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1:出会って2回目で気色悪いプロポーズをされた

「ふう、到着」


私ことセレーネ・ケニルワースは、ビネンツェ王国の王都にある王立第二学園に徒歩で到着した。

晴れやかなや秋晴れの元、昨日入学式を終え、今日から授業が始まる。


学園生活に胸を躍らせながら正門をくぐると、見たくないものが視界に入った。


「うげ・・・」


私の視線の先には、”セレーネ様”、”こちらへ”などと書かれた木の板のようなものをもった使用人と思しきグループが道を作っている光景があった。


「無視しよう・・・」


私は彼/彼女らを見なかったことにして、女子寮までは少し遠回りだけど別の道に向かって歩き始めた。


すると、


ドン!


という何か大きい音がしたので、反射的にその方向を向いてしまった。


私の視線の先には、見たくないものが増えていた。


こばえのような虫が空中でハートを作っている。そのそばで虫魔法を使っている男子学生と目が合ってしまった。

男子学生はこれ幸いとばかりにズカズカとこっちに歩いてきた。


「これはこれは!セレーネ嬢!朝からお会いできるなんて、なんという偶然!これは運命に違いない!俺たちは運命の赤い糸で固く結ばれている!そうは思わないか!」


いや・・・明らかに待ち構えていたし、わざわざ大きな音たててまで気を引いたじゃない・・・


はぁ、それでも一応私も相手も貴族だし、挨拶はしないと・・・


「レスター様。おはようございます。昨日、王城で行われた入学式を終え、授業初日である今日は、新入生はほぼ確実にこの正門から入るので必然です」


「そんな照れ隠しもかわいいね」


私の目の前にいる男子学生イオーゴ・レスターは、ウィンクしながら言ってきた。

虫もなんか踊ってるし、ゾワっとした。つい魔法を発動しそうになった。

ちなみに、昨日の入学式で初めて会った相手だ。


「・・・お戯を。騎士団の名門レスター伯爵家のご子息様が、授業初日の登校に馬車も用意できない弱小男爵家の娘に何か御用でしょうか」


レスター伯爵家は王都の治安維持部隊の隊長を務めている。文字通り名門である。家としては。


「そんな、自分を卑下するものではない!あなたは闇夜に輝く月のように美しい!自分の価値を認識するべきだ!君の美貌の前ではスジグロシロチョウも真っ青だ!」


片膝をついて手を伸ばして、なんか貴族っぽく言ってきたけど、スジ・・・何?蝶?たぶん虫だと思うけど、虫と比較されても・・・

おそらく今の私は冷え切った目をしている自信がある。


「私はあまり社交界にいなかったものですから、そのような口説き文句が流行っているのですね。勉強になります」


「本心だ!ちまたの安っぽい流行り言葉などで君の美しさを言い表せない!愛を伝えるために今日はプレゼントをもってきた!」


プレゼントと聞いて私は警戒した。

昨日、入学式でいきなり話しかけてきて、虫の剥製をプレゼントとして渡そうととしてきたのだこの男は。


私が、どうやってこの場から離れるかを考えはじめると同時に、イオーゴが芝居がかった仕草で手をパンと叩いた。

それに反応して、使用人が移動台と布をかけた何かを持ってきた。


等身大くらいの大きさがあるけど、虫の魔物の剥製とかはほんとに勘弁して欲しい。

頼むぞー。


「セレーネ嬢!俺と結婚してくれ!」


その言葉とともに布がとられた。

そして、純白のドレス、いわゆるウェディングドレスのようなドレスが私の目の前に現れた。


斜め上の物の登場に思わず固まっていると、レスターは何を勘違いしたのか、

「そんなに心配しなくてもサイズは合っているはずだ!急ぎで仕立てさせた!」

「サイズが合っているとは・・・?」

「このドレスのサイズと、君の体のサイズが合ってるはずだ!バストもウエストもヒップも!」


繰り返しになるけど、この男とは昨日初めて会った。なんなら初めてお互いを認知した。

まだ2回しか会ったことないのに、なんでドレスのスリーサイズが合うのだろうか・・・?


私が絶句していると、


「ははは!サプライズ成功だな!学園の制服のサイズを職員から聞いたかいがあった!」


虫が空中でティアラの形を作っていて、色々とゾワっとしたけど、一周回って私の頭は冷静になっていた。

学園の事務員は平民出身も混じっているから、伯爵家の権力で言わせたのか。

能力重視の第二学園では身分をかさにとる言動はよく思われないというのに。


「レスター様、寮に置いたままにしていた書類を授業開始までにとりに行かなければなりません。失礼させていただきます」


私は返答も待たずにその場から早足で離れた。

途中ちらっと周りを見ると、野次馬がいた。同情的な目や、好奇の目を向けられた。


私の学園生活の滑り出しはよろしくないかもしれない。


ーーーーーーー


私は女子寮にある自分の部屋に向かった。


昨日行われた入学式は、王立第一学園と合同で行われたから、会場が王宮だった。

そのまま王宮近くで一泊したから今日は正門から入ってきたけど、学生は学園内にある寮に1人1部屋与えられている。


私は自分の部屋に着くと一息つきつつ、時間まで考え事を始めた。


私ことセレーネ・ケニルワースには、前世の記憶がある。


幼い頃にひょんなことから思い出した前世では、伊東さつきという名前だった。大学の卒業のタイミングで付き合い始めた彼氏の江原恭平と隅田川花火大会に行った時に、事故死してしまった。


彼氏と言っても江原くんが名古屋勤務になってしまっていたからほとんど会ってなかったし、新卒で忙しかったのもあって連絡もあまりしてなかった。前世の私の異性との関わりは手を繋ぐところでとまっている。

それでもデートということで浴衣をきておしゃれもしたけど、会場に向かう途中で、前から来た車と後ろの車のヘッドライトの間にたまたま立ってしまったのがいけなかったのかもしれない。

免許をとった時に?習った?蒸発現象のような状態になっていたのだろう。気付いた時には目の前には車が見えた。


今世の私は、セレーネ・ケニルワースという名前で、地方の弱小男爵家の令嬢だった。

先ほどの伯爵家の男子学生から言い寄られるように、見た目はいいと思う。いいと思うというか、控えめに言っても美少女だろう。

艶のある黒髪で、金目鯛の瞳のような金色、いや金目鯛の例えは良くないけど綺麗な金色の瞳で、夜空に浮かぶ月のようにも見える。

あのキショい、いえ、ちょっと個性的な伯爵子息様の表現は、表面的な言葉としては的を得ている。


貴族令嬢とはいえ、ほとんど農家のような男爵家だったから、貴族として家に残ることも難しそうで、将来は家から出て自立しようと思っていた。

とはいえ、転生チートのような特殊能力もなく、前世は外国語専攻だったからこの世界でフランス語は活かしようがないと思う。新卒だったから少し事務の手伝いはしたけど、実務的な知識はそれくらいだ。


自立のための職業として、王宮の文官になることを目標にした。

一応形式的に、現代日本の教育を受けた記憶のある私は、この世界では割と優良物件になれると思う。たぶん。

国の仕事ならホワイトで安泰だろう、という安易な考えは否定できないけれど。


そういう背景もあり、文官の勉強のために、実務的なカリキュラムになっている王立第二学園に入学した。

王立学園は、第一学園と第二学園がある。どちらも秋入学であるなどの共通点があるが、大きな違いがある。


昨日一緒に入学式を行った王立第一学園は5年制で完全にお貴族様の学園だった。お偉い王侯貴族様が煌びやかに着飾っている。・・・偏見があるかもしれないけど。


一方で王立第二学園は、実務的な能力の養成を目的とし、平民も受け入れる3年制で、14歳で入学して成人の17歳の年で卒業する。

王国の文官の登用試験の合格者も多いから、学園でしっかり勉強しようと思っていたのに・・・


せっかく冒険者稼業で資金を稼いで、入学のために諸々の準備もしたのに、入学早々、イオーゴ・レスターというかまってちゃんみたいな変な人に目をつけられてしまった・・・

入学式ではあの人にからまれたおかげで、第二学園の生徒を見つけて交流をもつこともできなかったし、せっかく異世界転生したのに、災難だ・・・


私は時間を確認して、入学案内などの書類をカバンにしまい期待と不安を胸に教室に向かった。


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