38:春学期以降の希望コース
「セレーネ・ケニルワース、文官系コースを希望。っと」
私は、休み時間に第二学園のカフェスペースで1人でのんびりしながら、1年生後半の春学期から始まるコース別の授業の希望調査書にコース希望を記載した。
今朝のⅠ組の朝の会でトーマス先生から希望調査書が配られ、明後日提出することになっている。
1年生の春学期からは、戦闘系、文官系、商人系、生産系にわかれる。
ほとんどの学生が入学時点から希望のコースがある上に、よほどのことがない限り希望のコース通りになる。
つまりその、形だけってやつだとは思うけど、一応必要なのでしょう。
庭園と噴水を眺めながらのんびり紅茶を飲んでいると、どこかで聞いた覚えのある声が聞こえた。
「セレーネさん?奇遇ですね」
「えーと・・・デイヴィット君でしたっけ?」
確かカールの友達だったわよね?
「覚えてくれているなんて光栄です!カフェスペースでお一人なんて珍しい」
「たまにはそういうこともありますよ」
「そうですか。ごゆっくりしてください」
そういってデイヴィット君は去っていき、ほんとに挨拶だけで終わってしまった。
のんびりと本を読んでいると、
「げっ、なんであんたがいるのよ」
「あれ?マリーさん?」
なんでいるのもなにも、ここ共用のカフェスペースだし・・・
「そういえば、いいきみね!」
「えーと、なにがですか?」
「春学期からコース別になるでしょ?戦闘系希望のグレイスさんと離れていいきみね!」
「マリーさんもじゃないですか・・・?確か文官希望ですよね?」
「なんで知ってるの!気味が悪いわ!」
えー・・・・結構自分で言いふらしてたと思うけど・・・
「あんたも文官志望でしょ?文官としての優劣をつけてあげるわ!今に見てなさい!」
「はぁ、そうですか。またクラスメイトになった時はよろしくお願いしますね」
「余裕ぶってられるのも今のうちよ!あなたがここにいるから、あたしは向こうに行くわ」
そうですか・・・。ご自由になさってください・・・。
静けさを取り戻したカフェでのんびりしていると、
「セレーネ嬢!」
今度は誰!?って思って声の方を向くと、かまってちゃんがいた・・・
真っ直ぐに私の方に向かってきた?居場所がバレたのかな・・・
「イオーゴ様、なんでしょうか・・・」
「これはたまたま偶然だな!」
「ここは共用のカフェスペースなので、珍しいことではありません」
「照れなくていい!運命の赤い糸が繋がっている!」
そういうのいいから・・・。
「その理屈でいくと、今このカフェにいる生徒全員がイオーゴ様の運命の相手になりますね」
「嫉妬してくれたのか!」
違ーう!!!
「違いますよ・・・。それより、ここはカフェなので何か注文なさってはどうですか?カウンターは向こうにありますよ」
その間に別の場所に行こうと席を立とうとしたら、かまってちゃんが私のコースの希望調査書を手にとってしまった。
「文官コースなんてセレーネ嬢には相応しくない!騎士をみすえて戦闘系コースにしよう!俺とおそろいだ!」
「返してください!」
「奥ゆかしい君に、こんなに情熱的に迫られるのも悪くない・・・!」
なにを言ってるんだ、この男は!
「私は文官になります。騎士にはなりません」
「文官なんてセレーネ嬢には相応しくない。花形の騎士になるべきだろう!騎士はいいぞ!国民を守る象徴だからな!文官なんて、引きこもってるだけだろう?」
「違います。文官は行政を回す重要な職種です。それと私は武術は素人です。不適材不適所になります」
「かわいそうに・・・!文官のみすぼらしさ、騎士の素晴らしさを理解していないのだろう。わかった!俺が直々に騎士団を案内しよう!そして、手取り足取り騎士の戦い方を教えてあげよう!」
手を掴まれそうになったので、それをかわす。
「結構です。それよりも、コースの希望調査書を返してください」
「夫になる相手に負担をかけたくないのはわかる!だがしかし!これは俺自身が望んだことだ!セレーネ嬢の分も提出しておこう!」
ほんとになにを言ってるんだ、この男は。
夫とか、キショいわね。
「返してください」
私が手を伸ばすと、かまってちゃんが手を上にあげてしまった。
身長差があるから届かない・・・!
いっそのこと、魔法でコースの希望調査書を噴水に落として新しくもらう?
幸いかまってちゃんは手を高く上げているから、たまたま風が吹いて紙が飛ばされても不自然じゃない。
うん、これだ!これぞ逆転の発想!
善は急げということで無詠唱で風を起こした。
「あっ!!」
かまってちゃんの手にあった私の希望コースの調査書は風に飛ばされた。
よしいい感じ!このまま噴水に・・・あっ!方向が変わった!本物の自然の風が吹いたのか!
なら!
私はすぐに浮遊魔法を発動した。そして、調査書はたまたま噴水に着水した。
「イオーゴ様・・・ひどいです・・・私の希望コースの調査書を水に落として台無しにするなんて・・・ぐすん」
頑張れ私!ミラの泣き真似を思い出すんだ!
私は今、大女優セレーネ・ケニルワース!
「い、いやちがう!これは!風が吹いて!偶然だ!」
「それでも、イオーゴ様が勝手に私のものを取らなければ起こらなかったです・・・ひどい・・・ぐすん」
「ちがうんだ!聞いてくれ!風が悪いんだ!俺は悪くない!」
その後も色々と言い訳を言っているかまってちゃんを見て、周りの生徒がヒソヒソ話している。
「風が悪い、って・・・」「風は自然の一部、自然が悪いというのはあまりに暴論すぎる」という趣旨の会話が聞こえてきた。
まぁ今回は私の魔法なんですけどね!
それよりも今がチャンスだ!
「どちらにしてもひどいです!さよなら!」
泣き真似をしたまま席をたち、急いでその場を離れようとすると、
「待ってくれ!」
「痛っ!」
かまってちゃんに腕を掴まれて無理やり引き止められた。
「離してください!」
「誤解をとかせてくれ!」
うわー、このかまってちゃん!
どうしたものか、と思っていると視界の端に見知った顔がみえた。
ヘルプミー、先生!
「レスター伯爵家ではレディーに乱暴するのがマナーだと教わるのか?」
我らがトーマス先生!ナイスタイミング!
「誰がお前は!何様だ!」
トーマス様だよ!
「Ⅰ組の担任のトーマスだ。セレーネ嬢はうちのクラスの生徒なんだ。その手を離してくれ」
「はっ!どこの馬の骨ともわからない教師ごときが伯爵家の俺になにを言ってるんだ!」
「伯爵なのは君のお父様だ。君はただの子息だ。爵位持ちの貴族本人とそうではない者の間には差があるぞ。習わなかったのか?」
「どこの雑草とも知れないやつがなにを言ってるんだ!口先だけで威張り散らして無様な大人だな!セレーネ嬢は俺の将来の妻で俺の物だ!お前なんかに渡さない!」
そこでトーマス先生は私の方を見てきた。
「彼はあのように言っているけど、実際は?俺は自由恋愛主義だからあれが事実なら口はださん」
「妻になる予定は一切ありませんし、そもそも好意すら1ミリも抱いていません。それと、私は私のものです。断じて彼のものではありません。助けてください」
「そうか。わかった」
私に向かってうなづいてから、トーマス先生はかまってちゃんの方を向いた。
「さて、イオーゴ君。君が私の言葉を聞かないのは、私が君のいう”どこの雑草とも知れないやつ”だからかい?」
あれ?トーマス先生いつもの雰囲気と違う?
なんか、貴族っぽい・・・?
「そう言ってるだろう!バカなのか!」
「そうか、わかった。では、我が家から正式にレスター伯爵家に伝達すればいいかな?」
「はっ!たかが教師がなにを言ってるんだ!口先だけの虚仮威しだろう!」
「口先だけじゃないことを証明するために、我が家、ハミルトン公爵家からレスター伯爵家に伝達すればいいかな?」
えっ!?ちょっと!ハミルトン公爵家!?
「は?」
かまってちゃんが「はっ?」と言って固まっちゃったけど、すぐに再起動した。
「い、いや!俺は、学園の侯爵家以上は把握しているぞ!そんな嘘通じない!公爵家はいない!」
「それは、学生に限った話じゃないのかい?」
そこで、トーマス先生は装飾品のような物を取り出して、イオーゴに見せた。
「イオーゴ君は、この紋章がどこの家のものか知ってるかな?」
見たことある!いくら田舎の弱小貴族の私でも、自国の筆頭公爵家で第一王妃様、つまり国王の正妻の実家の家紋というか紋章は知ってる!
「な、な、なんだと!」
「第二学園は身分をあまり気にしないだろう?けれど、たまにいるんだよね。君みたいなのが。権力には権力を。さて、イオーゴ君。セレーネ嬢から離れてくれるかな?2度言わないとわからあいかい?」
その直後、かまってちゃんイオーゴは脱兎の如く逃げ出した。「こんなの認めない!」と叫びながら尻尾を巻いて逃げる様子は、権力が無ければ何もできないのではないかと感じさせるものだった。
「セレーネ嬢大丈夫か?」
あっいつものトーマス先生だ。
「あっはい。ありがとうございます。お手数おかけしました」
「まぁ気にするな!こういう権力絡みのいざこざのために俺がいるようなもんだ。身分が低い貴族や平民でも優秀だとⅠ組になるからな。嫌がらせとかやっかみがあるうるから俺が牽制することになってるんだが、今年はまさかこんな感じだとは」
「こんな感じですいません!あとあの、希望調査書がダメになってしまったので、またもらえますか?トーマス様?」
「ああ、構わない。帰りに渡す。今まで通りトーマスでいいぞ」
「そうですか。それにしても、ちょうどいいタイミングでした」
「それなんだが、生徒に呼ばれたんだよな。ここのカフェスペースで待ってるって。で、いざきてみるとセレーネ嬢が揉めてたってわけだ」
「・・・そうなんですか?」
ちなみに、セレーネもトーマスは認識していなかったが、その生徒とはお月見会のメンバーの1人だった。
「それより、そろそろ授業じゃないのか?」
「あっ!そうですね!ありがとうございました!」
「気にするな」
授業に向かおうと思ったところで、私はふと思い出したことがあった。
文化祭の時に、アナスタシア王女殿下がトーマス先生のことを女たらしのおじさんって言ってたわね。おじさんは叔父さんだとわかったけど、女たらし?
「トーマス先生!」
「戻ってきてどうした?」
「アナスタシア王女殿下は姪なんですよね?」
「姉の娘だからそうなるな」
「トーマス先生は結婚されているんですか?」
「うん?してないぞ?急にどうした?」
「筆頭公爵家のご子息が先生やってたり、その辺りどうしてるのかなと、シンプルに思いまして!」
「ああ、なるほど。俺は嫡男じゃないから、比較的自由なんだ」
トーマス先生の顔は悪い男の顔だった。あーこれ、遊んでるわ。
「女泣かせ」
私は思わずぼそっと呟いてしまった。
「えっ?」
「なんでもありません」
「なんか誤解してるようだが、俺は生徒には卒業後も含めて一切手を出してないぞ!」
「ふーん、そうですか。”生徒には”なんですね。それでは、私は授業に向かいます」
「あっ、セレーネ嬢!」




