31:年末のホリデーシーズン
私は今日はミラとおでかけに行くことになっていた。
この世界の最大宗教である教会の記念日的なのが年末あたりにあり、それを祝うお祭りもある。
光の女神アグライアを信仰するアグリア教。
その教会の総本山はビネンツェ王国の王都オラリアにあるため、毎年このお祭りは盛大に祝われる。光の勇者がこの王国で大々的に讃えられているのは、光の女神を信仰する教会の総本山があるから、という背景もある。
とはいえ、教会の教えは割とゆるく、教会の信徒でなくともホリデーシーズンを祝うのはウェルカムらしい。お祭りなんだからみんなで仲良く楽しもうぜ、ってスタイルらしい。無宗教の私としてはありがたい。
王都のお祭りは初めてだけど、街は装飾で飾られ、ところどころ蝋燭も灯されてイリュミネーションみたいになるらしい。
私が楽しみでソワソワしながらもミラを待っていると、ミラの専属メイドのポーラさんがやってきた。コスプレ大会の時は悪魔に見えたけど、今は普通に普通のメイドさんに見える。
「セレーネさん。こちらを差し上げます」
「これは?」
「香水です。これで男もイチコロですよ!」
ポーラさん、腕に力コブを作っている。
私、今、応援されている?なんで?
「えっと、急にどうしたんですか?」
ポーラさんが周りを少しキョロキョロしてから、私に小声で耳打ちしてきた。
「その・・・お嬢様から、”セレーネさんが男に困っている”、とお聞きしましたので、差し出がましいかもしれませんが男性受けが良さそうな香水をと思いまして・・・!」
ちょっと!ミラ!
”男に困ってる”、の意味が違う!絶対確信犯でしょう!
「ポーラさん・・・その・・・お気持ちは嬉しいですが、虫使いのかまってちゃんに困っている、というのが事実ですね・・・香水より虫除けのお香とかの方が必要としております・・・」
「・・・そうでしたか!これは失礼しました!」
その後、ニコニコしたミラがやってきた。
ポーラさんも小言を言った後は談笑していて、ミラの些細ないたずらに慣れているようだった。
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「あっかわいい。おじさん、これください!」
「はいよ」
おお、これがホリデーシーズンの王都!
出店で七面鳥の丸焼きとか売ってる!いい匂い!
向こうにはケーキもある!
「セレーネどう?今買ったんだけど、似合う?」
「うん。似合う似合う」
あっ!あの大きな木!飾り付けされてる!
てっぺんに星がついてる!
街全体も飾り付けされてるし、お祝いって感じ!
「セレーネ、学校にもつけていこうと思うだけど、どうかな?」
「うん。似合う似合う」
あっちにはソリ?ひげがもじゃもじゃしたおじいさんの木彫りの人形みたいなのもいる!
「セレーネさーん。おーい」
「うん。似合う似合う」
街中にはところどころ蝋燭も置かれている!
夜になるとイルミネーションみたいになるのかな!楽しみ!
「もう!ちゃんとこっち見て!」
私の両頬がむぎゅーってされた。
むぎゅーってしている手の主、街娘風の服装をしたミラが私の目の前にいる。
美少女で人目を引くと言う点を除けば、王都の街並みにも溶け込んでいた。
「あれ?リボンつけた?ラズウェル家を出発する時はつけてなかったよね」
「正解!セレーネが街並みに釣られてあっちにふらふら、こっちにふらふらしている間に買いました!」
「えっ!?いつの間に!はやわざ!」
確かにホリデーシーズンの街並みに気を取られていたのは事実だけど、物理的にふらふら歩いてはなかったと思う。いつ買ったんだろう。
「マジックみたいだった?」
「えっ?マジック?」
ミラの笑顔が若干怪しい・・・?
「セレーネも何か買わないの?冒険者ギルドのバイト代入ったんでしょう?」
「そうなんだけど、今のところ欲しいものが見つからなくて・・・」
「なるほど。そうしたらあそこはどう?」
ミラが指差した先には本屋さんがある。この世界の本は手書きなので、高価だ。
バイト代くらいでは買えないとミラもわかってると思うけど・・・?
それに、元からお小遣い程度しか持ちあるいていないけど・・・疑問に思いつつも、本屋に向かったミラについていった。
「私面白いページを見つけちゃったの。この情報誌なんだけど、セレーネも見たら?」
ミラから手渡されたのは確か王都でも有名な週刊の情報誌の1つだったと思う。
近隣の魔物の出没状況とか、事件とか事故とか、武器の広告もあるし、冒険者とか騎士が好みそうな内容が多かった気がする。
冒険者ギルドにも閲覧用が置かれていることが多い。
私がペラペラとページをめくっていると、
「『訂正してください』」
「えっ?ミラ?」
「『訂正してください』」
ミラはニコニコしながら、私がもっている情報誌のページをめくって指をさした。
そこには・・・
「えっ!嘘!?なんで!?」
”王都冒険者ギルドの受付嬢 おおかみおばさんを撃退”という見出しの記事があった。
ご丁寧に挿絵まである。
「この受付嬢さん、数日前に臨時で入った人だったんだって。けど、受付嬢を理解していない冒険者に対してしっかりと反論してすごく立派よね。セレーネもそう思わない?」
「うっ。ミ、ミラさんその・・・」
「うん。どうしたの?」
ミラが笑顔だ!
冒険者ギルドにアルバイトにいくとは話していたけど、具体的に何をしたかまでは話してない!
けど、確かにこれは・・・
「ミラさん・・・お家に帰ってからお話ししてもいいですか・・・?」
「ふふふ、冗談よ!」
「そうですか・・・。というか、なんでこんな記事になってるの?」
「さぁ?冒険者ギルドのことはわからないけど、おおかみおばさんみたいな冒険者への牽制とか?」
まさかの本屋さんでの衝撃の事実を知った私は、どっと疲れた。
ーーーーーー
そんな感じで時々買い物したり、買い食いしたりしながら、私はミラと一緒に王都の街をフラフラしている。
それにしても、飾り付けが綺麗だ。
「この時期の王都って飾り付けがされてて綺麗」
「そうね。賑わっていいことね。セレーネのケニルワース領ではどういう感じなの?」
「うーん、、、猪狩りに出かけたり、お酒で宴会やるくらい?田舎だから・・・」
「それもそれでいいわね!」
そんな感じで王都をぷらぷらしていると、人が集まっている場所が目に入った。
教会かな?出店が色々とある。
教会の記念日だから教会もイベントやってるよね。そりゃそうか。
「セレーネ、ちょっと寄って行かない?」
「いいわよ。ミラって信者だったの?」
「違うわ。この時期は信者関係なく気軽に交流が持てるから挨拶しといた方が今後のためにもなりそうじゃない?」
「あっなるほど。ミラって真面目ね」
「そうかしら・・・?」
教会をフラフラしていると、見覚えがある顔が見えた。
なぜ!あの男がこんなところに!
・・・いえ、教会に所属しているから当然か。
あの男カールは、子供たちと一緒に出店の準備やイベントを回したり、遊んだりしていた。
「さぁみんな!次は何して遊びますか?」
気付かれる前にこの場を去ろうとしたところ、ふとカールと目があってしまった。
「・・・セレーネさん、ミラさん、なぜこちらに?」
「王都を散策してたらたまたま・・・」
「セレーネとデートしてたらたまたま!」
「はぁ。そうですか・・・」
「カール、このお姉さんたち誰?」
カールと一緒に遊んでいた男の子の1人が私たちのことを指差しながら、カールに聞いていた。
「人を指さしてはいけませんよ。こちらのお二人は、私の学園での同級生です」
「へー!カールってほんとに学園に通ってたんだ」
「通ってますよ・・・。そうでなければ君たちに勉強を教えられないでしょう?」
「それもそっか!」
男の子はカールに向かってニカっと笑っている。
ふむ、良い関係を築けているのかな?
それにしても、カールって子供達相手だと笑顔がいつもとは、ってあれ?ミラが急に一歩下がった?
「ちょっとカール!この女誰よ!」
こちらに走ってきた女の子が到着するなり私を指さしてきた?
「どこの誰か知らないけど、カールのお嫁さんは私だからね!!いい?」
えっ!?この子、まだ10歳いかないくらいじゃない!?
正確な年齢はわかんないけども!
お嫁さん!?
いや、そもそも私もまだ14歳なんだけど!?
「返事は!」
「あっ、はい!承知しました!」
「わかったならよろしい。行ってよし!」
・・・最近の子どもって大人びてるなぁ。
と私が思っていると、カールが女の子を宥めていた。
少ししてから、
「このお姉さん2人と少しお話しするから、みんなは遊んでててね」
「「「「はーい」」」
さっきまでかなりの勢いがあった女の子まで素直にカールの言うことを聞いてる。なんか不思議。
子供達が離れるのを見計らって、私はカールに聞いてみた。
「カール君ってロリコンなの?」
「はぁ・・・。セレーネさん、第一声がそれか・・・違う。あれは勝手に言われてるだけだ」
「ふーん、そう。というか、聖職者様は孤児院巡りのチャリティ活動に忙しいんだ」
「いや?違うぞ。俺はここで育ったんだ。今も住んでいる」
「えっ?・・・あ、ごめん」
「気にするな。それよりも、一応決まりだから聞く。教会の門をくぐりにきたのですか?」
教会の門をくぐる=信者になる、ってことかな?
と私が脳内で考えていると先にミラが答えた。
「申し訳ありませんが違います」
おっと、私も答えないと。
「私は無宗教だから。ごめんね」
「わかった」
「そんなに簡単でいいの?」
「ああ。決まりだから聞いただけだ。本気で勧誘しているわけではない。特に今日は祭りだしな」
「ふーん、そう」
「そうだ。そういうわけで、この後も楽しんでくれ」
その場を去ろうとしたら、ミラが小さい袋?みたいなのを取り出した。
「私は門はくぐりませんが、これを子どもたちに」
「ミラさん?いいのか?」
「ええ。どうぞ。子どもたちのおやつ代にはなるでしょう。ただ、カールさんの懐に入れないでくださいね」
くすっと笑ったミラに対して、カールが言い切った。
「当たり前だ。子どもたちのために使う」
寄付金ってやつだ!貴族っぽい!
私も渡した方がいいかな?けど・・・
「カール君、私は今手元になくて・・・食べ歩きはしたけど、小銭はちょっと残ってるからこれをどうぞ」
「・・・有り金を全部渡すバカがいるかよ。別に無理しなくていい。地方の貧乏男爵家のなんちゃって令嬢からむしり取るつもりはない」
「ちょっと!言い方!」
「事実だろう?」
「後者に関しては事実だけど!」
いつものカールだ!
子どもたちに向けていた笑顔はいつものうさんくさいやつじゃなかったし、子どもたちの関係性も良さそうでちょっとはいいやつかな?とか思ったけどそんなことなかった!
「そういうカール君はさぞ稼いでいるんでしょうね!まだ粉を売っむぐぐ」
「売ってるの?」、って言おうとした私の口がカールによって塞がれた。
「子供達の近くでその話はしないでほしい」
あれ?カールが珍しくガチトーンだ。
珍しくというか、ここまで真剣なのは初めてみたかもしれない。
とりあえず、カールの手はどかそう。
「はいはい、わかりました。それじゃ、地方の貧乏男爵家のなんちゃって令嬢は退散しますね!ばいばい!」
カールが何か言いかけていたけど、年頃の女の子にいきなり触るデリカシーのないやつなんてスルーだスルー!
「ミラも行こう!」
「あっ、セレーネちょっと待って。みんなもまたねー!」
「ミラお姉ちゃん、またねー!!」
えっ、少し目を離した隙に子供達と仲良くなってる!?コミュ力おばけ?
教会をあとにして、またフラフラ散策を始める。
それとミラに聞いてみたいことがあった。
「ミラ」
「どうしたの?」
「貴族って、信徒になるかどうかって家の方針があったりするもの?派閥とかあるの?」
「うーん、派閥はわからないけど、信徒になるかどうかは家によるわね。私の家は本人の意思で比較的好きにしていい方だと思うけど、私はならないわ」
「理由でもある?」
「教会を否定してるわけじゃないし、深い理由もないわよ。シンプルに、もしも神様に祈って書類が片付くのなら喜んで信者になるわね」
なるほど!そういう感じですか!
「書類・・・やっぱり文官って大変?」
そういえば文官を目指しているとは実際の業務知らないのよね。
私の質問に対して、少し考えたあとミラがいたずらっぽい笑顔をした。
・・・そんな要素あった?
「気になるなら実際に見てみる?」
「えっ?」
「まぁまぁ!いいからついてきて!」




