32:ドキドキ王宮探検隊?
「セレーネ隊員!準備はいいか?」
「いいわよ」
ちがうそうじゃない、って顔をミラにされた。
「セレーネ隊員!準備はいいか?」
「はっ!ミラ隊長!準備万端であります!」
そうそうそれよそれ、って顔をミラにされた。
「我々探検隊はこれより、老獪な狸や虎の威を借る狐など、魑魅魍魎からポンコツまでが住まう地に足を踏み入れる!気を引き締めるように!」
狸?政治家のことかな?
とりあえず、返事はしよう。
「はっ!」
「さぁ、行こう!」
「・・・えっ、ほんとに行くの?」
「行くの!せっかくここまできたんだし!」
カールと別れ、教会から出た後に、文官の仕事についてミラに聞いたら、突然乗合馬車に乗せられた。
そして、私は今なぜか王宮の目の前にいる。
勝手に入っていいの?
「ほんとに大丈夫?不審者として捕まらない?」
「普段は捕まるかもしれないけど、今日は私が一緒だから大丈夫よ!あっ、王宮に入る前にこの腕章つけてね」
・・・普段は捕まるんだ。
「それでは、ドキドキ王宮探検隊しゅっぱーつ!」
「おー」
ミラについていきつつも、せっかくだし周りの様子も見る。
それにしても、王宮ってすごい豪華ね。
「あっ、セレーネ。そこの部屋のドアに触れると矢が飛んでくるから気をつけて」
「はいっ!?」
ミラについていきつつも、せっかくだし周りの様子も見る。
建物全体の作りもしっかりしてるし、広いし、なんか荘厳な雰囲気。
「あっ、セレーネ。その角を右に曲がると王族専用エリアだから気をつけて。足を踏み入れた瞬間に問答無用で切られるかも」
「はいっ!?」
ミラと離れたら絶対迷子になる自信がある。
迷子になったら不審者として捕まる気がする。
ちゃんとミラについていかないと。
「あっ、セレーネ」
「今度はなに!?」
「ただ名前呼んだだけ」
ちょっと!
何も無いのにドキドキさせられた!
ミラはてへっ、みたいな仕草しているし、ドキドキ王宮探検隊ってそういうこと!?
そんなこんなありつつも、その後もてくてく歩いている。どこに向かっているんだろう?
ミラはと言うと、時々すれ違う人たちと上品に挨拶している。
こういう場面を見ると、やっぱりラズウェル伯爵家のご令嬢なんだと感じる。
ふと、ミラの足が止まった。
「あっ、いたいた。パパー!」
パパ!?
ミラが手を振りながら声をかけた先には、1人の男性がいた。
モノクルをかけて、身なりもピシッとしている。いかにも優秀な文官という雰囲気の人だった。
「ミラか!王宮内で手を振りながらパパと呼ぶなんてはしたない。誰かに見られたらどうするんだ?」
「大丈夫、大丈夫!ホリデーシーズンでほとんど人がいないし、ここの周りに人がいないのも確認済みよ。それとも、娘に冷たいラズウェル伯爵様には、今からでもかしこまってお父様とお呼びした方がよろしいかしら?」
「はぁ・・・、まぁいい。それで、こちらは?」
パパと呼ばれた男の人の目線が私に向き、それに合わせてミラが紹介してくれた。
「パパ、セレーネよ」
そして、ミラは続けて、
「セレーネ。目の前にいるのが、私のパパのクロード・ラズウェル」
私も挨拶したほうがいいよね?
「お初にお目にかかります。私はセレーネ・ケニルワースと申します。学園では、ミラさん、いえ、ミラ様によくしていただいております」
「これはご丁寧に。クロードだ。君がセレーネ嬢か。ふむ、ここだと堅苦しい話し方になってしまうから、執務室に案内しよう」
歩くこと数分。文官の執務室?があるエリアに来た。
数分も歩くなんてさすが王宮、広いわね。
案内された部屋には、棚とか書物とかいっぱいあった。
キョロキョロしていた私の様子を見たのか、ミラのお父さんのクロードさんが、
「セレーネさん。触らなければ、見て回っても構わない」
「いいんですか?」
「ああ。ここはお客さんを通す部屋でもあるから、機密情報は置かれてない」
なるほど?会社で言うところの応接室みたいな感じかな?
「ありがとうございます。その前にあの、この度はラズウェル伯爵家の王都本邸に匿っていただき誠にありがとうございます。直接お礼を申し上げる機会がなく、遅れてのご挨拶となり申し訳ございません」
ラズウェル家にお世話になっているお礼をクロードさんに伝えた。実は初対面だった。
文章では伝えていたけど、ちゃんと直接伝えた方がいいと思う。
「それほどかしこまらなくていいよ、セレーネさん。今ここには3人しかいない。なんなら我が家にいる間は、クロードパパって呼んでくれても構わない。状況はミラから聞いている。災難だったね。虫使いのかまってちゃんに困っているんだろう?」
クロードパパ!?
真顔で話しているクロードさんに対して、ちょっとどう反応するのが正解かわからないからスルーしよう。
「はい、虫使いのかまってちゃんに困ってます・・・」
「レスター伯爵家はしっかりしているはずなんだが・・・王宮でお灸をすえた方がいいかな?」
「あっいえ!そこまでしていただかなくて大丈夫です!」
あれ?会話を聞いていたミラがちょっとげんなりした様子?
「ふむ、虫というと、生き物だよね。ミラ、生類に関する書類をとってくれないか?」
ミラがさらにげんなりした?
とはいえ、なんやかんや対応している。
「法律書じゃなくて書類でいいの?どの書類?」
「生類の書類」
うん?
私が少し引っ掛かりを覚えている間に、ミラはそれっぽい書類を見つけたようだった。
「えーと、これかな?合ってる?」
「娘よ、ありがとう。これでミ・ウッチーさんの身内の時みたいに、王宮でお灸をすえられる!」
うん???
「パパ。ミ・ウッチーさんって、誰?」
「む、のう、無能のあやつを忘れたのか?」
あれれ?
”む”は”あ”みたいなつい出ちゃった言葉?
”のう”は少し古風な呼びかけ?
その直後の無能は偶然?と思いたいけど、わかりにくっ!
「内製化で無い成果、いや、無い成果で内省か!の方がいいかな・・・?」
「はぁ。パパ、つまらないわよ」
「ぐはっ!」
私の目の前では、伯爵家当主とそのご令嬢、というよりも、親父ギャグに呆れている娘とその父親、という光景が繰り広げられていた。
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セレーネがクロードパパの親父ギャグの洗礼を受けている頃。
王宮の別の場所では、レイモンドと第一王子のオリヴァーがいた。
「なぁ、レイモンド。チョコレーネを俺にもくれないか?」
「はい?年末年始休暇前に、学園でアナスタシア様にお渡してしていましたけど、もらってませんか?」
「もらってない・・・」
「そうですか。それは残念ですね」
(この兄妹、仲がいいはずだから、直接会う機会は何回かあったはずだ。アナスタシア様はあえて黙ってたな)
「いや、残念と済ませるのではなくて、俺にもくれないか?」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ。俺には王族として国を発展させる義務がある。そのためにも、流行り物や新しい物を把握する義務がある」
「そうですか。ただ食べたいだけな気もしますけど、わかりました。ミラに伝えておきます」
「助かる。褒美として、侯爵に陞爵しよう」
「安い爵位ですね」
「爵位なんてそれくらいの価値になってしまってもいいのではないか?」
「権力の象徴たる王族としていかがな発言かと」
「そうか。時期尚早だったか」
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クロードさんの親父ギャグが一通り終わり、というよりもミラが強制的に終わらせ、私は室内をちらほら見ていた。文官のエリアに来れる機会はそうそうない。
そこで、一つのレポートが目に入った。
「マーウデンの戦況の報告?」
娘から「つまらない」と言われ、しょんぼりしていたクロードさんが私の声に反応した。
「それは、先日、国境を超えてきたインネルト帝国の兵を撃退した話だね。一部の情報誌でも取り上げられてるよ」
「私たちの王国とインネルト帝国は今は休戦中ですよね?」
「そうなんだけど、魔物を追いかけていたたまたま偶然国境を超えてしまったらしい」
「それって、たまたまじゃないですよね」
「その通り。休戦協定はもはや形骸化している。何かの理由で開戦しなければいいが・・・」
「それは嫌ですね・・・」
パラパラとレポートを読んでいると、見知った名前が出てきた。
フェレーラ親子!グレイスだ!
「グレイスが前線にいるんですね」
「確か、フェレーラさんの娘さんかな?お友達?」
「はい。そうなんです。無事だといいですけど・・・」
「フェレーラさんの娘さんはいつも通り無傷らしいよ。ただ、いつも単身で真っ先に切り込むのに、今回は味方を盾にした?らしい?」
「味方を盾にした・・・?」
グレイスが?どういうことだろう?
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セレーネが王宮で報告書を読む数日前。
ビネンツェ王国の最北東に位置し、インネルト帝国と国境を接する防衛都市マーウデン、その都市の防衛戦力の兵士や冒険者が待機する宿舎の中で、グレイスが両親に話しかけていた。
「父さん、母さん、集団戦について教えてほしい」
娘からの突然のお願いに、グレイスの父は目を見開いていた。
「急にどうした!?変な物でも食べたか?」
「父さん、そんなに驚いてどうしたんだ。それと、母さんもなんでそんなに驚いた顔をしているんだ?」
「驚くわよグレイスちゃん!今まで個人の強さを追求して、暇さえあれば模擬戦を仕掛け、マーウデンの切り裂きジャックとまで言われていたじゃない!」
「今までは特に困ってなかったが、この前の学園の模擬戦で協力して戦うことの有用性に気付かされたんだ」
この発言を聞き、グレイスの母は感動でうるうるしていた。
ちょうど衛兵らしき人物が建物に入ってきて、グレイスの父に耳打ちをした。報告を聞き終えたグレイス父がグレイスに話しかける。
「グレイス。今日も北側からお客様がお見えだ。ちょうどいい機会だろう」
「わかった。先に行って準備している」
グレイスがその場を離れた後、グレイスの父と母はしみじみとしていた。
「あのことがわかって以来、一時はどうなるかと思ったけど、学園に入れて正解だったな」
「そうね」
そして、防衛戦の後。
防衛戦自体はいつも通り無事に終わった。しかし、いつもと違って、地べたにはマーウデン側の兵士や冒険者が横たわっていた。
それをみたグレイスの母が、
「グレイスちゃん。集団戦というのは人を盾にするということではありません」
「そうなのか?難しいものだな」
グレイスは、学園のクラス対抗戦の時、カールたちが自らを盾にして足止めをしたことを集団戦と解釈していたようだった。




