59:王様誕生日と王子と王女
「アンや。余の誕生日祭りに共にいこうではないか」
「アーサー様と一緒にいられるなんて、あたしとても嬉しいわ」
王宮の一室には、ビネンツェ王国の国王アーサー・ビネンツェに腕に、自分の腕を絡ませながら胸も押し付ける第二王妃のアンがいた。
2人だけの世界を醸し出す中、部屋がノックされて、1人の女性が入室した。
「陛下」
「はぁ、なんだカトリーナか。余はかわいいかわいいこのアンと祭りにいくぞ」
「それは構いませんけれど・・・いえ構いますね。そろそろ、アンさんの出自をはっきりされたらどうですか?さすがに不透明です」
「なんだと!そこまでして追い出したのか!」
「カトリーナさんひどいわ!いくらあたしに恨みがあるからって!」
「そうだそうだ!余とアンは教会で会ったんだ神の思し召しに違いない!清らかな出会いだ!」
「はぁ・・・」というため息と共に、カトリーナはこめかみを抑えた。
「でしたら、調べても問題ありませんね?」
「だから清らかな出会いだといっておろう!こんなに魅力的なアンは天の使いに違いない!それを疑うなどお前はどうかしているぞ!」
「陛下!しかし」
「ええい!うるさい!嫉妬で狂ったか!国王権限で、アンの調査を禁ずる!では、我らはお祭りに行く!」
「これは言っても無駄だな」というカトリーナとは対照的に、アンはアーサーの後ろに隠れその表情はわからなかった。
「・・・せめて、しっかりと国王としての仕事はこなしてください。以前確認をお願いした、国家予算の適正使用に関する調査書の中身はいかがでしたか?」
「カトリーナ、嫉妬とは醜いぞ。それほど余の気を引きたいのか?」
「・・・違います。わたくしは、この国の第一王妃として国王陛下に国王陛下らしい行いを求めているだけですわ」
「ふん、口先だけではなんとでも言えるがな」
アーサーが机にしまったまま放置していた国家予算の調査書を確認しようとしたところで、アンがアーサーにすりすりしながら猫撫で声を出した。
「アーサー様。こんな、政務しかできないおばさんなんか放っておいて、もう行きましょう?」
「・・・それもそうだな。さぁ、行こう!」
「陛下!」
「うるさいぞカトリーナ。そこまでいうならお前が確認すれば良い。誰がやっても変わらないだろう。余は忙しいのだ」
(口先だけはどちらですか・・・。それに、権力と人員と税金を使えても、成果はその使い手の能力次第ですから誰がやっても変わらないわけないじゃないですか・・・。そういう言動を何度もやっているから、周りから裸の王様と言われるのですよ・・・。)と思いながらも、カトリーナはアーサーとアンを見送り、気持ちを切り替えて、裸の王様の代わりに職務を行い始めた。
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王宮の別室では、この国の第一王子オリバーと第一王女のアナスタシアが優雅に紅茶を飲んでいる。しかし、話の中身は全く優雅ではないようだ。
「お兄様、あの女狐があのポンコツを祭りに連れ出したようです」
「アナスタシア、言葉遣いが・・・」
「いいではないですか。今この部屋にはわたくし達しかおりませんわ」
「それもそうだな・・・俺もあのメイドたちがいなくて清々する」
「いつも側に侍らせているハーレムから離れて寂しいのですか?」
「違うに決まってる。第二王妃が用意したメイド達に囲まれて楽しいわけがない」
「裸の王様が落とせたから、王太子様も落とせると思い上がったのでしょうか」
「そんなところだろう・・・。はぁ・・・」
「嘆くのはいいですが、三種の無駄遣い祭りの1つが始まりましたよ」
「・・・それを言うな。俺の誕生日祭とアナスタシアの誕生日祭は1日だけだけど、あのポンコツの誕生日祭は1週間続くからな。一緒にしないでもらいたい。無駄遣いの額が文字通り桁違いに違う」
「そもそも、わたくしは自分の誕生日祭をやめさせたいです。国民への王族のお披露目の意味は理解しますが、必要以上に人員を投下したパレードで練り歩く意味がわかりません。費用対効果が明らかに見合っていません」
「俺の誕生日祭も同じようなものだな・・・。適正費用の5000倍くらいか?それもこれも、あの女狐が第二王妃になってからだな・・・」
「お兄様も女狐と言ってるではありませんか」
「話の腰を折らないでくれ」
「それは失礼しました。確かにあの第二王妃様が国王陛下の寵愛を受けるようになってから、無駄遣いが加速しましたわね」
「全くだ。それまでただの無能だったあのポンコツが、国民や国を蔑ろにする公害に進化したな。伝説上の王と同じ名前なのに、名前負けしているな」
「「はぁ・・・」」
2人揃って仲良くため息をつく王子と王女は、次に現実的な被害を確認することにしたようだ。
「アナスタシア、母上がまとめた国家予算の調査書には目を通したか?」
「はい。目を疑った部分は色々とあるのですけれど、今年のトツンカーナのブドウの不作が判明してから、トツンカーナ産のワインを買い占めたのですか?」
「そうらしい・・・。なんでも、第二王妃のおねだりに答えたようだ」
「それはそれは・・・」
「逆に笑えるよな。ははは」
「笑えませんよ」
王女からのジト目を受けた王子は思わず「ごめん」と言っていた。
「冗談なのは理解してますよ。他にも、国王陛下の直轄業務には通常の数倍から数十倍の予算が注ぎ込まれていたようですね」
「ああ。まるで、『能力がないなら税金を使えばいいだろう?』とでもいうようだ」
「全くですね。『能力がないなら権力を使えばいいじゃない?』とも言ってそうです」
「「はぁ・・・」」
王子と王女は、2人揃ってまた仲良くため息をついた。
「ここ数年、陛下は自身の職務の際には必ずと言っていいほど、第二王妃を伴っている」
「やはり彼女が癌でしょうか」
「それもあるが、もとから国王陛下の執政能力が微妙だったのも大きい」
「そういえば、わたくし達のお母様が王家に嫁いだのも能力をかわれたからでしたっけ?」
「らしいな。それと、当時帝国との戦争で色々とごたついていたから、公爵家とつながり、国内の地盤を固める意味合いもあったのだろう」
「・・・それもそうですね。とはいえ、第二王妃の出現でそれも揺らぎ始めましたね」
「ああ。それまで母上がなんとかしていたけど、国王の無能っぷりが顕になったからな。国民からは、裸の王様と言われているし、臣下からも裸の王様と言われているし」
「どちらにしても裸の王様ですわね」
「なんであんなのが、権力の象徴である国王の座にいたままなんだ?」
「それをなんとかするためにも・・・」
そこで、2人は話題を変えるかのように紅茶をひとくち飲んだ。
「アナスタシア、ノースブルックの跡取りの婚約者が今年から第二学園に通うんだろう?あの2人はどうだ?」
「あいかわらず仲が良さそうですわね。先日も学園デートをしていましたわ」
(どちらかと言うと、デイジーにレイが引っ張られていたと言う方が正しいですけれど、仲がいいことには変わりありませんわね)
「それはよかった。あの2人の幼馴染のラズウェルのご令嬢も元気か?」
「そうですね。あいからずデイジーさんが『ミラ姉』といって懐いてます」
「それはよかった。そうしたら、あの3家の仲は良好だな」
「ええ。それで、お兄様の方は?」
王女は紅茶を飲みながら、優雅に王子に問うた。
「フローリー子爵と仲良くなった」
「ほんとですか?」
「ああ。これで宮廷魔法師団に遊びに行っても問題ないだろう」
「・・・それはよかったです。師団長は日和見ですからね、副師団長の方が適任ですね」
「そうだな」
「ちなみに、レスター伯爵家は?」
「王都の治安を守る立場上、特定の人と仲良くせずに自己研鑽に励むらしい」
「・・・それはしょうがないですね。職務に忠実で逆に信頼に値しますわ」
「おっと、最後まで聞いてくれ。俺とヴェリタスが旧友を深めることは構わないそうだ」
「ヴェリタスさんというと、レスター家の後継者ですわよね?」
「そうだ」
「それはよかったですわ」
「ああ。ところで、アナスタシアは今度アムダムに視察に行くんだろう?ハミルトン公爵にも会うのか?」
「ええ、もちろんです。お母様のお兄様に会いに行くだけですから、問題ないと思いますわ」
「そうだな・・・。俺は俺でクライン公爵に会ってみようと思う」
「表向きの理由をお聞きしても?」
「大都市ナポラーノを発展させたその手腕を学びたい。国政が傾いているのは周知の事実だから、それを支えるのに必要な知識がほしいと言えば問題ないだろう」
「一理ありますね。残りの四大公爵家は、トツンカーナを治めるオルコット公爵家とテミス公爵家ですね」
「オルコット公爵は陛下と懇意だから難しいだろう。王家から枝分かれしているし、元から王家とは距離が近い」
「王家から枝分かれと言っても、テチス海大戦の後に賢者に勇者を取られたと思った王女が当てつけのように興した公爵家ですわよね?」
「・・・そうだが、トツンカーナのワイン産業を成功させた功労者でもある。それとその件はほとんど失伝しているからあまり言わないでくれ」
「それでもそうですね。では、テミス公爵はどうしますか?監査のトップだからお友達になれると大変嬉しいのですけれど」
「ああ、それなんだが、テミス公爵令嬢と婚約しようと思う」
「はい?」
それまで優雅に紅茶を飲んでいた王女は、思わず固まっていた。
「テミス公爵令嬢と婚約しようと思う」
「・・・えーと、アレーティアちゃんですか?」
「そうなるな」
「・・・確か11歳0ヶ月くらいでしたよね?」
「やけに細かいけど、そうだな」
「お兄様は成人済みですよね?ロリコンなんですの?」
「ち、違う!政略結婚ならこれくらいの歳の差あるだろう!」
「それもそうですけれど、11歳に手を出すのですね・・・。この前会った時はまだ小さかったのに・・・無邪気な笑顔でアナお姉ちゃんと言ってくれたのが懐かしいです」
「さすがに手を出すのは向こうも成人してからで、というか、なんかこう罪悪感がくるからやめてくれないか」
「まぁ!罪悪感があるのですか!」
「多少は」
「それなら大丈夫ですね!」
いい笑顔の王女にそう言われてしまい、王子は黙るしかなかった。
「それはそうと、アムダム視察の準備はいいのか?」
「あからさまに話題を変えてますが、監査のトップであるテミス家と強固なつながりを持つのは良策ですね。視察の準備もしっかりしていますよ。例のケニルワース男爵令嬢にも同行してもらいます」
「・・・何がどうしてそうなった?」
「細かいことはいいではないですか」
「仲良くなるつもりなのか?」
「できれば。お友達になれなくてもせめて保護は必要でしょう。なにせ、希少なや」
「アナスタシア様!無礼な振る舞いご容赦ください。緊急事態です」
王女が何か言い終わる前に、彼女の専属メイドのユリアが部屋をノックしながら大声をあげていた。
王女は、部屋のドアを開けながら、
「構いません。あなたがそのように振る舞うなんて、よほどのことが起きたのでしょう。説明をお願いします」
「はい。王子殿下のお耳にもいれとうございます」
「なんがあった?緊急事態っぽいからかしこまらくてもいい」
「王様誕生日祭で、民衆がデモを始めました」
「・・・そうでしたか」
「そうか。ついに、か。ユリア嬢はきっかけを知っているか?」
「トツンカーナのワインの買い占めです。なぜか、民衆に振る舞うという噂が広がっていたようでした。民衆が期待して陛下のパレードに押し寄せて、『ワイン!ワイン!』とワインコールをしていると、第二王妃様が、『下民にワインなど似合わないわ。王家で独占するに決まってるでしょう?ワインがないなら泥水でも飲めばいいじゃない?』とおっしゃりまして・・・」
それを聞いた王子と王女は思わず顔を見合わせて、ため息をついた。
「それで、ユリア。2人の安否はどうですか?」
「ご無事です。レスター伯爵をはじめとした王国の治安維持部隊が優秀で、すぐさま救出しました。けれど、その後デモに発展してしまい、お祭りどころではありません」
「わかりました。説明ありがとう。さて、お兄様どうしますか?」
「ワインを本当に振る舞おう。俺が王宮の人員を集めて現場に出て対応する」
「わかりました。そうしましたら、わたくしはユリアと一緒に情報収集に務めます。うわさの出所も気になりますし」
「頼んだ」
こうして、裸の王様の尻拭いに追われた王子と王女のおかげで事態の悪化は防がれ、祭り自体も無事に終えることができた。
しかし、裸の王様への評判はうなぎ下がりになる一方だった。




