64:模擬領地運営の模擬戦争
文化祭が無事ではなく終わり、私は2年生の次のメインイベントである、模擬領地運営の模擬戦闘の直前の準備をしている。今日は、グレイスがいるグループと模擬戦をすることになっていて、学園の演習場にきていた。
この2年生の実習は10年前から始まり、第二学園の実践重視の方針を象徴していると思う。
各コースの生徒を均等に分けたグループを作り、それを1つの領地とみなし、領地の資産を増やすことを目的とする。
通常授業とは別に、2年生の前半の秋学期と後半の春学期を通してそれぞれ1回行われるけど、生産系が武器や魔道具をつくったり、商人系がその資材や資金を集めたり、指揮官が模擬戦の指示したり、騎士と魔法師が戦ったり、文官系が他グループとの交渉や同盟(同盟内容は公表するか密約にするか選べる)や各専門職の橋渡しをしたり(学園から資金調達もできる)する、といった演習だった。
実際の戦争みたいに宣戦布告を行い模擬戦の申し込みができるので、戦闘で他クラスを征服する方針をとるもよし、戦闘はせずに内部生産に特化するもよし、と色々な手段がとれる。
ただし、学生本人の能力だけで対応しなければならず、たとえば模擬戦の際に使用できる武器や魔道具は、生産系の生徒がこの実習専用の授業枠で作ったものに限るなどの制限がある。そのため、学園の設備や生徒のどのリソースをどうやって使うかの配分も考えなければならない。最終的な評価は、模擬戦の勝敗や生産品の量や質など総合的に判断される、だったと思う。
正直、国家や領地運営のシュミレーションみたいなものだから、学生にやれせるレベルじゃない気もするけれど、実社会に似てるからその分実践力が身に付くだろう、という脳筋スタイルだった。
それと、おそらくだけど、ビネンツェ王国の北東部で国境を接しているインネルト帝国とのこともあると思う。10年前に停戦協定を結んだとはいえ、いつまた戦争になるかわからない。
戦争はどの職業になっても影響があるから、こうして、学生のうちにそれっぽい経験を積ませたいんじゃないかなーって勝手に思ってる。
私が諸々脳内で整理していると、クレアさんに声をかけられた。
「セレーネさん、そろそろですね」
「そうね。例のものはバッチリよ」
「ほんとに大丈夫でしょうか・・・相手はグレイスさんですよね?」
「たぶん大丈夫。実戦なら100%無理だけど、実習だから。でもグレイスが戦闘態勢になると実習でも効果がないから、迅速に行きましょう」
「はい・・・!」
「そういえば、クレアさんの魔法陣を搭載した魔道具はどう?みんなに配ってたけど」
「動作確認は問題なかったです。うまく機能してくれることを祈ります!それにしてもセレーネさんのおかげですよ!まさかこんなにも早く魔法陣の容量問題に効果的な手法見つかるとは思ってませんでした。うまく行った時のあの感動は忘れません。最初は、」
クレアさんが早口で話し始めた。魔法オタクモードになってしまったようだ。
この前、私がふと言葉にしたプログラミングの関数の概念をしっかりと魔道具に適用したらしい。なんちゃって知識を持ってるだけの私と違って、本物の天才とはこういう人のことをいうのだろう。
適宜クレアさんの話に相槌を打っていると、模擬戦開始の魔法弾が上空に打ち上げられた。
「クレアさんしっかり掴まってて!」
「はい!」
私とクレアさんはあの戦闘民族グレイスの相手を任されていた。私は学園では無詠唱魔法を使ってないし、普通にやると秒殺される自信があるけど、今回は秘策がある。
ただし、グレイスが戦闘モードになっていると効かないだろうから、グレイスが誰かと戦闘を始める前に真っ先に足止めをする必要がある。
そのため、自分に身体強化をかけてクレアさんをおんぶして戦場を走っている。クレアさんには魔力検知でグレイスらしき人物を探してもらっている。
「セレーネさん!11時の方向に1人でこちらに向かっている人がいます!相手側のほかの集団は後方で様子見してるみたいです」
「わかった。たぶん1人で突っ込んできてる人がグレイスね!行きましょう」
周りに人がいない場所では浮遊魔法と風魔法で加速しながら、11時の方向に全力疾走した。
回復魔法も併用したので疲れ知らずで2、3分ほど走っていると、見事グレイスに遭遇した。
すぐに見つけられてよかった!
「セレーネと、クレアか。相手にとって不足は」
「ちょっと待った!」
私はグレイスが剣を抜く前にとりあえず叫んだ。
「どうした?セレーネが学園で無詠唱を使わないのは知っているが、手加減しないぞ?」
「それよりも!グレイス!アフタヌーンティーを楽しまない?」
「は?」
グレイスがすごい怪訝そうな顔をしている。それはそうでしょう、戦場のど真ん中でアフタヌーンティーとか言われたら、私でも理解に苦しむ。
「実は、ミラが作ったスイーツの新作があるの」
「ミラのスイーツ?」
「そう!ほらこの実習って、領地運営のシュミレーションだから他のグループと交易もできるわよね。それで、ミラに頼んで作ってもらったわ」
「だがそれがどうした?」
いかにも興味なさげに言っているけど、私は知っている。グレイスはユッカの木の活動とかでもミラの新作の試食会はほぼ必ずくるということを!
「今なら、私が作った新作のブレンドティーもありますよ?」
「・・・なんだと?」
クレアさんの援護射撃!
グレイスに効果があるようだ!
「だが!ただの甘いものとお茶だろう!」
勢いのある言葉とは裏腹に迷っているようだった。
よし。次の手に移ろう。
私は収納魔法からミラの新作スイーツとクレアさんの新作ブレンドティーを取り出した。
「このスイーツとブレンドティーは今3セットしかない」
「・・・それがどうした?」
「まず一個食べちゃうわね」
そして、パクッと一口かじる。風魔法でおいしい匂いをグレイスの方に流すのも忘れない。
おそらく他の生徒の注目が集まっているこの場でも、そよ風くらいならバレないので無詠唱。
「おい・・・」
グレイスが言葉に詰まっている間に、
「クレアさんもどうぞ。はい、あーん」
クレアさんにも分けた。
「おいしいです!さすがミラさんですね」
「そうよね。美味しいわね」
改めてグレイスを見ると、
「くっ、卑怯だぞ!」
「卑怯だなんて人聞きの悪い。誰も傷つかないとても平和な策だと思うわよ?」
私がグレイスと話している間にクレアさんが植物魔法でテーブルを作って、ブレンドティーと一緒にスイーツを楽しんでいる。
「はう。美味しいです。このとけるような舌触りがなんとも言えませんね」
とても美味しそうに食べている。実際ほんとに美味しいんだけど。
それはそうと今が押しどき!
「グレイス、さっきも言ったけど今3セットしかないの。それと、あまり市場に出回らない材料を使っているんだけど、全部使い切っちゃったの。だから、しばらくは同じものを作れない。よく考えてみて?次は他のグループ相手といえ、学園の実習は来週にもある。けど、このスイーツたちは次にいつ食べられるかわからない。どっちをとるのかしら?」
「この、悪魔!」
「なんとでも言ってくれて構わないわ。それで、どうするの?」
無詠唱の風魔法でスイーツとブレンドティーの香りをグレイスの方に流す。
「・・・奪ってたべ」
グレイスが言い終わる前に私は自分の残りの分を一口で食べた。
「ごくん。私の分はなくなったわね。クレアさんはどう?」
「まだ半分くらい残ってます!ソースを変えようと思います!」
そう言いながら、味変をして美味しそうに食べていた。
「グレイス、あの無防備なクレアさんを襲うつもり?残りの一個は私の収納魔法の中にあるわ。武器をおいて身体強化を解けば出してあげる」
「ぐ・・・」
「アフタヌーンティーをしても、グレイス側からしたら、冒険者の資格ももっている私と魔力量おばけのクレアさんを足止めしたことになるわ。ちゃんと模擬戦に貢献できるわよ?」
「それはそうだが・・・」
「ちなみに、もしこのスイーツが余れば、私たちのグループで今回の模擬戦で一番活躍した人にあげることになってるの。だから、この模擬戦が終わっちゃうとグレイスが食べられる手段がなくなるわ」
グレイスと見つめ合うこと数秒。
「私の勘ではセレーネは嘘は言ってないな・・・。でも、しかし」
あともう一押しどうしようかなと思っていたら、クレアさんがスイーツをグレイスを交互に見て、
「あの、グレイスさん。一口食べますか?」
「・・・どういうつもりだ?」
私も気になる。これは脚本になかったと思うけど・・・?
「その、グレイスさんがすごい食べたそうにしてるので・・・。お友達と一緒に美味しいものを食べたいだけなんですけど、ダメですか?」
クレアさんがうるうるしたような目でグレイスを見ている。これは、こう、破壊力が。
「・・・わかった。投降する」
「えっ?えっ?」
クレアさん本人は戸惑っているけど、あんなふうに言われたらそれはそうでしょう。狙ってるわけじゃなくて、素だから、単純にクレアさんがいい子。
「クレアさん、グレイスもああ言ってるしアフタヌーンティーにしましょう?」
「は、はい。わかりました」
そして、私とクレアさんはグレイスも混ぜて模擬戦が終わるまでアフタヌーンティーを楽しむことにした。
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3人がアフタヌーンティーを楽しんでいる間、他の地点では戦闘が繰り広げられていた。
しかし、激戦というよりもセレーネ側のグループの独壇場になっていた。
クレアが発明した新型魔法陣を搭載した魔道具が強力すぎて、一方的な蹂躙となったようだった。




