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第6話  緊急案件

作中の数字はかなりテキトーです。

 大陸から離れた場所にポツンとたたずむ、小さな島の上にでき上がった島国、ルティアーナ王国。

 人口およそ4000、国土面積おおよそ800平方キロメートル。

 具体的な例としては、日本列島の国土の500分の1よりは広い程度。神奈川県と茨城県を足して8で割ったくらい。東京ドーム170000個分よりやや広い大きさである。

 国の大小はどうあれ、ここいらでは間違いなく最小の国と言っていい。


 とは言え、小さな国だからと言って、悪いことばかりとは限らない。

 現在の総勢170名。うち、第1関隊の人数は関長含めて39人。常にそんなギリギリでカツカツな人手をやりくりして、いくらかの例外は別にしても、全国の村々を回り、見張る。そんな無茶が成立できるのは、狭い島国ならではと言っていい。

 もっとも、わざわざそんなことをする以前は……


 かつて起きた戦争では、海に囲まれた小さな島国だったこともあり、周辺大国が始めた戦乱から、上手いこと免れることができていた。

 それでも、戦闘が続き、時間が経つごとに大きくなっていく戦争から、完全に逃げ切ることはできない。それを判断した当時の王は、国内の人材を集めて、魔法による戦闘をこなせる集団――現在の魔法騎士団の原型となった組織を創設。

 彼女らの国防行為によって、戦争が終わるまでの間、最小限以下の被害で国を護ることができていた。

 加えて、安定した気候と豊かな自然環境、それを活かした農業や畜産が盛んに行われてきたことで、世界中が混乱していた時期でも、狭小の島国とは言え食料自給率は100%超を維持してきた。


 戦争している大国からしたら、わざわざ相手にする必要のない小さな島国。

 だが、戦争に関わらない人々から見ると、知る人ぞ知るというレベルながら、豊富な食糧に恵まれた国として注目されてきた。

 そんな外国から見ても、この国で採れる食糧は味も品質も良いと評判であり、貿易においても、島の外から輸入が必要な品々と交換する価値のある、重要な商品として扱われている。

 更に言えば、それだけ自然に恵まれていながら、天敵となりうる野生動物としては、大きい物でもシカやイノシシ、ツキノワグマ程度。巨大な動物が数多く生息する大陸から見れば、個人による自己防衛レベルの魔法で十分に対処可能な規模でしかない。


 目を引く名物や観光地には乏しい。だが代わりに、年間を通して、豊富な食糧と確かな平和が保証されている。

 それだけに、かつては見向きもされなかったこの小さな国に、平穏を求めた国外からの金持ちたちが別荘を建てたり、仕事を引退した者たちが移り住んだり、戦争から落ちのびた兵士らが逃げ延びて辿り着き、保護された先が、このルティアーナ王国だったという話もある。

 そうして外からやってきた金持ちたちを迎え入れ、その子どもたちが大人になり、農業以外のビジネスにも積極的に取り組んだことで発展した結果、今の王国ができあがった。



 かなり今さらな気もするが……

 これが、この小さな島国である、ルティアーナ王国の大ざっぱな成り立ちの歴史である。


 そして、戦争が終わった後も、そんな平和は確かに維持されてきた。

 少なくとも、国を護る警察組織兼軍隊である魔法騎士団が、不必要だと断ぜられ、税金泥棒としての恨みを買うくらいには、平和は護られてきていた。



 そして……


 時代は流れ、たどり着いた現在――



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「関長会議?」


 ルティアーナ王国の中心に建立された、ルティアーナ城。

 城内に流れる川と、その前に建つ物置小屋。

 その物置小屋で寝泊りしている志間葉介と、その上司で師匠であるミラが、一緒に寝た翌朝に目を覚まして、葉介の作った朝食を堪能した後のこと。

 焚き火を消して、今日も仕事に勤しもうとした二人の前に手紙が【移送】されてきた。その手紙をミラが開くと、これから緊急の関長会議が開かれるとの内容だったらしい。


「関長会議って、そんな頻繁に開くもんなの?」

「ひんぱんに、じゃない……少なくとも、第1から第5の全員が集まってやるような、大事な会議は、よっぽど緊急事態でなきゃ、月に一回か二回、レイが定期報告に帰ってくる時だけ……たまに、連絡があって、第2から第5までの関長が集まる時はある。けど、こんなに朝早く、これから仕事って時に、集められたこと、ない……」

「てことは、今回はその緊急事態ってこと? 確か、昨日帰ってきてたレイ様は、リリア様たちと一緒に城に泊まってたんよね?」

「ん……」


 昨日の決闘会を終えた、その次の日に緊急の関長会議。葉介でも分かるくらい、慌ただしいことである。


「……で、その関長会議に、なんで俺が呼ばれてんの?」

「分からない……手紙には、ヨースケを必ず連れてこいって、書いてある」

「いよいよ魔法騎士、クビかな?」

「そんなわけ、ない……その時は、わたしが守る」


 言いながら……隣を歩いていた弟子の手を、それより小さな師匠の手が握りしめ、弟子も、握りしめ返した。



 歩いてきたのは、魔法騎士団が寝泊まりを行う騎士寮。そのすぐ近くに設けられた、木造の小屋。葉介も過去に一度だけ来たことがある。便宜上『関長室』と呼ばれているのが、葉介の住む物置小屋より更に小さな、この掘っ立て小屋である。

 ミラが前に出て、出入り口の前の小さな石段を上り、ドアを開いた……



「あらあらあら……ようやく到着? 第5関隊は待ち合わせのマナーも成っていないのねぇ~」



 ドアを開けて、中に入るなり、そんな偉そうな声が聞こえてきた。

 中に入って、ドアを閉める。様々な資料や地図、書類等、会議に必要そうなものが並べて置いてあるその場所には、関長会議の名の通り、ミラ以外に四人の関長が、中心のテーブルを囲み、顔をしかめながら椅子に座っていた。

 メアとセルシィは不快感、シャルは嫌悪感、レイは困惑……そんな四人の前に、分かりやすく――分かりやす過ぎるくらい、偉そうに立っている女。


 いかにも値段が高そうながら、お洒落だが礼儀も重視して見えるキレイな服装が、実際に偉い証だろう。そんな、せっかく高い金を出して用意したであろうお洒落で礼儀正しいキレイな服も、着ている本人の礼儀知らずな態度のせいで、物の見事に帳消しになっているのが笑えない。


 そんな、ただお洒落なだけに成り下がった服を着た、不必要なほど白く艶めく肌。長いまつ毛。艶めく唇。高い鼻。長く艶のある髪。見る者はもちろん、書く方すらクドイと感じるほど、美麗なパーツが寄せ集まってできた顔は、美麗には違いないが、人工的だと見て分かるせいで美麗以上の違和感が目立つ。

 身体の方もそう。極端に長く伸びた手足は異様に細く、ワザとらしくくびれたウェストの上下には、これまた極端に膨れ上がったバストとヒップ。印象は人によって違うだろうが、少なくとも葉介には、丸一日眺めていてもナイスバディとは感じられない、ただただ不快で不気味な肉体。


 上から下まで、不自然でクドイ美でできた、全てが作り物なことが一目で分かる。そんな女を目の前にして、葉介が思い浮かべた言葉は……


(整形依存症……)


 それがどういう病気か、葉介は名前以上の情報は知らない。まして、美容整形手術と魔法による加工では、一概に単純比較はできない。

 分かるのは、目の前のコレと似たような姿になった整形依存症の著名人を、実家のニュースかテレビ番組かで見た記憶がある、ということだ。


 綺麗なのに、気持ちが悪い……

 整っているくせに、しっちゃかめっちゃか……

 そんな顔に付いた、大きくて丸い両目が、たった今到着した二人を大いに見下している。


「なんでまだ残ってるのか分からない、第5関隊の関長様と……いつの間にか雇ってた、下品な戦い方する部下……」


 見下した目に続き、見下した声。見下した口調。それっぽく見えるクドイだけのエラそうな態度で、クドイ輝きと動きにピクつく唇から発しているのは、唇よりもクドイ言葉の嵐。


「随分と前に、レイちゃんを通して伝えたわよねぇ~? 何のために残ってるのか分からない隊に、これ以上人を増やす必要は無いって……どんな仕事であれ、今まで一人でやって来れたなら、一人でやれって」


 偉いくせに、第5の仕事も知らんのかい……そう思っていたら、そのクドイ目を、第5の関長から、第5の部下に向けられる。


「そのカッコつけのフード取りなさいよ」


 言われたので取ってやる――


「うわあ! 汚い! 隠しなさい!! 取ってんじゃないわよ!!?」


 言われたので隠してやる……


「レイちゃんや他の関長たちが持ち上げるから、一人くらい良いかって思って見てみたら……鼻はデカいし、ほうれい線は深いし、無精ヒゲまで生えて、一重まぶたなんて今時絶滅危惧種なのに……腹まで出てるじゃない!! そんな上着でごまかされないわよ!!?」


 汚いから隠せと言っていた割に、一瞬のうちによく見ているもんだ。


「……戦いも下品なあげく、顔までこんなに下品とか――魔法騎士団がこの城の顔だって分かってんの!?」


「…………」


 ミラも、他四人も、何も言わない……と言うより、実際は言い返したいところだが、言うだけ無駄だというのを悟って、諦めていると葉介は感じた。

 葉介としても、理屈や事実以上に感情で叫んでくる輩に、言葉は通じないことはよく知っている。


「そうでなくても、今時、子どもだって見た目綺麗に整えてるのに……」


 案の定、事実は口にしているが、そこに己の、イラつきとか怒りとか、感情が上乗せされているのが分かりやすい。


「魔法騎士でいたけりゃ、顔も体も今すぐ加工して来い! 見てるこっちが気持ち悪いし、この国の恥になるのよ!!」


「それはダメ……」


 クドクドヒステリックに叫んでいる女に、それまで黙っていたミラが、急に声を出した。


(止せ、ミラ……)

(余計な発言すんなし……)


 レイも葉介も同時に思ったものの、ミラに分かるわけもなく、続けた。


「ヨースケの強さは、鍛えた体の強さ……下手に加工なんかしたら、それが台無しになって、弱くなるかも……加工なんか、できない」


(だから、顔も体もこのままがいいって言ったのか?)


 納得したような、空しいような……

 様々な、少なくとも良感情とは言い難い思いが、葉介の胸に溢れた時……


「誰が喋って良いって言ったのよ? カスの第5関隊の分際で……」


 クドクドと……直前までのイラつきや怒りをそのままに、ミラにクドイ顔を近づけて、言葉を発した。


「分かってんでしょうね? カス一人しか残ってない第5関隊がなんで残ってんのか……レイちゃんが言うから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今時、魔法があるのに、原始的で下品な戦いしてる、そんなカスのアンタを残してやってるのは、ア・タ・シ……そのアタシに、口答えできる立場だと思ってんの? カス? ねぇ、このカス?」


 一言喋っては、ミラの身を小突く。クドイ顔をよりクドく、醜く歪ませて。イラついているようで、そのくせ、優越感に浸って、楽しそうに……


「……なに黙ってんのよ、カスの部下のブス? 何とか言いなさいよ」

「……っ」

「しゃべってんじゃないよ!! その汚い顔で!!」


 しゃべろと言っておいて、しゃべろうとしたら文句を叫んで、葉介の身を突き飛ばして。

 なにをしにきたのか知らないが、やっていることは幼稚が過ぎて、怒りを通り越して哀れみさえ感じてしまう。そんな人格を、この短時間で把握させられた。


「あー、もぉー、イライラする……この下品なカス、そのカスが拾ってきのは下品なブス……やっぱ、第5なんか今すぐ無くすべきなのよ。この二人のこともクビにして、一生城の敷地に入れないように――」



「発言を許可願います」



 この場の誰にも聞こえる声量で、ブツクサ独り言をほざいているクドイ女に向かって、レイが声を発した。


「あらあらあらぁ、レイちゃん……良いわよ、レイちゃんは自由に発言してちょうだい」


 直前とは打って変わって、声から怒りやイラつきは失せ、代わりに喜色を含めて、少しは普通になったと思った声が余計にクドく変わった。


「恐れながら、この二人に魔法騎士団を抜けられては、魔法騎士団の戦力は大きく落ちてしまうことに……それは、ワタシたち四人にとっても、看過できることではありません」

「あらあらあらぁ……だったら、また新しく人を雇ったら良いじゃない? こんな、いる意味のない下品なカスとブスじゃなくて、もっと若くて、容姿も戦いも美しい人間を雇って――」

「……それは、難しいでしょう」


 どこまでもクドく、下手に出ている女に、レイは更に言葉を重ねる。


「ロシーヌ様も、近年の魔法騎士団に対する風当たりはご存じのはず。全員ではありませんが、特に中高年を中心に、多くの国民が魔法騎士団に対して悪感情を懐き、それを原因にケガ人も出ている。そう言った出来事の影響もあって、この二年で、入団を希望してきた新入りは、二年前には僅か十人。例年逃げ出す者は珍しくありませんが、その十人のうち残ったのは二人だけ。そして、この一年間での入団者はゼロ……いえ、一人。特別な選考基準も設けず、希望者は皆迎え入れると言っているのに、騎士団入りしたのはそこにいるシマ・ヨースケ一人だけです」


 一気に説明されて、ロシーヌと呼ばれた女も、そのクドイ笑顔を歪めてしまう。


「おかげで、現時点でも魔法騎士団は人手不足の状態です。そして、ミラはいくら第5とは言え、関長を名乗るに相応しいだけの実力を備えている。ハッキリ言って、一介の魔法騎士五十人より、はるかに強い力を持っている」

「…………」

「そして、昨日の決闘会をご覧になったのなら、シマ・ヨースケの実力もご存じのはず。彼は騎士団入りして一ヵ月ながら、我が第1関隊を含む精鋭たちを、魔法抜きで打倒できるだけの力を持っている。この二人は、デスニマはもちろん、我が国に仇なすあらゆる敵に対する、重要な戦力となります」

「…………」


 言いたいことはあるようだが、レイに論破されて……と言うよりも、レイに見惚れ、声に聞き入って、興奮していることで、反論を敢えてしたくない。

 そんな様子のロシーヌは、しばらくレイと見つめあってから……


「……仕方ないわね。レイちゃんがそこまで言うなら――」


 と、レイに対しては終始、甘い声を上げた後……振り返って、緩んでいたクドイ顔をまた醜く歪めた。



「アンタたち第5(クズ)どもに、この城に雇われるだけの価値があるってこと、証明しなさいよ……できなきゃ今度こそ、この城から――どころか、この国から追い出すからな!!」



 叫びつつ、手元の資料を真ん中のテーブルに叩きつけて、関長室まで来た用件に入った。

 本題の説明は、時間にして二、三分。

 カスとブスと同じ空間に長居したくないというのもあっかもしれないが、その話の内容自体も、用件さえ伝えれば説明に時間は要さない内容。

 さっきまでのは何の時間だったやら……関長も葉介も、全員がそう思った。


「あー、それと、あー……なんだっけ? まあ、レイちゃん以外の名前なんてどうでもいいんだけど、アンタよアンタ」


 用件を終えて、小屋を出ていこうとした女は突然、ドアに手を掛けたままシャルに向かって声を上げた。


「アンタの所にも一人、30歳の女がいたわよね?」

「……29歳です」


「どっちでも同じよ!! 何度も言ったでしょう!? 気持ち悪いからさっさと追い出せって!! アタシがこの城にいるかぎり30歳超えが働くなんて許さないからな!! 分かった!!?」


 それだけ叫んで、今度こそ小屋から出ていった。



「だ、大丈夫、ですか? シャル、ミラも――」


 ――バキッ


 クドイ女が去った後。

 セルシィが心配そうにシャルとミラに話しかけるも――声が掛かるよりも前に、ミラはそばにあった棚を、力の限り殴りつけた。


 ――ガンッ


 棚が揺れて、上から振ってきた何かしらを、ちょうどそこに立っていた葉介が力の限り蹴り飛ばす。レイとシャルの間を通り抜けた何かしらは窓にぶつかり、突き破り、ガラスの割れた音と外の地面を転がる音だけが、小屋の中まで届いていた。


「あの女……殺してやる」

「落ち着けミラ……俺が殺す」


「二人とも落ち着け!」


 怒りと殺意をダダ洩れにする二人の肩を、シャルが慌ててつかんだ。


「じゃあ、二人で殺そ?」

「ノッた」


「ノッちゃダメー!!」


 今度はメアが、繋がれた二人の手を掴んだ。


「あの女、よくも、ヨースケのこと……」

「ミラをあそこまで侮辱するたぁ、命がいらん証拠よなぁ……」


「分かった分かった……お前たちの師弟愛のほどはよく分かったから」


 レイに、セルシィも加わり、関長四人掛かりで第5関隊の二人を諫めて……

 二人とも、どうにか落ち着きを取り戻した。



「……で、結局、誰? あの顔も性格もクドイヒスババァ?」

「……ロシーヌ・クラロッツォ筆頭大臣」


 名前までクドイ……一瞬後には名前を忘れた葉介に、メアが説明を加えた。


「簡単に言えば、この国の政治家で、一番偉い人」


 要するに、葉介の実家で言うところの総理大臣である。


「……そんな偉い人のクセに、第5の仕事把握しとらんのな……それは他の魔法騎士も同じか」

「……だって、あの人が魔法騎士で興味あるの、レイだけだもん。見て分かった通り、レイの大ファンだから」

「他の魔法騎士と同じか」

「アハハハ! 確かにね……」


 とにもかくにも、レイに対しては終始甘い声を出し、シャルが分かりやすく嫌悪を顔に出していた理由はそれで納得がいった。


「で、逆にミラっちのことは人一倍目の敵にしてる。そのミラっちがいる、第5関隊もさ?」

「第5関隊が、魔法騎士団のごく潰しだから?」

「遠慮なく言うね……けどぶっちゃけ、関係ないだろうね――」


 バッサリと言い切った葉介に苦笑しつつ、ミラのことを気にして、話し出した。


「ロシーヌおばさんは見ての通り、ブサイクな人と、魔法を使わない人が大嫌いなんだよ」

「ヨースケはブスじゃない……!!」

「分かってる……今の世の中、大抵の仕事や作業は魔法を使えば何でもできる。けどさ、仕事にもよるけど、手作業とか自分自身の感覚とか、そういうことにこだわる人も大勢いる。実際、そうしなきゃ上手く仕事できないって人だってたくさんいることだし……そういうのがゆるせない、魔法しじょーしゅぎ者っていうの? あのおばさん。だから同じ魔法騎士団でも、基本素手で戦ってた、ミラっちや、先代の第5関長のこと、そうとう嫌ってたみたいなんだわ」

「汚い顔を嫌うのは仕方ないけど、魔法が無くてもできる仕事にまでいちいち魔法を使えっていうのは愚かだね。魔力だって有限だっつーのに」

「確かにね……けどさ、それに共感する人も結構いたんだ。特に、子どもには危ないからって、魔法なんて使わせない、教えない、習わせないって、子どもの時に今のお年寄り世代から、魔法を使うの禁じられてた世代の人たち――今の三、四十代たちには、特にその意見は共感されてたみたいだよ」


 子どものうちに禁止されていたものを、大人になった途端、狂ったように求める。葉介の実家でも、よく聞く話ではあるが……


「今の三、四十代って……もしやして、あのおばさんか? 今の失業者に溢れたこの国を作ったのは?」


 ミラを除く全員が、苦い顔を浮かばせた。


「魔力は30歳前後で絶頂期を迎え、そこからは歳と共に減少していく……加えて、年齢を重ねることによる容姿の劣化、老化自体、あの女は嫌っている節がある。その昔、ヤツが筆頭大臣になった途端、周りの制止も聞かず、城で働いていた30歳を超えた者たちを、わずかな教育係のみ残しクビにしてしまったそうだ。城内のメイドや使用人はもちろん、政治家、当然、魔法騎士もな……そして、それを知った愚かな世間の連中も、マネして若い連中のみ雇い、30歳を超えた人間は問答無用で解雇する。そんな図式ができあがってしまった」

「国を護る魔法騎士団が、若者たちばっかな本当の理由はそれかい……」

「ああ……さっき見た通り、同じ理由で、第2(うち)のリーシャさんも、30歳になる前にクビにしろと、30歳に近づくごとに声を上げられている」


 本人はやる気も元気もある。加えてまだまだ若い。だけど、いらないから追い出してほしい。なぜなら、もうすぐ30歳だから……

 シャルが、あのおばさんのことを嫌う理由が、レイのことに関してだけではないことがよく分かった。


「……て、おれ31歳だけど?」

「ん……言わなきゃ平気。今時、見た目で歳なんて分からない」

「あっそ……そんだけ一丁前なこと起こして、社会まで変えちまって……そういう自分は何歳(いくつ)だって話だわな?」

「聞いたことないけど、少なく見積もっても40オーバー、もしかしたら、50行ってんじゃないかな?」

「バッカじゃなかろうか……なんでそこまで魔法と、あと、顔にこだわるかねぇ?」


 ハッキリ言って、あのクドイ顔と身体とここまでの話から、その理由も大方の想像はつく。そしてメアは、正に葉介が想像した通りの、ロシーヌの過去を語って聞かせた。


「言ったでしょう? 昔は、魔法自体は否定しないけど、危ないから子どもたちには使わせたくない、使いたくないって考える大人たちは結構いた。あのおばさんの親も、そうだったらしいよ? で、あのおばさん、今でこそすごい顔してるけど、生まれつき、かわいいとは言えない顔だったみたい。更に不幸なことに、周りの家はとっくに魔法を受け入れてて、顔も体も綺麗に整えて、オマケに簡単な魔法なら許されてた子どもばっかだったんだってさ……それで、自分は魔法を使ってもらえないせいで、顔は汚い、習わせてくれないから魔法は使えないで、辛い子ども時代を過ごしたみたい」


 そして、それが大人になって、ずっと習いたかった魔法を習い、顔も無事【加工】したことで、とにかくブスを嫌う、魔法至上主義者の出来上がり……

 どんな経緯からあんな極端な人間ができあがったのかと思えば、幼少期のトラウマ+同族嫌悪。そこから来る自己満足。自分勝手な理屈を並べる老害の典型である。

 そして、結果的にやっていることは、自分と同じ世代の人間を、顔が汚い以上に深刻な状態へ貶めること――むしろ、子ども時代の自分をひどい目に遭わせたヤツらに対する、復讐も兼ねているのかもしれない。

 縁もゆかりも無い、その他大勢を巻き込んで……


「で、魔法騎士団はあんな女の言うこと聞かにゃあならんのか?」


 素直な疑問を尋ねてみたら、四人とも、顔をしかめた。


「オレたちは所詮、雇われの身だ。ロシーヌ様は、この城、この国でトップの権力を握っている。実際、それに見合っただけの政務も取り仕切っている。力量や能力、実態はともかくな……そんな人間に、逆らうことはできない」


 レイの言葉に、他の三人も、そしてミラも、同じような反応を見せた。だが葉介は、疑問を浮かべた。


「トップ? トップは王様か女王様じゃないの?」

「国王はいない。元々、政治には口を出さなかった上、随分昔に病没されて以降、ずっと不在だ。女王は立派な人だったらしいが、同じく病に倒れて以降、ずっと姿を現さず、政治にもほとんど関わらん。だから実質、この国の政治的トップは、あの女で間違いない」

「……それ、女王陛下もすでに御隠れになられてない?」

「オカクレ……どこに隠れると言うのだ?」


 どうやら、葉介の実家独特の言い回しは、ココでは通じないらしい。なので、もっと分かりやすく尋ねることにした。


「女王もとっくの昔にくたばってない?」

「言い方……それは無さげ。本当にたまにだけど、政治で必要なことは発言してるらしいし、こないだ、森での作戦から帰ってきた後、ご馳走振舞ってくれたの、女王様の計らいらしいし。森での作戦や、第2関隊への特別報奨金もね」


 メアが答えてくれて、葉介も、この話題はこれ以上聞いても無駄だと悟った。



「まあ、それはもういいだろう……そんなことより、お前たちの仕事の話だ」

「もう良いんじゃない? そんな仕事しなくたって」


 暗い雰囲気を変えようと、声を上げたシャルに対する葉介の言葉に、四人は目を見張った。


「第5を潰したいってんなら、潰してやったらいいんじゃん? それで第5が無くなって、後々困ったことになっても、それはこの城とあの女の自業自得なわけだし……まあ、もちろん――」


 そこで言葉を一度切って……四人の顔を見た。


「魔法騎士団が、俺はともかく、ミラを見捨てなければって、条件がつくけど」


 一ヵ月ほど前に、ある日突然この国にやってきた葉介からしたら、この国がどうなったところで嘆くだけの思い入れは無い。魔法騎士団も同じこと。仲良くしてくれる人、慕ってくれている人もいるが、出ていけ言われて、イヤだと拒むほど悔いも無い。


 悔いも、思い入れも、心配もただ一人……ミラの処遇。それだけだ。


「ダメ……」


 四人とも、そんな葉介の問いかけに答えようとした。

 だが、それより前に葉介に応えたのは、四人の関長ではなく、ミラだ。


「第5関隊は無くさない……第5関隊は、残さなきゃいけない……第5関隊は、わたしが、守らなきゃいけない」

「……そっか。申し訳ありませんでした。不躾な発言をしてしまいました」


 敬語になって、手も放して、頭を下げる。


「ん……ゆるす。でも、この次は、ゆるさない」


 ゆるしをもらい、頭を上げるが……その無表情は確かに、次は無い、そう書かれていた。



「じゃあ、早速仕事の話するか?」

「ん……」


 とりあえずは仲直りをして、二人してイスに座る。後の四人も、同じく座った。





さすがに狭すぎん?

と思った人は感想おねがいします。









数学と地理は苦手です。

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