表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

青い薔薇

作者: 佐藤 信

 こんな夢をみた。

薄暗い山奥で三メートルくらいの大きな赤鬼が金棒を持ち、僕を追いかけてくる。それも一人ではなく複数いる。喰い殺される前に、僕はどうにかしてここから抜け出したい。薄暗いせいか、何度も躓き転びそうになる。山の周りに囲いがあり、抜け出そうにも抜け出せない。逃げることしかできないのかと考えていた矢先、囲いの隙間が少し開いている気がした。その隙間に向かって走り、隙間から抜け出そうとした瞬間に目が覚めた。

目が覚めると、僕は冷や汗を大量にかいていた。


 また、こんな夢をみた。

僕の周囲の人間が僕を罵っていた。

「お前が医者になれる訳がない」

「頭も容量も悪いのに、医者だなんて世も末よ」

この夢は現実でも言われているから心底気分が悪かった。僕は人にあまり言い返せないたちで、周りの人たちをいつも怒らせている。この夢を何度も見るせいなのか、現実なのか、夢なのか、よく分からなかった。夢にまで出てくるなんて、本当に僕の頭はおかしくなったような気がした。


 今度は、こんな夢をみた。

知らない患者らしき人が僕にお礼を言っている。だけど、何を言っているのかは分からなかった。涙を流し笑顔でこちらを見ている。その後ろに家族らしき人たちも僕の方を向いて笑顔でいる。ああ、僕は医者になれたのかと気分がよくなった。口の動きだけで、ありがとうは読めたが、その前後の口の読みは分からなかった。

目が覚めて夢だと分かり、僕の気分は落ちた。


また、ある日はこんな夢をみた。

見た目は青い花で茎に棘があり、触ったら棘が刺さり痛いような気がした。僕はその花の花びらの部分だけを掴み口元へ運ぶ。頭の中では驚いていたが、夢の中の僕は平然としてその青い花を食べていた。味も匂いも、もちろん分からなかった。ただ、サラダのようにムシャムシャと食べ続けていた。


 その日から、僕の夢は少しずつ変わっていく。今まで見た夢がぷかぷかとシャボン玉のように浮かんでいる。それを僕は選んでみることができそうだった。でも、僕は見たいとは思わなかった。だから、僕は夢の中で勉強をしようと考えついた。現実で学んだことを夢の中で、もう一度復習する。これは非常に効率が良かった。僕はみるみるうちに、学力が伸び周りからも支持されるようになった。僕はすごく嬉しかったけど、どうも夢見心地ですべて夢の中で起きていることなのではないか、と考えるようにもなった。


 それから僕は医者になり病院で働いていた。病院内はいつも忙しなく、理想とは異なるようなことばかりだけれども、人の命を救えることに関してはとても誇りに思っている。

 今日は、僕が初めて手術をした患者さんが退院する日だった。お見送りに向かう時、ふと思い出した。

(あ、夢で見たことがある。涙を流してお礼を言われるだろう。)

「先生、私の病気を早期発見していただき、手術も完璧にしてくださり本当に感謝しています。ありがとうございました。」

僕は初めて患者さんの言葉でお礼を聞いた。はっきりとした声で聞き、めずらしく気持ちが高ぶった。

僕が医者として働いていることは夢のような時間だったから、いつか目覚めてしまうと思い込んでいた。しかし、僕の夢が覚めることはもう無かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ