16:文化祭実行委員会
私は、グレイス、レイ様、リチャード君と一緒に、学園全体の文化祭実行委員会の集まりに来ていた。
パッと見て、他のクラスも2〜4人くらいみたい。
会議の冒頭の委員長と副委員長決めが行われ、文化祭実行委員会の委員長は3年生のニーナさん、副委員長は3年生のダニエルさんが務めることになった。
そして、ニーナさんの委員長挨拶も終わり、そのままニーナさん主導で実務的な内容に移る。
「それでは、文化祭の企画案を見てください。事前投票の結果、今年の文化祭のテーマは”勇者とひまわり”になりました。何か質問がある人はいるかしら?」
私は手元に配られていた企画書に目を通しつつも、勇者に関する情報を思い出した。
この世界には、魔法を扱う動物としての魔物はいるけれど、世界征服を企むような邪悪な魔王はいない。
”勇者”という言葉が指すのは、数百年前に当時のビネンツェ王国の国王と共に、泥沼化していたテチス海大戦を終わらせた立役者とされている人物だったわね。
テチス海の周辺国すべてが参戦して、覇権を争った大戦の勝者となったことから、ビネンツェ王国の立場は確固たるものになった。
そして、水の都ヴェネを建設しテチス海の交通の中心にもなり、「すべての航路はヴェネに通じる」と言われるまでになった今の繁栄にもつながっている。
ただ、勇者本人は、テチス海大戦の武功を讃えるために国王から「公爵位を授ける」と提案されるもそれを断って放浪の旅にでた、と伝わっている。
ほぼ使い手のいない、希少な光魔法の使い手であったとされていて、太陽の花とも言われているひまわりと一緒に崇められていた。
けれど、勇者に関する詳細は失伝していることから、当時のビネンツェ王国が大戦の勝者であるということの権威づけをするために作り出した英雄像という説もあり、実在の人物というよりも、伝承の人物として扱われていることが多い、だったと思う。
「ニーナさん、2つ確認したいことがあります。1つ目、夏が終わりもう秋なので、本物のひままりはなかなかみつかりません。本物ひまわりそのものではなく、造花や刺繍などひまわりをモチーフにしていればいいでしょうか?2つ目、学園内の装飾などは勇者とひまわり縛りですか?」
私の脳内の整理中、現実の会議では、上級生っぽい生徒が委員長のニーナさんに質問していた。
「1つ目に関しては、その通りでよいと思います。2つ目については、私はそこまでの必要はないと思っていますけど、みなさんはどう思いますか?」
「ニーナさんの言う通り、勇者とひまわりをメインにしつつも、各クラスや個人出展の個性を出す方向でいいのではないですか?」
「俺も賛成だ」
文化祭は毎年あるので、慣れている上級生が中心となって話を進めていた。
ただ、私たち1年生にも意見を求めることもあり、立場が上だからというだけの理由で下を従えるという感じではなかった。
本人の能力よりも権力がものを言う第一学園ではこうもいかなかっただろう。第二学園でよかったと思えた瞬間だった。偏見かもしれないけど。
話し合いが続き、しばらくすると。
「本日の会議は以上としましょう。今日は顔合わせと全体の流れの確認が中心だったので、具体的な話は今後詰めていきます。それと、普段は学園内の治安は風紀委員会の管轄ですが、文化祭当日に限って私たちが責任をもって行います。荒事に遭遇する可能性もありますので、苦手な生徒は事前に申請してください。その分は風紀委員会から人員を借ります。それと、この会議室はこの後も予約をとってあるので、クラス内で確認したいことなどがあればこのまま使ってもらって構いません。それでは解散とします」
ニーナさんの号令により、会議は解散した。
チラッと横をみるとこの世の終わりみたいな顔をしたグレイスがいた。
「なんで書類がこんなにいっぱいあるんだ・・・?意味がわからない。どれに何が書いてあるんだ?なんで人類は書類なんていう凶器を発明したんだ・・・?」
「・・・グレイス。まずは書類の中身の傾向ごとに分けるといいわよ。予算系とか、手続き系とか、出展ルール系とか、スケジュール系とか」
「なるほど!セレーネは天才だ」
「えっいえ、そうでもないと思うけど・・・。そうだ、私の書類の大事なところに線を引いてあるから、参考にする?」
「セレーネ!!」
レイ様とデイヴィット君は2人で話していたので、私はそのままグレイスの相談に乗っていると、胡散臭い男がこちらに歩いてくるのが見えた。
この部屋にいたことは気付いていたけど、今まで見て見ぬ振りをしていたのに、向こうからやってくるとは!
「戦闘の猛者も書類には敵わないようですね」
「カール君、グレイスに構ってないで自分のクラスはいいの?」
「セレーネさん、私のクラスは解散しました」
「そうなんだ。カール君ってクラス委員?」
「違います。文化祭実行委員に推薦されたので、微力ながらも引き受けさせていただきました」
「そうなんだ。Ⅱ組の人はもういないみたいだし、カール君も帰ったら?」
「そう邪険に扱わないでくださいよ。同じ一年生同士仲良くしませんか?」
「そうなん、じゃなくて、何を企んでるの?」
「何も企んでいませんよ」
私が「そうなんだ」ってとりあえず言っていたことをスルーし、ニコニコしてるカールはどうにも胡散臭い。
「ほんとに・・・?」
「ほんとです。教会の聖職者であり、神のしもべであるこの私を疑うのですか?」
「教会や神様は否定しないけど、カール君はちょっと・・・」
「おや!なんということでしょう!同級生に信用されない、これは神の試練でしょうか」
「そういうのいいから・・・」
右手を天井に向け、左手で胸の辺りを押さえ、大袈裟にポーズを取っていたカールを放置して、私たちはⅠ組の教室に戻ることにした。
歩きながらグレイスに様子を聞いてみる。
「グレイス、大丈夫そう?」
「事務とは大変なものなんだな。セレーネがいなかったら完全に終わってた。感謝する」
「いいわよ。同じ実行委員同士助け合いましょう?」
「セレーネ!!」
横にはレイ様とリチャード君もいる。せっかくだし、話しかけよう。
「そういえば、リチャード君とはあまり話したことなかったわね。改めてよろしくお願いします」
「セレーネさん、こちらこそよろしく。それとリチャードでいい」
「わかったわ。私のこともセレーネでいいわ」
「わかった。セレーネは文官志望だっけ」
「そうね。リチャードは?」
「俺は生産系だ」
・・・生産系?生産系と言った?
「リチャード、その、聞きたいことがあるんだけど、爆発ってよくおこるもの?」
「えっ?爆発?起こらないんじゃないか?」
「そうよね!道具の試作中に爆発とかそんな頻繁に起こらないわよね!」
私に質問に、リチャードは無言で目を逸らした。
おっと!おっと?
「リチャード・・・?」
「その、なんだ、俺は鍛治系だ。武具や道具そのものを作ってる時は爆発は起こらない。ただ、魔法陣の付与をするときは、そういうことも起こってしまう場合もあるんじゃないか?」
リチャードの目は泳いでいる。これは、クロね・・・。
けど一応確認はしましょう。思い込みと決めつけはよくない。
「リチャードもやらかしたことある・・・?」
「まぁ・・・あるっちゃある。だが、俺はあまり魔法陣の付与は向いてないから、最近はそもそも付与自体してない。だから爆発もしてない!」
魔法陣の付与・・・
魔法陣と言えばクレアさん。
私の中で、クレアさんとリチャードは混ぜるな危険に分類された。




