62:続・アムダム視察
オクベル月つまり10月の28日、アムダム視察の2日目、私はアムダム郊外にあるサレルナ農園についた。
かまってちゃんが私の周りをくるくる歩いていて、ロゼさんは農園を見て懐かしそうな顔をしている。そして、ぐったりしているアナスタシア様とそれを労っているユリアさんがいる。
「アナスタシア様、その、大丈夫ですか?」
「セレーネさん、ご心配ありがとうございます。今日は伯父様がいないから大丈夫です」
視察1日目の昨日、アナスタシア様の伯父であるハミルトン公爵自らが街中の視察の案内をしてくれた。その間ずっとアナスタシア様のそばにいたり、視察後も夜遅くまでアナスタシア様を捕まえて話したりしていた。溺愛っぷりがすごい。ハミルトン公爵には実子もいるけど、今は隣国のアルロナ共和国に特使として赴いてるらしく今は不在らしい。実子には厳格らしい。
「わたくしは少々サレルナ農園のご当主様とお話ししますので、セレーネさんはロゼに農園内を案内してもらってください。良い勉強になるかと思います」
「あっはい。わかりました」
「後ほど報告を聞きますね。それと、イオーゴ」
「はっ!ここに」
私についてこうとしていたかまってちゃんはアナスタシア様に呼ばれてUターンした。
「あなたは、このわたくしの護衛です。わたくしと共にきてください」
「しかし、外にいるセレーネ嬢の方が危ないです」
「陛下が許可を出したのは、あくまでわたくしの護衛です。いいですね?」
アナスタシア様とユリアさんは、イオーゴを連行して建物の中に入っていった。一方で私は、今回の視察中私付きのメイドになっているロゼさんに声をかけた。
「ロゼさん、案内をお願いできますか?」
「承知しました!私はここで生まれ育ったので、とても詳しいですよ!」
「そうでしたね。そういえば、なんでラズウェル家のメイドになったんですか?」
「その辺りも農園を案内しながら説明しますね!」
そして、ロゼさんプレゼンツ農園ツアーが始まった。
「こちらがポーションにも使われる薬草です!この区画は主に初級と中級ポーションに使われる一般向けですね」
私の目の前には、晴れ渡る青空の下、のびのびと育つ薬草が一面に広がっていた。
「他にも区間があるんですか?」
「別の場所に、上級ポーション向けの高品質薬草畑があります」
「場所を分けるということは、生育条件が違うのですか?」
「そうですね。一般向けの薬草までは、野晒しで育てて大量生産しているんですけど、上級ポーション向けの薬草は温室の中で気温や湿度の管理を厳密にしつつ、時々魔力を浴びせてます」
「なるほど・・・。中級までは野晒しで育ててることを考えると、魔力を浴びせる方が重要なのですか?」
「ご明察です!セレーネさんは理解力があり、素晴らしいですね。ポーションを作る際には魔力を混ぜるので、薬草のうちから馴染ませているんです。気温についてはついでですね!」
その後も色々と見せてもらった。ポーション用、飲み薬用、傷薬用など色々な種類があって楽しかった。
一通り見学が終わり、休憩することになった。私はロゼさんから薬草茶をもらってのんびりしている。
「そういえば、私がラズウェル家でメイドになった理由なんですけど・・・」
私は温かい薬草茶を飲みながら、ロゼさんに先を促す。
「年末に王宮に薬草の納品に伺ったんです」
そういえば、王宮の医療部門と宮廷魔法師団もお得意様だったわね。
「それで、関連部署に薬草を納品し終えて、帰る途中にサック・ラダモン侯爵に捕まって愛人になるように迫られたんです」
「愛人!?しかもあのラダモン侯爵?」
「はい。権力で威張り散らすだけの口先だけのあのサック・ラダモン侯爵です」
確か、国王陛下と仲がよろしいからそれで王宮で幅を利かせているのよね。
「ここにいるということは、断ったんですか?」
「はい、最初は断りました。けれど、身分や権力が正義である王宮内だったので、無理やり連れていかれそうになって・・・」
いきなり愛人になるように迫った上に、身分を振りかざすなんて最低じゃん。
「その時、テレサ様がたまたま通りかかって、『他家のメイドに無断で手を出すつもり?』と言いながら扇子をパチンと閉じて威圧して、ラダモン侯爵を追い払ってくれたんです」
「・・・なんか、目に浮かびますね。ミラのお母さんそういうの強そう」
「はい。それで、『流れとは言え、ああいっちゃったけどどうする?見たところ平民出身よね?今後も王宮にくる機会があるなら、あの権力しか取り柄のない侯爵様と会う機会もあると思うけれど』と言われたので、本当にメイドになりたいと伝えたら本当にメイドになれました」
「えっ!?すごい、急展開ですね。ロゼさんはメイドに抵抗がなかったんですか?サルレア農園は大農園ですし、そこのお嬢様となると奉公にでなくても・・・」
「元から家を出るつもりでした。サルレア農園の威光に縋りたいとある子爵家から貴族の権力を使って無理やり婚約をされそうになってましたし、私には2人姉がいて農園も一番上の姉と婿さんが継ぎます。どちらにせよ、農園を出て仕事をしようとしていたところなので、テレサ様の件は渡りに船でした」
「それは・・・その、なんと言ったらいいんでしょうか・・・」
「今楽しいので、そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ!」
「それはよかったです・・・」
「はい!ところで、セレーネさんは学生ですよね?学園はいいんですか?」
「公休らしいです」
「公休?」
「はい。第二学園は実務能力重視です。それを鍛えるために、模擬戦争まで行われる模擬領地運営などの実習も行なっているくらいですし。ですが、今回の視察って完全に実務じゃないですか」
「そうですね」
「それで、学園に相談したら公休になりました。それも、王族の仕事という国内最高峰の一端を担うのだから、恥ずかしい成果を出すなとも言われて、アムダム関連の事前情報を叩き込まれてました・・・あはは」
思い出すと大変だった・・・。
「そ、そうでしたか!でも、この視察から帰れば文化祭ですよね!楽しみですね!」
「・・・実は私、文化祭あまり関わってないんですよね。クラスの文化祭委員にマリーさんという方がなったんですけど、『あなたが去年できた程度のことなら、あたしもできるわ!邪魔よ』って言われてハブられてて・・・」
思わず、「あはは」と乾笑いしていると、ロゼさんが無言で薬草茶のおかわりを入れてくれた。心遣いが染み入る!
しばらくロゼさんと雑談をしていると、アナスタシア様の用事も終わったようだった。その後は合流しつつ視察を行い、2日目は幕を閉じた。
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翌日、オクベル月つまり10月の29日、アムダム視察の3日目というか王都帰還の日にちょっとした事件が起こった。
私たちが王都への帰り支度を終えて、ハミルトン公爵邸から出ると、ここに来るときに護衛をしてくれたハミルトン公爵家の人たちではなく、なぜかかまってちゃんイオーゴが雇ったらしい現地の騎士がいた。かまってちゃんは彼らを指揮し、アナスタシア様の護衛を始めた。そして、本人はなぜか私と同じ馬車に乗ってきた。
けれど、かまってちゃんの実力はお察しの通りなので、護衛の陣形の隙をつかれて、いとも簡単に賊に襲われた。
ユリアさんと私が応戦している間に、少し離れていたところで念の為についてきていた公爵家の護衛が追いつき、結果的にはことなきを得たけど、一歩間違えば、というかすでに王族を危険に晒すことになった。
その責任者のかまってちゃんはというと「俺がいれば問題ない!セレーネ嬢にいいところを見せるチャンスだ!」と意気揚々と宣言してハミルトン公爵家の護衛を遠ざけていたようで、賊との戦い自体も役に立たず、現地の騎士の指揮も満足にこなせず、その能力が遂に学園の外にさらされてしまった。
現地の騎士からは「王都のお偉いさんの稚拙な計画のせいで地方の現場が被害者になる」であったり、「レスター伯爵家の次男の作戦だろ?本人は緻密って言っているけど、稚拙の間違いじゃないか?」といった評価が下されたようだった。
それと、ハミルトン公爵家は筆頭公爵家であり、その護衛は全国から選りすぐりが集まる。その護衛のみなさんの人脈をつたい、この件は瞬く間に全国に広がり、のちに、無能全国デビュー!!と呼ばれることになることになるのを、この時のかまってちゃん本人は知らなかった。




