45:王都に戻ろう
諸々の試作品の手伝いをしていたら、ついに王立第二学園に戻る日が来た。
それにしても、我ながら良い仕事をしたと思う。
ワインの方は、浮遊魔法で干しブドウをまとめて浮かべて、風魔法で周辺の空気を圧縮することでブドウも圧縮してワインの素を作り出した。あとは発酵を待つだけね。
積み木危機一髪!の方は、大きな材木を風の斧ウィンドアックスで切りまくった。細かいな細工はお兄ちゃんに任せたけど、元になる木材をさくっと準備できたのは我ながらいい仕事をしたと思う。
若干の自己満足に浸りながらも、王都への出発前に積み木危機一髪!の試作品を私の収納魔法に入れていると、お兄ちゃんと両親が話しているのが聞こえた。
「エリックまで王都に行ってしまうと寂しくなるわねぇ」
「そうだね、ミランダ。エリック、どれくらい向こうに行ってくるんだい?」
「わかんない。ある程度目処が立つまでは向こうにいようと思う」
「そうか・・・。気をつけて行ってくるんだよ」
「あのワイン?は私たちで面倒見ておくわね」
「ありがとう。助かるよ」
えっ、突っ込まないの?
いつまで王都にいるか未定でいいの?学園卒業してからちょくちょくどこか行ってたみたいだし、跡取りなのにまた王都に行っちゃうんだよ?
うちの両親ってなんかこうのほほんとしてるわよね・・・
準備を済ませた私も両親に挨拶して、出発の時が来た。
時間短縮のために、ケニルワースからナポラーノまでは浮遊魔法で行くことになっていた。
「じゃ、お兄ちゃんにも浮遊魔法をかけるわね」
「頼む」
そして浮遊魔法を発動する。
「どう?浮遊感は大丈夫そう?」
「ああ。それにしても宙に浮いているのは不思議な感じがする」
いきなり浮遊魔法で飛ぶのはハードルが高いので、実は今日までに何回か練習していた。
お兄ちゃんは身体操作能力が高いのか、すぐに慣れていた。
今も普通にしているし、練習の成果も出てると思う。
「「それじゃ、気をつけていってらっしゃい」」
「「行ってきます」」
見送りの両親に返事をして、高度をあげる。
「おお!いい景色だ!この辺りのランドマークのあの2本の川がうちから見えるなんて!」
「正確にはうちの上空だけどね。もう少し高度あげるけど大丈夫そう?」
「細かいことは気にしない!それは大丈夫だけど、ほんとうにこれで行くのか?」
これとは、お兄ちゃんの体にロープが巻かれ、そのロープを私が掴んでいる状況を指す。
「風魔法で調整するからどこかに飛んでいかないとは思うけど、念の為よ」
「そうは言っても、せっかく飛んでるのに、なんかこう運搬荷物になったような気分になる・・・」
「細いことは気にしないんでしょ?安全第一よ。それじゃ、そろそろ加速するわ」
「了解」
そして私たちはケニルワース領を後にした。
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「いやぁ!空の旅は楽しかった!」
「そんなに?」
「そんなに!セレーネは慣れてしまって感覚が鈍ってるんじゃない?」
「・・・まだ慣れるほど浮遊魔法で移動してないわ」
「拗ねない拗ねない」
「拗ねてないわよ」
「ははっ、冗談だよ。それにしても、ナポラーノにくるのは久しぶりだなぁ」
日が暮れ始めた頃、私たちは王都への中継地点のナポラーノに到着した。
自然豊かな田舎から、王国屈指の都市にいきなりきたので、ギャップがすごい。
王都からナポラーノにくるのと、ケニルワースからナポラーノにくるのはなんか違うわね!
「少し散策でもする?」
ウキウキな様子で尋ねてくるお兄ちゃんには悪いけれど、先に宿を取りたい。
「先に宿を取った方がいいんじゃないの?」
「それもそうか。俺が学生の時に王都に行く時に使ってたホテルでいい?」
「そこってテルマエはある?」
「うん?あると思う」
「ならそこにしましょう」
しばらく歩くと目的のホテルに到着した。
結構綺麗なところね!ナポラーノでの私の宿泊先候補がホテルマドマゼル以外にも増えそう!
ホテルの内装を見てると、チェックインが終わったみたいだった。
「それでは、エリック・フィウメル様、セレーネ・フィウメル様の2名で1泊ですね」
「はい」
フロントスタッフから鍵を受け取って歩き出したお兄ちゃんについていく。
ちょっと聞いてみたいことができた。
「ところで、フィウメルって?」
「うちの近くの川から着想を得た偽名だよ。貴族として泊まるわけにもいかないから使ってる。苗字は平民にはまだ普及してないけど、ある程度の商人は名乗っているからね」
「なるほど、第二学園で商人コースだったから商人っぽくふるまってたと」
「そういうこと」
「私もここのホテルを使う時は名乗らせてもらうわね、エリック・フィウメルお兄ちゃん」
「いじってる?」
「ご想像にお任せしますよ。それより、荷物置いたらどうするの?」
「観光しながら、日が落ちたら夕食にしようか」
「賛成」
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ホテルから出て街中を散策していると、人が集まっている区画が目に入った。
「何かイベントでもやってるのかな?お兄ちゃんの方が背が高いから、見えない?」
「さすがに見えない。せっかくだし見に行ってみる?」
「そうしましょう」
人混みに近づいていくと、どこかで聞いたことがあるような、ないような声が聞こえてきた。
「声なきに聞き、形なきに見る!これくらいの事件!この名探偵!アーテー・ケイブにかかれば造作もない!」
人混みの中心で声高らかに述べられた口上が終わると、歓声がおきた。
「うわっ」
「セレーネ、どうした?」
「あの人会ったことあるわ」
「ほんとか!迷探偵ケイブに会ったのか?あのお笑い小説作家に会えるなんて運がいい」
「会ったというか、容疑者にされたというか・・・」
「ほんとか!迷探偵の迷探偵による迷探偵のための推理ショーを間近で見たなんて、運がいい」
いや、そこは心配してよ・・・
思わずジト目を向けていると、
「あの迷探偵の迷推理の時点でセレーネが本物の犯罪を犯したわけがない」
「そこは嘘でも『妹を信じているから』、って言って欲しかったわ」
「あれ?兄に甘えたかった?」
「そうじゃないわよ。はぁ、それより、今回はどんな被害者が出てるのやら」
「一概に被害者とはいえないんだよなぁ。迷推理に登場すると宣言効果がある。今回はどんな内容か気になる。もう少し近づいてみる?」
「なるほど、宣伝効果ね。うーん、近づいてみたいけど私のこと認識されてたら困るわ・・・」
学園の応接室の時は、あの迷探偵さんは逃げるように去っていったし、なんかなぁ・・・。
「大丈夫大丈夫。あの迷探偵だよ?識別できるわけないって」
「・・・それもそうね。私もお笑い小説は読んだけど、そういった能力なさそうだもんね」
人混みの中心に近づいていくと、迷探偵と目があった。
バレたかな?と思ってると、迷探偵が周りを一通り見渡してから、
「僕の名声に引き寄せられて、新たなオーディエンスが続々と増えてしまったようだ。よかろう!また事件の説明をしようではないか!」
あっ、これはバレてないわね。
「先刻この場所で起きた、馬車の横転事故は、事故ではなく陰謀に満ちた悪質極まりない国家の根幹を揺るがしかねない大事件だ!」
観客の声援をうけた迷推理ショーはその後も盛り上がりながら進んだ。
そして、
「つまり!大都市ナポラーノの安全を脅かす隣国の破壊工作だったのだ!しかし!この名探偵が真実を明らかにしたからもう心配いらない!声なきに聞き、形なきに見る。正義は必ず勝つのだ!」
お笑いライブ、いえ、迷推理ショーのクライマックスとばかりに観客も盛り上がりを見せた。これは確かに!おもしろくて人気にもなるわね!
「やっぱり本物の迷推理ショーはすごいな・・・ただの事故をここまで面白おかしく語れるなんて」
「そうね、お兄ちゃん」
「さて、有名なショーの余韻を楽しみたいところではあるけれど、人混みで身動きが取れなくなる前に夕食を食べに行こうか」
「賛成」
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私たちはその後、ナポラーノのホテルに一泊してから馬車で王都に向かった。
浮遊魔法を使わなかったのは、お兄ちゃんが、「馬車で移動しながら王都や王国の最新の情報を得たい。それと、途中の休憩の街で、積み木危機一髪!を実際に試してもらって反応をみたい」と言ったからだった。実際のところ重要なことだと思い、私も賛成した。
そして、ナポラーノを出発して3日、王都に到着した。
「それじゃ、俺は一度商人のギルドに顔をだす。授業は明日からだっけ?学生生活楽しんで」
「うん。じゃ私は第二学園の寮に帰るわ」
寮に着く頃には夜かな。明日から授業だし、帰ったらすぐに寝よう。
そして、それぞれの目的地に出発しようとしたところで、
「そうだ、セレーネ」
「何?」
「魔法の能力はあまり知られない方がいいかもしれない」
「宮廷魔法師に拉致られないように一応気をつけているわよ」
「えっ、拉致?まぁ、それもあるかもしれないけど、俺たちは地方の弱小男爵家でたいした後ろ盾もない。第二学園の外で権力をかさに無理やり囲い込もうとされるとどうしようもない。そして、そういう輩に碌な奴はいない」
「・・・そうね」
「だからまぁ気をつけてくれ」
「わかったわ・・・」
「それでも何かあったら、国を出ようか」
「えっ?」
「はは、冗談だよ。それよりほら、そろそろ第二学園方面の馬車の出発じゃないか?」
「あっ!ほんとだ!それじゃ、お兄ちゃんまたね!




