36:年末年始休暇が終わり、虫が襲来
コンコンコン
「セレーネ。準備できた?」
私の部屋のドアがノックされ、ミラの声が聞こえた。
「ミラ?ごめん、もう少し待って」
「どれくらい?」
「うーん、30秒くらい?」
「わかったわ。いーち、にー、さーん、しー、ごー、」
えっ!ほんとに数え出した!
急いで収納魔法に荷物を投げ込む。
「にじゅーはーち、にじゅーきゅー」
「お待たせ!」
急いでドアをあけると、ミラと、ミラの専属メイドのポーラさんと見習い中のロゼさんがいた。
ポーラさんの顔には、「お疲れ様です」と書かれている気がする。
気がするだけかもしれないけど。
「あら、ほんとに30秒ね。さすがセレーネ」
「急かしたかったわけじゃないでしょう・・・?」
「ふふふ!どうでしょう!それより今日から学園ね」
「まぁ楽しそうだからいいけど・・・。そうね、けどこの学期が終わるとコース別になっちゃうわね」
「みんなと離れ離れになるのは寂しい?」
「寂しくないわけではないけど・・・」
「私に任せておいて!」
「えっ?」
「それより早く学園に行きましょう!」
ラズウェル家の使用人のみなさんに滞在のお礼を言ってから、ラズウェル家の馬車で学園に向かった。
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学園に到着したあと、ミラが事務室に用事があるらしく別行動になった。
1組に向かって歩いていると、ハート型に飛んでいる虫の塊が目に入った。
「セレーネ嬢!俺の妻になってくれ!」
「はい?」
「言葉にしないと伝わらないからな!これは運命の赤い糸、いや、真実の愛なんだ!セレーネ嬢!俺の妻になってくれ!」
「イオーゴ様。お断りします」
いきなり何を言ってるんだ?この男は。キショいわね。
年明けの挨拶もなしに。
・・・いや、年明けの挨拶をしたところで、何を言っているの?
真実の愛なのか、運命の赤い糸なのか、どっちなの。
それと、言葉にしても意味不明なら伝わらないわよ。
「なぜだ!この3種のプレゼントをあげよう!火鼠の皮衣、蓬萊の玉の枝、ドラゴンの首の珠だ!」
「結構です」
「3つだと足りないか!?あと2つ用意する!」
違う。そうじゃない。
そもそも、これらも本物なの?入手が難しいんじゃない?
「3つでも、あと2つ追加しても受け取りませんし、婚約もしません。今もこれからもです。それでは失礼します」
かまってちゃんイオーゴを無視して、その場を離れるように歩き出すと、後ろでぶつぶつ呟くのが聞こえた。
「大いなる力よ!選ばれし者であり国家の守護者であり浩然の正気を纏う我が言葉に従え!至高なる生物の形をなし、愛しき月が我が元から離れぬよう境界を作れ!ホーリーウルトラセイクリッドハイパーメティキュラスインセクト!」
急に虫が現れて私の目の前を塞いだけど、ぶつぶつ呟いていたのは詠唱か・・・
無詠唱の風魔法で虫を撃退しようと思ったところで、
「待ってくれ!これを見てくれ!セレーネ嬢をイメージした指輪だ!グッドとコラボして作らせたんだ!」
グッドというと、有名な高級ブランドよね?私たちの国に本店があるんだっけ?
本物?
思わず指輪を見てしまうと、かまってちゃんがなんか勝手に説明を始めた。
「指輪本体は月がモチーフだ!それとここに110って数字もあるだろう!一等!一等星!月と一等である俺にふさわしいコラボ品だ!」
・・・この指輪どこかでみたことあるような?
「俺たちの共同作品!感動で声も出ないか!あの高級ブランドのグッドのコラボだからな!俺にかかればこんなもんだ!」
うーん・・・グッド・・・グッド・・・指輪・・・
・・・そうか!ミラの家で着せ替え人形にされたあと、ついでに?カタログを見せてもらった時に見たんだ!
「イオーゴ様。これはコラボではありません。この指輪は元からある既製品ですよね」
「チ、チガウゾ」
明らかにキョドキョドしちゃって・・・そういうところがダメなのよ。
いえ、ほとんど全部ダメね。
それより、周りに人が集まってきたわね。
新年早々あらぬ噂を立てられたくない。きっちり否定しないと。
「グッドの貴族向けのカタログでこの指輪を見ました。110という数字はなかったと思うのですが、既製品に110という数字を後から掘ったんですか?」
あの時ミラに「セレーネ!この指輪似合うと思うの!ちょうど月モチーフだし!虫除けにどう?」と言われていた。値段が高くてカタログで見るだけで終わったけど、まさかこんなところで役に立つとは!
「ナ、ナンノコトダ?」
既製品を買ってきて、勝手に110という数字を掘って、勝手にコラボって言ってるだけかな?
何アピールか知らないけど、上部だけそれっぽく表面的すぎるわね。
「事実は正しく述べてください。これはコラボではありません。詐欺ですか?」
「そんなことはない!俺への愛でそういうふうに思ってしまっているだけだ!」
「そのような事実はありません。それでは失礼します」
「待ってくれ!グッドじゃダメなのか?それじゃ、プレダ?ブルブリ?アルマージロか?」
「ブランドの問題ではありません」
「俺の妻になれば大好きな俺といつも一緒にいられるし、なんでも買ってあげるぞ!」
「そのお金はどこからくるのですか。そもそも、私は文官になります。あなたのことは大好きではありませんし、妻にもなりません。それでは失礼します」
周りで見ていた人たちは、野次馬がほとんどみたいだけど、一部の人が後ろからきてさっと道を作ってくれた。
面識はないけど誰だろう?とはいえ、今は厚意に甘えよう。
目でお辞儀をして、その場を離れた。
「なんだ!これじゃ俺が歩けないじゃないか!お邪魔虫め!」
少しかまってちゃんと離れたタイミングで、かまってちゃんが喚いているのが聞こえたけど、お邪魔虫って・・・
あなたが言いますか・・・
ちらっと後ろをみると、さっきの人たちが廊下の掲示物を見るふり?をして、かまってちゃんの道を塞いでくれている。
「半年くらいかけて優位だと思い込ませたのに!このお邪魔虫め!」
あのかまってちゃんの言っている言葉が、お邪魔虫以外理解できないのは私だけ?
学園が始まってからまだ5か月目に入ったくらいだけど、どういう思考回路なのだろう・・・。
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1組の教室について自席に座っていると、レイ様がやってきた。
「セレーネ、その、新年早々災難だったな。虫除けスプレーいるか?」
「今のレイ様の一言のおかげで浄化されました」
「そうか?よくわからないが、役に立ったのならよかった」
そう言いながらメガネをクイっとするレイ様。
その仕草は妙に似合っている。
「今日はラズウェル家からきたんだろう?ミラは一緒じゃなかったのか?」
「なんか、事務室に用事があるみたいで学校についてから別れちゃった」
「それは間が悪かったな・・・」
「しょうがないわ。ところで、レイ様は年末年始はお手伝いばかりだった?」
「まぁ、そんなところだ。そういえば、我が国の第一王子殿下がチョコレーネを気に入った」
「はい?」
「第一王子殿下がチョコレーネを気に入った」
「なんで?」
「美味しかったんじゃないのか?」
あっ、いや、どういう経緯でそうなったのか聞きたかったんだけど・・・
「そのうち商業化の依頼もくるかもしれないな」
「商業化・・・?」
いきなり王族からの希望で商業化とかどうすればいいの!!




