30:セレーネ、受付嬢になる!?
「セレーネ、いってらっしゃい」
「ありがとうミラ!」
私はミラに見送られて王都の冒険者ギルドにアルバイトに行こうとした。ミラは今日は予定がなく家でのんびりするらしい。
ふと振り返るとミラが手を振ってくれている。
なんか新婚みたい・・・
「セレーネどうしたの?」
ミラの声で我にかえった。
思わずボーっとしてたみたいだ。
「あっ、ミラと結婚する人は勝ち組だなぁと思っただけよ」
「・・・?そうね・・・自分でも言うのもあれだけど、ラズウェル家の令嬢との婚約は確かに勝ち組よね」
「あっ違う違う!ラズウェル家の娘としてじゃなくてミラ個人として!」
「えっ?」
「だって、顔立ちが整っていて美人でしょ。この前15歳になったばかりでも出るところ出てきてて、それでも細身だしかなりスタイルがいい。見た目だけじゃなくて、性格も明るて社交的。周りに気配りもできるし、コミュ力もとんでもない。仕事も早いし、ピアノもヴァイオリンも料理もできる!たまにダル絡みもするけど、それはまぁご愛嬌ってことで!」
「・・・」
あれ?ダル絡みのところはツッコミ待ちだったんだけど、反応がない?
改めてミラをみると、顔が赤いし、口をぱくぱくさせていた。
「な、な、なにを言って・・・?」
「ミラ。もしかして、照れてる?」
「照れてません!それより!早く仕事に行きなさい!」
「あっはい!」
珍しくかなり照れていたミラに追い出されるようにラズウェル家を出て、王都の冒険者ギルドに着いた。
冒険者としてギルドに来たわけではないから、事前に渡されていた職員用の認証魔道具を使い、職員用の入り口から入った。
「おはようございますー!セレーネです!」
「あっ、セレーネちゃんおはよう」
「セシリアさん!おはようございます」
セシリアさんは、私が初めて王都の冒険者ギルドでアルバイトをしたときから、その後もちょくちょく面倒を見てくれる。
今日もかな?
「ふふ、ついにこの日がきたわね」
「セ、セシリアさん・・・?」
「あっ、ごめんごめん。制服に着替えるために更衣室に行きましょう」
「はい!」
セシリアさんに手伝ってもらいつつ、魔道具で一時的に髪の色を変えたり、普段よりも大人っぽく見えるようなメイクもしたり、メガネをかけてみたりと、軽く変装をする。
「こんな感じかしら?セレーネちゃん、どう?」
鏡に映った自分をみる。
これなら大丈夫そうかな?
「はい。私とはわからなさそうなので、大丈夫だと思います」
「よかったわ。はい、これが名札ね」
名札には、レイラ、と名前が書かれている。
「うん。受付嬢の制服も似合っているわね。今日はよろしくね、レイラちゃん」
そう、今日の私の冒険者ギルドでのアルバイトは受付嬢だった。
どこも年末で忙しいということは、依頼の取りまとめをしているギルドも忙しく、その最前線の受付嬢は猫の手も借りたい状態のようだった。
ただ、冒険者としての私を知っている人もいるので、変に絡まれないように偽名を使って変装もしている。
改めて鏡に映った自分の姿をみる。これは・・・
「どうしたの?」
「あっ、いえ、この姿を友人に見られたら絶対いじられるなと思って」
私の脳裏には、この前コスプレ大会をさせてきた友人ことミラの顔が浮かんだ。
「お人形さんみたいにかわいものね。このまま本物の受付嬢になるのはどうかしら?」
「その・・・私、文官になりたいと思ってまして・・・」
「そう?気が向いたらお願いね。それじゃ、準備ができたら行きましょうか」
セシリアさんは以前から私を受付嬢に勧誘してくれる。
ただ、だいたいすぐに手を引くから本気なのか社交辞令なのかわからない。
更衣室を出た私たちが執務スペースに向かう途中、職員用通路でギルドマスターに遭遇した。私を先導していたセシリアさんが先に挨拶をする。
「おはようございます。ランディーさん」
「ああ、おはようセシリア。ところで隣にいるのは?」
ギルドマスターのランディーさんの目が私の方を向いた。
その顔には「こんな子いたっけ?」と書かれていた。
私がくるのは知っているはずだけど・・・
「ランディーさん、おはようございます。私ですよ私」
「うん?私私詐欺かな?セレーネ嬢」
「ち・が・い・ま・す!というか、気づいていたなら言ってください」
「はっはっはっ!せっかくだしな!」
「せっかくってなんですか・・・それより、私の変装ってわかりやすいですか?」
「いや。かなり良くできてると思う。メイクはセシリアかな?ただほら、ワシは元冒険者だからな。現役の時は警護のクエストなどもやっていたから、変装には強いぞ!」
言われてみればそうね。ギルドマスターになるほどの高位冒険者だし、変装している相手には敏感なんでしょう。
「それならよかったです」
「おう!じゃあとは任せた!」
そう言いながらランディーさんはどこかに行ってしまった。
「セレーネちゃんごめんね。ランディーさんって、その、割と自由だから・・・」
「ははは、冒険者なんてそんなもんですよ・・・」
「そうね・・・。それじゃ、気を取り直して行きましょう」
「はい。私は今日は低ランクの常駐クエストの対応でしたっけ?」
「そうよ。常駐クエストの対応はルーティーン化されてるから大丈夫だと思うけど、何かあったら言ってね」
「はい!」
常駐クエストは、薬草採取とか、ゴブリン狩りとか、常に依頼が張り出されている系のクエストのことを指す。
私も冒険者なので、常駐クエストの中身は理解しているから、今回白羽の矢が立ったのだろう。
さすがに、新しい依頼の相談を受けたりはできない。しっかりと依頼の中身をまとめたり、危険度や報酬を正確に決めたりするには、専門の能力がいる。ただの臨時バイトでは対応できない。
とはいえ、常駐クエストの対応が減るだけでも、この時期特有のクエストの対応をするセシリアさんをはじめとした本物の受付嬢の皆さんの負担を減らせるそうだ。私は私なりに頑張ろう!
執務スペースで受付嬢業務を開始してからしばらくして、
「薬草5kg、ちゃっちゃと受領してちょうだい」
ぼんっ!とテーブルの上に袋が乱雑に置かれた。中には薬草が見える。
雑に扱って薬草が痛んだらどうするんだろう、、、と思いながら相手をみると、中年くらいの女の人だった。
「常駐クエストの薬草の採取の完了報告ということでよろしいでしょうか?」
「早く受領のサインしなさいよ」
えー、ちょっとクエストの確認しただけじゃん・・・
「かしこまりました。冒険者カードをご提示いただけますか?」
「ほら。ぐずぐずしないで!」
冒険者カードには、ロイナという名前とEランクということがわかった。
冒険者のランクはS、A、B、C、D、E、Fの順になっている。
Eというと、脱初心者くらいかな?
「まだ?ぐずぐずしないで早くして」
おっと。
そんなに急いでどうしたんだろう?
まぁ私には関係ないか。
また何か言われる前に薬草を確認しますか。
「今確認しますね」
確認を始めてわりとすぐに違和感に気づいた。
これ、雑草が結構な量混ざってない?
雑草を分けてあらためて薬草を計り直すと、1kgしかなかった。
「ロイナ様、さきほど5kgとおしゃってましたが、こちらに分けた大半の草が雑草です。本物の薬草は1kgです」
私は薬草1kgと記載した受領票を手渡そうとしたが、
「何言ってるの!?5kgよ!」
その言葉と共に、私の手ごと受領票をはたき落としてきた。
痛い・・・。
「そうは言われましても・・・雑草は雑草なので受領できません」
「あなた普段見ない顔ね!あなたの目が節穴なだけじゃない!?王都の冒険者ギルドに素人がいるなんて嘆かわしいわ!」
「・・・おっしゃる通り私は臨時の受付嬢ですが、さすがに薬草の区別はつきます」
「何を言ってるの!?口先だけでいばっちゃって、まぁ可哀想!」
周りがザワザワしてきた。これはよろしくない。受付嬢への信頼が下がってしまうかもしれない。
他の受付嬢のみなさんが助けに入ろうとしてくれたのか、自分たちが担当している依頼者や冒険者に一言断って席を立ったのが目に入った。気持ちは嬉しいけど、それを目で辞退する。
これくらい自分で対応する!
「形などの見た目でもわかりますが、簡単に確実にわかる方法もあります。薬草はポーションの材料になりますし、回復魔法に反応するんですよ。このように」
私は「ヒール」と唱えて、2つにわけた草の山にそれぞれ魔法を向けた。
その差は歴然、小さいほうの草の山は淡く光り、大きい方の山は全く反応しない。
ちなみにヒールは魔法が使える人ならだいたい使える初歩の回復魔法だ。回復魔法のほとんどは教会がノウハウを独占しているけど、これくらいは生活魔法としてみんなが使える。
「な、な、な!インチキよ!偽物のマジックでしょ!」
「なぜマジック・・・?いえ、マジックでもインチキではありません。それでは、こちらが薬草1kgの受領証になります。お受け取りいただけますね?」
「な!・・・そう!薬草の採取中に犬に追われたの!それで袋の中に雑草が混ざったんだわ!」
「少々よくわからない話の展開ですが、仮にそうだとしましても、ここにある薬草が1kgという事実に変わりはありません」
「な!犬じゃなくて狼の群れに追われたのよ!危険手当はつくものでしょう!?」
「言っていることが二転三転しておりますが・・・。危険手当とおっしゃりますが、すべての冒険者がその危険を背負っています。ロイナ様だけを特別扱いできません」
「口先だけで何を偉そうに!受付なんてただニコニコ座ってるだけの顔だけ見た目だけのお飾りでしょう!そんなあんたには現場が理解できないわけね!あー可哀想!」
「・・・訂正してください」
「はっ?」
「訂正してください、と言いました。ギルドの受付嬢はただニコニコして座ってるだけではありません。依頼の中身を理解し、クエストがしっかり履行されたか確認する。そうしなければ依頼者と冒険者の信頼関係が保てないからです。私は臨時の受付嬢なので、常駐クエストの受領しかしていませんが、正規の受付嬢は依頼者のヒアリングを行い状況を理解し、それを依頼書としてまとめ、クエストの内容に応じて適切な冒険者への斡旋なども行います。そこにミスがあれば、クエストの失敗や、冒険者に危険が生じ、取り返しのつかない事態になる場合もあります。そうならないように最新の注意を払って業務にあたってます。決して、ニコニコ座ってるだけのお飾りではありません」
「なっ!なにを偉そうに!」
「あぁ、それともうひとつありますね。受付嬢は、時にはロイナ様のような上部だけで不正を試みる者を正す砦でもあります。意図的に成果の不正をした疑いで、ギルドの規定に則りロイナ様の処置を決めましょうか?」
「なっ!かわいそうだから薬草1kgで大目に見てあげる!感謝なさい!」
ロイナは私の手から受領証を奪い取り、逃げるように去っていった。
「ふう。なんだったのよあれ」
私が一息つくと、
「うおー!!」
「嬢ちゃん!すごいな!」
「見ない顔だから心配したが大丈夫だったな!」
えっなになに!?ギルドにいた冒険者から歓声が起こった!?
事態が飲み込めずキョロキョロしていると、1人の冒険者が近づいてきた。
この人、私が冒険者としてギルドに来た時に見かけたことがあるかもしれない。
「やぁ。さっきはすごかったね」
「え?えーと、ありがとうございます?」
「ははは。さっきのロイナっていう冒険者はとある地方では有名でね。リアルオオカミおばさんって言われていたんだ。すぐに上部だけで事実と違うことを言うし、クエストの成果も上部だけで誤魔化そうとする。それと、なぜかかなりの頻度で狼の群れに襲われている」
「えーと・・・?」
「おおかた、あの地方でおおかみおぼさんの評判が広まってしまったから、王都にきたんだろう。それを君が撃退したんだ。見事だった!」
「ありがとうございます?」
「ああいう輩がいると、ギルドという組織の質が下がるからな。いい仕事をしたと思うよ、レ・イ・ラさん」
そういい、ウィンクしたと思ったらその冒険者は去っていった。
「レイラちゃん!」
「あっセシリアさん」
セシリアさんは職員通路からかなり急いだ様子で出てきた。
たぶん重要な業務を個室で対応していて、こっちに戻ってくる途中で色々と聞いたんだろう。
・・・たぶん。わかんないけど。
「大丈夫だった!?」
「あっ、はい」
「近くにいなくてごめんなさい・・・!」
「えっあっいえ、大丈夫ですよ。受付嬢の先輩方も助けようとしてくれましたけど、自分で断っちゃいましたし・・・」
「それでも!」
「そ、そうですか」
「そうよ。それにしても、私たちのことああいう風に思ってくれてたんだ」
その後の業務の間、セシリアさんは私のことが目に入る範囲にいてくれた。
けど、なんかずっとニマニマして、私はちょっといたたまれなかった。




