54:王立第一学園との交流会
王立第二学園の学年末試験を当たり障りなく終え、私は学園の庭でのんびりしている。すると、後ろから声をかけられた。
「セレーネ。黄昏ちゃってどうしたの?試験のできが悪かった?」
「あっミラ。試験については大丈夫だと思う。それよりも、ついに夏休みがやってくるなーと思って」
「そうね!ところで、夏休みの間にケニルワース領に遊びに行ってもいい?今度は私がセレーネの家に行ってみたいわ!」
「えっ?いいけど、ほんとに何もないよ?」
「やった!楽しみにしてるわね!」
この時の私は、ミラのこの発言をただの社交辞令だと思っていた。
「けどその前にあの行事が待ってるわね!鼻持ちならない貴族の子弟との交流会!」
「・・・王立第一学園との交流会だっけ?ミラはともかく、私も参加しないとダメ?」
「全員参加よ。それはそうと、私はともかくってどういう意味よ」
ミラが突然私のほっぺをむぎゅーってしてきた。
「ふぁひふぁひひ」
「えっなに?」
ミラの手を退けてから、
「何するの」
「つい」
「そうですか。さっきのなんだけど、私は地方の弱小男爵家だけど、ミラって伯爵令嬢でしょ?第一学園との交流会にはミラの方が相応しいんじゃない?」
ミラが突然私のほっぺをむぎゅーってしてきた。
「ふぁひふぁひひ」
けど、今度はすぐにミラが手を離して、
「王立第二学園では身分は関係ないわ。気にしない気にしない!」
「そうだけど・・・その、率直に言ってめんどくさそうじゃない?」
「それはそうね!」
「はぁ・・・やっぱり」
ミラが突然私のほっぺをむぎゅーってしてきた。
3度目の蛮行に対して非難の視線を送ると、
「セレーネのほっぺたってもちもちしてて触り心地がいいわね。こんな感じでびよーんって伸びるし」
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数日後、王立第一学園との交流会のために私は王城のホールにきていた。セキュリティチェックのようなものを通過して、今はミラと一緒にいる。
クレアさんは向こうの方にいて、リチャードに連れられている。リチャードがんばれ!
別の方向には、レイ様がグレイスと一緒にいた。というか、グレイスにあれやこれやと教えているように見える。おそらく、保護者枠なのだろう。
私は私で、せっかくの王城のホールを楽しむことにした。
「うわぁ・・・建物の作りがすごい。さすが」
「国レベルの行事とか、国賓の接待も行われる場所だからね!」
「私、なんか場違いじゃない?」
「そんなことないわよ!そのドレスとストールも似合ってるわ!秋学期のクラス会の時にも使ってた?」
「えっ、よく覚えてるね」
「月モチーフの紋章が綺麗だったから!」
「あっなるほど!」
歓談を楽しんでいると、オーケストラがオープニング演奏を生演奏した。
それが終わり、挨拶なのか、やたらと着飾った第一学園の男子生徒っぽい人が前にでてきた。
「さて!今日は我々第一学園と第二学園の諸君との交流会を楽しもうじゃないか」
一度言葉を区切って、第二学園の生徒が集まっている方をジロジロと見てきて、
「君たちが将来我々の下について働く駒か。少々頼りないが、あと2年あれば多少成長するだろう。まぁ、頑張ってくれたまえ!」
・・・第二学園勢の雰囲気がピリッとしたことを意にかえさず、第一学園の方に向き直った。
「めーめー鳴くだけの哀れで惨めな羊も、賢い牧羊犬の導きがあれば多少は動ける。我々は人の上に立つものとして、この国を導いていこうではないか!それでは、乾杯!!」
そして、立食パーティが始まった。
第二学園側には平民もいるためダンスは予定されてない。ダンスではなくて、会話をはじめとした交流をするように、と事前に言われたけど、お世辞にもいい雰囲気とは言えないから難しいと思う。
私は、せっかく美味しい料理があるんだしと思って、細かいことは気にせずに色々な料理を味わっていた。
「さっきの挨拶はなによ!!」
おっと!怒鳴り声!
喧嘩か?と思って声の方を向くと、なんとマリーさんがさっき乾杯の挨拶をした男子生徒につっかかっていた。
「なんだ?このわんわん吠えるだけの駄犬は?躾がなってないんじゃないか?なぁ、お前たちもそう思うだろう?」
男子生徒の周りにいた取り巻きらしき生徒が、それに同意し、嘲笑した。
「取り巻きがいないと何もできないくせに何偉ぶっているの!」
「おいおい、この駄犬は俺が誰かわからないのか?お前の目の前にいるのは、サック・ラダモン侯爵の後継者であり、この国が誇るラダモン侯爵家の嫡男だぞ?」
「それがなによ!」
「今夜は多少無礼講とはいえ、侯爵家の身分も知らないのか?」
「それくらい知ってるわ!あなたみたいな貴族の勘違い野郎に言われるまでもないわよ!」
「はっ、何を言っている。見たところお前平民だろう?負け犬の遠吠えか?貴族は生まれながらに優れてるんだよ。さっさと犬小屋に戻るんだな」
「何が優れているよ!どうせ口先だけなんでしょ!この交流会に注ぎ込まれた税金を回収するにはどうしたらいいと思う?優れている貴族様はそれくらい簡単でしょう?」
「はぁ・・・」
「何?答えられないの?」
「呆れてるんだ。弱い犬ほどよく吠えるとは本当だな。それで、なぜ税金を回収する方法を考える必要がある?」
「なぜって、税金の使用者として考えないとダメでしょう!そうじゃなきゃ、ただただ無駄に損害になって国民に不誠実よ!ちゃんと自分がどれくらいの税金の金額を使っているか理解しているの?その価値を把握しているの?いったい国民何人分の税金だと思ってるの?」
「はぁ、それがなんだというんだ?我々には権力がある。税金を使う権利があるのも当たり前のことではないか?それで、下民が困っても関係ないだろう?」
「なんて傲慢なの!権力濫用として損害を出すことを当たり前だと思ってるの?国民は財布じゃないわ。あなたなんて、権力を持つにふさわしい人間じゃないわよ!」
「やれやれ、獣相手だと話が通じないな。本来なら高位貴族相手にこの狼藉は罪に問えるが、あれはあくまで人間が相手だからな。獣の相手をしたと思われるのも癪だし、大目に見てやるから家に帰ってドックフードでも食べてろ。サック・ラダモン侯爵の後継者の俺に感謝するんだな」
「なんですって!さっきから、サック・ラダモン侯爵の後継者と言ってるだけじゃない!あなた自身はポンコツでしょ!虎の威を借る狐!」
おっと!あまり話が噛み合ってないわりに、ヒートアップしてる。これはまずい!
ふと周りを見ると、ミラと目があい、ケンカしている2人の近くにドリンクを配っているウェイターがいることに気づいた。
ミラがうなづいたので、ウェイターには申し訳ないけど、ドリンクが入っているグラスに無詠唱で浮遊魔法を発動した。
パリン!
床に落ちたグラスが大きな音をだしながら割れて、周囲の視線が注がれた。
その隙にミラがマリーさんを回収し、レイ様がサック・ラダモン侯爵の後継者様を宥めていた。
ミラとレイ様の連携がスムーズで、いつ打ち合わせしたんだろう?と思いつつも、場が落ち着いたのでよかったよかったと思いながら、次は何を食べようかなと?料理をとりにいこうとしたら、急いでホールに入ってきた男性があたりをキョロキョロしたあとに、私の方に向かってきた。
というか、クレアさんのお父さん?
「セレーネ嬢」
「ウィリ、ごほん、フローリー子爵、どうされましたか?」
「少し話があるからついてきてほしい」
「かしこまりました」
ホールを出てところで、クレアさんのお父さんが周りに聞こえないくらいの声量で、
「セレーネさん、さっき浮遊魔法を使った?」
思わずぎくっとしたけど、正直に言った方がいいと思った。
「・・・はい、使いました」
「やはりか・・・」
なんでばれたんだろう?と思ったけど、そういえばここ王宮のホールだったわね。魔法対策もあったんだろうなぁ・・・
というか、私大丈夫?貴族の子供たちが集まる王宮のホールで魔法の無断使用・・・
「ウィリアムさん・・・」
「もう察していると思うけど、あのホールには魔法を検知する仕組みがあった。しかし、学生が無詠唱を使えると考える人はいなかったから、警備にあたっていた宮廷魔法師は誤作動だと思っている。つまり、セレーネさんが魔法を使ったことに気付いているのは、幸い僕だけ、いや、妻のシャノンも気づいているだろう」
「はい・・・今思えば他にやりようがあったと思います」
「まぁ割って入っても悪化した可能性が高い。状況的にしょうがなかったと思うから、今回は目を瞑る」
「いいんですか?」
「より事態が悪化する可能性があったから、それを未然に防いでくれたのはむしろ感謝する。決闘騒ぎにならなくてよかった」
「決闘・・・?」
「去年は決闘直前までいったんだよ。今回、事態が悪化しなかったのは助かったけど、次からは気を付けてもらいたい。セレーネさんが捕まったら、僕の娘のクレアも悲しむだろうからね」
「・・・わかりました」
「わかればいいよ。じゃ、あのバカな貴族のせいであんな雰囲気だけど、残りのパーティーも楽しんで」
ギスギスした雰囲気やだなぁと思いながら、パーティー会場のホールに戻ると、私の予想に反して和気藹々としていた。
その雰囲気の中心となっている場所には、ミラとレイ様がいた。この短時間でたぶん、うまく周りをとりなしたんだと思う。すごい。
とはいえ、ホールの端の方では、第一学園ではサック・ラダモン侯爵の後継者様の周りに生徒が集まっていて、第二学園側を睨んでいる。一方、ホールの反対側、第二学園側でもマリーさんの付近に生徒が集まり、睨み返していた。
その後はいざこざは起こらずに無事に?交流会は終わったけど、もう参加したくないと思った。




