42:ケニルワース領到着!
ホテルに泊まった翌日、目を覚ました私は支度を済ませてホテルのフロントに向かった。
「1泊していたセレーネです。チェックアウトをお願いします」
「かしこまりました」
宿泊代の支払いを終えて、ホテルから出た。
空を見上げると雲ひとつない晴天だった。うん、今日もいい天気ね。
「それにしても、テルマエ最高だったなー。おかげで体が復活した!けど、これからまた4日ほどの馬車旅は大変ね・・・」
こればかりは仕方がないかな?と思いつつ、乗合馬車の出発地点に向かいながら歩いていると、ふと私の頭に天才的な閃きが降ってきた。
「飛行機みたいに浮遊魔法で飛んでいけばいいんじゃない・・・?さすがにずっとは飛べないから途中休憩は挟むけど、それでも馬車よりは早いんじゃない?」
善は急げ!ということで、私は飛び立っても目立たなそうな場所を探してナポラーノから離れた。
そして、いい感じに木々が茂っている、森みたいな場所を発見する。
「さて!収納魔法から暖かそうなコートを取り出してと」
風魔法である程度相殺できるとは思うけど、向かい風があたると寒いと思う。
しかも今は、フェブウス月、つまり2月だ。
冬の空を飛ぶのに暖かい格好をした方がいいのは自明だ!
「・・・やっぱり毛布の方がいいかも。魔法で飛ぶだけだから多少動きにくくて大丈夫でしょうし」
そして私は毛布にくるまった。
気持ちはミノムシ。
周囲に人も居なそうだし、いざ飛び立ちましょうか!
「エア、いえ、セレフォースワン、出発!」
某有名な飛行機の名前にかけてみた。ダサいかな・・・?
高度が低いと悪目立ちしそうなので、それなりに高い高度まで飛び立った。
前世で登ったことのあるスカイ○リーの展望台くらいの高さかな?
体感だから正確にはわからないけど!
「うわぁ、それにしてもいい眺めね。遠くまで広がる草原、ナポラーノの市街地の先に広がる海、街の反対側には遠くに山も見える。低い雲は足元にあるし、高い雲も手を伸ばせば届きそう!」
少し眺めを堪能してから早速移動を開始した。
風魔法で進行方向に加速しつつ、向かい風も相殺する。
体感で30分くらい飛んだところで、下に商隊?のような列が見えた。
・・・何かと戦っている?
少し高度を下げると、商隊が魔物と盗賊の板挟みになっていた。護衛らしき人たちが奮戦している。
魔物は商隊と盗賊の両方に襲いかかっているから、盗賊が使役しているわけではなさそう。
とはいえ、どちらかだけが相手なら切り抜けられるんでしょうけど、さすがに2つ相手はきついでしょ!
私は急いで高度を下げた。
そろそろ魔法の圏内かな?
まずは商隊の安全を確保しよう!
ウィンドウォールを地上に発動すると、魔物と盗賊の一部が風の壁にぶつかり、魔物は一気に距離を取り、盗賊は周りをキョロキョロしているのが見えた。
「次はこれね!」
さすがにここから魔法を飛ばすと届かないので、遠隔操作の感覚で地上付近を起点に魔法を発動させた。盗賊に向かってウィンドランス!
「ふう。こんなもんかな?」
致命傷にはならないようにしたけど、これで満足に動けないでしょう!
商隊の護衛は優秀なのか、正体不明の攻撃の対象が自分達ではないと即座に理解し、盗賊の捕縛に取り掛かっている。魔物はウィンドウォールにぶつかってから逃げたし、これなら大丈夫そうね。
私は高度をあげつつも、商隊の護衛が安全を確保したのを確認し、ケニルワース領に向かって飛行を再開した。
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日が暮れ始めた頃、ケニルワース領が見えてきた。
風魔法での加速が有効だったのか、途中休憩を挟みつつも思ったよりも早く着いた。
我が家は、2本のそれなりに大きな川が合流する地点から数キロ離れた小さい丘の上に建っている。
ぶどう畑も見えてきたので徐々に高度を落とそう。
それにしてもなんでご先祖様はこんな片田舎に居を構えたのだろう?
「ただいまー!」
久しぶりの我が家!ただいま!
家の中を見ると、お兄ちゃんがコーヒーを飲んでいた。
けれど、そのお兄ちゃんはオバケに遭遇したかのように驚いた顔をして固まっている。
「エリックお兄ちゃん。ただいま」
私の2度目のただいまで再起動したのか、
「お、おかえり。学園の春休みがはじまったのは4日前じゃなかったっけ?」
「そうよ」
「王都からここまで早くても7日かかると思うんだけど・・・あっ、魔法高速船使ったのか」
「違うわ。途中までは馬車だったんだけど、遠いでしょ?それで、ナポラーノからは浮遊魔法と風魔法を合わせて飛んできたわ」
「・・・はっ?」
我が兄はまた固まってしまった。情けない!
「だから!浮遊魔法と風魔法を組み合わせて飛んできたの!」
「・・・浮遊魔法は、自分の体を空中に浮かべるあの魔法の認識であってる?」
「そうそうそれ!」
「高度な魔法じゃなかった?」
「まぁね!私も成長しているのよ!それよりちょっとお腹すいたわ。何かない?」
「パンと干しブドウとブドウジュースならそこにある」
「ありがとう!」
軽食を食べていると、玄関のドアが開いた。
お父さんとお母さんが帰ってきたみたいね!
「お父さん、お母さん、おかえり!」
「おや?セレーネ?」
お父さんびっくりしている!
サプライズになったかな!
「さっき帰ってきたわ!」
「あらあらお帰りなさい。思ったよりも早かったわね」
「あっ、お母さん。浮遊魔法で飛んできたの」
「あら。セレーネはすごいわね〜空を飛べるようになったのね〜」
「ありがとう!」
(いや!突っ込めよ!)
セレーネの兄エリックは、妹がさも当然のように浮遊魔法を使っていることを知った両親が特につっこまいことに心の中で突っ込んでいた。
父のルドルフ、母のミランダは、おおらかというか、のんびりというか、おっとりしているというか、一言でまとめると貴族っぽくない。浮遊魔法が使えると宮廷魔法師から目をつけられてもおかしくないのに、それを理解しているのだろうか・・・?と心配になっていた。
心の中で突っ込んでいると、両親と妹の会話が進んでいた。
目の前では父がポンと手を叩いて嬉しそうに、
「そうだ!セレーネが空を飛べるようになったお祝いと帰ってきたお祝いで今日はシチューにしよう。猪を狩ってきたんだ。お母さんが」
「ほんと!?久しぶりに楽しみ!お母さんも狩りありがとう!」
「娘の喜ぶ顔が見れてよかったわ〜。それじゃ、お父さん調理お願いね」
「任せておいてくれ!」
母ミランダは冒険者経験もあり強い。それもあり、父ルドルフではなく母が狩りをすることがある。
王都も経験したエリックは一般的には逆のことが多いと知ってはいるが、これに関しては、適材適所だと考えていた。人の少ないこんな田舎で性別の固定観念で縛り付けると色々と手が届かないことがでてくるためだ。
それはそれとして、心の中で突っ込んでいたエリックもセレーネおかえりパーティーの準備に取り掛かったようだった。
エリックも第二学園に通ってはいたが、セレーネの入学と入れ違いで卒業したため、ゆっくり会うのは久しぶりであり、妹の帰宅は嬉しいようだ。




