2:クラス初顔合わせ
私は事前に配られていたクラス通知書をもとに自分のクラスルームに向かった。
1年生の前半は、1クラスだいたい30人〜35人くらいで6つのクラスに分かれる。
1年生の後半からはコースにわかれるけど、前半は純粋に入学試験の結果で上から順にクラス分けがされる。
上から、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵの順で、私はⅠ組だった。勉強頑張った。
教室につくと、やんわりグループが出来上がっている。元から顔見知りだったり、入学式で知り合ったのだろうか。
黒板に張り出されていた座席表を見て、自分の席に向かった。
席まで歩いている途中、ひそひそ声で「あれが虫伯爵夫人か」というとんでもない会話が聞こえてきた。
・・・絶対に否定すると心に誓った。
私の席の隣にはすでに女の子が座っている。背も小さめだし正直ちょっと幼く見える。
「はじめまして。セレーネです。よろしくお願いします」
「は、はいいい。わ、私はクレアです。よ、よろしくおねがいしましゅ」
噛んだわね。クレアさんもちょっと俯き加減になっている。
「クレアさんというのですね。選択科目は何を選んだんですか?」
王立第二学園の入学試験は、必修の一般教養と、1つの選択科目で行われていた。
選択科目は、武術、魔法、国語、戦術論、算術、生産技術、時事問題に対する小論文、の7科目あり、将来の専門コースに近いものを受験する生徒が多い。
私は、文官に必要な文章作成能力や読解などを試験する国語をとっていた。
「あっ、えっと、生産技術です。その、あの、魔道具のための、その、魔法陣の開発がしたくて・・・」
「そうでしたか。魔道具って本当に便利ですよね。効率の良い魔法陣だと、魔道具の性能もあがるんでしたっけ?」
「そうなんですよ!そもそも魔法陣というのはですね、その歴史は結構古くて、当初は属人的な魔法発動のブレを抑える目的であったり、高位魔法発動の補助などからはじまりました。そこから、時代の変化と共に新しい需要、つまり、魔法師ほどの魔法操作能力がなくても魔力さえあれば誰でも発動できる便利なものがほしい、という需要なのですけど、それを満たすために魔道具向けの魔法陣の開発が始まりました。けれど、壁にあたったのか、最近はあまり技術的な進歩がなくてですね」
クレアさんは水を得た魚のように急に饒舌に語り出した。なんなら今も語っている。
こういうタイプの人、見たことある。オタクタイプか、研究者タイプな気がする。
私が適宜クレアさんに相槌をうっていると、教員らしき人物が入ってきた。
「おーし、みんな揃っているな。このクラスを担当するトーマスだ。半年間という短い間だが、よろしく」
トーマス先生は、一呼吸おいて
「じゃ、早速お互いに自己紹介を始めるか。名前と、戦闘文官商業生産のうち希望しているコース、何か一言、ってところか。爵位もあれば名乗っていいが、この学園では実務能力優先で本人の能力を主に見ているから、あまり関係ことは事前に理解してくれ。別の学年には王族もいるが、学園内に限っては一生徒として扱っている」
生徒たちもみんなうなづいているようで、この点理解しているようだった。
順番に自己紹介がはじまり、凛とした女生徒の番になった。
「グレイス・フェレーラ、戦闘系特に騎士コース希望、よろしく頼む」
簡潔な自己紹介で、逆に印象に残った。
周りからは、「あれが、あのフェレーラの娘か」とか、「武術の試験が歴代最高だけど、一般教養が歴代の合格者最低点だったらしい」とか聞こえてきた。
・・・冒険者の功績を讃えられて一代貴族になったあのフェレーラかな?それにしても、完全に脳筋タイプじゃないですか。
そして、私の番が回ってきた。ここが正念場だ。
「初めまして、セレーネ・ケニルワースと申します。文官のコースを希望しています」
改めて周りをみると、好奇の目線が混ざっている。
ここで、はっきりといいますか!
「私には、婚約者もいなければ、将来そうなる可能性がある方もおりませんし、その気も一切ありません。私はここに文官になるための勉強にきています。大事なことなのでもう一度いいますが、婚約者はおりません。勉学に励む学生同士、よろしくお願いいたします」
ふう言ってやったぜ。満足感とともに私は席に座った。
クラスの生徒は、私の発言の背景を察した生徒と、何言ってるんだこいつ?という目線をしている生徒におおまかに分かれていた。
・・・後者に関してはおいおい誤解を解いていこう。
隣のクレアさんはというとキョトンとしていた。
そのあとも自己紹介は続き、とある男子生徒の番になった。
「レイモンド・ノースブルックです。文官コースを希望しています」
ちらっと私の方を見てから、メガネをクイッとやった。
「僕もこの学園は勉学や自己成長に励む場だと考えています。みなで切磋琢磨していきましょう」
なんか、インテリメガネっぽい。
もしかしたら私は、彼のお眼鏡にかなったのかもしれない。
物理的なメガネじゃなくて、こう心の琴線的な。真面目そうだし。
正直、私のさっきのアレは実際はちょっと違うんだけど、人脈が広がる分にはいいでしょう。
さっきノースブルックと名乗ったけど、伯爵家なのかな。
王宮の中でも結構有名な文官の伯爵家の家名がノースブルックだったから、可能性としてはありえそう。
どちらにせよ、同じ文官コース志望のようだしあとで話してみよう。
そうこうしているうちに学生の自己紹介が終わり、トーマス先生がまた話し始めた。
「1年の後半からコースごとに分かれるが、このクラスには自分とは違う分野の将来の専門家の卵がいっぱいいる。この半年間、学生同士交流して、知識を深め、視野を広げてくれ。さて、そういうわけで、クラス委員を決めたいと思う」
クラス委員って学園イベントっぽいけど、私はやりたくないなー
「立候補はいるか?」
先ほどのレイモンド・ノースブルックがピンと手を上げていた。
私の中の彼のイメージがインテリメガネ委員長になった。偏見かもしれないけど。
「他にいなければ男子は彼にお願いするがいいか?」
先生のこの発言は、拍手をもって迎えられた。
「よし。じゃ次は女子だな」
先生のこの発言に、クラスはシーンとなった。
私も息を殺して、気配を消している。
そう、私はただの人型の置き物。手なんて動かない。
「まぁ乗り気がしないのはわかるが・・・そうだな、フェレーラさんやってみないか?」
「私ですか?口下手なので他に適任がいると思います」
確かにそれは一理あるような気もするけど、クラスには世渡りが上手そうな女子生徒もいる。なぜにフェレーラさん?
「そこはなんとかなるだろう。嫌なら他を当たるがどうだ?」
「嫌というわけではないですけど・・・」
「とりあえずやってみてくれるか?」
レイモンド・ノースブルックもフェレーラさんに話しかけた。
「僕もいるんだ。足りない部分は補い合おう」
「そうですか。わかりました。では、やってみます」
クラス委員も決まり、1年生前半の授業や学園生活についてのオリエンテーションに移った。