49:王女誕生日
私は支度を済ませ、第二学園の女子寮の自室から出た。
今日はアプリースの30日、つまり4月30日で、アナスタシア王女殿下の誕生日なのよね。
国民の祝日にもなっていて、街ではお祭りもやる。
私もこれからグレイスと遊びに行く予定!楽しみ!
ちなみに、ミラとクレアさんは今日はいない。
今夜王宮で行われる王女殿下の誕生日会に貴族の子女として参加するらしく、準備のために昨日の夜から自宅に帰っていた。
私は地方の農家なので、招待状とかきてない!
気兼ねなくお祭りを満喫できる、よかったよかった。
考え事をしながらグレイスとの待ち合わせ場所に向かっていると、
ブオンブオン ブルルルルル
という音が聞こえた。
・・・これは聞き覚えがある。
かまってちゃん側近の音魔法だ。
無視して歩いていると、次に虫が目の前に現れた。
「セレーネ嬢!馬車の準備はできています!さぁ、いこう!」
「・・・イオーゴ様。私はそのようなお約束はしておりません」
「昨日目があったじゃないか!目と目があったらデートの合図!」
・・・いや、何その理論。
どこの魔物トレーナーよ。
「そのようなマナーはありませんよ」
「昨日、目があったあとに背筋を伸ばしてた!それが合図だろう!俺はしっかりと理解したぞ!」
・・・いや、何その理論。
勝手に私の仕草を解釈して決めつけたってこと・・・?
「私は街中に溶け込めるように町娘風の服装をしています。明らかにお貴族様の装飾がなされたその馬車に似合いません。そもそも、お約束をしていません」
「あなたの美しさに服装は関係ない!馬車の中にはセレーネ嬢が好きなブランドのバックがある!プレゼントだ!あなたへの愛がイニフィニティ!」
地方の農家の私はブランド品のバックは買ったことも所持したこともない。
それにも関わらず私の好きなブランドってなんだろう。私が知りたい。
・・・そういえば、この前偽物バレしてから、自称コラボ商品持ってこないのよね・・・いいことではあるけど・・・
いずれにせよ、見当違いがインフィニティって感じね。
「それと、場所の中にはズンルトの観光パンフレットもある!来月の修学旅行のデートコースを決めよう!」
「そもそも一緒に回りませんよ・・・」
「あの植物しか出せないチビの悪女め!俺のセレーネ嬢をたぶらかしやがって!」
クレアさんのことを言っている・・・?悪女じゃないし、あなたのセレーネでもないわよ・・・。
植物魔法は有能だし、虫しか出せないかまってちゃんの方が・・・
というより、このかまってちゃんを撒いた方が早いわね。
改めて見ると、かまってちゃんはやたらと着飾ってる。
「俺の服装が気になるのかい!今日のために準備した!」
別の意味で気になってます。
うーん、あのスカーフがいいかな?レスター伯爵家の紋章が入ってるから無くすと困るでしょう。
自然に吹いた風のようになるように気をつけてと。
私は無詠唱で風を起こした。
「うわっ」
かまってちゃんが風に煽られたタイミングで、スカーフに浮遊魔法をかけて風にのせる。
「あっ!待て!俺のスカーフ!」
よし!今のうち!
身体強化もかけて、私は速攻でその場を離れた。
お祭りに参加するためにグレイスと合流しないと!
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ここはビネンツェ王国の王宮のとある一室。そこには、この国の王女と専属メイドがいた。
「ねぇユリア。この行事、税金の無駄遣いだと思わないかしら?」
「ご自身のお誕生日を祝うお祭りですよ、アナスタシア様。加えて、社交シーズンの開始での合図でもあります」
「そうはいっても、わたくしが生まれる前は別の方法で社交シーズンの開始をしていたのでしょう?元に戻せばいいのではなくて?」
「・・・このお祭りを始めたお父上様がお認めにならないのではないでしょうか」
「はぁ、あの裸の王様ね・・・」
ユリアと呼ばれた専属メイドは思わず周りの気配を探った。
「アナスタシア様・・・、周りに人がいなかったからいいものの、王宮内での発言にはお気をつけくださいませ」
「事実でしょう?このお祭りも税金を必要以上に注ぎ込み、民から無駄遣い祭と揶揄されているのは見過ごせないわよ。あの裸の王様、第二王妃を迎えてからさらにひどくなってて・・・これ以上国を傾けないでほしいわね」
「それは・・・」
「・・・ユリアに言っても仕方なかったわね、ごめんなさい。それにあの裸の王様の生誕祭は1週間だけど、わたくしのお祭りは1日だけでマシですわね」
「アナスタシア様、マシという言葉遣いはいかがなものかと」
「あらそう?」
コンコンコン
部屋がノックされ、それを聞いたアナスタシアは、
「そろそろ時間になったようですので行きましょうか」
と自身の専属メイドに伝え、昼間のパレード、夜の誕生日パーティーに向けて準備をするために部屋を移動した。「それにしても、裸の王様の王位を早くオリヴァーに譲らせたいわね」という独り言を、専属メイドのユリアは聞こえていないふりをした。
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王都では、王女誕生日を祝うお祭りが行われている。
お祭りで賑わっている中には、セレーネの兄であるエリックと同い年くらいの青年の姿が見えた。
「エリック」
「ジェームズ、どうかした?」
「俺たちに割り振られているスペースはあのあたりか?」
「そうそう」
「結構いい場所だな」
「確かに。広場から近いから人の流れも多いし、俺たちのターゲットの子供達もいる。周りの出店はわりと食べ物系が多いから被らない」
「そうだな。裏から手を回したのか?」
「まさか。そんなコネはないよ」
「はは、冗談だよ。まぁ田舎民が王都にコネはないか」
「事実だけど、なんかイラっとする。王宮にも出入りしている大商人の息子さんは、さぞお偉いんでしょうね」
「偉いのは親だ。俺じゃない」
「虎の威を借る狐にならないのか、残念」
「当たり前が、俺の実力じゃない。それより、積み木危機一髪!はどれくらいあるんだ?」
「100個くらいかな。今回は売るよりも宣伝メインだし」
「わかった。さぁ準備しよう」
エリックとその友人ジェームズは積み木危機一髪!の実演のために、出店のスペースを借りていた。
そのスペースで色々と準備していく。
「そうだ、エリック。どれくらい出資は集まったんだ?」
「目標額はすでに達成したよ。思ったよりも食いつきが良くて俺自身驚いている」
「積み木危機一髪!が面白そうというのもあるんだろうけど、あの帳簿の付け方も目に留まったんじゃないか?出資の話ついでにレクチャーしてたんだろう?あれはかなり便利だ」
「複式簿記のこと?あれすごいよな」
「うん?エリックが考えたんじゃないのか?」
「まぁ色々とあるんだよ」
「そうか。せっかくだし、詳細をまとめて出版したらどうだ?」
「それもいいな。けど仮に出版するにしても今回出資してくれた人たちを優先する」
「いい考えだと思うぞ」
「それはどうも。・・・よし、出店の準備もこれで完了かな」
「ああ。ふっ、それにしてもこれだけ人がいるのはちょうどいい。裸の王様主導の税金無駄遣い祭さまさまだな」
ジェームズの言葉を受け、エリックは街を見渡した。
いつも以上に人で賑わっている王都が目に入った。
王女誕生日祭は、無駄に税金が投入さている場面が多々あり、国民から税金の適正利用についての不満が上がっている。
一部では、主に過激派が爆破予告する事態にも発展したりしており、負の面もある。
とはいえ、商人としては人が集まる機会は利用価値があり、経済を回すという観点では割と正の面がある。
エリックはそれを踏まえて、ジェームズに返事をした。
「ありがたく利用させてもらうとしよう。それじゃ、客引きを始めよう」
積み木危機一髪!は子供を中心に人気を博し、値段設定が手頃だったこともあり、実演用のセットを除きすぐに完売となった。
口コミや実演により積み木危機一髪!の存在はすぐに広まり、王女誕生祭におけるエリックとジェームズの目的は達成された。




