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第4話  ぶつかる妹

「――【光弾】ッ」


 ドカアアアアアアアアアアアンンンンンン――――――


 実際にそんな音がしたわけじゃない。だが、空中へ真っすぐ飛んでいき、高度100メートルくらい先で弾け飛んだ、直径四メートルはあろうかという光の球体に音が付いていたとしたら、それだけ派手な音がコダマしていたに違いない。


「やれやれ……魔力切れが起きないと言えども、こんなん――」


 普通の人間が行う、量を調節して放出した魔力とマナの反応によって起きる魔法(ガスバーナー)とは違い、空気中の魔力を取り込んだ結果、体内の魔力全てにマナが反応し、魔法(ガス爆発)が発生。

 その結果、加減が不可能なあまりの威力に、撃った衝撃で尻もちどころか、背中から倒れた葉介は、そんな感想が漏れたのだった。


「危なすぎて、使い物にならん……」


【光弾】に限らない。

 さっき【拡声】を使った時は、ご存じの結果になった。

【結界】と唱えて出てきた結界を見た時は、反射的に「塗り壁か!」と叫んでしまうような、バカデカい長方形が頭上に向けた手の上に現れた。

【水操作】を使ってみたら、手元にどんどん水が集まって、途中で中断したものの、頭からつま先までずぶ濡れになった。雨に濡れた服が、せっかく乾いてたっていうのに……

【光源】を出してみた結果、下手なスポットライト以上の巨大な光が発生。一分くらいで回復したものの、目が、目がッ――


 必須魔法をあらかた試した結果これなのだから、【発火】なんて恐ろしくて、とても使えたもんじゃない。

【硬化】なんか使った日には、関節も舌も全部固まって、一生身動きできなくなるかも……

 他に試してない魔法も、間違いなくヤバいことになるに違いない。


(今まで吸ってきた(魔力)の合計、一人分の平均あるかも分からんというのに。それだけで、これってさぁ――)


 超広範囲超高火力。必殺必中。弾数無限。

 これだけの魔法の威力を擁護する言葉は、葉介の実家には山のようにある。実際、これがアクションRPGの世界なら、喜ばれた性能に違いない。

 だがあいにく、(異世界と言えども)現実の視点から見たら、喰らった人間が余裕で死ぬのはもちろん、周りの人間から建物から、容赦なく巻き込み壊してしまうだろう威力を前にして、喜ばしいと思える人間がいるとしたら、ソイツはよっぽど壊すのが大好きな、悪の帝王に違いない。


「はぁ……まぁ、いいや――【閃鞭】ッ」


 考えてばかりいても仕方がないから、カリレスで唯一上手く使えた魔法を試してみることにしたが……出てきたのは、シンリー女王が長年の鍛錬と死ぬ気の努力の結果、天にまで届いた魔法の一つ、【閃鞭天】並みの大きさだった。


(リーシャ様、アンタすごかったんやね……)


 上手くいかない今と、上手くいったカリレスとの違いは明白。手元にリーシャがいるかいないかだ。

 体内の魔力を通し、マナと反応し発動する魔法を操作し易くするために使う、蛇口のホースのような役割を持つ魔法の杖とは違う。葉介自身から発生した魔法自体を通して、撃ってくれていたリーシャはまさに水の量を調節してくれていた、蛇口そのものだった。彼女が大きすぎた魔法の一部を引き受け、調節してくれたから、【閃鞭】は最適な大きさになってくれて、【身体強化】を使っても、手足がこれ以上壊れずに済んだわけだ。


 そして、それはつまり、現状『聖剣・利衣叉』が手元になければ、葉介がマトモに魔法を使うことは、不可能ということ。実際、普通の杖でも同じことができないかと使ってみたが、素手で撃った時と結果は変わらず、そもそも魔力ではなく魔法そのものを強引に通そうとした結果、一回撃っただけで壊れてしまった。


(けどなー、強すぎる魔法を引き受けて調節するとか、聞いただけで負担がスゴゲだものなぁ。実際、カリレスで戦ってくれた後もシンドそうにしてたし……やっぱ、リーシャにばっか頼ってられん)


 ただでさえ武器や箒としてもメチャクチャ働いてもらっている。そんなリーシャの身がどれだけもつか分からない以上、酷使することは人としてできない。

 一通り魔法を練習してみた結果、魔法でマトモに戦うことはできないと判断した葉介は、自分が行うべき、勝つための戦い方を、また考えるのだった。


(それにしても……ほとんど一人分ぽっちの魔力でこれなら、二人目、三人目のまとまった(魔力)を吸ったとしたら、一体どうなっちまうんだ――)



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……?」


 少し前に陽が隠れて、夕方から、夜になっていく時間。

 随分遠くの、随分高い空の上に、何かが光るのが見えた気がした。

 あまりに一瞬だったから、気のせいだと思って気にしないことにした。


 そんなどうでもいいものより、気にしなきゃならないもの――

 セリスは、手元に握っている手紙に、再び目を通した。


「メア……」


 手紙の送り主である、親友の名を呟きつつ――

 数時間前に雨に降られて、普段以上に湿気た砂浜に、緩やかに打ちつける波の音。広がる砂浜の所々には、ずっと使われていないだろう、ボロのイカダがいくつも並んでいる。

 そんな、手紙に書かれてある、北区のすぐ目の前にある待ち合わせ場所である海岸に、セリスは一人、酒瓶片手に立っている。


(今さら、私になんの用……?)


 特段、用事も思いつかない。お互い一番の仲良しだった自覚はあるけれど、せいぜいお互いの部屋へ遊びに行ったり、そこで晩酌をしたり、後は、メアからのセクハラを何だかんだ受け入れてきたことくらいか……

 仲良くするし、付き合いはする。ただそれだけ。ただ、気の合う、気の良い友達同士でいただけだ。

 まあ、そこまで良くしてくれていた理由も、今となっては明白なわけだが――


(私の秘密を、ただ一人知ってしまった時は、随分後悔してくれていたし……)


 秘密を知られたのもそんな、メアの明るくて気安い性格と、ノリの軽さのせいだった。



 第3関隊の関長に選ばれて、その立場にも慣れてきたころ。

 仕事を終えて部屋に戻った後、普通に着替えをしていた。関長は一人部屋だったし、むしろ、一般騎士として三、四人で寝泊りしていた時から、バレたことはもちろん、バレそうになったことさえなかった。だから、部屋の中で着替えるのに何の警戒もしていなくて、特に隠すようなこともしなかった。しかもその日は、たまたま部屋の鍵を掛け忘れていた。

 だから、ちょうど騎士服も、汗を吸って汚れた下着まで全部脱いだタイミングで、数回のノックだけでメアが満面の笑みで部屋に入ってきたのは、本当に運が悪かったとしか言いようがない。

 そして、あの瞬間くらい、セルシィが絶望を感じた時もなかったけれど……


 六秒くらい放心したメアが、慌てて部屋に入ると鍵を閉めた。

 中に入るなり、両手も額も、当時長く伸ばしていた綺麗なブロンドも、魔法騎士最胸だった超乳も全部床に擦りつけて土下座したのを見たせいで、そんな絶望も混乱も、悲鳴を上げて泣き叫びたい衝動も全部、消えてなくなった。

 床に伏せた状態で、体全体振るわせて、顔が見えないのに大泣きしてると一目で分かる姿でひたすらに謝ってくる様は、謝られてるこっちが悲しく申しわけなくなってくる姿だった。

 同時に、メアなら秘密を守ってくれる――確信というより、無理やり言いくるめられたような感覚だったけど――そう信じられたから、メアを慰めて、事情を説明した。


 魔法騎士団には、女として入団したけど、本当は、生まれつき男だった。けど、生まれた時から違和感があって、それがガマンできなくなったから、加工士にお願いして、体だけ女にしてもらった。

 ちなみに頼んだ加工士の話によれば、そういう人間は割と珍しくないらしい……

 セリスは他に見たことが無いから、ただセリスが会ったことが無いだけか、外国の話でもしているのか、加工士が気を遣ってくれたのか、真相のほどは分からないけれど。

 元々かわいいと言われてきた顔を、より女らしくしてもらったのはもちろん、胸も大きくして、腰回りも、手も足も細くしてもらった。肩も丸く、お尻も可愛く、全部を変えてもらったから、下さえ隠しておけば、百人が百人見ても、女性だと思う見た目になっていた。

 できることなら、下も取ってしまいたかったのだけど……


 加工士いわく、過去にそうしたせいで上手く用を足すことができなくなって、一生不自由な思いをすることになった男がいたそうだ。男性器を無くしても、上手く用を足せるようにする方法は見つかっていない。後付けしようにも、【加工】はあくまで加工であって、復元とは違う。元々ある胸に脂肪を盛るのとは違って、そもそも無いものを付け足すことはできない。当然、男性器のような複雑なものを作り出すことは加工士にもできない。

 そんな話を聞いて、それでも下を取ってしまおうと思う気概や勇気は、セリスに持つことはできなかった。

 それでもセリス自身、第3関隊で働く身として、そういった【治癒】や【加工】ができないものかと調べたりもした。

 何なら、どうしても本当の女の子になりたかったから、【治癒】や【加工】を鍛え続けた結果、第3関隊、関長に選ばれた。それだけ【治癒】を鍛えて、【加工】についても調べてきたのだけれど……


 結果は見ての通り。

 そもそも、いくら体が変わっても、女になれるわけなんてないのに……


 そういった事情を、当たり障りがない程度にメアには話した。メアは泣き腫らした目を向けて、誰にも言わないからと約束してくれた。だからどうか、これからも友達でいてほしいとも……


 共通の秘密ができたからか、メアは今まで以上にセリスを気に掛けるようになった。たまに、気にかけすぎというか、気づいたらなぜかそばにいたような時さえあったけど、それでも私のことを、誰よりも心配してくれていたっけ……



 そんな親友から、手紙が【移送】された。場所は、北区の更に端、居住区を超えた先にある、一面砂浜が広がる海岸。明確にどことは書かれていないけど、広い代わりに見晴らしの良いのが海岸だから、深夜の暗闇でもなければ一目で人がいるのは分かる。

 まして、今は日が暮れたすぐ後の、まだ十分に明るさが残った時間だ。酒に酔っている自分にも、魔法を使うまでもなく見つけられるに違いない。


「……来た」


 そんなことを考えていた時に、向こうの砂浜から、黄色の騎士服が歩いてくるのが見えた。

 短い金髪。褐色の肌。低い身長。今さら見間違えるわけがない。

 歩きながら手元の魔法の袋に箒を納めていた彼女も、こっちに気づいたようで、歩きだった足を急いで走らせていた――



「えっと……お待たせ、セルシィ――」

「セリス……セリスィアン・リー」


 多少緊張しながらも、いつもの調子で声をかけてきたメアに対して、セリスが返したのは否定と訂正。


「あ、ごめん……えっと、セリ、ス――」

「……用件はなに?」


 ついてきてくれた青色の部下たちと同じように、呼びづらそうにしているが、そんなことはセリスの知ったことじゃない。早々に用件を済ませて帰りたい。

 口にはしないが態度で示して、話の続きを促した。


「いや、用件て、いうか、えっと……」

「…………」

「その……あの……」

「…………」


 言葉足らずな患者……

 言葉が通じない患者……

 言葉が整理できない患者……

 ケガや病気の痛みだったり。単純に頭が回らなかったり。幼い子どもだったり。そういう人間は第3にとっては珍しくないし、話すのも慣れている。今さら用件一つマトモに話せない人間との会話くらい、セルシィにしてみれば、ストレスにはならない。


「……帰る」


 もっともそれは、()()()()にとっての話だ。()()()にとっては、今さら診たくもない患者を診てやるのも、かつての仲間と顔を合わせるのも、声を聞くことさえストレスしかない。


「あぁ! 待って、ゴメン……さっさと言いたいことだけ言うから!」


 それを、理解していたはずなのに……

 メアは慌ててセリスの手をつかんだ。


「セ、リス……戻ってきなよ、魔法騎士団にさ」

「イヤ……分かったらもう、私に構わないで」

「イヤだ! 構う! 構うよ!!」


 まるで幼い駄々っ子のような……もはや外見のままだが――


「ウッザ……なんで私なのよ! 戻れるわけないでしょう!!」


 握られた手を振り払って――酒臭い大声で叫んでいた。


「誰にもずっとォ! 見た目だけでも女になれた時から、姉以外にはずっと隠してきたのに! メアは約束通り誰にも秘密にしてくれてたし、一人だけだからよかったのに! それが魔法騎士や、大勢の国民の人たちにまで知られてェ! 私が今どれだけ恥ずかしい思いしてるか分かってる!?」


 知られた秘密……

 隠してきた真実……

 メアの胸倉を掴みながら、止められなくなっていた。


「メアは良いわよねェ!? 悲劇の王女様!! 私なんか足もとにも及ばない秘密をお持ちでェ! 下賤な私なんかと違って高貴でご立派な生い立ちでェ!! お城から逃げる以前にはさぞ大勢の人たちに愛されていたんでしょう!? 初恋の男の子に告白した途端、その男の子や周りの大人たちから一斉に白い目で見られて、友達も全員離れていって、あげくイジメられて、仕舞いには、優しかった父親にまで蒸発された私なんかと違ってェ!!」


 気がつけば、メアにさえ話したことのない、忌々しい過去まで叫んでいた。


「分かってるわよ!! 自分がどれだけ人としておかしいか! 人間として出来損ないなのか!! 男の子はイヤだ、女の子になりたい、女でいたい――子どもの時からそんなことばっかり考えて! 考えてきたせいで、どれだけ恥ずかしい思いしてきたか! どれだけ人から変に思われたか!! そのせいで母は誇りにしてた仕事辞めなきゃならなくなって、母や姉と一緒に、この国まで逃げるしかなくなって、それでもやっと! 夢が叶ったのに――」


 ひとしきり叫んだ後は……涙の溜まった目で睨んだまま、語っていった。


「夢が叶って、誰からも男だっただなんて思われなくなって……姉を追いかける形で魔法騎士になった後も、自分のことを疑うよう人なんていなくて……自分は今、女として生きていけるって思うようになって……それでも、着替えるたび、トイレに行くたび、お風呂に入るたびに、自分は一生、男のままなんだってこと思い知らされて。それでも周りからは女だって認められて、恋もして、その恋に夢中になって、そうしてる間は、自分が男だっていうこと、忘れられた。このまま、女として生きていけるって、勘違いしてた……そんな恋した相手からは、とっくの昔にバレてたのに――」

「…………」

「これだけ女としても――人としても恥をかいた私が、今さら魔法騎士に戻れ? これ以上私に、恥の上塗りしろっていうの!? ふざけんじゃないわよ!! いつまでも親友ヅラして、私に付きまとわないで!! ウザいし、迷惑(やくたい)よ!!」


 最後に絶叫して。手を放して突き飛ばして。倒れたメアに、背を向けた。



 ――【炎極(エンゴク)】・爍熄煽灸(しきそくぜくう)



 北区に向かって歩き去ろうとした、セリスの前に、巨大な炎の壁が立ちふさがった。


「……なんのマネよ?」


 振り返ると――メアは杖を向けたまま、立ち上がっていた。


「君の気持ちは、よく分かった……言葉でいくら説得しようとしたって、意味がないってことも分かった……だから、無理やり言うこと聞かせることにする」


 燃え盛る炎に照らされて、浮かび上がったメアの目は、セリスへ真っすぐ向いていた。


「決闘は四日後……それまではお互いに手を出さない。そういう約束と聞いたけど?」

「そうだよ。だから、ちゃんと決闘申し込む。魔法騎士として……真騎士団の、セルシアン・リーにね――」

「だから発音……私がそんなものを受けると思ってるの?」

「受けないなら、その時こそ力ずくで、君を真騎士団から連れてく。それで約束が反故になったって構うもんか!」

「そんなこと……王女のくせに――女王の妹のくせに、許されると――」


「国や女王がどうなったって知るもんか!! ボクは君を連れてく!! ボクは、ボクの一番やりたいことやってやる!! 絶対に!! セルシィをここから連れ去る!!」


「…………」


 叫んだその顔を見て、分かった。メアの言う通り。これ以上、言葉では解決できそうにない。


「…………」


 だからセリスも、残っていた酒を飲みほして、空の瓶を投げ捨てて、眼鏡を外した。


「やれるもんなら――やってみなさいよ!!」



 ――【身体強化(しんたいきょうか)】ッ



 叫んだ後は、走り出した。

 強化された脚力と速力。酒に酔っていようが関係の無い魔法の力で、数メートル先に立っているメアの目前に、瞬時に移動。


「――【結界至(ケッカイシ)】・(まく)ッ!」

「ダリッ!」


 直後、メアに向かって右足を突き出す――


「おっさんの蹴り……そりゃあ、マネるか、大好きだったもんね――おっさんのこと!!」


 それをメアは、両手に握った杖の間に広げた、透明な膜で受け止めて、押し返した。


「――【炎至(エンシ)】・爆燦爛(ばさら)ッ!!」


 加えて、押し返した先に、最初よりは狭く小さく、だが熱く強い炎壁を広げた。それにぶつかる前に、セリスは跳躍し、炎壁を飛び越えた。


「手加減なし……私のこと思いやっているという顔で、私が火傷しようがお構いなし?」

「言ったでしょ? 無理やり言うこと聞かすって。第一、火傷くらい、セルシィなら余裕で治せるっしょ?」

「簡単に言って――」


 再び【身体強化】を施し、走る。炎を消したメアも、自身に【身体強化】を施すも――


(メア――アナタの得意不得意はよく知ってる。魔法騎士で最多の魔力を有していながら、女王と違って、『天』まで届いているのは【発火】と【結界】の二つだけ。他は『極める』どころか、『至って』すらいない――)



 同じ魔法を何度も使い続け、慣れることで、発動に100の魔力が必要な魔法を1の魔力で発動できるようにする。これがこの世界で一般的に言われる、魔法を鍛えるという工程である。

 鍛え続けた結果、実際に1の魔力で発動できるに『至った』魔法は、込める魔力を増やすことで、威力向上はもちろん、様々な応用を効かせることができる。

 至った魔法を更に鍛えて『極めた』なら、更に威力は増し、より広く大きな効果を生み出す。

 極めた魔法を更に高めた結果、『天』にも届く魔法を生み出せる。


 ()

 (ゴク)

 (テン)


 ちなみに、それら三つの言葉までが呪文であり、後に続くのはそこから繰り出される魔法の形を表したもの。唱える必要は特にないが、使う者が、これから成す形のイメージを明確化するため敢えて唱える、文字通り、技名である。


 それらを、国王の記憶を見て初めて知った葉介は、こう思った。


「上から、頂()()めるに()るか。覚えやすいな……」


 覚えやすいんだろうか……しかも、頂()ではなく、頂()である。


「てか、『極める』って、『至る』よりも意味合い強いのか? むしろ逆な気が……」


 ()より(ゴク)のが強そうだからである。


「ま、それ言い出したら『究極』って言葉は『完全』や『完璧』よりも上なのかって話になるか……」


 もっとも、現実には天どころか、至るまで魔法を鍛える人間さえ滅多にいない。理由は単純――そこまでする意味がないから。

 魔法騎士でもない一般人にとって、魔法は生活必需品の一つに過ぎない。幼いころから使っているうちに自然と鍛えられていたという例はある。が、普通にデスニマが発生する以外、基本平和なこの国で、わざわざ鍛えてまで魔法の威力を上げようと考える人間はいない。

 日常生活を送っているうち、せいぜい一つか二つ、至っていれば十分。極めた魔法があればラッキー。仕事に使えるなら重宝もされるが、そうでないなら宝の持ち腐れ。むしろ、知らぬ間に至ってしまっていた魔法をいつもの調子で使った結果、予想外の威力が出てしまって事故を起こしたという例さえある。

 ごくごく普通の善良な市民が、わざわざ私生活を不便にするような行為を好き好んで選ぶわけがない。

 魔法をそのまま武器にして戦う魔法騎士か、命からがら城から逃げ出した、国の奪還と復讐に燃える王女や女王でもない限り――



「だったら……私ももう! 手加減は無しよ――【移動至(イドウシ)】ッ!!」


 メアに、ではなく、燃え盛る炎に向かって魔法を発動。すると、砂の上を走っていただけの炎壁が動き出し、セリスの杖の先に集まった。


「うわッ!!」


 それを、メアに向かって振りぬいた。飛んできた巨大な炎の塊を、メアは寸前で避けることができた。


(【発火】じゃない……水や土みたいに、燃えてる炎を操作する魔法なんか無い。【移動】って、至ったらこんなこともできちゃうわけ!?)


 ある小男のように、複数の人形を精密に動作させるような芸当はできない。しかし、不定形なものでも大ざっぱに操ることはできる。

 洗濯物はもちろん、ケガ人や患者を安全に動かすために、第3たちの間で【移動】の魔法は日常的に鍛えられるものだった。


「――【移動至】ッ!!」


 そして、第3関長ともなれば、至っていることはもはや必然と言っていい。

 飛んできた炎に動揺し、よそ見をしていたメアはアッサリ魔法を受けて、巨大なデスウルフの親さえ縛りつける魔法に拘束される。

 拘束の次は、【移動】の魔法らしく、セリスのもとまで引っ張り出され――


 ガシャンッ――

 隠し持っていた新しい酒の瓶を、メアの頭に振り下ろした。


 ザクッ――

「……ぅぅぅぁぁあああああああああ――――――ッ」


 酒に濡れて、地面に倒れ伏したメアの、左足のひざ裏に、鋭利に割れた酒瓶を突き立てた。


「これで分かったでしょう? 私は戻る気なんかない。メアは私には勝てない!」


 叫び声を上げるメアに対して、酒瓶を握りしめながら、言い放った。


「足は治してあげるから、このまま帰って。二度と私に関わらないで」

「――イヤだ」


 痛みにあえぐ声で、それでもメアは、治癒も降参も拒否した。


「ひざ裏を刺したのよ? 関節の中でも大きくて複雑な部分。何の知識も無しに自力で【治癒】したりしたら、傷は治っても、マトモに歩ける保証なんてないわ!」

「イヤだ……!」

「城に残ったディックや、他の第3でも難しい部分よ! 私なら元通りに治せる! だからもう――」


「イヤああああああああああああああああああああああああ!!!」


 それ以上なにかを言われるより前に、メアは、セリスに飛び掛かり、つかみかかった。


「メア!?」


「このままお別れするくらいなら、歩けなくなった方がいい!!」

「なに言ってるのよ!? わけが分からない!!」


 そんな必死な叫びにも、セルシィが応える義理は無い。再び杖を振り、拘束されたメアの身は浮かびあがる。その拍子に酒瓶は抜け落ちたものの、代わりにメアの身は、海岸に叩きつけられた。


「私にどうしてほしいのよ? 私が戻って、なにしろっていうのよ!?」


 セリスが杖を上下させる度、メアの身も上下する。何度も、海岸に叩きつけられる。


「私が戻ったら、みんな今まで通り、私を女扱いしてくれるわけ? 私が女だって言ってくれるわけ? そんなこと、できるわけないじゃない!!」


 やがて、何度目か叩きつけたメアのもとへ歩いていき、胸倉をつかんだ。


「今までは誰も知らなかったら、女でいられた! けどもう、みんなが私のことを知った! 知られちゃったらもう、一生男でいるしかないのよ! 分かる!?」


 酒に濡れた髪。砂まみれの顔。それに向かって、何度も、何度も拳を振るう。


「女として生きたい! 男になんか戻りたくない! けど!! 周りはそれを認めてくれない!!」


 顔が腫れあがろうが、口が切れて血が飛び散ろうが、止まらない。


「なりたいものにもなれない――そうありたいって思うこともゆるされない、やってられないわよ!!」


 叫び、胸倉を両手につかんで、立ち上がり、持ち上げた。


「アンタが! 私にどうしてほしいか知らないけど!! もうこれ以上!! 私に構わないで!! もうこれ以上!! 恥ずかしい思いするのも!! 笑われるのも!! もうたくさんよ!!」


 メアの顔に唾と絶叫を飛ばして、力の限り、投げ飛ばそうとした。


「なッ――」


 その時、セリスの身に、何かがぶつかった。見えない何かの正体は、すぐに分かった。


「結界、いつの間に――ちぃッ」


【結界】に押され、倒れるも、すぐに立ち上がろうと――


「うわあああああああ!!」


 だが、立ち上がろうとした目の前にはすでに、メアが左足を引きずりながら走ってきていた。


「あああああああああ!!」


 すぐさま振られたセリスの拳を避けながら、セリスの身に抱き着き、押し倒した。


「【結界極(ケッカイゴク)】・大膜(おおまく)ッ!!」

「なッ――」


 つかみ掛かりながら、メアが叫んだ瞬間、押さえられた身に、ズシリと重量が上乗せされた。


(膜状の結界? 大きくしたものを、二人の身に乗せて――)


「~~~ッッ?!」


 と、思考している最中だった。顔の、鼻先に、強烈な痛みが走った。

 見ると――当人にとっても重たいはずの、大幕を持ち上げる、メアの頭が見えた。


(頭突き……そんなもの、【硬化】で固めれば――)


「~~~~~ッッッ?!!」


 そう、考えてはいる。実際にやろうと口も動かしている。

 なのに、できなかった。


(舌が、上手く動かせない……頭が、口元が震えて、舌が――)


「~~~~~~~ッッッッ?!?!」


 一発喰らうたび、思考が鈍っていく。メアの両手に押さえられた、メアより力があるはずの両腕も、上手く動かせなくなっていく。できるのは、持ち上がる頭を見上げることくらい――


(え、うそ……メアも、【硬化】使ってな――)


「~~~~~~~ッッッッ?!?!!」


「…………」


 それが、最後だったらしい。腕や体への重さは消え、同時に、上に乗っていたメアも、横に転がった。



「……セルシィ……生きてる……?」

「……メアこそ、今にも死にそうな声じゃない……」


【炎至】はセリスが魔法で飛ばし、【炎極】は、知らぬ間に鎮火していた。

 上って間もない月明かりが、並んで倒れた二人の、鼻血を流し、腫れあがった顔を照らし出した。


「どうして……?」


 泥臭い殴り合いを繰り広げて。溜めていたものを叫び吐いて。

 いくらか冷静になった頭で、セリスが発した言葉がそれだった。


「どうしてそこまで、私を……そこまで親友思いだったの? メアって……」


 誰かを大切に思うのは、人として当然だし、そのために行動することも、納得はできる。

 とは言え、自分とメアとの関係は、他より仲の良い友達。それ以上でも以下でもない。

 とても、国や女王である姉と天秤に掛ける価値なんか無いだろうに……


「……わたしの秘密も教えるよ」

「わたし?」

「正直、セルシィに比べたら、そこまで深刻でもないし、誰かに相談するほどのことでもなかった……けど、人に知られたら、割と恥掻く秘密――」


 突然変わった一人称を疑問に思う間もなく――メアは話した。


「わたし……ボクさ、レズビアン、なんだよね」

「え……」


 その一言は、セリスの視線を空からメアへ移すのに、十分に過ぎる内容だった。


「初恋はさ、お城で働く、メイドさんだった。すぐ辞めちゃって、名前も知らないし、今じゃ顔も覚えてないけどさ……その後も、恋って言えるような気持ちだったか分かんないけどさ、気になったのは、みんな、可愛い女の子だった……セルシィと違って、生まれた時から正真正銘、女の子、なのにさ……」

「…………」

「それで……」


 言いながら、腰を上げて、四つん這いになって、倒れるセルシィと、顔を突き合わせた。


「今は、誰に恋してるか、分かる?」

「――――」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 忘れもしない、メアが、セリスと初めて出会った日のこと。

 年齢も同じなら、魔法騎士になった時期も同じだった。

 加えて、魔法騎士になった理由も同じ。すでに魔法騎士として働いていた姉を追いかける形だった。更に言えば、二人とも特段、魔法騎士になりたかったわけじゃない。ただ、何となく姉のことを見ているうち、気づいたら自分も魔法騎士に――そんな、曖昧で漠然とした経緯と意思さえ、偶然ながら同じだった。


 そんな二人が出会ったのも偶然だったが……


 まだ今ほど魔法騎士が仇視されていなかったころ、メア自身を含めて十人以上はいた新人魔法騎士の中で、セリスだけは、輝いて見えていた。


 話しかけたい……

 声を聞きたい……

 仲良くなりたい……

 友達になりたい……


 メアの人生、これまで気になった女の子は何人かいたけれど、一目見た途端そう直感的に感じた人は、後にも先にもセリス一人だけだった。

 そんな衝動に任せて、メアはセリスに話しかけた。



「せる、し、あん?」

「セリスィァンです。セリ()スィ()ァン()

「せ、せり――せる、しぃ、あん?」

「……呼びにくいなら、セリス――」

「呼びにくいから、セルシィって呼んでいい?」


 挨拶と自己紹介の過程で、自然とお互いの名前を名乗った時。マトモに名前を呼ぶこともできず、あげく、話していたセリスの言葉にかぶせる形になってしまって、若いメアは慌てて謝ろうと思った。

 けど、謝るより前に、セルシィは笑った。


「セルシィ……良いですね! 私のことは、セルシィって、呼んでください」

「え? いいの?」

「はい! 私も本当は、自分の名前、可愛くなくて嫌いだったんです。セルシィ……気に入りました」

「本当?」

「はい! セルシィ……セルシィ・リー。私の名前です」


 その時のセルシィは、本当に嬉しそうにしていた。生まれ持った、大嫌いな男の子の名前じゃない。可愛らしい女の子の名前を付けられたから。

 そして、自分が付けた名前が、そこまで喜んでもらえたことが、メアも嬉しかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……私、男なんだけど?」


 もちろん、名前は元より、身体をいくら変えたって、それだけは変わらない。それでも、メアの気持ちもまた、変わらない。


「分かってるよ……そりゃあ、最初知った時は、驚いた。ショックな気持ちもあった……けど、うれしかった」

「うれしい? 私が男だったことが、嬉しいの?」

「そうだよ……男の子なんだから……女の子のわたしと、できちゃうじゃん。結婚」

「けっ――」

「セルシィの子どもも、産めるしさ」

「子どもっ――」


 一言、言われるたび、セルシィは聞き返して……メアは、笑った。


「……アハハ。ゴメン。分かってるよ。こんなこと考える時点で、セルシィにとって、メチャクチャ失礼だってさ。『女の子』のセルシィが好きなのは、強くて、男らしい、男だって、知ってたからさ……だから、ボクも見た目だけでも、セルシィ好みの男になりたかった。伸ばしてた髪の毛バッサリ切って、女としてはたった一つの取り柄だった、おっぱいだって取っちゃってさ……身長は伸ばせないって言われた時は、これ以上は無理なんだって、ショックだったよ」

「…………」

「けどさ、ショックとかいう前に、身長なんて伸ばしたって、どこをどう変えたって、セルシィが好きになってくれるわけないって、分かってた……分かってたけど、いざセルシィが、他の男のこと好きになってるの見たら、ジッとしてられなかった……おっさんが本当に、セルシィが好きになるだけの価値あるヤツか、確かめたかった。できることなら、追い出してやりたかった……セルシィのこと、一番最初に好きになったの、わたしなのに」

「メア……」


 いつか、どこかで聞いたセリフを、涙ながらに吐き出したところで……


「ゴメン……ゴメンね……」


 四つん這いのまま、流れ続ける大粒の涙を、必死に拭っていた。


「それだけ言いたかったんだ……セルシィが出て行っちゃう前に、気持ちだけ、どうしても……全然、気にしなくていいから、わたしが言ったことなんて――」


 元の口調に戻りながら、必死に、震える声を上げていた。


「ほんと、気にしなくて、いいから……わたしッ、ボクの、こと、なんか――」

「【治癒】」


 気にしなくていい――

 そう言い切るより前に、メアの身は、セルシィに抱きしめられて、左足の痛みが消え、ひざ裏のケガは完治した。


「セ、リス……?」

「……セルシィで、いい、です」


 涙ながらに、ずっと隠してきた本音を、さらけ出された。

 自分への気持ちを、真っすぐ訴えられた。



 そして、思い出した。


 魔法騎士になってから今日まで。

 仕事が辛くて辞めたいと思った時も。関長に選ばれて逃げ出したいと思った時も。日々のストレスとプレッシャーから何度もくじけそうになった時も。

 どんな時でもそばにいてくれて、話をしてくれて、励ましてくれて、私のことを笑わせてくれた。

 二人っきりで話す機会も多くて、ほとんど一方的に、愚痴や誰かの暴言を叫んだりしたこともあったけど、メアはイヤな顔一つ見せずに、黙って聞いてくれて、慰めてくれた。


 そうやってずっと、私のことを支えてくれて、守ってくれていた。



 そんな、メアのことが――



「私は決闘に負けました……勝利したメアの、好きにしてください」

「……いいの? 本当に?」

「はい」


 酔いも醒めて、戻った口調で返事をして、また顔を合わせる。メアの顔は、酒と泥と、鼻血と青アザと、涙と鼻水にまみれていた。


「それで……私をどこに、連れていく気ですか?」


 同じように、鼻血と青アザと、砂と泥にまみれた顔のセルシィは、いつも親友に話しかける時と同じ調子で問いかけた。


「……決闘のメンバーにも選ばれなかったし……正直、お城にも戻りたくはないんだよね……このまま、二人で遠くに逃げちゃう? いっそ、外国とか」

「お好きなように。メアがそうしたいなら、私もそうする」


 そんなやり取りをして、笑い声をあげる二人の間に、最初あった険悪さは無くなっていた。

 あるのは、仲良しの親友同士の間に流れる、柔らかな空気。そして、それ以上の間柄になろうとする二人の間に流れる、温かな雰囲気だけだった。




「…………」


 二人が何を話しているかは聞こえない。それでも、北区の陰から眺めているだけでも、二人が仲直りをして、より親密になったことは分かった。



「放っといてエエの?」



 そんなシンリーに、掛けられた声があった。


「あの二人……このまま駆け落ちしようとか抜かしとるけど?」


 魔法が使えない女王と違って、魔法でバッチリ聞き耳を立てていたメイランは、そう女王に尋ねてみた。


「別に……国を取り戻し、護ることは女王の仕事です。生まれつきの、おそらくは国内一の魔力の高さ以外、見る所の無い第二王女が一人消えたところで、大した損失にはなりません。魔法騎士の戦力も、十分足りています」

「実の妹相手に、ドライなんやね……」


 お互い敵同士。それも、頭同士。なんなら、魔法が使えない状態のシンリー女王は、メイランにとって恰好の獲物なのだが……手を出そうとしないのは、ついさっき取り交わした約束と、腐っても魔法騎士である矜持からだろう。


「そちらこそ、このまま行かせていいのですか? 実の家族でしょう?」

「それこそどうでもエエわ。治癒の腕は確かやけど、それだけやもん。あんな、男の子のくせに、いっつもウジウジ。関長にまで上り詰めておいて、自信も持てんとビクビク。誰かに助けてほしいって顔しとるくせに、隠すばっかりで本音の一つも吐き出さんで。そんなみみっちいアホ、家族としては恥やで。おらんくなってくれた方が清々するわ」

「……それで、大勢の前で、セリスィアン・リーの秘密を暴露したのですか? 彼の本音を引き出すために……?」


 その質問に対して……メイランは、答えることはしなかった。

 答えることはせず、無言で思考するだけだった。


(オカンや、あっしにまで気を遣うってか、引け目感じとったんはなんとなく分かっとったけど……ずっとそう思っとったんなら、ホンマもんのアホやで、セリス。オカンが仕事辞めたんも、この国に来たんもオカン自身の意思やし、そんな仕様もない理由で、親父があっしらの前から消えるわけないやろ……)


「いずれにせよ、二人が戦うことを望まないというなら、それは仕方がない。強制する力は、自分にも、アナタにもないでしょう。なら、尊重しませんか? 妹たちの意思を……」

「……せやな。別に、おらんくなっても、困るようなこと、あらへんしな……好きにしたらエエがな」


 いなくなられても困らない。消えてしまって構わない。

 二人とも、口ではそう言いながら……


「……ふつつかな妹ですが、よろしくお願いします」

「あっしに言うのん……こちらこそ、アホな妹ですが」


 二人とも、手を取り合って立ち上がる妹たちの姿を、見つめていた――



「……多分、今しか言える時無いやろうから、言うときたいんやけど」

「……?」

「……国王(オトン)女王(オカン)のこと、ゴメンな」

「…………」

「今さら、なに言うても言い訳にしかならんけど……あっしらとしては、戦争が終わってから冷遇されとった魔法騎士団のこと、少しでも良くして欲しかっただけやねん。けど、女王はんには簡単に会えやせんし、せやから、筆頭大臣に頼んで、なんなら、その訴えの矢面に立ってもろたらラッキーくらいには思ったんやけど。結果的に、あっしがクソババァそそのかして、殺させたんも同然や……今となっては、ホンマにあのクソババァの暴走やったんか、ホンマは誰かがそうなるよう仕向けたんか、真相は分からんけどな」

「……全てを信じることはできません。ただ、納得はしました。あの吐瀉物が筆頭大臣になってから、明らかに魔法騎士団にとっても悪い状態が続いていた。例によって、30歳を超えた人たちは城を追い出され、他に仕事も無く海外へ出ていくことを余儀なくされていた」

「…………」

「戦いを望んでいたにしても、全員が全員、そうだったとは考えられませんし、だったら最初から城を出ていくか、国内の有力者を脅すなりして、魔法騎士団の存在を優位にした方が、明らかに早く確実なのに、だ。それだけのことができる力を持っていながら、それをしなかった……少なくとも、初めのうちは、ここまで過激な行動に走るほど、戦いに飢えていたわけでも、ましてこの国や、(女王)のことを憎んでいたわけでもない。そうでしょう?」

「…………」


「謝罪は受け取りましょう――ただし、全てをゆるすわけではない。決着は、四日後の決闘で着けます」


「せやな……うん。そうしよう」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 こうして、若者たちの様々な思いや感情が渦巻く中で。


 四日という時間は、あっという間に過ぎていった――





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