七・五話「大田からの物語」
オレは今ベットの上でスマホを見ている。自宅謹慎になってからはずっとこんなことをして時間が過ぎるのを待っている。スマホの画面に表示されている時刻を見れば23時48分と表示されている。それを確認してから外に出る用の服に着替えを始める。
前までは楽しみで23時30分ピッタリに家を出ていたが今はは待ち合わせをする友達もいないし夜を楽しみにする感覚も少しずつ薄れていっている。しかしやめることはできない。少しでもやめるきっかけが欲しい。少しでもきっかけがあればやめれそうな気がする。
そんなことを思うと頭に廿日市の顔と隣の席のやつの顔が思い浮かぶ。こいつらは夜遊びをやめる数日前に待ち合わせ場所に現れた。今日、玄関を出た先にこいつらがいてくれたらてオレを止めてくれたらとありえないことを妄想をする。
そういえば隣の席のやつの名前なんだっけな。
そんなことを思いながらドアに手をかけ音がならないように扉を開ける。今となっては手慣れたが最初のほうは心臓がうるさいくらいドキドキした。そんな前のことでもないのに懐かしく思う気持ちと慣れてしまってドキドキが無くなったことに残念に思う気持ちが湧き上がってくる。扉をゆっくり閉めてカギをかける。カギを閉めるときはどうしても少しは音がなるから今でも少しドキドキする。
カギがかかっていることを確認して振り返ると、ありえない光景が目に映る。廿日市達だ。いてくれたらと思っていたがまさか本当にいるとは思わなかった。どうやってオレの家をしったのだろうか。
だが二回目にだし頭の片隅に願っていたこともあって今回は冷静でいられた。
「お前らならいつか家まで来るんじゃねえかと心のどこかで思ってたよ。まさか現実になるとは思ってなかったけどな」
「大田君、どうしてこの時間に外に出ているの?」
「それはこっちのセリフでもあるぞ。お前たちだってこの時間に…」
ここまで言いかけてあることに気がつく。
今回は二人ではなく三人目がいた。小顔でどこかに幼さが残る顔だち、肩までのびる引き込まれるような黒の髪は夜の少しの光を妖艶に反射していた。さっきのカギを閉めるときとは比べ物にならないほどのドキドキがオレの思考を停止させる。
「高田安芸の姉の高田冬でーす。はじめまして!」
その言葉で我に返り相手の自己紹介をかみ砕けていないまま反射的にオレも自己紹介をする。
「は、はじめまして。大田健です。」
ここでようやくその人の言葉を脳が理解し始める。
そうか、隣の席のやつが高田安芸でそのお姉さんなのか。改めて見くべてみると、確かに少し似ているような気もする。
そこで高田安芸は
「大田、お前は今、自宅謹慎中のはずだ。しかも自分からの申し出たと聞いた。反省したんじゃないのか?」
と聞いてきた。
そのあとに廿日市が
「私は前も言ったけど夜に外に出るのを必ずやめるべきとも思ってないんだよ。でも大田君の行動がちぐはぐだからその理由を知りたいの」
と言ってくる。
廿日市はあくまで止めるのではなく理解をしようというオレに寄り添った立場だが今回は止めようとしている高田安芸と立場のほうがオレとしてはありがたい。
今の気持ちを話して夜に出歩くのをやめるきっかけになってくれるのではないかと期待すると同時に未だ夜出歩くオレに呆れて見放されることへの恐怖も頭に浮かんできた。
高田安芸に見放されればきっかけは二度と来ない気さえする。しかしここで何も言わず立ち去っても同じこと。オレは勇気を出しゆっくりとオレの気持ちを口に出す。
「オレは自宅謹慎をしたいって言ったときは本気で心から反省したと思い込んでいた。こうすればオレの中にある”日常”への強い嫌悪感も消えると思っていた。でも今のオレはどうだ。結局オレの心は全く変わらず嫌悪感にのまれたままだ。幼稚だってことはわかってる!でもオレを責めないでくれよ。オレは頑張ったんだ…」
口に出したことで今のオレの立場が改めてわかる。オレはなんて情けないのだろうか。やめると決めたことを途中で投げ出し、それでもなお見放されたくないと思っている。オレなんて諦められて当然だ。
二人は何も言わずオレは怖くて顔をあげることができなかった。
その沈黙を破ったのは高田冬さんだった。
「大田君の反省するきっかけは何だったの?」
予想外のところからの質問にどぎまぎしながらも答える。
「今回、オレの友達がタバコ吸ってんのを見たんすよ。そいつはオレが夜に遊ぶのを誘った奴だったんで責任感があって。そいつが少しでも反省して普通の高校生に戻ってほしいって思ったからそいつの学校に連絡したのですよ。そいつがこうなったのも、もとはと言えばオレのせいなんでオレも反省しようと思ったからです。まぁ、結局こうなんですけど」
あいつには悪いことをした。オレが遊びに誘わなければオレもあいつも自宅謹慎になっていなかっただろう。ましてやオレは自宅謹慎中にも関わらず外に出ることをやめることができない。オレはもう手遅れなのかもしれな……。
「いや、まだ遅くない。今からでもまだ間に合う」
オレの思考を止めたのは高田安芸だった。力強い言葉だった。まだ諦められていないことがうれしかった。しかし、オレはそんな期待を裏切りここにいる。それが嬉しい以上に辛かった。
「どうせ無理だ。もうオレは前みたいに学校に毎日行って授業を受ける想像すらできねーよ」
「わかっているのか?夜遊びをしたところでどうせ、いつかは慣れて日常の一部になるんだ。こんなことを続けても意味なんてないぞ」
高田安芸の言うことは文句のつけようがないくらいに正論だった。事実、ドキドキは実感できるほど少なくなっている。オレは幸せにはなれないのか。
そんなこと思うと自然と下唇を嚙む力が強くなる。
「慣れるって残酷だよな。オレのこの楽しさだっていつか”日常”になって奪われる。きっと欲の深い人間に呆れた神が与えた罰なんだよ。人間が永遠の幸せを手に入れないために」
共感してほしくてそんな言葉が出た。オレのやめたくてもやめれないことを仕方ないと思ってほしかった。共感されたってオレが変われるわけでもないのに。
「大田、慣れるってのはそんなに悪いものではない。慣れることができるからこそ人間は平等になるんだ。永遠の幸せもなく永遠の不幸もないから人間は毎日の変化を大切にして幸せになる努力をするんだ。幸せになれる努力をした人間が幸せになれる。慣れることほど人間を平等にするものはない。素晴らしいじゃないか」
衝撃を受けた。オレが夜に出歩くことをやめるのは簡単だということに気づかされた。
オレはどうして夜に出歩いていたのだろうか。別に忘れていたわけではない。理解したという方が正しいのかもしれない。退屈だったからだけじゃない。オレは”日常”に勝ちたかったんだ。永遠の幸せを奪い去る”日常”から永遠の幸せを守り切りたかった。永遠の幸せがないなんてとても辛いことに思えるから。
”日常”は悪いことだけじゃない。そんな簡単ことに気づけなかった悔しさからか認めたくなくどうでもいいことを聞いてしまう。
「幸せになる努力って何なんだよ」
この質問の答えは速く返ってきた。
「勉強でもスポーツに打ち込んで昨日できなかったことをできるようにしたり、昨日まで話したことなかった人と仲良くなったりすることじゃないのか?人によって違うだろうけど」
「曖昧かよ」
人によって違う。それはそうだ。きっとオレの幸せの努力はは高田安芸にはわからずオレが探していくしかないのだろう。
「慣れるってことを悪者にしか見えてなかったけど、見方次第なんだな」
思わず口にしていた。これからしばらくは退屈と戦う日々になりそうだが少しずつでも変わっていけるような気がした。
そう思っていると廿日市に
「これから今みたいに夜出歩くこと、やめれそう?」
と聞かれた。
どれだけ時間がかかるかわからない。だからオレは正直に
「正直、自信は全くないな」
自信はないと言ったがこの問いに二人は満足できたようだ。
最後の締めの雰囲気で高田安芸が
「|大田《おおた》、時には諦めることも大切だ。お前が言ったように夜遊びは永遠の幸せを与えてはくれない。早いとこ見切りをつけて諦めてしまうのが良いだろう」
といった。
「そうするわ」
ここまで真摯に向き合ってくれたんだ。明日からはちゃんと自宅謹慎らしく家にいよう。
この後、廿日市が「辛いとか思ったらまた相談してね」と言い残し高田冬さんに解決したことを報告しに行ったようだ。「また」と言っていたが相談した記憶はない。
オレは高田安芸と二人きりになったので高田冬さんのことについて言ってみる。
「お前のお姉さん美人だな」
と試しに言ってみればすごい嫌そうな顔で苦笑いのようなものをする。大方、なんて返したらいいかわからなかったのだろう。ここから高田安芸と何の話をしようと思っていると高田冬さんが近づいてきた。
「大田君、やっぱり高校生で夜遊びをするのは良くないと思うの!大人になったらおねーさんが大人の夜遊びを教えてあげるから今は我慢してね!」
そう言い残しまた廿日市のほうへと向かっていった。
こんなことを言われてまだ夜に出歩く奴はいるのだろうか、いやいるわけがない。いるならオレが粛清してやる。
オレは来る日に胸を躍らせ、夜に外出ることを決してしないように心に誓った。




