27:再戦!クラス対抗戦(後編)
「すいません!私は下がります!」
植物魔法の要であるクレアは、Ⅱ組の生徒が攻めてきたと同時に自分で作った木の城に隠れた。
「なんだこれは!?なんでこの短時間で城塞ができてるんだ!しかも、実戦でも使えるくらいしっかりしたレベルじゃないか」
攻めてきたⅡ組の生徒は、林を抜けた途端に、いきなり目の前に現れた木の城塞に驚いているようだ。
それもそうだろう、林が両陣営の間にあるとは言え、元々お互いの本陣はほぼ更地だった。にもかかわず、「行ってみたら城塞がありました」、となったら驚くのも無理はない。
セレーネはというと、驚いているその隙を逃さないとばかりに、魔法を発動した。
「我がもとに集いし大いなる力よ。我が意に従い、風の力を纏い、刃となりて敵をきりさけ。ウィンドカッター!」
「うわっと!あそこに魔法師がいる!気をつけろ!」
セレーネは、普段は使わない詠唱を使って、魔法発動の際には杖を高く掲げて、いかにも魔法師が着ていそうなローブまで着ている。
しかも、目立つ櫓の上から魔法を放っているため、一瞬で敵に見つかっていた。
「セレーネさん!僕が近接戦闘員は防ぎます!魔法に集中してください!」
「ハリソン君!ありがとうございます!我がもとに集いし大いなる力よ。我が意に従い、風の力を纏い、渦となりて敵に襲い掛かれ。ウィンドストーム!」
高位魔法や特殊魔法は除いて、この世界の基本的な魔法の詠唱はだいたい体系化されている。詠唱は魔法のイメージを補助するものであり、体系化されている方が一般的に大多数の人が使いやすいという理由だった。
詠唱の中身としては、魔力を集め→属性を指定し→性質や形状を決め→攻撃や防御などの目的を明確にし→最後に魔法名を叫ぶ、という流れが多い。
必ずしもこの通りにする必要はないが、セレーネは今はその典型的な流れにそって詠唱を唱えている。
表面上は澄ました顔をしているが、実のところ内心では羞恥心で悶えていた。
(ポエムじゃん!詠唱ってポエムじゃん!厨二房みたいで恥ずかしいんだけど!でも目立つためにはやるしかない!)
とのことらしい。
「ハリソン君!敵の位置が城塞に近いから、少し距離を取ってもらおうと思います!」
「わかりました!」
「我がもとに集いし大いなる力よ。我が意に従い、風の力を纏い、壁となりて敵味方を隔てん。ウィンドウォール!」
「うわっ!」
突然現れた空気の壁に驚き、Ⅱ組の生徒たちは、本陣の周りの林まで後退した。
しかし、その林は、先ほどクレアが植物魔法で更地に木を生やして、本来の林を拡張したものだった。
つまり、細工ならいくらでもできる。
「みなさん!今です!」
セレーネの号令とともに、林の木々の隙間から様々な魔法が放たれた!!
「うわっ!なんだ!どこから、ぐほっ」
Ⅰ組の本陣の防衛戦力は、ほとんどが非戦闘系だった。そこは前回と変わらない。
しかし、クレアが魔法で作った林に隠れ、セレーネに意識が向いている隙に、背後から魔道具を使って魔法の雨をふらしていた。
「ちっ!ふざけんな!」
やけになったⅡ組の生徒が勢いに任せて林に攻撃を仕掛けると、
「きゃっ!」
小さい悲鳴ととともに木が折れ、ミラの姿が現れた。運が悪いことに、Ⅱ組の生徒がやけくそで放った攻撃があたってしまったようだった。
「こそこそしてせこいぞ!」
「模擬戦なんだからこれくらい大目に見てほしいわね。実戦よりはかわいいものでしょ?」
「なんだとっ!」
ミラが攻撃されそうになっていることに気付いたセレーネは、
「ミラっ!」
「ぼへっ」
ミラの名前を叫びながら、咄嗟に無詠唱で魔法を発動していた。
セレーネの魔法は、セレーネの手から放たれたわけではなく、ミラが襲われる直前に、ミラの目の前で空気の爆弾のように発動し、それをもろにくらったⅡ組の生徒は地面にうずくまった。
ミラはというと、一瞬セレーネの方に視線を向けるも、どこから攻撃がきたのかわからない、と言うかのように周りをキョロキョロしていた。
セレーネが無詠唱魔法をほとんど学園で使ってないことを知っていたミラは、先ほどの魔法が櫓から放たれたわけではなかったことを強調するために、気を使ったようだった。
しかし、
「短縮詠唱でもない、完全無詠唱魔法・・・?」
セレーネの近くで護衛をしていたハリソンは気付いたようで、対抗戦の後には”お月見会”にも広がり、セレーネはさらに崇拝されることになる。
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一方、攻撃側に加わっていたグレイスはというと、今まさに霧の中にいた。
「・・・これは厄介だな」
「そう言っていただけるとは。準備した甲斐がありましたよ」
「カール、私の目の前にはお前1人しかいないが霧の中にも3人いるな。合計4人か」
「幻惑魔法も併用しているのに流石ですね。なんでわかったんですか?」
「直感だ」
「・・・直感ですか。それは困りました」
「そのわりには困ってなさそうに見える」
「私の目的なグレイスさんの足止めですから。グレイスさんの方も1人で行動していたことから、囮としての役割も大きいのではないですか?」
「それはそうだが、私はいけるところまで行くつもりだ。もちろんここも突破する」
グレイスが不適な笑みと共に剣に魔力を纏わせてカールに攻撃をしようとすると、霧の中で動く気配がした。
「・・・攻撃してこないのか」
しかし、霧の中の気配は攻撃をしてこないどころか、それ以上グレイスに近づく気配もない。
「お気づきかもしれませんが、霧の中にいるのは非戦闘系の生徒です。グレイスさんのお相手は私がします。役不足かもしれませんけれど」
そう言いつつ、カールは手に持っていた槍を構えた。
「わかった」
しかし、グレイスとカールの力の差は歴然であり、カールはすぐに膝をつくことになる。
「さすがにお強いですね」
その瞬間、霧の中の気配が動いた。
「ヒール!」
グレイスが霧の中に意識を向けた瞬間にカールは治癒魔法を唱えて自分の傷を治し、結界の魔道具を起動した。
「・・・そうくるか」
その直後、霧の中にいた生徒が一斉に動き、グレイスとカールの周辺に近づいた。結界があるとはいえ、すぐ攻撃が届くくらいの距離にいる。
「この結界は複数人で1つの結界を構築する拠点防衛用の物か?結界範囲を狭めて強度をあげたとしても私なら壊せる。個人個人でも結界を張っているようだが、二重の結界でも壊せるぞ。気になるのは、隠し持っているもう1つの魔道具だな」
カールとⅡ組の他の生徒はアイコンタクトをすると、さらに距離を縮めた。
「・・・そこまでわかるのですね。どれだけですか・・・。ちなみに拠点防衛用の結界を選んだのは、1人でも意識があれば結界が維持できるからです。元から交代で使用することが想定されてますからね。もう1つの魔道具は治癒の魔道具なので、意識があれば他の人の治療ができます。この2つを合わせると、グレイスさんがこの結界を突破するには、私たち4人を同時に気絶させる必要があります」
「それもできると言えばできるが、それをすると・・・」
「察しているようですね。今私たちは二重の結界を張っています。その結界の上から4人同時に気絶させるとなると、スピード重視の場合は手加減する時間はなくなり、一撃で気絶させようとするとそれ相応の威力の攻撃が必要になります」
「手を伸ばせばお前たちに届きそうな距離まで近づいてきたのは、結界の部分だけをピンポイントで壊して突破できないようにするためか」
「ええ、そうです。本当は、もう少し霧で撹乱する予定だったのですけど、一瞬で看破されたので、素早く作戦を移行しました」
「機転がきく。・・・学校の行事で意図的に致命傷を与える行為は暗黙の了解で禁止されている。それにもかかわらず、今回の対抗戦の事前のルール決めでそのことを明確にしたのはこれが狙いだったのか」
「さすがですね。ご理解がおはやい」
「私があくまで事故を装って、お前たちの身の安全を考えずに高威力の攻撃をするとは考えなかったのか?」
「何回か一緒に冒険者稼業をした仲じゃないですか。グレイスさんってぶっきらぼうに見えて意外とお優しいですよね」
「優しいかどうかはさておき、これは私の負けだな」
グレイスはそう言いながら剣に纏わせていた魔力を解いた。
「ですが、実戦でしたら私たちの負けでしたよ。学校の行事だから勝てたんです」
「それでも負けは負けだ。カール、参考までに聞きたいが、私が攻撃していた場合はどうしていたんだ?」
「私は教会の聖職者ですよ?即死じゃない限り、治療できます」
「そうか。それにしても、周りと力を合わせると戦略の幅が広がるのだな」
カール以外の3人の生徒は、やはり緊張していたのか、グレイスが戦闘態勢を解いた途端に安堵のため息をついて、その場に座り込んだ。
数分後、
ドーン
という音と共に黒い閃光弾が打ち上げられた。試合終了の合図だ。
「閃光弾の色が黒ということは、取られたのはⅡ組の旗のようだな。クラス対抗戦自体は私たちⅠ組の勝ちだ、カール」
「そのようですね」
Ⅱ組は負けたとは言え、前回クラス全体を壊滅させられたグレイスをたった数人で足止めし、先生の助力なしでも良い勝負をしたことで成長を示し、Ⅰ組は本陣の防衛作戦を始め諸々の作戦がうまく決まったことで成長を示した。
第二学園の学生らしく、Ⅰ組とⅡ組の双方が実力を伸ばしたことがわかったクラス対抗戦はこうして幕を閉じた。




