25:オリーブ収穫のお手伝い
「セレーネさん、今のうちです!」
「わかった」
私はクレアさんの協力のもと、かまってちゃんイオーゴに気付かれずに第二学園の敷地内から外にでた。
「クレアさん、さっきは助かったわ」
「いえいえ、それにしても休日にまで寮の前に待ち構えているなんて・・・」
「ちょっとドン引きよねー。本人は虫魔法、取り巻きの2人が音魔法と煙魔法で気を引こうとしているから、周りにまで迷惑が・・・」
「セレーネさんのせいではありませんよ。あの方達、その、色々と間違った方向に進んでますよね・・・」
「ほんとよね。いくら虫文字で『おはよう♡我が愛しのセレーネ嬢』とかやっても、ただの逆効果しか出していないということを理解してないんでしょう。シンプルにキショいだけよ。早く起きる時間があるなら学園の掃除でもしていればいいのに。その方が世のため人のためになるわよ・・・いえ、それよりも、気を取り直してオリーブの収穫に向かいましょう!」
「そうですね・・・!」
私とクレアさんは、王都近郊にあるオリーブ農園の手伝いに向かった。私がお小遣い稼ぎの為に冒険者のクエストを受けようと思うと雑談の中で言ったところ、植物魔法の使い手のクレアさんが興味を示した、という経緯だった。
ちなみにグレイスは、中間試験が終わって暴れ回りたいのか、バリバリの戦闘系のクエストを受けると言っていて、おそらく私たちよりも早く出発していると思う。
ミラはそもそも冒険者登録してないので、たぶんのんびりしている。
ビネンツェ王国は、大陸にまたがって存在している広大な内海であるテチス海に面している。
王国北部については、比較的冷涼でチューリップとかパプリカとかの栽培が多くて、大陸最高峰の山脈を隔てて複数の国と国境も接している。
王国南部は、商業活動がメインとはいえ、夏は高温で乾燥、冬は温暖で湿潤のテチス海性気候のもと、オリーブやブドウ、柑橘類などが栽培されていることが多い。
今日これから私たちが向かう農園もその中の1つだ。
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「こんにちはー!冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者ですー!」
「おっ、きたね!あたしはオリビアだ!よろしく!」
オリーブ農園のオリビアさん!オリーブを育てる為に生まれてきた、って感じね!
私がそんなことを考えていると、明朗活発といった様子のオリビアさんが右手を差し出してきた。
握手に応じながら自己紹介する。
「セレーネです。今日はよろしくお願いします!」
「セレーネさんね!よろしく!それで、あなたの後ろでチワワみたいに縮こまっている子は?」
私の後ろに隠れて、顔だけ出していたクレアさんがピクッとした。
「わ、わ、わ、私は、ク、クレアです!よろしくお願いちまちゅ」
・・・今日も噛んだわね。
「はっはっは!別にとって食おうとしないから安心しな!それで2人はオリーブの収穫はやったことはあるのかい?」
「はい、私はあります。けれど、こっちのクレアさんは初めてです」
「そうか!といっても、ただ実を摘むだけでそんなに難しくはないし、具体的な収穫の手順はセレーネさんからクレアさんに教えてあげてちょうだい。あたしが教えると怖がらせてしまうかもしれなそうだ。収穫対象についてだけど、緑色のオリーブの収穫の時期は終わったから、黒色のオリーブの収穫を頼む!」
「はい!」
「よし!いい返事だ!道具については向こうにカゴ、手袋、熊手、長めの棒がある。使いたい時は貸出表にサインを書いておくれ。収穫したオリーブの実はあっちの小屋に運んで欲しい。何か質問はあるかい?」
「大丈夫です!」
「よし!じゃ、これが地図!2人にお願いしたい場所には印がつけてある。ただ、うちはそれなりに大きい農場だから、人手が足りない!担当の場所が終わって、追加で収穫をしたくなったら声をかけておくれ。報酬ははずむよ!」
「ほんとですか!?」
「ああもちろん!」
貴族令嬢なのにガメツイとか思わない!
私の家は弱小男爵家なんだ!稼げる時に稼がないと!
「それじゃ行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
道具を借りて、私たちは自分たちの担当の場所に到着した。
「クレアさん大丈夫そう?」
「道すがら説明してもらったので、たぶん大丈夫だと思います。けど、その、私は身長が低いので高い場所の収穫はセレーネさんにお願いしてもいいですか・・・?」
「もちろん!」
黙々と作業をしていると、オリーブの木の上の方にある実を収穫している時にクレアさんに話しかけられた。
「セレーネさん。セレーネさーん!」
「どうしたの?」
「あの、その、さすがに浮遊魔法は目立つのではないでしょうか・・・」
「あっ」
急いで地面に降りてきた。
「見られてないかな・・・?」
「どうでしょう・・・木の高さよりは上に行ってなかったと思うので大丈夫だと思いますけど・・・」
「そう願いましょう・・・」
「セレーネさんはよくこういうことされていたんですか?」
「こういうこと?」
今浮遊魔法を使ってたみたいにやらかし系のこと?
「オリーブの収穫とかです。冒険者として、小さころから外の世界で色々と経験していたのかなぁと、思いまして」
あっ、そっちね!
「王立第二学園の準備資金を工面したりする為に、冒険者の依頼は受けてたわ。けど、急にどうしたの?」
「その・・・ほら私って器用な方ではないじゃないですか。さっきもオリビアさん相手にダメダメでしたし。引きこもってばかりで、今まで何してきたのかなーと思ってしまって・・・」
おっと!思いのほか真面目なやつだった!
「うーん、そうかな?クレアさんは魔法の知識とかすごいじゃない?私は何度も助けられてるわ」
「そうですか・・・?」
「そうそう。それに、器用ではないって言ってるど、緻密な魔法陣を高いレベルでいじれるじゃない?あと、美味しい紅茶も育てられるし。単純に適材適所の話じゃないかな?」
「そうですか・・・」
「クレアさんにはクレアさんのよさがあるからそれを活かせばいいんじゃない?せっかくの才能が勿体無いわよ」
我ながら模範解答すぎたかな・・・?
「・・・そうですね。そうですよね!ダメダメでもできることやればいいんですよね!私にもできることやりますね!」
「その意気その意気!けど、ダメダメではないと」
「思うよ」って続けようとした私の言葉は最後まで言えなかった。
「大いなる力よ我が元に集え。植物の息吹をうけ蔓となり、我に代わりにかの実をとらん。」
「あっクレアさん待って」
私の言葉はクレアさんに届かなかった。
「バインウィップ!」
クレアさんの膨大な魔力とやる気を注ぎ込まれた植物魔法により生み出された蔓は、地面から元気に伸びてオリーブの木の高さをゆうに超えている。
「あわわわわ、蔓でオリーブの実を取ろうと思っただけでしたのに・・・!」
これはやりすぎね・・・。
「何が起こったの!?」
焦った様子のオリビアさんが勢いよく走ってきた。
「すいませんんんん!!!」
オリビアさんに向かって勢いよく謝るクレアさん。
「これは・・・魔法?あたしが知ってる魔法の威力じゃない」
「はいいいい。すいませんすいません!植物魔法です!!調子に乗りました!!!」
オリビアさんに向かって勢いよく謝るクレアさん。
「オリーブの木には実害がなさそうだし、そう気にしなさんな。それにしても植物魔法ね」
何か考えているオリビアさんに、勢いよく話しかけるクレアさん。
「クビですか!?ダメダメすぎて私クビですか!?」
それに対して、オリビアさんが苦笑いで答えた。
「違う違う。せっかくの植物魔法なら、活かせないかなと考えていただけ。植物魔法は、魔法で作ったものではない本物の植物に手を加えたりもできる?」
一瞬で研究者モードになったクレアさん。
「と、いいますと?」
実況者モードになっていた私はというと、2人の会話に入るタイミングを逃していた。
今もこうして、畑にあるようなありふれたカカシのように突っ立っている。
さぁ、鳥たちよ、我に恐れをなして逃げ惑うといい!
私の脳内茶番劇とは裏腹に、現実では真面目な会話が繰り広げられていた。
「オリーブの実から直接油分を取り出してオリーブオイルが作れないかと思ったのさ。従来のやり方と違って実を揉みつぶさない分、不純物が入るのも防げるし、ろかの工程も簡略することができる」
「なるほど。おおまかになら植物の構成要素の操作はできます。今回だと、実の本体、水、油に分離するくらいでしょうか」
「本当かい!?早速試してみてもいいかい?」
「もちろんです」
「じゃこっちにきてくれ!」
オリーブ畑から場所を移して、建物内でクレアさんとオリビアさんは試行錯誤していて、私はそれを眺めている。
「オリビアさん相手にも普通に接してるし、自分ではダメダメって言っている割には、もうオリーブオイルの精製法を確立しつつあるし、ちゃんと成果だしてるわよ」
・・・思わず独り言を言ってしまったけど、もしかして今の私のセリフって年寄りくさい?
オリーブオイルの精製実験がひと段落して学園の女子寮に帰るとグレイスがいた。
大人の冒険者でも複数人が必要なワイバーンの討伐を1人でやってきたらしい。久しぶりに思いっきり体を動かしたからか、機嫌が良さそうだった。




