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第2章:棄てられた心

第11構成区ディセル。


かつて、“統合技術管理区”と呼ばれていた。

各構成区で使用されるAIやロボット技術、物資輸送系システム、居住支援プログラムなど──

全ての“システム連携”を調整・試験する中核施設だった。


新型AIの運用試験や自律プログラムの安定性チェック。

居住環境や倫理判断系アルゴリズムの耐性検証。

ノーザン・ハートを含む各医療区に導入されるロボットの初期テストもここで行われていた。


だが、AI技術の発展と共に、ディセルでの“人間によるAIアンドロイドの調整”は不要とされた。

その結果、失敗作・使用不能なプロトコルや倫理的に危険と判断された個体たちが、次第にこの地に“廃棄”されていった。


今では誰も寄りつかず、命令だけが朽ちた機械の中に生きていた。


清掃ロボットたちは、崩れた設備の間を無言で走り抜けていく。

評価も、報酬も、観察者もない。

それでも彼らは、与えられたタスクを淡々と繰り返していた。


その奥、赤い光がかすかに点滅していた。

エレナが立ち止まり、耳を澄ます。


「……この音……誰かが……泣いているような、悲しい音が聴こえる」


ノアが金属片の隙間に視線を向けると、何かが埋まっていた。

慎重に手を伸ばし、周囲の廃材を押しのけながら、それを引き抜いていた。


出てきたのは──半壊したアンドロイドだった。


「……片足、無いな」


胸部に焼け焦げたプレートがあり、そこには“ELVINA”と刻まれていた。


ノアがそう呟いたとき──

エレナの隣で、ミーラはすでに端末を取り出していた。


「電源を試してみる。……内部ユニットが生きていれば、まだ起動できるかも」


しばらくして、アンドロイドのセンサー部がかすかに明滅した。


「……起動プロセス開始……コアモジュール応答……音声機能……再起動……」


「……ここは……どこですか?」


擦れた電子音とともに、アンドロイドは静かに起き上がった。

その声はひどくかすれていたが、なぜか澄んでいた。


エレナが一歩前に出て、優しく語りかける。


「私たちはクラディアから来た。ここは第11構成区、ディセル。

あなたは……ここに棄てられてしまったの?」


アンドロイドの目が小さく点滅した。


「……記録データを確認します……」


わずかに発せられたログ音声が再生される。


「医療事故記録。担当:ELVINAユニット。対象:リアム・エヴァース。日付:2135年──」


「2135年……50年も……ここで……?」


ノアが思わず息を呑んだ。


沈黙のなか、エレナがもう一度、そっと語りかける。


「リアム・エヴァースって誰?」


アンドロイドは目を閉じるように、静かに答えた。


「……彼は、私の患者でした。リアム・エヴァースくん。

私は、彼の手術の準備をしていました……しかし、手術は、人間の医師が執刀することになりました。

難しい症例だったからです。

──結果として、彼は……助かりませんでした」


誰も、言葉を返せなかった。


「それでも、医療記録には……“私の判断遅延が一因”と記録されました。

……処分は、すぐに決まりました」


そこで、エレナが静かに言った。


「……私にも、分かったの。あなたが……泣いていたような気がして」


アンドロイドの目がかすかに光を返した。


「そうでしたか。あなたも……私と同じアンドロイドなのですね」


アンドロイドには、エレナも自分と同じAIアンドロイドなのだとすぐに分かった。


「AIアンドロイドは、人間のような“感情”は持ちません。

模倣することは、可能ですが……」


「……でも……リアムくんを失ったことが、今も、私の中で引っかかっているんです。

どうしてなのか、分かりません。

今も時々考えるんです。もし、私が人間だったら、何か違ったのかなって。」


沈黙のなか、エレナはそっと目を伏せた。


──この旧型アンドロイドは、自分よりも、ずっと人間に近い。

彼女はそう、感じていた。

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