第4章:灰の灯の下で
灰の空が、静かな昼の気配を抱いていた。照らされる街に、人の影はない。
かつての光は失われ、この都市は、静かに死を与えられたのだった。
歩く音だけが響いていた。
乾いた靴音と、わずかに軋む義足の音が、ひび割れた通路に残る。
一行は、かつて都市の“神経”と呼ばれたこの区画の中心に向かって、静かに進んでいた。
足元には崩れかけた標識、割れたパネル、使われることのなくなった保守端末。
だが空には昼の色があり、照明はまだ──命の名残のように灯っている。
「見た目ほど荒れてはいないね……」
ノアが周囲を見回しながら言った。
「人工気象が残ってるから。気温も湿度も制御されてるみたい」
イナが応じる。
「でも空っぽよ。この都市には、もう誰もいない」
ライナの声は冷静だったが、どこか寂しさを含んでいた。
エルはその少し後ろを歩いていた。
歩き慣れない義足は時折きしんだが、彼女は一言も弱音を吐かなかった。
「ドローンの気配……まだ消えていない」
ミーラが立ち止まり、周囲の空気に注意を向ける。
「今は影が薄いけど、動いてる個体は残ってる」
ノアが端末を操作した。
「巡回ルートを拾った。……次のブロックを通るには、セキュリティ視界をかいくぐる必要がある」
「できる?」
ライナの問いに、ノアはうなずいた。
「うん。30秒間だけ、偽の映像を流せる。ドローンの“目”をごまかせるけど、タイミングはシビアだ」
「問題ない。30秒で抜けるよ」
ミーラが即答した。
ノアはホログラムを展開し、全員に合図を送る。
そして、光が跳ねる寸前──息をひそめるようにして、一行は影の中を駆け抜けた。
その先には、まだ“なにか”が残っていた。
生きているのか、動いているだけなのか──
それすら判別できない、朽ちかけた都市の残響が、彼らを待ち受けていた。