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17:いざ、水の都

休日を利用して、私とクレアさんとミラは、王都の真南にあり海にも面している水の都ヴェネに観光にきていた。

ヴェネは王都への玄関口にもなっていて、第二学園からも日帰りで行って帰れる距離だからきやすい。

グレイスも誘ったけど、「私は文化祭の書類の中身をちゃんと把握したい。今度行こう」ということで、断れれてしまった。残念。


ヴェネに着いてから周りをキョロキョロみていたクレアさんが私とミラの方を向いて、口を開いた。


「どこに行きますか?」

「私、ヴェネに来るの初めてなのよね。ゴンドラに乗ってみたいし、交易の港もみてみたい。クレアさんは?」

「あっ、私もセレーネさんと同じでゴンドラに乗ってみたいです。それと、自由市にも行ってみたいです」

「自由市もいいわね。ミラはどう?」

「2人の行きたいところでいいわよ」

「いいの?」

「うん、私の家って王都にあるからヴェネにもよくきてたし」

「端っことは言え、私も王都に住んでたのに引きこもりですいません・・・」

「人それぞれでいいんじゃない?私はクレアさんみたいに魔法陣書けないわ」

「ミラさん!そう言っていただいてありがとうございます・・・!」

「いえいえ!それじゃ先にゴンドラに行きましょう。お昼になると観光客で混んじゃうわ!」


ミラに連れられて、私とクレアさんはゴンドラの発着点についた。水の都と言われるだけあって、街中に水路が張り巡らされている。

生活水路と、大きな船も行き来できる交易用の大きい水路があって、観光向けのゴンドラは大きい水路を利用する。


「3人でお願いします」

「はいよ!」


ミラが慣れた様子でゴンドラの受付を済ませて、少し待ってから私たちはゴンドラに乗り込んだ。


ゴンドラが出航すると、さっきよりも海風を感じる。天気もいいし心地いい。発着点から離れると街並みが見えてきた。


「うわぁ、綺麗!レンガ作りの家が水路に沿って建っていて、カラフルに色付けもされてる。水路の上からの景色なんて、普段は見れない光景ね。海もコバルトブルーで綺麗でなんか感動するわ」

「ふふ、セレーネが楽しそうでよかったわ。海風で黒髪をなびかせながら、ゴンドラの手すりに頬杖をつき、街並みを眺める美少女。絵に残したいわね!」

「ミラ、絵はやめてほしいかな」

「えーいいじゃん。まぁ今は描けないけどね!」

「それならよかったわ」

「そう言わずに!そうだ、昼間も昼間で綺麗だけど、夜も街灯とかが灯されて幻想的で綺麗よ」

「そうなの?機会があればみたいわね」


周りをキョロキョロみていたクレアさんが、テンション高いままミラの服の袖を引っ張った。


「ミラさんミラさん!あの橋が、あの橋ですか!?」

「うん?そうそう、あれがリアント橋よ。ゴンドラから降りたら渡ってみる?」

「ぜひ行きましょう!」


「CHAO!!」


「えっ!何!?」


近くを通りがかった別のゴンドラから唐突に声が聞こえて、思わず驚いてしまった。


「セレーネ、今のはゴンドラがすれ違った時に船頭さんたちがやるパフォーマンスよ」

「へぇー!雰囲気あるわね!」


そうこうしているうちに、ゴンドラの旅は終わってしまった。

名残惜しい!!


ーーーーーーーーーーー


ゴンドラを降りて、さっき見たリアント橋を渡り、私たちは自由市にきた。


人がいっぱいいて活気がある。水産物や、ハンドメイドの雑貨?やパンや肉まで色々なものが売られている。広場のようになっていて、広場を囲む建物の屋上付近に紐がかけられて垂れ幕みたいなのもある。


思わずキョロキョロと周りを見渡していると、


「ねぇ、そこのお姉ちゃんたち観光?俺たちが、ごふ」


私はナンパを撃退した。


「セレーネさん、今・・・」

「クレアさん、細かいことには目を瞑りましょう。せっかくの観光を楽しましょう?」


さっき私は、無詠唱の風魔法で空気の塊をナンパしてきた相手のお腹に叩き込んでいた。

幸い相手も気付いてないみたいだ。今も困惑した様子で周りも見渡している。

かまってちゃんイオーゴの虫を退治することで、無詠唱魔法が磨かれた今の私にはこれくらい造作もない。

まさかこういう形であのかまってちゃんが役にたつとは!


「・・・それもそうですね!」

「セレーネがいると安心ね!騎士に守られるお姫様の気分だわ!」


観光でテンションがあがっていたからか、私はつい悪ノリしたくなってしまった。

できる限りイケボを意識してと。キザにエスコートの真似事をしましょうか!


「さぁ、僕のお姫様たち。可憐な花に引き寄せられる変な輩もいるかもしれない。僕のそばを離れないで」

「きゃー!セレーネったらさまになってるわ!」

「ミラ、ほんと?てきとうに言っただけだけど・・・」

「ほんとほんと!クレアもそう思うわよね!」

「は、はい。一瞬ドキッとしました」


えっそうなの?なんかごめん・・・!


ーーーーーーーー


多少の茶番も交えつつ、自由市で回った私たちは、そのまま交易の港の見学にきた。

時間的にそろそろ夕方に差し掛かってきている


ちらっと見た交易の港には、外国からの交易船が集まっていて、多種多様な商品がやりとりされていた。


「人がすごい行き来しているとは思ったけど、ドタバタしてる?これが港特有の活気ってやつかしら?それにしても、外国籍の船がたくさん集まっているわね。通貨もバラバラだろうし、為替とかはどうしてるのかな?近くに公式な通貨の取引所とかがあるのかな?」


私が思わず真面目に見学していると、ふとミラが私の腕に抱きついてきた。

・・・えっ、抱きついてきた!?


「騎士様はお仕事に夢中?私たちの相手はしてくれないの・・・?」


上目遣いで目もうるうるしている。

私の目の前には、久しぶりに姿を現した小悪魔ミラがいる。


「ふっ。すまない。寂しい思いをさせてしまったかな?」

「ねぇ、埋め合わせはしてくれるの・・・?」

「もちろんだ。今夜は寝かせないぜ」


「はわわわ、大人・・・!」


クレアさんがあたふたしている。

私とミラは目を見合わせて、思わず笑いだしてしまった。


「「あはははは」」


一通り笑い終えて、


「あー楽しかった」

「ミラ、ノリノリだったね」

「そういうセレーネもね」

「私も何かやった方がよかったでしょうか・・・?」

「クレアさん、大丈夫よ。ただの茶番だから。むしろ巻き込んでごめんね」

「いえいえそんな!勉強になりました」

「えっ?いや、勉強にしなくても・・・」


ひと段落してから、また交易エリアを回り始めた。


「あれ?カカオ豆?」

「セレーネどうしたの?」

「あっ、ミラ。私の家の周りだとあまり実物は見かけなかったんだけど、ヴェネだと交易品にカカオ豆もあるの?」

「えーと確か、最近交易品に混ざるようになったと思うわ。苦味があるから王国内だと馴染みがないけど、どうしたの?」

「うーん、そうね・・・。少し高価だけど砂糖やはちみつとか、甘いものを混ぜれば美味しいお菓子にならないかな?」

「・・・セレーネ」

「えっどうしたのミラ。そんな真剣な顔して」

「今のアイディア試してみましょう。私の直感が告げているの。それは美味しくなると」

「そ、そう?」

「ええ。買ってくるからちょっと待ってて」


ミラが戻ってくると、カカオ豆が入った袋を3袋抱えていた。


「なんかドタバタしていたみたいだけど、買えたわ」

「そうなの?それより、重そうだから私の収納魔法に入れる?」

「いいの?そうしてくれると助かるわね」


カカオ豆を収納した後も少しぷらぷらしていると、どこかでみた覚えのある人と遭遇した。


「あっ、セレーネさんとミラさんとクレアさん!お久しぶりです!」


えーと、誰だっけ?


「デイヴィットさん、お久しぶりです。カールさんと素材採取にいった帰りに学園の前でお会いして以来ですね」


私がこの人誰だったかな?と思い出そうとしていた間に、ミラがスラスラと対応してくれた。

このまま対応任せちゃえ!


「覚えてくれてて良かったです!今日は3人で観光ですか?」

「そうですよ。デイヴィットさんはどうされたんですか?」

「僕は商人を目指してて、今日もその勉強できたんですよ。ヴェネは交易の最前線ですから」

「そうでしたか。お勉強の邪魔をしても悪いですし、私たちはこれで失礼しますね」

「あっ、ミラさん。この後も観光するんですか?」

「はい、少しみて回ろうと思ってます。けれど、もう日が暮れ始めているので、遅くならないうちに帰ろうと思います」

「そうですか。せっかくですからゆっくりしてください」


デイヴィットと別れて、少し観光してから私たちは学園への帰路についた。


ーーーーーーーーーー


「そろそろ学園に着くわね。そういえば、クレアの部屋はどうなったの?」

「あっミラさん、私の部屋はそろそろ修理が終わることになってます。お借りしていた物を返すのはその後でもいいですか・・・?」

「急いでないし、いつでもいいわよ。クレアとセレーネのルームシェア生活も終わっちゃうのね」


私は思わず苦笑いをした。


「どうしたの?セレーネ?」


「あー、ミラ、それが」


ちらっとクレアさんをみると、クレアさんも苦笑いをしている。


「クレアさんは、生産コースの実験棟に入り浸っていて、寝る時くらいしか私の部屋にいなかったの。だから、その、部屋ではあまり顔を合わせず、家庭内別居みたいなものだったわ」

「えっ、そうなの?」

「あはは、お恥ずかしながら。実験棟が使えることにテンションがあがってしまいまして・・・」

「そうだったんだ。せっかくの貴重な機会だしいいんじゃない?」


ミラからのフォローを受けたところ、学園の正門付近で魔力検知に引っかかった。

誰かが待ち伏せしている?


「クレアさん」

「はい、セレーネさん。正門をくぐった先の学園内に誰かいますね」

「3人?」

「はい、おそらく」


「2人ともどうしたの?」

「ミラ、かまってちゃん対策に私は学園では極力魔力検知をするようにしているの」

「セレーネさんほどではないですけど、私もするようにしていて、今正門付近に誰かいます」


「・・・そうなんだ。どうするの?」

「ミラ、あのかまってちゃんと確定したわけじゃないけど、本人と取り巻き2人で合計3人とすると、人数としては可能性は高いわ。ミラとクレアさんに対しては無害だと思うから、私だけ浮遊魔法で塀を飛び越えようかな?」

「セレーネ、それはやめた方がいいわ。この学園には防御魔法がかけられてるから決められた場所以外から入ると何か起こるかもしれない」

「・・・そういえばそうだったわね。ミラ、指摘してくれてありがとう。そうすると、一か八か正門から入るか、西門?東門?から入る?けど、どちらも遠いわよね・・・」

「あっ、正門から出てきましたよ」


クレアさんの声をうけて正門を見ると、遠目に姿を確認できた。

3人組は、イオーゴと取り巻きだった。


「幸いまだこちらに気付いてないようね。セレーネ、クレア、私についてきて?」


ミラについていくと、周りからわかりにくい場所に学園の敷地内への抜け道があった。

抜け道とはいえ、ここにも学園の防御魔法が適用されているらしい。

おかげで、あのかまってちゃんを避けて学園内に入ることはできたけど、この抜け道を知ってた経緯をミラに聞くと「文官が多いラズウェル家はだいたいここの卒業生が多いのよ」と微笑みながら言われた。


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