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14:研究は爆発だ!

週末、私は第二学園の女子寮の自分の部屋でのんびりしていた。

この時期の授業って、希望コースに分かれる前のオリエンテーションに近いから、週末に復習しなくても、という感じなのよね・・・


「お兄ちゃんに手紙でも書いた方がいいかな?」


入学直後に、入試を手伝ってくれたお礼も兼ねてお兄ちゃんに手紙を書いて送っていた。

その後、家で育てているブドウ(干しブドウになっていた)と共にその返事が送られてきたけど、返事を放置していたのを思い出した。



+++++++++

お兄ちゃんへ


お元気ですか?私は元気です。



かわいい妹より

+++++++++


ここまで紙に書いて、私はペンを置いた。


「書くことがないわね・・・」


たぶん実際書こうと思えば色々と話題はあるんだろうけど、わざわざ手紙に書くほどでもないかなぁ・・・。


手を上に伸ばして、伸びをしてからクレアさんから貰った紅茶を飲む。


「これ美味しいのよね」


クレアさんが植物魔法も併用して育てた紅茶は美味しい。高級茶葉と比較しても遜色ないと思う。まぁ、私は貴族御用達の茶葉は飲んだことはないから想像だけど!


紅茶を飲みながらのんびりして、優雅な休日を満喫していると。


ドカン!!!!


「えっ!何?何?」


急に部屋の外から爆発音が聞こえた。


「テロ?誘拐?暴動?敵対組織からの攻め込まれ?」


いずれにせよ、第二学園の警備はしっかりしていたはずだけど?


私は万が一の時のために杖を手に持ち、服に短剣を忍ばせて自室から飛び出した。

私以外にも、外出せずに寮に残っていた他の生徒が少しだけドアを開けて、ちらほら外の様子を窺っている。

廊下の左右を見渡すと、とある部屋のドアが壊れていて、煙が出ていた。


「待って、あそこの部屋ってクレアさんの部屋じゃない!」


事件に巻き込まれたのではないかと思って、急いでクレアさんの部屋に向かう。


「クレアさんっ!!」

「あっ、セレーネさん。えへへ、やっちゃいました」


私の緊張感に満ちた声とは裏腹に、クレアさん本人はのほほんとした声を発していた。

とはいえ、部屋の中はだいぶちらかっている。

何かに吹き飛ばされたようにも見える?


「えーと、クレアさん。怪我はない?その様子だと何か事件に巻き込まれたわけではないのね?」

「あっはい。結界も使ってたので私自身は怪我はないです」

「怪我がないならよかった。それにしても、どうしたの?」

「その、お恥ずかしながら先日採取した素材で魔法陣の研究をしていたら、相性が悪かったのか爆発してしまって・・・あはは・・・。すいません・・・」

「なるほど・・・?事件じゃないのならいいけど・・・」


セレーネとクレアの会話を聞いていた周りの女子生徒も、事件性がないとわかり部屋の中に戻ったようだった。


「魔法陣の研究って、爆発が起こるの・・・?」

「えっ!あっ!いえ!そのたまたまです!今回はその、たまたま相性が悪かっただけといいますか、偶然です!たまには爆発しちゃいますけど、普段は起こりません!」


クレアさん、手をブンブンしながらあたふたしながらも弁解している。

爆風の影響か髪もボサボサしているけど、放置されている。


「そ、そっか。わかったわ。それで、この部屋どうするの・・・?」

「一応、実験の前に収納バックに私物は入れていたから無事なんですけど、その、部屋の方はまずいですよね・・・」


部屋は控えめに言ってもまずい。ところどころ壊れてる。ベットや机も部分的に壊れてる。

というか、収納バックに私物を入れていた・・・?

魔法陣の研究ってそんなに危ないの?


「あらあら、これはすごいわね」


廊下から聞こえた声の方を見るとミラがいた。


「あれ、ミラ?どうしたの?」

「大きい音がしたから様子を見にきたのよ。事件ではなさそうね」


ふと、ミラが手に持っていた何かの道具を服のポケットにしまうのが見えた。


何だったんだろう?と思ってると、クレアさんがあわててミラに答えた。


「ミラさんんん、すいません!」

「クレアが犯人さん?何があったの?」


クレアさんは爆発の経緯を語った。


先日採取した素材に、何パターンか魔法陣を書き込んでみたこと。

最初は控えめにしてたけど、だんだんと興が乗ってしまい色々と試したこと。

初回の授業でもあがった魔法陣の容量問題で、この素材だとどれだけ魔法陣が書き込めるか試してみたくなってしまったこと。

そして、色々と魔法陣に詰め込んだ結果、魔法陣と魔法陣、魔法陣と素材、が反発しあった結果、爆発がおこったこと。


クレアさんの自供を聞いたミラが、ボロボロになった部屋を見ながら、


「今日は休日だから、警備員はいても事務員はいないわね。修理の依頼を出すにしても明日にならないとできないし、クレアはそれまでどうするの?この部屋で過ごしわけにもいかないと思うけど・・・」


「そうですよね・・・どうしましょう・・・」


窓もドアも壊れてるし、この部屋で過ごすのは酷よね。事務員がいないからかわりの部屋も手配できないし・・・。

そうだ。私の部屋って荷物が少ないからスペースは余ってるわよね。王立の学園だけあって、寮の部屋は広くて、私物の少ない私の部屋の大半はただの空間になっていた。


「私の部屋にくる?同じ階で近いし、スペースも余ってるし」

「セレーネさん、いいんですか?」

「いいわよ。ただ、その、色々と一人分しかなくて、家具とか生活用品とか足りないかもしれない」


クレアさんが収納バックにしまった私物が何かによるけど、何かしらは足りないと思う。


「それなら私の部屋から持っていく?」

「えっミラいいの?」

「いいのよ、セレーネ。クレアはどう?」

「いいんですか!?ありがとうございます!」



私とクレアさんはミラに連れられて、ミラの部屋についた。


「思ったより質素なのね」


特に偉い伯爵家のご令嬢だから、こう、なんか豪華絢爛!って感じかなと思ったけど、普通の女子学生の部屋みたいだった。強いて貴族令嬢っぽいのはピアノくらいかな?


「セレーネはどんなイメージをもっていたの・・・」


ミラに苦笑いされてしまった・・・。

ふと、ミラの苦笑いの後ろ、壁にかけられていた肖像画が目に入った。


「うん?あっそれね。レイ君と私のいとこと私の小さい頃の絵ね」

「小さい頃から仲が良かったのね」

「そうそうー、あの頃はレイ君も可愛かったわね」

「ふふ、そうなんだ。見てみたかったかも」


談笑している私とミラとは違って、クレアさんはミラの部屋に入った途端借りてきた猫のようになっていた。

これは先に借り物の確認を済ませちゃったほうがいいかもしれない。


「ミラ、どれを借りてもいいの?」

「うーん、そうね。ちなみに何が必要?」

「机と椅子は欲しいけどある?あとは食器類ね」

「それならあるわよ。机と椅子は部屋の端にあるやつ使っていいわ。食器類は棚にあるから好きな物をとってね」

「ありがとう。そうだ、ベッドはその一個しかないよね?」

「あるわよ。ちょっと待ってて」


えっあるの?ダメ元で聞いたけど、あるの?ベッドだよ?


私の疑問とは裏腹に、ミラは机の引き出しからバックを取り出した。

そして、


「予備用だから少し小さいけど、これでいい?」


バックからまごうことなき本物のベッドを出していた。


「えっ?えっ?」

「ふふふ、驚いた?なんと収納バックです!」


ミラは、ウィンクしながらいたずらが成功した子供のような顔をしている。

その仕草は妙にしっくりくる。


「驚いたわよ!収納バックってベットも入るんだ」

「容量にもよるけどねー!」


収納バックは容量に比例してお値段も高くなる。

ベッドが入るほどの容量。こういうところは伯爵令嬢っぽい。


「クレアさん、このベットでいい?」


私はクレアさんにも確認した。


「は、はい。よいでございます!」


クレアさん、あいかわらず借りてきた猫のように緊張している。もしかして、人の部屋に入るの初めて?


「クレアさん、もしかして、誰かの部屋に入るのって初めて?」

「左様でございまする。セレーネさん」

「そうだったのね。取って食われないだろうから安心して。そうだ、ミラ、このベッドなんだけどこのまま運ぶと重いし、私の収納魔法に入れてもいい?」

「もちろんいいわよ」


ミラ・ラズウェルはこのとき「収納バックにベットが入っていたことには驚くのに、自分の収納魔法で同じことをしているのには無自覚なんだ。本人は文官志望だけど、魔法師としての才能もあるわよね」と思っていた。表情が変わっていなかったため、セレーネは気づかず、クレアは猫さんになっていたからもちろん気づいていない。


必要な物を借りたセレーネとクレアは、ミラの部屋を後にすることにしたようだ。


「今度はゆっくりしましょう!お茶会でもする?」

「いいわね」


帰り際にミラからお茶会に誘われつつ、セレーネとクレアは一緒に自分の部屋に戻った。


ーーーーーーーーーーー


私が収納魔法から諸々とりだして配置を済ませると、またしても借りてきた猫のようになっていたクレアさんが意を決したように口を開いた。


「ふ、ふちゅちゅ」


噛んだわね・・・。

ふちゅちゅ、ってなんだろう・・・?


「ふ、不束者ですがよろしくお願いします」

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