41:ケニルワース領への道中
王立第二学園の学期間休暇である春休みが始まり、私はケニルワース領に戻るために今は馬車に揺られている。
弱小男爵家の私は専用の馬車を用意できるはずもなく、街娘風の服装をして、というか貴族令嬢っぽい服装はもとからあまり持ってないからいつも通りに近いけど・・・それはそれとして、公共の乗合馬車の中でも女子でも比較的安全に使える業者の馬車に乗っている。
ちなみに、第二学園の長期休みは、この春休みの1ヶ月と、夏にある学年間休暇の2ヶ月の夏休みがある。第二学園の設立当初は、春休みも夏休みも1ヶ月だったらしい。
ただ、途中から夏休みだけ第一学園と同様に2ヶ月になったらしい。
なんでも、社交シーズンが終わる前に夜会などに参加するためらしい。
第二学園の生徒とはいえ、貴族の子息は本来の立場もあり、社交に参加するらしい。
ほぼぶどう農家の弱小男爵家の私にはあまり関係ない話だけどね!
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乗り継ぎをしつつ馬車に乗ること3日。
お昼ちょっと前くらいの時間帯に、王国南西部の最大都市ナポラーノに着いた。水の都ヴェネからナポラーノには高速の魔法船が出てるけど高いから、節約で馬車で来たから遠い!
それに、ケニルワース領まではまだ4日くらいかかる。ナポラーノを中継地点として、観光しつつ一度休憩を挟もうと思う。
魔道具で馬の疲労を軽減しているから、地球の馬車よりは早いんだろうけど、それでも遠い!
新幹線と飛行機は偉大だ!
・・・そんなことを言っていても何も始まらないので、馬車から降りて、宿をとりに向かう。
街中を進むこと数分、お目当てのホテルを見つけた。
「あった!ここよここ!ホテルマドマゼル!」
ここは、学園に入学するために王都に向かっている時にも使ったホテルなのよね。
安全な宿を1から探すのは手間なので、同じホテルにまた泊まろうと思う。
それにここにはテルマエ、つまり温泉がある!3日も馬車にのってバキバキになった体をほぐせる!道中水浴びとかはしたけど、やはり温泉は別格でしょう!
無事にホテルで部屋が取れたので、荷物をおいて観光に行くことにした。
エントランスで観光パンフレットを探していると、ホテルのスタッフらしき女性に声をかけられた。
「お客様、観光ですか?」
「はい、そうなんです。けれど、どこに行こうか迷ってるんですよね・・・」
「そうでしたか。ここから比較的近くて有名なところだと、カルロサン劇場、ガレリアン、スラー座、ナポラーノ大聖堂、あの有名な”最初の朝食”の絵画が飾れている教会もありますよ。少し遠出すると、ペイペイポン遺跡、アマリーフィ海岸、エッグキャッスルなどがございますよ」
色々ある!これはすぐに決められない!
「たくさんあるんですね!ちなみに、ランチにおすすめのお店はありますか?ナポラーノに着いてからまだ何も食べてなくて・・・」
「それでしたら、モンテオーネ通りにあるサヴァイニというカフェはどうですか?ナポラーノ風リゾット、オッソブッコという子牛のすね肉のワイン煮込み、コトレッタというカツレツなど、ご当地グルメがご堪能いただけます」
「美味しそう!そこにします!」
「かしこまりました。こちらが地図です。それと、先ほどお伝えした観光名所がまとまったパンフレットもお渡ししますね」
スタッフのお姉さんありがとう!
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セレーネは、ホテルのスタッフのお姉さんにおすすめされたカフェで料理を食べ終え、紅茶を飲みながら観光をパンフレットをパラパラめくっているようだ。
「どこにいこうかな?やっぱり”最初の朝食”かな?」
”最初の朝食”は、世界で最初の教会を立ち上げた初日に、初代法王と上位聖職者が一緒に朝食をとった場面をモチーフにされている有名な絵画だ。
絵の本体が教会の中でも一般に公開されている区間にあり、信徒ではなくて見ることができる。
「よし!せっかくだし”最初の朝食”を見に行こう!やっぱり有名だし!」
セレーネ・ケニルワース、意外とミーハーなのかもしれない。
そして当の本人であるセレーネはカフェを後にして、”最初の朝食”が飾られている教会に向けて歩き始めた。
「雰囲気のある街並みってテンション上がるわね!」
道にはレンガ作りの建物が並び、ところどころ観葉植物の鉢も置かれている。入り口にはフラワーブーケのようなものが飾られている建物が多く、おしゃれな街並みにセレーネの気持ちはもっていかれてしまっているようだ。
「道もおしゃれね。種類の違うレンガ?舗装剤?でストライプ上に見える道っておしゃれね。向こうにいくとアーケード街かな?ファッションの流行の発信地も気になるわね。おしゃれね」
セレーネは、おしゃれという単語を連呼するくらいには周りに気を取られている。それはもうあたりをキョロキョロキョロしている。明らかに観光客です感が拭えない。
それでもスリなどに合わないのは、
「おっと危ない」
セレーネは、自身に近づこうとしていた歩行者を見ずに避けた。こう見えて周りを警戒しているようで、魔力検知をしながら犯罪者っぽい人間は避けていた。魔法を発動できなくても魔力そのものが0の人間はおらず、意図的に隠さない以上少なからず魔力を発している。セレーネはそれを検知していた。
ある意味かまってちゃんイオーゴ・レスターに対処していた成果であった。本人はその事実に嫌がるだろうが・・・
「今度はひらけた場所にでたわね!向こうが港エリアかしら?遠目に見ても、黄色やオレンジとかカラフルな建物が多そうね。今度行ってみましょう!」
そのまま散策しながら街中を進むこと数十分、セレーネはお目当ての教会に着いたようだ。
「ここがかの有名な”最初の朝食”が展示されている教会ね!やっぱり人が多いけど中に入りましょうか!」
教会とはいえ観光地化しているため、セレーネは入場料を払って教会の内部に入り、順路を示す看板に従って移動した。
「おお、これが”最初の朝食”!初代法王と12人の上位聖職者が揃っているのね。食べてるのはパンと・・・朝からワイン?祝いたくなったのかしら?テーブルに白い布が敷かれてる?」
なぜか分析じみたことをしているが、セレーネはど素人なのでこの絵画の意味するところを理解しているわけではない。おそらく、空気に酔ったのだろう。
少しして満足したのか、人混みに疲れたのかわからないが、教会から出てきた。
「さて、次はどこに行こうかしら?」
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主要な観光スポットを回ったセレーネは、夕食を食べてからホテルに戻ってきた。
そして、今はホテルの共用のテルマエに入っている。
「ふえー極楽極楽ー温泉最高ー」
その様子は、他のお客さんがいないことをいいことに、完全に気を抜いているようだった。
「歩き回ったり、馬車でバキバキになってた体が生き返るー。これからまた馬車で4日は遠くない?嫌だなー。ぶくぶくぶく」
あげく、髪の毛をお団子にまとめているとは、ぶくぶくぶくするまで深く温泉に浸かりはじめた。
このだらけ具合、「私は貴族令嬢です」と言っても誰も信じないだろう。
「テルマエや わたし飛び込む お湯の音」
リラックスしているのはいいことだが、謎の一句を詠みだしてしまった。
その後、テルマエからあがったセレーネはベッドにダイブして眠りについた。




