33:天体観測と黒フード
「クーレーアさーん!あーそびーましょー!」
私はクレアさんとの天体観測の約束のために王都にあるフローリー家にきていた。
正門から入ると、お互いに貴族令嬢として振る舞わないといけなくなりそうなので、裏口の門から入ることになっていた。
ミラの家に行った時に学んだことを活かす!
「あっ、セレーネさん。お久しぶりです。テンション高いですね」
「クレアさん!久しぶり!うん!楽しみだったから!」
「それならよかったです!あの、お外は寒いと思うのでなかに入ってください。まだ夜まで少し時間があるので私の部屋に向かいますね」
クレアさんに案内されてフローリー家に入った。
メイドさんや使用人さんがいて、やっぱりお貴族様なんだなぁと思った。
クレアさんの部屋について一休みする。
「新しい紅茶のブレンド考えてみたんですけど、どうですか・・・?」
そういつつ、クレアさんはティーカップを渡してくれた。
温かい。冬空で冷えた体に沁みる!
「美味しいわ」
「それは、よかったです・・・!どういう感じの味わいでしたか?」
「うん?美味しいわよ?」
「そ、そうですか・・・わかりました・・・!」
クレアはこの時人選ミスをしていた。セレーネは、クレアの試作品を飲む時だけではなく、ミラの試作品を食べる時もだいたい「美味しい」という感想になる。
そのため、もっと色々なコメントをするミラやグレイス、レイモンドなどに試飲を依頼する方が適任だった。
ただ、セレーネとクレアの本人たちはあまり気にしておらず、世間話を始めた。
しばらくして、日が暮れて夜になった。
「クレアさん、暗くなったしそろそろ行く?」
「はい」
クレアさんはモコモコした服を着込んでる。屋根の上に登ったら、私も収納魔法からブランケットを取り出そうと思う。
「じゃ浮遊魔法をかけるね」
「はい。・・・はい?私にもかけられるんですか?」
「うん。クレアさんにもかけられると思うけど・・・」
「そ、そうですか・・・」
「どうかした?」
「あっいえ、だいたい浮遊魔法って自分だけが対象なので、私てっきり浮遊魔法をかけたセレーネさんにおんぶか抱っこされるのかと思ってました」
「あっ!なるほど!そっちでもいいけど、どうする?」
クレアさんって小さくてかわいいから、だっこもやぶさかじゃない!
「いえ!せっかくなので浮遊魔法の感覚を味わいたいです!それに抱っこすると重いかもしれませんし・・・」
うーん、クレアさんって小柄だから重くないと思うけど、本人が浮遊魔法を味わいたいって言ってるなら素直にかけた方がいいよね。
「重くはないと思うけど、浮遊魔法かけるね」
私は、自分とクレアさんを対象に浮遊魔法を発動した。
「これが浮遊魔法ですか!私は自分では使えないので、自分自身にかかるとこういう感じの浮遊感があるんですね!」
あれ?そういいつつも、クレアさんって空中に浮くの慣れてる?
バランスをとるのを手伝おうと思ってたけど不要そう。
「クレアさん、もしかして空中に浮くの慣れてる?」
「あっはい。お父さんとお母さんにだっこされて、何回か飛んだことがあります!」
「そうだったんだ!」
そういえば、クレアさんのご両親って宮廷魔法師だっけ?
屋根の上についたので、私はブランケットを取り出して、天体観測を始める。
のんびりと星を眺めているとクレアさんに話しかけられた。
「セレーネさん、冬の夜空って澄んでますね。月が綺麗ですね」
「えっ!?」
「どうしたんですか?」
「な、なんでもないわ!」
ここは日本じゃないから、「月が綺麗ですね」に他意はない!
けど、びっくりした。
「セレーネさんは今ミラさんの家にいるんでしたっけ?」
「そうそう。大豪邸でびっくりしちゃった」
「あはは、あのラズウェル伯爵家の本邸ですもんね。それにしても、ミラさんも今日来れればよかったですけど・・・」
「なんか、用事があってどこか行くらしいわ」
「それならしょうがないですね・・・」
この時、セレーネとクレアは、ミラの言うやることは文官の手伝いだと思っていた。
しかし、実際は違うことを後に知ることになる。
しばらくのんびりと星空を眺めていた2人のすぐそばの空中に、突然、黒いフードを被った2人組が現れた。
そのうちの1人が、
「お嬢さんたち。僕らも混ぜてくれないか」
「あっ、おと「賊の侵入!?」
クレアが何か言いかけたが、セレーネの緊張感に満ちた声に掻き消された。
「クレアさん!下がって!」
相手は、黒いフードをしていて完全に顔が見えない。
素性を隠している?
暗殺、はないか。誘拐?両親が宮廷魔法師だから敵が多いのかな?
賊は2人とも浮遊魔法を使ってるし、実力が高いと判断した方が良さそう。
だとしても、クレアさんは私が守る!
「クレアさん!私が隙を作る!その間に助けを呼んで!」
相手は2人とはいえ、私1人なら浮遊魔法で逃げ切れると思う。
先にクレアさんを逃そう。
「あっ!セレーネさん!ちが「ほう!いいだろう!」
「あっ!ちょっと!おと「ウィンドカッター!」
うん?クレアさん?
おと?音?確かに音もなく出てきたけど・・・
クレアさん、今はそこを気にする場面じゃない!
「なかなか発動速度が速いが、まだまだだな」
声の感じからすると男性かな?
私のウィンドカッターは、賊が放った土魔法で相殺されていた。
無詠唱か!
もう1人の賊に攻撃されるかと思って警戒してチラッと見ると、
「あっ、私はしばらく見させてもらうわね」
手をひらひらさせながらのんびりしているように見えるこっちの人物は、声的に女性か。魔法を発動するそぶりすら見せないけど、どういうつもり?油断させる作戦?
どちらにせよ、まずは目の前の男性の賊の方をどうにかしないと。
相手が無詠唱なら、私もそうしよう。
じゃないと魔法の発動速度で遅れをとることになる。
風の槍を作って牽制するも、土魔法で迎撃されてしまう。
速度が足りないのかな?
次は風の弓を作った。
「いけっ!」
「無詠唱でのウィンドアローか!なかなか筋がいいな!しかし、まだまだだ!」
また、土魔法で迎撃されてしまった。
相手は浮遊魔法を使いながらも土魔法の精度が落ちない。
「次はこっちから行くぞ!」
わざわざ合図をしてくれるとはありがたい!
今だ!
私は、男性の賊が浮いている真下の空気に小さい渦を作った。
「おっと!」
バランスを崩した賊の魔法は、私から逸れていく。
「危ない!家にあてるところだった」
家に当てるのを気にしてる?誘拐の証拠は残さない主義?
「ふむ。セレーネ嬢は思ったよりも魔法戦闘能力が高いな。このまま続けると家に被害が出てしまいそうだ。悪いが、早めに幕引きとさせてもらおう」
私の名前を知ってる?もしかして、誘拐の対象は私だったの?
弱小男爵家だからメリットはないと思うけど・・・。
そんなことを考えていると、
「降参するか、捕まるかどっちがいい?ちなみに、棘は生やしてないから肌に傷を負うことはない。その点は安心してほしい」
その言葉ともに目の前にイバラが現れた。
あの賊!2属性使えるの!?
2属性使える魔法師は貴重だ。
引く手数多でしょうに、なんで誘拐なんて犯罪引き受けてるの?
「どちらもお断りします。私自身も、私の友達も守り抜いてみせます!」




