六話「いつの間にか動いていた状況」
俺と廿日市が対立を宣言してから早一週間、俺たちは何の成果も得られませんでした!
当たり前といったらそうだが大田がたまり場に出現しなくなったのだ。ストーカーがいるから帰る道を変えるのに近いだろう。それだったら俺たちがストーカーになるのですが。
変化を強いて挙げるなら姉ちゃんと廿日市が仲良くなったことだろうか。ここ数日では姉ちゃんから今日も行こうと誘われる。しかも、集まったら姉ちゃんは俺よりも廿日市によく話しかける。別にそれはいいことなのだが十五年という時間が一週間に負けていいものかね、と思う。口下手な俺が悪いだけだが。
そしてもう一つ変化はあった。大田が学校にも来なくなりました!こっちのほうが重大な変化じゃねえか。めったにない起きている時間に話を聞くこともできなくなった。このまま大田が学校に来なければ夜遊びをやめるきっかけを作ることさえできない。
これが詰みってやつか。どうすることもできない。まるで将棋AIと戦ってる気分だ。とは言いつつ俺は将棋をやったことないんだが。
心の中で諦めムードになり姉ちゃんあたりが音をあげることを期待するようになってきた。俺から言い出すのは水を差すようで嫌だから誰かやってくれないか期待することしかできない。
夜の張り込みの疲れでボーっとしていると島先生から呼び出される。今は昼休みだ。まさか休憩時間も気の抜けた顔をしてはいけないのだろうか。
「高田ー、廿日市ー。少し来てくれるか」
どうやら呼び出されたのは俺だけではないらしい。
ってか少し来てというのは冷静に考えれば変じゃないか?三歩くらい歩いて、少しだけ行きましたー。とか言われた日には相手のこと殴っちゃうぞ☆
馬鹿なことを考えるのをやめ、先生がいる方の出口へと向かう。俺は後ろの方の出口に近い席だが先生は前の出口にいた。すでに廿日市は先生のもとについていた。
「なぜ友人たちと会話をしていた廿日市よりも何もしていない高田のほうが来るのが遅いんだ」
馬鹿なことを考えていたからに決まっているがそれは言い訳にはならない。誰もが納得できる理由を思いつく。
「俺は作業に時間をかけてでも丁寧にやりたいタイプなんですよね」
「大方、今みたいなバカなことを考えていたんだろう」
なぜわかった!?ここはおとなしく、細かいことを気にするなと言うべきだった。
「先生、急に呼び出してどうしたんですか?」
俺たちのしょうもない会話をするだけの時間を嫌ったのか廿日市は早々に本題に入る姿勢を見せる。
その言葉を受け島先生は咳払いをして
「ここで話すのもなんだ。職員室に来てもらおう」
と言い回れ右をして歩き出す。俺は先ほどの言い訳の反省を心の中でしながらついていく。
廿日市と俺の組み合わせということは勝負に関してだろうが大田の件に関してはまだ決着はついていない。一体何を話すつもりなんだ。
俺たちは階段を挟んで教室の隣にある職員室に入り応接間に通される。
そこには三人くらいが座れそうなソファが向かあっておいてありその間にはソファにあった大きさの机が置いてある。
先生が先に一方のソファに座ったため対面になるように座る。俺と廿日市の間には人が一人座れるくらいのスペースが空いていた。
俺たちが座ったことを確認した島先生は話を始める。
「君たちもうわさで聞いているかもしれないが大田は深夜の外出で現在謹慎処分を受けている」
どおりで大田が来ないはずだ。しかもうわさになっていたなんて。どうして俺にはそのうわさが届いていないのだろうか。これが最近問題になっている情報格差というやつか。世知辛い世の中だ。
「先生、高田君が話についてこれてないです。友達というネットワークがあるという前提で話すのここではやめてあげてください」
廿日市、それはフォローになっていないぞ。一週間前に対立宣言をしたからってこんなところで傷つけるはやめよう。
その発言を受けた島先生は慌てた様子で取り繕う。
「す、すまない。教師の僕でさえ何度か耳にしていたものだから普通に知っていると思っていた」
「先生、このご時世で普通っていうのは禁句ですよ。謝ってください。特に俺に対して」
この話を続けていても俺のライフが削れていくだけだ。俺は話を強引に進めることにした。
「で、今その話題になっている大田に関して何か俺たちに伝えておくことがあったから呼び出したんでしょう?時間は有限ですよ。早く教えてください」
「悪かった。僕は作業に時間をかけてでも丁寧にやりたいタイプなんだ。高田ならわかってくれるだろうが」
少々とげを混ぜたらさっきの仕返しをされた。やられた側ってこんな気持ちになるのか。この不快になった気持ちは誰かにしかえすことで埋め合わせをしよう。
「廿日市もうわさを耳にしているだろうが詳しいことは知らないだろう。大田は今、市の条例の11時以降の外出を破ったため自宅謹慎をしている」
それを聞いて俺は驚く。条例を破るのは良くないことではあるが、そんなことで謹慎処分を受けるものだろうか。どうやら廿日市も同じ意見だったらしく先生に質問をする。
「大田君が良くないことをしたのは事実ですが謹慎処分になるほどのことではないと思いますけど」
「たしかに、そうだ。本来であれば生徒指導程度で終わっていただろう。しかし今回の状況は少々特殊でな」
そこで島先生は一旦話を区切る。
「今回、本当に問題になったのは大田と一緒にいた連中だ。大田がつるんでいたやつが未成年にもかかわらず喫煙をしたそうだ。大田自身は喫煙をしていない…それどころか告発したのが大田だった」
そこまで聞いてひとまず安心する。夜出歩くことの最大のリスクでもある未成年による喫煙、飲酒、それに大田が手を染めなかったのは良かった。危うく取り返しがつかなくなるところだった。
しかし、状況が見えない。なぜ大田が告発したのか。そして謹慎になった理由ともつながらない。
俺は先生と目を合わせ話の続きを催促する
「そこで、大田は自主的に反省をしたいからと謹慎にしてくれと言ってきた。学校側としてもなんの理由もなく謹慎にすることはできないので条例違反を理由に謹慎させたわけだ」
「ということは今回の相談は解決したということですか?」
わからないことも多いが、もやもやが残る形で俺の勝利で終わったということか。
そう安堵したのだがどうやらまだ続きがあるらしい。
「君たちを呼んだのはその続きを伝えるためだ。どうやらここ数日、謹慎処分中の大田が夜にどこかへ出かけていると彼の保護者から聞いた。君たちはその深夜徘徊をやめさせてもらう」
ますます大田が何をしたいのかわからなくなった。自分から謹慎してほしいと言ったのにもかかわらず未だ続く深夜の外出。
しかも行先は不明。仲間はもういないだろうしたまり場には張り込んだが姿が見えなかったので行先が全くわからない。振り出しに戻った気分だ。
ここまでの話を聞いた廿日市が決心したように立ち上がり言った。
「これまでは家の前で待ち伏せてたらさすがにプライバシー的にアウトだったけどここまで事態が大きくなったら仕方ないね」
まるで待ってましたと言わんばかりだ。もしかして今までは正当な言い訳がなかったから大田の住所とかもおさえているものの待ち伏せできなかったのだろうか。どうして家まで知ってるのだろうか。これが情報格差か(恐怖)。
「高田君、お姉さんに伝えといて。今日からは大田君の家の前で張り込むから張り込む場所が結構遠くなるって」
「わかった、伝えと……今日からって言った?もしかして今日から張り込むの?しかも遠いの?」
これって俺も行くやつだよね?
姉ちゃんへの伝言なのに深くダメージを負うことになった俺と対照的に元気な廿日市が
「今日で決着がつくかもしれないね」
と言う。
なんでこんなに元気になるんだよ、この戦闘狂は。島先生も止めてくれよ。そう思い島先生を見ると小声で
「勝負はこうじゃないとな」
とつぶやいていた。ほんとにこの戦闘狂どもは。そう悪態をつくも本心では少しわくわくもする。やっぱり決着がつくときは興奮するものだからね!




