29:お貴族様のお屋敷というもの
「セレーネ!我が家へようこそ!」
私はミラに連れられてラズウェル伯爵家の王都のお屋敷の前にきた。
王立第二学園からここまではラズウェル家の紋章入りの立派な馬車に乗ってきたので、家自体も立派じゃないかな?とは思ってた。
思ってたけど、これは想像以上だ。
「これがお貴族様のお屋敷ですか、ミラさん」
「急に敬語になってどうしたの?あっ、学園の外だからって気を遣わなくていいわよ!ちなみに、目の前の建物が本館であっちが別館ね!」
ミラが指差した先には、別館と呼ばれた建物がある。これだけでも、私の実家のケニルワース男爵家の家よりも何倍も大きい。
「ミラさん、やっぱり私学園に、」
雰囲気に呑まれ思わず敬語になっている小市民の私が言い終わる前に、ミラが本館の玄関を開けた。
「みんなー!帰ってきたわ!」
「「「「「おかえりなさいませ。お嬢様」」」」」」
重厚な扉の先には、立派な柱、立派な壁、立派な絨毯、お高そうだけどいやらしくもなく空間に優雅さを与えている数々の立派な装飾品、そして、何人ものメイドさんや使用人さんが列を作りお辞儀をしてミラに挨拶をしている。
その目が次に私を捉え、
「「「「「いらっしゃいませ。ケニルワース男爵令嬢様」」」」」」
「あっ、えっと、はい、えっと、こちらこそ、お邪魔になります」
私は慣れないカーテシーと共に、それはもうしどろもどろな挨拶をした。
くっ!こんなことなら淑女教育をもっとちゃんと受けておけばよかった!
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「セレーネ、そんな隅っこにいてどうしたの?」
「あっいや、その、ここが落ち着くなーと」
「そう?」
メイドさんと使用人さんの歓迎を受けた私は、ミラに連れられて滞在用の客室にきていた。
ぶっちゃけ、広くて落ち着かない。
学園の寮の部屋のサイズにも驚いたのに、それよりさらに大きいし、豪華。
貴族!って感じがして落ち着かない!
調度品もお高そうだし、下手に触って壊したら弁償できなそうだし動き回れない!
「ミラ。あの、ここの部屋も素敵なんだけど、もう少しこう庶民的な部屋はない?私って弱小男爵家なんだ・・・」
「あっ!さっきから挙動不審だったのはそれが原因だったのね!わかったわ。それじゃ準備させてる間に夕食にしましょう」
ミラはベルをチリンチリンと鳴らしてメイドさんを呼んであれこれ指示を出していた。
これがお貴族様・・・!
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「コース料理じゃない方がいいと思ったけど、どう?学食みたいにしてみたの」
「ミラさん!ありがとう!こっちの方がいいです!」
正真正銘本物の伯爵令嬢にお見せできるほどのテーブルマナーが身についてる自信がない私は、正直コース料理じゃない方が助かる。
「それはそうと、泊めてもらう上に色々と気を遣ってもらっちゃってごめんね・・・」
「あっいいのいいの!気にしないで!私から誘ったんだし!」
「ミラさん!ありがとう!」
「それならよかったわ」
ミラにくすくすと笑われてしまった。
それにしても、ここのダイニングルーム?広いわよね。
そんな私の視線に気づいたからか、
「あっここの部屋ね。普段はパパとママも一緒なのよね。最近忙しいみたいであまりいないけど」
「そうだったんだ。ミラは一人っ子?」
「年の離れた兄がいるわ。ただ、10歳以上離れてて兄というよりも親戚のお兄さんね。今も結婚して別の所に住んでるし」
「別のところに住んでるの?仕事の関係とか?お兄さんも文官?」
「文官よ。『ラズウェル家の家名に依存して成長しないような人間にはなりたくない!』と言って、今は家名も隠しているわね。嫡男なのに別のところに住んでるのもそれが理由だけど、家を継がないといけないからそのうち帰ってくると思うわ」
「そ、そうだったんだ。中々自分に厳しい方ね」
「そう?権力だけの無能になって国に損害を与えるよりははるかにいいと思うけど」
ミラってたまにこう、ほんとにお貴族様!って感じの凛とした雰囲気になるわよね。なんちゃって貴族で田舎でのほほんと過ごしてきた私とは雲泥の差がある・・・!
「それより食べましょう!冷めちゃうわ!デザートにチョコレーネも用意しているの」
ミラはごく自然にチョコレーネの名称を使っている。
さらに悪いことに、世間的にも定着してしまっていたようだった。私は、半ばもう成るように成れ、って投げやりになっている。
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「このお部屋でどう?」
「いい感じ!落ち着く!ありがとう!」
夕食の後、ミラに連れられてさっきとは別の部屋にきた。
適度な大きさで、調度品もほどほどでいい感じ!
「ふふ、それならよかったわ」
「荷物出してもいい?」
「いいわよ!」
収納魔法に詰め込んでいた諸々の荷物を取り出しながら棚とかにしまっていると、ミラに不思議そうな顔をされた。
「セレーネの収納魔法ってどれくらい入るの?」
「えっ?どうだろう。結構入ると思うけど・・・」
「試したことはないのね?」
「言われてみれば試したことないわ。・・・もしかして私の収納魔法の容量って標準的ではない?」
「この前ほら、女子寮でクレアさんのためのベットも入れてたじゃない?元から収納魔法に入れてた物もあったでしょうし、普通よりは多いと思うわよ」
「そうだったんだ・・・。ケニルワース領だと田舎すぎて比較対象がいなかったから、気をつける」
「そうね。その美貌と便利で容量の多い収納魔法持ちとなると、愛人とか囲い込もうとする貴族も出てくるかもしれないわね。密売とかしているマフィアとかにも狙われちゃうかも!ムチで調教とかされちゃうかも!きゃー!」
「えっ!」
「半分冗談よ!」
驚いた私の様子をみて満足したのか、てへみたいな感じでミラが言ってきたけど・・・
「半分は本気なのね・・・。私普通に文官になりたいんだけど・・・」
「学園内にいれば手は出されないと思うから、卒業と同時に文官になっちゃえば大丈夫よ」
「そのためにも登用試験頑張る」
「私も受けるから一緒に頑張りましょう!」
ミラと一緒に目標を共有していると部屋がノックされた。
「お嬢様、ケニルワース様。湯浴みの準備ができました」
「わかったわ。今から向かうわね」
ミラがそう言いながら部屋を出たところで、
「ケニルワース様、それでは失礼します」
「えっ?」
メイドさんが!私の服を脱がそうとしてきた!?
「きゃぁ!」
セレーネが思わず可愛らしい悲鳴をあげたところで、
「どうしたの!?」
驚いた様子のミラが戻ってきた。
「お嬢様、ケニルワース様のお召し物をお預かりしようとしたのですけど・・・」
状況をみて察したらしいミラが、
「あ、なるほど。セレーネは貴族令嬢としての生活に慣れてないから平民のお客様として扱ってちょうだい。湯浴みも1人でいってもらった方がいいと思うわ」
「かしこまりました。お嬢様、しかしながら、湯浴み後のお洋服などはご準備してもよろしいでしょうか?」
セレーネはこのとき、ミラの目がキランと光ったのを特に気にしなかった。
それを後で後悔することになる。
「もちろんよ。いい感じにお願い」
「いい感じですね。かしこまりました」
一波瀾?あるも、私は1人でのんびりお風呂に入った。
それにしても、貴族令嬢ってメイドさんとかにお風呂も手伝ってもらうのか。
私の知らない世界!
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「待って!私たち、話し合えば分かり合えると思うの!」
湯浴みを終えて部屋に戻ってきた私は今、壁際に追い込まれている。
「時に言葉は意味をなしません」
「ミラ!そこをなんとか!」
「ふふふ」
不敵な笑みを浮かべたミラと、メイドさんの手には様々な洋服が準備されていた。
「まずは、これね!女教師スタイル!」
ミラの宣言を受け、私が逃げようとするも、いつのまにかメイドさんが無言でそばにいた。
一切気配を感じさせないその隠形見事なり!戦闘もできる系でしたか!
「うう・・・。お手柔らかにお願いします・・・」
「わかったわ!」
ミラはそれはいい笑顔をしていた。
「次は、女性騎士の制服スタイル!ミニスカートバージョン!」
(ミニスカポリスのコスプレみたいなものかな?私じゃなくてミラのほうが似合うと思うけど・・・「逮捕しちゃうぞ❤️」とか言ったら絶対似合うと思うけど・・・)
「さてお次は、医療従事者スタイル!」
(ナース服みたいなノリかな?)
「外でやると怒られちゃうけど、教会のシスタースタイル!ザ清楚系!」
(外でやると怒られちゃうならやらなければいいのに・・・)
「清楚だけじゃない!色気も大事よね!ネグリジェ!」
(色気って・・・)
「知的なインテリ学者スタイル!」
(そうですか・・・)
「やっぱり町娘スタイルも捨て難いよね!」
(そうですね・・・)
私は色々な服を着せられて、着せ替え人形状態になっていた。
正直そろそろ寝る準備をしたい。
「実物はないけど、貴族向けのカタログにあるグッドの指輪も似合いそうだけど、それはそれとして、お次はメイド服ね!」
「メイド服まで!?完全にミラの趣味でしょう!」
「ちっちっち。そうではありませんよ、セレーネちゃん。あくまで似合いそうな服を揃えただけです。けれど、メイド服を着たくないとなると、”貴族令嬢”としてご丁寧におもてなししなければなりませんね」
「湯浴みの件のあとにそれは!ミラの鬼!悪魔!」
まぁミラって小悪魔だとは思うけど・・・
「なんとでも言ってくださいまし。前々からセレーネは素材が良いと思ってたんですよ。この機会は逃しません!!」
もしかして、私を泊めたのってこれが目的!?




