58:王立第二学園の2年生になった
夏休みが終わり、はれて私は2年生になった。
ミラとレイ様と一緒に文官の国家コースのクラスに進んで、今は初日のオリエンテーションを受けるために教室にいる。
「なんであんたがいるのよ」
「・・・今後もよろしくお願いしますね、マリーさん」
そう、あのマリーさんとも一緒のクラスだった。とりあえず、挨拶しつつニコッと微笑んでおく。愛想笑い大事。
「今年こそその余裕そうな笑みを崩してやるわ!グレイスさんの相棒の座は渡さないわよ!」
この人も変わらないなぁ。というか、グレイスの相棒の座をかなり意識しているし、以前何かあったのかな。けどまぁ、それはそれとして、
「グレイスの相棒の座を狙うなら、この前の第一学園との交流会みたいな問題を起こさない方がいいですよ。グレイスにも迷惑がかかります」
「ふんっ!何よ!偉そうに!」
いやー、そういうつもりじゃなかったんだけど・・・
ちらっとミラをみると、
(これが修羅場ね!)
ってなんか楽しそうにしていた。
レイ様は、
(お疲れ様・・・)
と同情的だった。
「どちらにせよ、席につきましょう。オリエンテーションがはじまります」
「あなたに指図される筋合いはないわ!」
その後、オリエンテーションがはじまり、1年生の春学期と同じイザベラ先生が担任だとわかった。そして、マリーさんがクラス委員に立候補していた。通例2人体制らしいけど、ビビアンさんが領地の文官コースらしくこのクラスにいないので、「あたし1人で十分」と押し切っていた。
ちなみに、文化祭実行委員もマリーさんが「あたし1人で十分」と押し切っていた。
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お昼休みになり、レイ様から会わせたい人がいると言われたので、ミラも交えてカフェに向かった。
到着すると、女の子がすでに待っていた。
「レイ!遅ーい!」
「まぁまぁ、2年生は1年生と比べて色々とあるんだ」
「いつもそう言って!ボクを蔑ろにしすぎじゃないかな?どうせ、美女2人に鼻の下を伸ばして逢瀬を楽しんでたんでしょ!この、浮気者!」
「はぁ・・・。2年生になると国家運営を模した実習があるのは知っているだろう?その組み分けがあったんだ」
「ぷーん!」
ぷいっとでも擬音がしそうな仕草で、女の子は横を向いてしまった。
ミラはニコニコしてる。
私はちょっと状況がわからないので、レイ様に視線を送った。
「はぁ・・・。セレーネ、こいつは僕の婚約者の」
「こいつって言ったぁ!扱いが雑じゃないか!ぶーぶー!」
「・・・そう思うなら、もう少し落ち着いてくれ」
やれやれという仕草のレイ様。大変そうね・・・。
・・・というか婚約者!?
「改めてセレーネに紹介する。この慎ましくお淑やかな深窓のご令嬢は僕の婚約者のデイジー・フィナンシェだ」
「ふーん、あなたがセレーネさんね。ふーん」
デイジーさん、すっごく私のことをジロジロと見てくる。
なんだなんだ?
よくわからないけど、とりあえず私も自己紹介しましょうか・・・。
「えっと、初めましてセレーネ・ケニルワースです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!あなたがレイの愛人候補なのね!美人さんだし、これはしょうがないわね!」
「えっ!ちょっと!違う違う!」
斜め上の挨拶に、思わずレイ様に視線を送る。
(なんとかして!)
「はぁ・・・。デイジー、セレーネはそういうのじゃない」
「ほんとにー?ミラ姉という愛人がいるのに、また増やすのかと思った」
「ほんとだ・・・それと、ミラも愛人じゃない・・・」
「知ってるよ!従姉妹だし!」
急に、デイジーさんは「ミラ姉久しぶり!!」と言ってミラに抱きついていた。ミラもやぶさかではないようで、デイジーさんの頭を撫でていた。
その様子を横目に、私はレイ様に説明をもとめた。
「レイ様・・・」
「デイジーは、その、ミラの従姉妹なんだ・・・」
「それはなんとなく理解したけど、その、元気な子ね?」
「元気が有り余っているというか、なんというか。ああ見えて、社交の場とかちゃんとした場ではちゃんとしてるから、あまり強く言えないんだ・・・。それに、文官としての能力は有能なんだ・・・ああ見えても!」
「なるほど・・・なんか大変そうね・・・」
「ああ・・・」
「そうだ、ちょっと気になったんだけど、フィナンシェ家なの?」
「そうだ」
「王宮の財務の中心よね?」
「よく知ってるな」
「有名だから。それにしても、文官の中心のノースブルック家と財務の中心のフィナンシェ家の婚約?レイ様ってラズウェル家のミラとも仲良いいし、その気になれば王宮の実権握れるんじゃない?」
ふと、レイ様の目が光った気がした。
「やっぱなんでもないです!」
「そうか?聞きたいことがあるなら聞いてくれて良いぞ」
「いえいえ!なんでもありません!」
厄介ごとに巻き込まれたくない私はこの件をうやむやにしつつ、ランチを楽しんだ。
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放課後はというと、私はなぜかこの国の王女様に呼びだされた。今は、学園の目立たなそうな部屋で椅子に座っている。目の前にはこの学園の3年生になった王女様。
「セレーネさん」
「は、はい!なんでしょうか!アナスタシア王女殿下!」
「そう固くならないでちょうだい。我が家のように寛いでくれていいのよ」
それは無理ってもんではないでしょうか!今まで接点なかったよね!?ね!?
私が恐縮していると王女様の専属メイドのユリアさんが間に入ってくれた。
「アナスタシア様。いきなり王族に呼び出されて寛ぐなんて普通の人には無理です」
「けれど、ここは身分が関係ない第二学園の中ではなくて?」
「本音と建前というやつですよ」
「けれど、セレーネさんならいけると思わない?」
なんで!?
「いけると思いません。それより、早く本題に入ってあげてください。それと言葉遣いに品がありません」
「もーユリアはお堅いわね」と王女殿下は言いつつ、私に目線を合わせてきた。
思わず頭を下げる。
「アナスタシア様がいじめるから、セレーネ嬢が縮こまっちゃってるじゃないですか。最近悪役令嬢物の小説が流行ってますけど、今のアナスタシア様はまさにそれですね」
「まぁ!ユリアの方がいじわるね!セレーネさん、面をあげてください」
「はい・・・」
「何をしても不敬には問わないから気楽にしてください」
これは文字通りの意味なのかどうか私が思案していると、ユリアさんが口を開いた。
「何をしても不敬に問わないんですね。でしたら、アナスタシア様、王宮の調理場に隠していたチョコレーネを食べたのは私です。すいませんでした」
「なっ!あなただったの!?わたくしがどれほど楽しみにしていたと思っているのですか!」
「いえいえ、姫様が食べ過ぎて太ってしまわないようにするための苦肉の策です。専属メイドですので、姫様のプロポーションの管理も職務の一つです」
「ただの盗み食いを職務としてもっともらしく主張しないでください!」
なんかコントのようなやりとりをみて、私は思わず笑ってしまった。
けど、一瞬で現実に戻った。
「あっ、すいません!その、王族の方を嘲笑したとかではなくて!!」
「わかっていますよ。緊張はとれたかしら?」
そう言いいながらアナスタシア様は柔らかく微笑んでいる。もしかして、私の緊張を解くための演技だったのかもしれない。
「ユリア、チョコレーネの件はあとで話しましょう」
さっきまでの微笑みが消えた。これはガチかもしれない。
「ユリアのことはさておき、セレーネさん。来月、わたくしは王国北部の都市アムダムに視察に向かいます。その際、同行していただけないかしら?」
「視察に同行ですか・・・?」
なんで私に!?地方の弱小なんちゃって貴族の娘の私じゃなくて、もっとふさわしい人がいるんじゃないの?
「なぜ私に?というところでしょうか。ケニルワース家は、パッシートワインの試作品や複式簿記、活版印刷など新しい発想を世に出しています。そのような新規精鋭の貴族家の令嬢であり、本人もチョコレーネを発明しているので、仲良くなりたいと思ったのですけれど、駄目でしょうか?」
くっ!王族の誘いを断れるわけないじゃないですか!
「よ、よろこんでお供させていただきます・・・!」
「あら、即決してくれて嬉しいわね。詳細は追って連絡しますね」
「はい・・・」
「それと、もう一つお願いがあるのだけど、いいかしら?」
そう言いながら、アナスタシア様は透明な水晶のようなものを取り出した。
「この透明の水晶の置物に魔力を注いでわらいたいわ。色が変わるらしいのですけれど、わたくしの魔力では無理でした。それで、セレーネさんにお願いしたいのですけれど・・・」
「私ですか?」
「ええ。透明のままでも置物として十分なのですけれど、色が変わるなら変えたいわ。王女のわがまま、聞いてくださるかしら?」
「はい喜んで!」
王族に直に頼まれて!断れるわけないじゃないですか!
「ありがとう」
微笑みを携えた王女様から水晶の置物を受け取り、私は退室をした。呼び出された時はどうしようと思ったけど、いじめとかいびりとかじゃなくてよかった!ただのわがままくらいどんとこい!




