5:模擬戦の余韻と算術と生産の授業
魔法と武術の授業の翌日は、午前中が算術で、午後が生産の授業である。
セレーネは、昨日と同じようにクレアと待ち合わせて教室に向かったようだ。
「クレアさん、楽しそうね」
「それはもう!今日は生産の授業がありますから!」
私の隣を歩くクレアさんは、スキップでもしそうなくらい機嫌が良かった。
生産の授業は午後のはずだけど、まぁいいか。
「セレーネさん、そういえば昨日の模擬戦で使ってた魔法について聞いてもいいですか?」
「なに?」
グレイスとの模擬戦のあとはちょっと大変だった。
文官希望って宣言しておきながら、手加減されていたとはいえあのとんでもない強さを誇るグレイスに一発いれたので、クラスメートに囲まれ、色々と聞かれた。
とりあえず、魔法が使えたおかげって答えておいた。実際、魔法なしだと瞬殺された自信がある。
ただ、あの模擬戦のおかげで虫伯爵夫人の印象が払拭できたのはよかった。
体を張った甲斐があるってもんよ!
「知らない魔法を使ってましたけど、もしかしてオリジナル魔法ですか?」
「どれのこと?」
「あのなんか空気がぶよんってしてたやつと、グレイスさんが動く前に反応してたやつです」
他の学生にはてきとうに誤魔化したけど、クレアさんならいいかな。
「ぶよんってしてたやつは、ウィンドカッターの応用ね。形を変えて圧縮して物理的に弾力をもたせたの。それで物理攻撃も受け止められた感じね。まぁその、1回は切られちゃったから、ギリギリだったけど」
「グレイスさんが木刀で魔法を切ったことにも驚きましたけど、ウィンドカッターにそんな使い方があるんですね!」
「防御だけなら結界魔法とかの方が適切だと思うわ。もう一個の方は、風魔法をあの場の空気全体に混ぜた感じかな?それで空気の振動とかがわかるのよ。だからグレイスの周りの空気が変化したら、とりあえず回避行動をとっていたって経緯で、目で見て判断するよりは早いけど、実際はグレイスが動く前には反応できてないわ。こういう魔法ってありそうだけどないの?」
冒険者の採取のクエストとかで森に入った時に、魔物と遭遇しないようにと考えだした魔法だった。
今回は魔物よりも恐ろしい相手に使うことになったけどね!
「うーん、そうですね・・・戦いの玄人の方とかなら、周囲の魔力から相手の動きを感じとることはできますけど、それは魔法ではなくて属人的な戦闘技能です。索敵魔法はあるんですけど、広範囲を大まかに把握する感じなので、特定の個人の動きをあのレベルで追えないですね。魔力検知なら、個人の動きまで追えますけど、相手が魔力を隠蔽したらわからなくなります。セレーネさんが使った魔法は、相手が魔力を隠しても動きがわかるんですよね?」
「そうね。魔力じゃなくて空気そのものを感じてるから、魔力を隠蔽されてもその場に存在する以上はわかると思うわ。暴風とか起こされたらわからなくなるかもしれないけど」
「それでもすごいですよ!戦闘技能じゃないから再現性もあると思いますし、オリジナル魔法を作る人が身近にいたなんて!!」
「あまりピンとこないけど、そういうもの・・・?」
魔法オタクスイッチをおしてしまったのか、キラキラした目のクレアさんにその後も色々と聞かれていると、教室についた。
算術の授業は、数字の読み書きからはじまり、足し算引き算くらいを行なった。
日本の数学とは違って科学のための算術というよりかは、商売の利益計算や、組織の予算管理などを目的としているようだ。
数学には苦手意識があったけど、これならなんとかなりそうでよかった。
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午後になると、クレアさんは遠足前の子供みたいなテンションになっていた。
生産の授業は、武具などの前半戦と、魔道具などの後半戦がある。
前半戦は、主要な武具の紹介や、鍛冶の流れ、鉄鉱石など主要な材料の紹介で終わった。
あまり興味がなかったので、半ば聞き流していた。
後半戦は、クレアさん待望の魔道具関係の授業だった。
「ハンナ先生!質問です!魔道具に使われる魔法陣なんですけど、最近は肥大化と容量制限が技術的な壁になっていると思いますが、何か打開策などは生まれてますか?」
「えーと、、、フローリーさんね。よく勉強してますね」
ハンナ先生は名簿と照らし合わせながらクレアさんのことを確認していた。
「他の生徒もいるのでまずは説明をします。魔道具が様々な場面で使われるようになってきたのはいいのですけど、その分求められる機能が増えています。一方で、魔道具に組み込める魔法陣の大きさは無制限というわけにもいきません。二兎を追う者一兎をも得ずのことわざのように、求められる機能を実現するためには魔法陣が肥大化しますが、組み込める容量に制限がありすべての機能を組み込むことができません。これがさきほどフローリーさんが言った技術的な壁です」
なんとなくわかったような気がする!気がするだけかもしれないけど!
クラスメイトは、うなづいている人や、興味なさそうにしている人がいたりした。
「それで、打開策については今のところ有効な物は見つかっていません。魔道具を巨大化すればその分魔法陣も組み込めますが、そうすると今度は逆に日常使いができなくなってしまいます。現在、国中の魔道具師がこの問題に取り込んでいます」
「先生!魔力含有量の多い素材を使えば、その分組み込める魔法陣も大きくできませんか?」
「フローリーさん、いい着眼点ですね。その手法は有効ですけど、そのような素材は希少でなかなか入手が難しいのが実情です」
「なるほど。そうすると、他の方法として、」
クレアさんが先生とディスカッションを始めてしまった。
クラスメイトは取り残されており、武術の授業の時のグレイスのように、今度はクレアさんの独壇場になっている。生産系志望のような生徒がちょくちょく会話に混じって食らいつこうとはしていたので、心の中で応援した。
しばらくして、先生が先に我に返った。
「みなさん、すいませんでした。次の授業からは、魔道具の歴史や、大まかな作成の流れなど一般的な内容にします。フローリーさんは、生産コースの魔道具の内容を先取りする形でいいですか?」
「はい!」
笑顔のクレアさんとは対照的に、大半のクラスメイトはやっと終わったか、という表情をしていた。




