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11:いざ、素材採取

「風よ!」


私はウィンドウォールを発動して、クレアさんとウコッケイの魔物の間に風の防御壁を作った。

ウコッケイみたいな見た目で、鳴き声が”コッケイコッケイ”らしい、滑稽を連想させる。

にわとり系らしく、味は美味しいらしい。あとで食べると心に決めた。


「あ、ありがとうございます!」

「気にしないでー!」


「風よ!」


私は今度はウィンドカッターを発動して、カールの近くにいたウコッケイの魔物を吹き飛ばした。


「助かった」

「どういたしまして。それにしても、カール君普通に前衛できてるじゃない。私は魔法に集中できるから助かるわ」

「それはどうも、セレーネさん」


今、私は剣ではなく杖を手に持っている。

当初の予定とは異なり、純粋な後衛っぽく振る舞えるため、カールの加入は正直嬉しい誤算だ。


「まぁグレイスほどじゃないけど」

「それはそうだろ。化け物と一緒にしないでくれ」

「化け物で悪かったな」

「グレイスさん!言葉のあやだ!落ち着いてくれ!」

「?あわててどうしたんだ」

「いや、大して気にしてないならそれでいい」


ふふ、カールが焦っているわね。

クラス対抗戦のことかな?

とはいえ私も、グレイスにボコボコにされたら泣いちゃうかもしれない。


「えいっ!」


一方、クレアさんはというと植物魔法の詠唱を唱えたあとに「えいっ!」と言いながら杖を振っていた。


そして、目の前に大きな木の根っこがにょきにょき生えている。

かわいらしい掛け声とは裏腹に威力がおかしい。さすが魔力量おばけ。


「あわわわわ!すいません!すいません!」


クレアさん、すごい勢いで頭下げてる。

けど、その謝罪の先の魔法に巻き込まれかけたグレイスは、すんなり避けたのもあって特に気にしていないみたいね。


「気にしなくていいぞクレア。まだ攻撃魔法に慣れてないんだろ?そろそろ休憩にするか?」

「グレイスさんんん・・・すいませんんんんん」

「セレーネとカールも休憩でいいか?」


「いいわよ」

「ああ」


ーーーーーーーーーーーーー


セレーネたちは森の中で開けた場所を見つけて、休憩をとっている。


「クレアさん、素材は順調に集まってる?」

「あっセレーネさん。はい、おかげさまで!コッケイこっこの羽は先程の戦闘で手に入りましたし、魔法樹の樹皮も最初のうちに採取できました。あとは迷彩羊の羊毛だけです!」

「それはよかったわ」

「いえいえ、私のために今日はありがとうございます」


クレアさんが律儀に一人一人に対してお礼を言っている。

私とグレイスは冒険者ギルドで別途採取依頼も受けているから、時間の無駄とかにもなってない。

それを知ってるはずなのに、良い子だ。

さすがお貴族様のご令嬢、育ちがいい。

・・・私?私はほら、半分農家だから。


「グレイスさん、やはりかなり強いな。気になっていたんだけど、フェレーラというとあのフェレーラか?」


カールがの質問、それは私も興味があった。

クレアさんも心なしかソワソワしている。


「どのフェレーラかはわからないが、両親は冒険者だ。10年前のインネルト帝国の防衛戦の武功で一代貴族の男爵になったが、感覚的には平民だぞ」

「やはりそうか!グレイスさんのご両親のおかげで有利な条件で停戦を結べたらしいな。おかげで平和を享受できている」

「平和か・・・マーウデンでは小さな小競り合いはいまだに日常茶飯事だけどな」


マーウデンというと、ビネンツェ王国の北端に位置して、インネルト帝国と国境を接している防衛都市だったわよね。

ビネンツェ王国は大陸にまたがるほど大きい内海であるテチス海の中間付近に位置していて交通の要所になっているから、それを狙った海なし国のインネルト帝国が攻めてきたんだっけ?迷惑な話よね。

それにしても、今のグレイスさんの言い方からすると、もしかして最近まで防衛都市にいた?


「グレイス、もしかして学園入学前までマーウデンにいたの?」

「ああ、そうだな」


私たちがのんびりしている間にも、グレイスさんは戦っていたのね。

申し訳ないような・・・


「だが、そのおかげで剣の扱いにも慣れたし特に困ってはないな」

「慣れたというレベルじゃないくらいに強いと思うけど・・・そういえば、グレイスは魔力量が多いのに魔法は使わないの?」


「そのことなんだが、私は無属性の身体強化以外の魔法が使えないんだ。体外で魔力を魔法に変換しようとするとこうなる」


そう言いつつ、私たちの前でグレイスは手のひらに魔力を集めて初歩的な攻撃呪文を唱えた。


「魔力が霧散している?」

「ああ。どの属性の初歩呪文でもこうなるな。シンプルに魔法使いに向いてないんだろう」


あまり見ない現象ね・・・?イメージの問題?

とはいえ、田舎農家の私の周りにいなかっただけで、世間的には普通かもしれない。


魔法と言えばクレアさん!ということでちらっとクレアさんを見ると、私と同じように少し困惑している。


「確かに近距離特化の魔法使い、といいますか魔法戦士もいますけど、その方々と同じタイプなのでしょうか・・・?確か、グレイスさんのお父様もそのタイプでしたよね」

「俺も魔法戦士タイプだとは思うけど、極端だな」


そういえば、カールって教会関係者だっけ。そうすると、色々な人を見てきたのかな。


「まぁ私は元々近接戦の方が向いている。魔力量のおかげで身体強化が切れることもほぼないし、特に困ってはないな」


魔法適性の問題はどうしようもないし、そもそも本人がいいならいっか、ということで私たちは休憩を終えて、残りの採取目標である迷彩羊の羊毛の採取に向かった。



「メェーメェーメェー」


採取を再開して少しして、私たちは迷彩羊を見つけた。そして、グレイスが魔物の特徴を説明してくれる。


「迷彩羊は周囲に幻惑魔法を漂わせている。迷彩羊の群れに遭遇すると、まるで迷路に迷ったように迷走する。ここはまだ大丈夫だろうが、気をつけてくれ」

「グレイス先生!気をつけるにしても、もし幻惑魔法の範囲内に入ってしまったらどうすればいいでしょうか!」

「いい質問だセレーネ。答えは、気合いだ」


気合いですか!そうですか!

私は少し先にいる迷彩羊に目をやった。群れとまではいかないまでも数匹はいるわね。


「いざとなれば、俺が状態異常解除の魔法をかけてやるよ」


カールがちょっとドヤッてる。前衛として連れてきたけど、ヒーラーはありがたいわ。

ドヤ顔はあれだけど。


「体内の魔力の流れを正常にすれば大丈夫ですよ」


ニコッとしてるクレアさんは優しいなぁ。

けど、体内の魔力の流れって意識して調整したことないや。


「クレアさんありがとう。とはいえ、羊さん達まではまだ距離があるし大丈夫でしょう」


「ミジメェー、ミジメェー、ミジメェー」


あれ、今、惨めって鳴いてなかった?

メェー、じゃなくて?気のせい?


その直後、私が足を踏み出した瞬間、体が浮遊感に襲われた。

油断していなかったといえば嘘になる。

みんなから少し離れた場所を歩いていたのもまずかったのかもしれない。


私が足を踏み出した先、つまり森の地面だと思ってた場所が一気に消えて、崖が現れた。

そして、私の体は今、崖に投げ出されている。


「幻惑魔法!?たちがわるい!」


「セレーネ!」

「おい!」

「セレーネさん!」


くっ、みんなの手が遠いぜ!!杖を引っ掛ける場所もない!

確かに山にある森だから崖はあるかもしれないけど、タイミングがわるい。たぶんだけど、10mくらいの高さがない?下に川が流れているから崖というか渓谷?とはいえ、痛いじゃ済まないよなぁ・・・骨折れるよなぁ。


「なんとかしろ私!!!」


私の体は再び浮遊感に包まれて、崖の上に戻ってきた。


「ふう!一件落着!」


「セレーネさん!落ちたかと思った!」


クレアさんが若干の涙目とともに抱きついてきた。かわいい。

じゃなくて、まだ崖の近くだから危ないよ?


「セレーネ、大丈夫か?」

「ありがとう、グレイス。この通りピンピンしているわ」

「それはよかった」


カールはというと目を丸くして口を開けて驚いたようにこちらを見ている。


「カール君は心配の言葉はないの?」

「悪かったな。それより、さっき浮遊していなかったか?それも無詠唱じゃなかったか?」

「・・・確かにそうね。無我夢中だったからあまり覚えてないけど」


カールが驚いたのはそこだったのね!


「セレーネさん、浮遊魔法を使えたんですね」

「クレアさん、それが今まで使ったことはなくて・・・」

「そうなんですか?それにしてもうまく発動していたと思いますけど・・・」

「うーん?・・・あっ!カール君に落とし穴に落とされそうになったときに反射的に使ったかもしれない!」


「・・・根に持っているのか」

「それはどうでしょうね、カール君。というかクレアさん、難しそうな顔してどうしたの?」


「セレーネさん、もう一回浮遊できますか?」


さっきの感覚を思い出して、と。

「こんな感じ?」


「浮いてますね」

「あぁ、浮いているな」

「ほんとに無詠唱だな」


難しそうな顔をしているクレアさん、驚いているグレイスとカール。


「セレーネさん、降りてきてください」

「わかったわ。それでクレアさんどうしたの?」

「あの、浮遊魔法って使える人が少ないんです。そのうえ無詠唱となると・・・」

「無詠唱となると?」

「魔法師に勧誘、いえ下手すると拉致?されますね。それも高位の魔法師枠になりえます」

「・・・私の目標は文官なのよ」


私は魔法師じゃなくて文官になりたいけど、拉致られたらまずいかな?と思ってるとカールがさらに口を開いた。


「セレーネさん」

「何?カール君」

「浮遊魔法に限らず、魔法全般で無詠唱が使えるんじゃないか?」

「どういうこと?」

「戦闘中から思ってたんだけど、『風よ』という同じ詠唱で、複数の魔法を使い分けているじゃないか。『風よ』自体もオリジナル詠唱だけど、それ以上に、詠唱のイメージの補助がなくても魔法が使えるということじゃないか?」

「・・・何爆弾投下しているのよ」


私は思わずぼそっと呟いてしまった。

オリジナル詠唱はいいとして、無詠唱も確かに言われてみればそうかもしれないけど、このタイミングでいう?浮遊魔法に続いてのこれは、魔法師フラグが立ってしまう気がする。気のせい?


「何か言ったか?」

「いえ、何も。はいはい、試してみればいいんでしょう」


「ウィンドカッターやるわね」


私は無言で右腕を振った。

クレアさんがマトとして作ってくれた木がスパーンと切れた。


「・・・次はウィンドトルネードやるわね」


私は無言で左腕を振った。

クレアさんがマトとして作ってくれた木がズドーンとへこんだ。


「私は!文官になりたいの!!!」

「俺はまだ何も言ってない・・・」



ーーーーーーーーーー


迷彩羊の羊毛も無事に?採取できたセレーネたちは学園に戻ってきた。


彼女たちが学園の門が近づくと、1人の男子生徒も学園に帰ってきたようで、カールの姿を見つけると声をかけてきた。


「カール、綺麗どころをつれてどうしたんだ?」

「デイヴィットか。まぁ、確かに上部だけは綺麗だよな・・・」

「カール君、何か言った?」

「なんでもないぞ、セレーネさん」

「そう。それよりこの人は?」

「俺の友人のⅢ組のデイヴィットだ」

「ふーん」

「カール、お前の友人と言った瞬間にものすごく胡散臭いものを見る目をされたけど、何したんだ?」

「心あたりがない」



自己紹介や軽い挨拶、少し雑談をしてから各々の寮に戻るようだ。


「また何かあったら呼んでください」

「カール君、何を企んでるの?最初はあんなに嫌そうにしてたのに。秘密を知った私たちを事故を装って消そうとか?」

「さすがに違いますよ、セレーネさん。みなさんがとても優秀だとわかったので、おこぼれにあずかろうと思っているだけです」

「ふーん、そう」

「そうですよ。ウィンウィンの関係を築きましょう。それでは、私はいきますね」


学園に着いた途端に胡散臭い敬語モードになったカールを見送り、セレーネ、クレア、グレイスも女子寮に戻っていった。


帝国の名前変更しました。話の中身に影響はありません。

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