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13:狩りの授業

私は、クレアさん、グレイス、ミラ、レイ様と一緒に第二学園の近くにある森に着いた。

遊びに来たのではなくて、授業の一環だ。


今日はこれから狩りの練習を行う。なんでも、食料くらい自分で手にいられるように、とのことらしい。あとは、入学初月に交流も含めてイベントがあった方がいいだろう、という感じらしい。

第一学園はオーケストラの生演奏付きの舞踏会らしいけど、第二学園は狩りらしい。それぞれの学園の色が出ている。


「ところで、ミラとレイ様って、その、大丈夫なの・・・?」


気になってたことを聞いてみた。

クレアさんは私とグレイスと一緒に冒険者稼業したから大丈夫だと思うけど、ミラとレイ様は戦闘能力が無いと自ら公言していた。


「あぁ、魔物じゃなくて小動物なら大丈夫だろう」

「私はちょっと・・・でも頑張るね!」


剣の手入れをしながら答えるレイ様と、二の腕に力こぶを作るポーズをしながら答えるミラ。

前者はなぜかさまになっているけど、後者は力こぶができてなくて、その、いや何も言うまい。

ただまぁ、2人ともしっかりしたところの貴族だし、護身術くらいは嗜んでいるのかな?


クラス委員のグレイスとレイ様が先生のところに点呼の対応に向かったタイミングで、私は後ろから声をかけられた。


「セレーネ嬢!あれくらい買ってあげたというのに!!」


目線の先にはイオーゴ・レスターと、その取り巻きらしき2人がいた。

残念ながら今日の授業は学年合同で行われるので、普段接点のないⅥ組のこの人もいる。

これだけ学生がいるから、魔力検知をしても埋もれてしまって意味を成さない。うわーん・・・。

指紋とか声紋みたいに魔力紋みたいなのないかな・・・?


「セレーネ嬢、恥じらうあなたも美しい」


私が返事をせずに考え事をしていたのをそう捉えたか。

そっか。


「えーと、買ってあげるとは・・・?」

「買ってあげるぞ!魔法樹の樹皮、コッケイこっこの羽、迷彩羊の羊毛をなっ!」


語尾に⭐︎でもつきそうな感じでカッコつけてるけど、どこでそれ聞いたの?ゾワっとした。

思わずクレアさんを見ると、首を横に振りながら心底嫌そうな顔をしている。

クレアさんも情報の入手経路は心当たりなしか。


「お気持ちはありがたいですが、すでに入手済みです」

「そう遠慮することはない!」


いや、そういうことじゃなくて・・・・


「買うと高いので、今後も自分たちで入手します」

「俺なら買ってあげられる!気にするな!」


いや、そういうことでもなくて。

というか、イオーゴも学生だよね?買ってあげられるってどこからお金出すの?レスター伯爵家?伯爵家としてはしっかりしてると思ったけど、明らかに脈なしの貢ぎ物にお小遣い出すの・・・?騎士である伯爵家のお金だとすると元は税金も含まれるだろうし、イオーゴからの対象となっている私がいうのもあれだけど、こんなアホみたいなことに税金使うのはさすがにどうかと思うけど・・・。


疑問に思ったけど、ここで質問するとなんか変に勘違いされそうなので私は口を塞ぐことにした。

げんなりしつつもイオーゴを見ると、ふと、騎士が着そうなマントに110って書かれていることに目が入ってしまった。

グレイスが言ってたやつかな?


「セレーネ嬢!これが気になるのかい?」

(いえ、気になりません)

「これはな、」

(いえ、聞いていませんって)

「110、いっとう、つまり一等。一等星並みの価値がある俺にふさしいだろう!」

(110ってそういう意味だったの。言葉遊びじゃん)


「あらあら、レスター伯爵家の次男様はお口が達者なようですわね」


様子見をしていたミラが、みかねて貴族令嬢モードで参戦してくれた。

ありがたい!


「なんだと?ふんっ、どこぞの馬の骨ともわからないやつには理解できないだろうな。これだから身分が低いやつは会話が成り立たなく困る」


残念ながら、あなたが気を引きたがっている私にも理解できません。身分も男爵家なので、伯爵よりも低いです。


言われた本人のミラはというと、

「それは失礼いたしました。ラズウェル伯爵家のミラと申します。イオーゴ様と同じ伯爵家ですわ。伯爵家の私がバカなら、同じ伯爵家であるイオーゴ様もバカなのですか?」


うわぁ、いい笑顔。話し方や所作もすごい優雅で綺麗。

けどその分、言葉とのギャップがすごい。


「なんだと!お前つけあがってるんじゃないぞ!この俺が知らない時点で、弱小伯爵家だろう!」

「私の家は、王宮の文官を取りまとめてる2大伯爵家の一角ですわ。イオーゴ様がご存知でなかっただけではないでしょうか。井の中の蛙大海を知らず、視野が狭いですわね」

「おい!おい!!!おい!!!!!」


手を頬に添え嘆いてるような仕草をするミラをみて、イオーゴがヒートアップしてきた。

イオーゴって騎士の子息だし、手を出されたらミラが危ない。


割って入ろうとしたところで、目が笑っているカールがこちらに向かって歩いてきた。


「まぁまぁ。落ち着いてください、お二方」

「誰だお前は!どこの三下だ!伯爵家の俺に何のようだ!」


ヒートアップしているイオーゴを前にしても余裕な様子を崩さないカールと、面白そうな物を見る目でカールを見ているミラ。


「私は、カール・ワーグナーと申します。お二方、これから狩りの授業ですよ。そこで白黒つけたらいいのではないですか?」

「・・・三下の割にはいいことを言うな」


イオーゴはミラを指差して、声だかに叫んだ。


「口先だけの自称伯爵家!泣いて謝るなら許してやってもいいぞ!ただし今のうちだぞ!」


それに対してミラは、

「その必要はありませんわ。狩りの成果、楽しみにしていますわね」

と微笑みながら言っていた。


私が事の発端なのに、ミラを巻き込んでしまって申し訳ない・・・と思ってると、イオーゴが私の前で片膝を着いた。


「うさぎを2羽。麗しいあなたに捧げます。待っていてください」

(そういうのいいから・・・)


「行くぞ!ケイ、コウ!」

「「はいっ」」


イオーゴは取り巻きをつれて去っていった。

あの取り巻きって、ケイとコウって名前だったのね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


太陽が真上に昇る頃、狩りの時間が終わり、生徒たちが朝と同じ場所に戻ってきた。


ミラは1人で5匹くらい狩っていた。

セレーネが「私の事の発端だから」、と一緒に狩りをすることを提案するも、「あの口先だけにわからせてあげるわ!」と返答し、ミラだけの力で狩っていた。


そうはいっても心配にはなるようで、セレーネはミラの近くで狩りをしていた。

ミラが魔道具の扱いに慣れつつあったことにセレーネは驚いていたが、たぶんクラス対抗戦の後から練習したのかな?、ということで自己完結しているようだった。


とはいえ、練習を始めて日が経っているわけでもなく、まだ不慣れな点が見受けられる。しかし、罠を仕掛けるなど、頭を使ってカバーしていた。本来、専門ではない戦闘にも関わらずなんとかし、ミラはやはり優秀なのだろう。


一方、イオーゴは0匹だった。「これは何かの間違いだ!」「こんなはずはない!」って喚き散らしている。騎士の子息のはずではあるが、やはり無能なのだろう。


イオーゴが喚いてるところに、ミラが近づいた。


「イオーゴ様。セレーネさんにうさぎを2羽捧げるのではなかったのですか?」

「何かの間違いだ!」

「どこが間違いなのですか?二兎を追う者は一兎をも得ず、まさにそれですわね」

「なんだとっ!つけあがるなよ!お前の方こそ狩れてないんだろう!」


「これが私の成果ですわ」


ミラは自分が狩った獲物をイオーゴの前で数えはじめた。


「1、2、3、4、5。5匹狩ってきましたの」

「ずるだ!誰かのを横取りしただけだ!」


「違う。ミラは独力で5匹狩っていた」


グレイスが断言するも、イオーゴは認められないようだ。


「なんだとっ!この2人がグルなだけだろう!」


「残念ながら、グルでもないな。僕もクラス委員として保証する」


レイもメガネをクイッとしながら、証言した。


「なんだと!こんな茶番認めない!」


ふとイオーゴがセレーネの方を見た。

セレーネの顔には「えっ何?助けないわよ?」と書かれており、それどころか、


「私はうさぎを2羽しっかり狩ってきました。ご覧ください」


私は、イオーゴと違って、二兎を追って二兎を得て帰ってきた。

あくまで狩りに慣れるための授業なので、別に数を狩ってこなくてもいい。

実際、私のように冒険者経験がありそうな生徒も、狩る数はほどほどに抑えていた。さすがに、1学年全員で狩りまくったら森の生態系にも影響がでてしまう。それを考慮した。

非戦闘系の生徒の手伝いをして、自分は0匹っていう生徒もちらほらいるようだし。


「おお!セレーネ嬢!俺が言った2羽に合わせてくれたのですね!さすがです!あなたこそ一等星である俺にふさしい!」


そういうのいから。

というか、どこをどう解釈したらそうなるの?

遠回しにあなたの実力が低いよ、と言ったのが通じない?

今回ミラを巻き込んでしまったから、そろそろ一度はっきり言おう。


「私は、あなたと違ってちゃんと二兎を得たわ。一方であなたは?伯爵家の権力が使えない、あなた自身の実力だと0匹。一等星とか言ってるけど、それだけの実力でよくそこまでつけあがれるわね。逆に尊敬するわ」

「尊敬する!セレーネ嬢!今、俺を尊敬するって言いましたよねっ!しかも言葉遣いもくだけてる!距離が近づきましたね!」


はい?なんでそうなるの?

上部だけの言葉通りにしか理解できない?それとも自信過剰?


「いいですか、イオーゴ様。あなたのそれは自信ではなくて、過信です。驕りです。狩りの成果が0匹だという事実を理解してください」

「セレーネ嬢はなんて美しい言葉を紡ぐんだ」


おーい。この人大丈夫?

私の頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってると、グレイスがイオーゴに話しかけていた。


「おい。セレーネは2匹でお前は0だ。それを理解したら、口先だけの言葉を紡ぐのではなくて、本物の実力をつけるべく鍛錬したらどうだ?」


「なんだお前は?偉そうだぞ、と言いたいところだが、そうだな、2でセレーネ嬢とペアルックにするのもいいな。その案採用だ!」


そういって、イオーゴとその取り巻きは去っていった。


「グレイス、結果としては斜め上の解釈をされたが、今言葉で説得しようとしたか?」

「そうだが?どうしたんだ、レイモンド」

「この前学食で実力行使を主張したグレイスが成長したな、と思ってな」

「・・・そのための学園ではなかったのか」

「いやいや、そうなんだが、なんだ?照れてるのか?」

「うるさい」


そっぽを向いてしまったグレイスに、レイ様が温かい目を向けている。

ちらっと見ると、ミラもグレイスに温かい目を向けていた。


いい雰囲気?の中でのほほんとしていると、勝負をけしかけた胡散臭い男がやってきた。


「いやー、あれだけ伯爵家の立場を意識させて威張り散らしていたのに、結局0匹って!笑えますね、ぷぷぷ。権力にあぐらをかいてるだけの口先だけ無能ポンコツを露呈させるのって楽しいですね!」

「カール君、あとにしてくれる?今いい雰囲気なの。それと、ちょっとキャラが崩れてるわよ」

「他の人には聞こえない位置関係ですからご安心ください」

「・・・確かに、まわりとは少し距離があるわね」

「あのかまってちゃんが喚いていましたからね。周りも距離を置いたのでしょう」

「それもそうね。ただまぁ、いきりちらすだけいきりちらして、結局実力がないことが露呈して、惨めだとは思う」

「そうですか。それでは、私は気が済んだので退散しますね」

「・・・何しにきたの?」


イオーゴを誘導した本人であるカールは、満足げにⅡ組の集団に戻って行った。



狩りの授業のあとは、料理実習に移った。

ミラが、「ここからが私の本領発揮!」って言って無双していた。

私はちらっと聞いただけで詳しくは知らないんだけど、ミラの料理が素晴らしくてファンクラブができたとかできないとか。


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