるセシリアです。お話は伺っています。ギルドマスターを呼んでくるのでこちらの部屋で少々お待ちください」

「はい。わかりました」


受付嬢セシリアさんが部屋まで案内してくれた。美人で清楚でお淑やかな雰囲気だった。人気がありそう。


なぜかやたら豪華な応接間に通されて、落ち着かない中でソワソワと少し待っていると、品の良さそうな服を着た男性がやってきた。


「ケニルワース男爵令嬢。お待たせして申し訳ございません。王都の冒険者ギルドでギルドマスターを務めている、ランディーと申します。本日はお越しいただきありがとうございます」


ランディーさん、自己紹介しながらすごい丁寧にお辞儀してきた。スマートなジェントルマンって感じね。

田舎のケニルワース領の冒険者ギルドのギルドマスターと違う。さすが王都。


「ご丁寧にありがとうございます。私はセレーネです。本日はよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします。本日はお日柄もよく、ケニルワース男爵令嬢も麗しくいらっしゃいます。お目にかかれて光栄でございます」


・・・あれ?もしかして、私のことを冒険者としてではなく貴族令嬢として扱ってる?


「ランディーさん。私は今日は冒険者のセレーネとしてアルバイトにきました。そんなにかしこまらなくていいですよ」

「そうか!わかった!そうさせてもらう!お貴族様用の応接間じゃないほうがよかったな!」


ランディーさんはニカっと笑って一瞬で砕けた雰囲気になった。

変わり身がすごい!

けど冒険者ギルドはこっちの方がしっくりくる!

というか、やけに豪華だと思ったけどここって貴族用の応接間だったんだ!


「はい。次からも冒険者用の部屋でいいですよ」

「そうか、わかった。それじゃ早速事務作業の打ち合わせに入ってもいいか?」

「お願いします」

「セレーネ嬢は文字の読み書きができるよな?」

「そうですね。問題なくできます」

「助かる。冒険者は識字率が低いから、あまり事務仕事を依頼に出せないんだ。それで、やってほしい業務はおおまかに3つだ。1つ目は、昨年度の依頼書の破棄。2つ目は、口先だけきぞ、げふん、寄付金リストの整理」


・・・今ランディーさん、口先だけ貴族って言おうとした?

まぁ貴族にも、権力に見合う実力が伴っていたりいなかったりと、色々といるから気持ちはわからなくもない。


「そして3つ目は、書庫の棚卸しだ。3つ目の棚卸しは時間までにできる範囲でいい。何か質問はあるか?」

「1つ目についてですけど、依頼書を私が見てしまってもいいのですか?」

「掲示板に貼りだしていたやつだから問題ない。報告まで含めた詳細な書類は別途管理している」

「そうですか。わかりました。それぞれの作業場所を教えてもらえますか?」

「わかった!それじゃ今から案内するぞ!」

「はい。お願いします」


ランディーさんに案内されて最初の部屋についた。


「前年度の依頼書を保管していた部屋だ。保管というか放置になってしまっている。依頼書を集めてそこのカゴに入れてもらいたい」


私の目の前には、依頼書が散らばったり山積みになったりしていた。

これは・・・その・・・やりがいがありそうね!


「わかりました。素手だと大変なので、箒を使ったり風魔法でまとめてもいいですか?」

「構わないぞ!部屋や備品を壊さない限り手段は問わない」

「わかりました。それじゃ早速とりかかります」


「あぁ、頼む。ワシは仕事に戻るから終わったら声をかけてくれ。それと、忘れる前に渡しておく。アルバイトとはいえ一時的にギルドの業務をするから臨時職員証だ」


ランディーさんはそう言いながら、収納魔法から臨時職員証を取り出した。

さすが冒険者ギルドのギルドマスター!自然に魔法が使える!


「ありがとうございます」

「ああ。散らばった依頼書で魔境と化しているが、あとは頼んだ!」


いい笑顔でそう言い切り、ランディーさんは自分の仕事に向かった。

魔境って・・・自覚あったんだ・・・


ーーーーーーーーーーー


適宜風魔法で床に散らばった書類をまとめたりしながら黙々と作業していると、扉をノックする音が聞こえた。


「はい?」

「セレーネさん。調子はどうかしら?」


扉をあけると受付嬢のセシリアさんがいた。


「あっセシリアさん。ぼちぼちです。依頼書って結構多いんですね・・・」

「昨年度の一年分だから・・・」

「あはは・・・」


私の苦笑いを見たセシリアさんは部屋の中のさっと見渡してから、


「それにしても、ここまで魔境だったのね。なぜかギルドマスターの責任者権限でこの部屋はあまり他の職員が入れなかったけど、放置していたのがバレないようにだったのね。今度からはちゃんと整理するようにするわ」


そういったセシリアさんの目は若干細められていた。

清楚でお淑やかな雰囲気のままだけど、どこか迫力がある。

これは・・・ギルドマスター、お説教コースかもしれない。


「・・・ところで、私に何か用でしたか?」

「あっ!思わず忘れところだったわ!差し入れのマドレーヌを持ってきたの!」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

「向こうにお茶もあるし、食べながら小休憩でもどう?」

「ぜひ!」


セシリアさんと一緒にギルド内を歩いていると、


「おい!お前ら!」


冒険者らしき男の人に呼び止められた。

セシリアさんは、私に目配せをしてから一歩前に出て冒険者に返事をした。


「なんでしょうか?」

「なんで俺様がDランクのランクアップ試験を受けられないんだ?」

「・・・マンキョー様。Dランクのランクアップ試験の要項はご存知ですか?」

「ああん!?受付嬢風情が俺様に口答えするのか!?」


この人!口悪いわね!

セシリアさんはというと、表情ひとつ変えずに冷静な雰囲気のまま、マンキョーという冒険者の相手を続けている。


「一度、Dランクのランクアップ試験の要項をご確認ください。文字は読めますか?」

「なんだと!?俺様を馬鹿にしているのか!?」

「そういうわけではございません。お気分を害されたのでしたら申し訳ございませんが、王国の識字率を考慮して、念の為の確認です」

「文字が読み書きできるからってなんだっていうんだ!俺はな!なめられたくないんだよ!」


・・・つまり、読めないってことね。ランクアップ試験の要綱の中身を理解せずに、つっかかってきた可能性が高いわね。

けど、識字率の低さは冒険者ギルドも把握しているから、説明会があったはずだけど・・・?


セシリアさんも同じことを考えたようで、

「マンキョー様。隔週で、ランクのランクアップ試験の説明会がギルドで行われます。予約をお取りしますね」

「ああん!?俺様がなんでランクアップできないんだ!お前じゃ話にならない!おい!隣の黒髪!お前が俺様をランクアップさせろ!」


まさかの飛び火!?私ギルド職員じゃないけど!?

けどとりあえず何か言わないと!


「Eランクのクエストは何回成功しましたか?成果はありますか?」

「ああん!?」


なぜ!そこでメンチをきる!?

回数聞いただけじゃない。

・・・いや、もしかして?そこから理解していない・・・?


「Dランクに限らず、ランクアップ試験を受ける条件の1つに、現在のランクのクエストの達成回数が規定を超える必要があります。今回だと、Eランク相当のクエストの達成回数が重要です。マンキョーさんは何回達成していますか?成果をお聞かせください」


「し、知るかっ!覚えてやがれ!!」


マンキョーは捨て台詞を吐き、威張り散らしていた割に逃げるように去っていった。

・・・えっ、なんで?


「セシリアさん・・・あれなんだったんですか」

「さっきのマンキョーは王都の冒険者ギルドでも有名なの。実力が無いのに威張ってて・・・そのうえ、依頼書の中身もしっかり理解せずに依頼を受けたりするから、クエストも失敗ばかりね。だから、達成回数を聞いたら逃げたんだと思うわ」

「・・・そうだったんですか。よくFランクからEランクにあがれましたね・・・。最初のランクのFで、その辺りの冒険者のいろはを覚えられると思うんですけど・・・」

「普通にFランクの冒険者として活動していればそうなのだけど・・・彼は、他国からたまたま来ていた冒険者を雇って、いかにも自分でクエストを達成したかのように申請していたのよ・・・」

「えっ?虎の威を借る狐みたいですね・・・。しかも、実力じゃなくてお金で解決したなんて・・・」

「FランクからEランクへのランクアップ時点で気付いていなかった私たち冒険者ギルドの落ち度ではあるんだけど・・・」


確か、FランクからEランクは脱初心者の意味合いが強いから、ランクアップ試験もなくて半自動でランクアップだったわね。

前世の日本で、車の初心者マークが試験もなしに1年経てば外せるのに近いと思うから、しょうがない気が・・・


「Eランクには半自動でランクアップするから制度の問題な気がします・・・まさか、FランクからEランクのランクアップで、実力じゃなくて虎の威を借る狐が出るとは思いませんし・・・」

「それはそうだけど・・・。次から気をつけるわ。それにしてもセレーネちゃん」


あれ?私のことをちゃん呼びになった?


「はい?」

「受付嬢にならない?さっきの対応は見事だったわ。ランクアップ試験の条件の中身も理解しているみたいだし」

「あっ、えっと、私も冒険者なので知っていただけです!昔やりましたし!」

「そうなのね?けど、受付嬢は荒くれ冒険者を相手にするから、それなりに対応できる人じゃないと務まらないのよね。セレーネちゃんならできると思うんだけど、どう?」

「お気持ちは嬉しいんですけど、私は文官になりたくて・・・」

「そっか・・・。気が向いたら教えてね!」



その後、休憩を挟んで、昨年度の依頼書の整理と寄付金リストの整理、書庫の整理のアルバイト業務を無事に終えて、私は王立第二学園の寮に戻った。


後日、今度は冒険者としてギルドに行くと、依頼書の部屋がギルドマスター以外の職員も入ることになり、責任者権限で誤魔化すことができなくなったらしい。それと、書庫の整理のときに、日本の図書館みたいに、あいうえお順で整理していたのが好評だったようで再度依頼をうけることになったりした。


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