第1話 弟子は師匠と共に
暗く。硬く。狭く。長く。冷たく……
音らしい音もない。明かりが差し込む隙間もない。だから、足音以外は聞こえてこず、自前の光だけが目の前を照らしている。
そんな光に浮かび上がっているソコは、ただ、大ざっぱに彫り出されて舗装された壁と、湿気のある土の道が、延々と続いている。
人間が四、五人並んで歩けるだけの幅はあるが、それでも暗さと天井の低さのせいで、本来以上に狭く感じられる。
そんなトンネルを、ミラは手に握った道具――割り箸程度の短い木の棒の先端に、光る白いピンポン球大の球体が付いたもので照らしながら、葉介を伴い進んでいた。
「……たまに見かけてた道具だけど、それなに?」
「『魔法の灯』……照らし球とか、光り玉とか、色々呼び名があるけど……要するに、箒や絨毯みたいに魔力を貯めておいて、【光源】を発動して、目の前を照らす、魔法の道具……一番小さなこれ以外にも、ランタンとか、たくさん集めてシャンデリアにしたり、色々ある」
「なるほど……にしても、この道どこまで続くの?」
二週間の修行。森のデスニマ退治。三日間の別隊での仕事。
それらを終えた今日。
ようやく葉介は、自分が所属する第5関隊の仕事を教わることになったのだが……
「突然、お城の地下? に降りたと思ったら、たくさんのドアがある部屋に入らされて、そのうちの一つを開けたと思ったら、この狭くて暗い道を通って……この先に、第5の仕事があるってことでいいの?」
「ん……この道通らなきゃ、始まらない」
それなら仕方がない……そうは思うが、城内で場所も仕事も分かりやすかった第4や第3、城から離れはしたが目的がハッキリしていた第2とは違い、目的も分からなければ、場所さえまるで想像がつかない。
ただでさえそんな不安のさ中なのに、この暗くて狭い空間を延々歩かされているせいで、不安に加えて余計なストレスまで感じてしまう。
「すぐ慣れる……わたしも、何度か通って慣れた」
そんな弟子の心中を察してか、前を歩く若い師匠は、そんなことを語りかけた。
そこからも、特に何を話すでもなく歩き続け……
軽く一時間は歩いたろうか? そう感じた辺りで――
「ん?」
随分と前から、光が上から漏れているのが見えた。その光に近づくと壁があり、ツタがまとわりついた、ハシゴが掛かっているのが見えた。
「ここが出口……」
灯を消して、ポケットにしまう。そのままハシゴに手足を掛け、葉介も続き、二人して昇っていき――
「……ここは?」
ハシゴを昇った先の、出口を閉じる木の板をずらして、出てきた先。
キッパリと言ってしまえば、森の中だ。それ以上でも以下でもない。
上も左右も前後も、緑に包まれている。上を包むように伸びている木々の隙間からは、青い空が見えて、そこから白い木漏れ日が漏れている。
周りは、背の高い木々が並んで、静かな風が草むらを揺らしているのを感じる。
下は、地面。落ち葉と雑草、それらの下に見える黒茶色の大地。
目で見れば済むそんなことを確認した後は――
「…………」
目を閉じる。呼吸も浅くして、周囲に意識を向ける。
聞こえてくる音を聞く。強くはない風が木々を揺らす音と、虫の音鳥の羽音が聞こえる。
薫ってくる匂いを嗅ぐ。湿り気を帯びた木と土の匂い。空気の匂い。花の匂い。
肌に伝わる感触を知る。涼しく爽やかながら、それに混じった暖かな日の光。
「ここって、もしかして……」
「ん……お前と最初に出会った森の、どこか」
少なくとも、この場所がピンポイントのあの場所、というわけでは断じてないだろう。たった今出てきた古井戸に見覚えは無いし、この辺りは比較的開けた場所だが、あの時の場所は、もっと木が伸びていた覚えがある。
それでも、足の裏の土や草、伸びている木の色、そして空気の香りが、あの場所と同じ、森の一部だということを教えてくれる。
「『外森』……お城の周り、走りながら見えてたでしょう? お城と、城下町を、丸ごとグルって囲んでる森。今通ってきたのは、大昔に、緊急脱出用に作られた、隠し通路。さっきのドアの全部、この森の、どこかに繋がってる……」
「……仕事って、ここでするの?」
「ん……」
「どんな仕事よ?」
「歩く」
一言で答えて――答えの通り、歩き出した。葉介も、その後ろに続く。
「歩くって、いつまで?」
「最低でも、日が傾くまで」
「歩いて、何するん?」
「何かするのは、何かあった時」
「ほぉ……その何かとは?」
「何かは、何か。色々」
「ほほぉ……色々、とは?」
「色々なこと……起きた時、何かする」
「ほほほぉ……何が起きる?」
ずっとこんな会話なのかなぁ……
そう思った時、立ち止まった。
「ん……あれ」
指さした方を見ると、そこには――
「犬、か……」
犬の死骸を見つけるなり、ミラはそっちへ歩き出し、葉介も続いた。
「この子を燃やして、葬る……――ッ」
言うなり、かなり短い杖を取り出して、呪文を呟く。すると、言葉の通り、犬の身は炎に包まれ、燃え上がった。
「……ミラも魔法の杖、使うんやね」
「ん……無いよりも、あった方が便利」
「やっぱ、そういうもん?」
「ん……【硬化】とか、【身体強化】みたいな、自分で自分に掛けるような魔法なら、杖が無くても、楽……【結界】とか、物を目の前に出す魔法も、一応、楽……けど、飛ばしたり、燃やしたり、字を書いたり、そういう物とか人に向ける魔法は、杖があった方が、魔力の調節とか、魔法自体の操作がしやすい。同じこと素手でやろうとしたら、変な方に飛んだり、炎が小さすぎたり、逆に大きすぎたり、字がゆがんだり、大きさがバラバラになったりする」
(まんま蛇口のホースかスポイトやな)
そんな会話をしているうちに、犬の全身は炎に包まれた。
「火事にならないよう、注意がいる……燃え広がったら、消すの、大変だから」
「……これが仕事か?」
燃え上がり、大きくなった炎は上へ伸びる。その炎が、森の木の下の影にいる、赤色の二人の顔を照らし出した。
「ん……放っておいたら、デスニマになる、かも……だから、動物の死骸は見つけ出して、駆除する」
「それが、第5の仕事か?」
ただそれだけの作業を聞いて……すぐに、その仕事の意味するところを理解した。
「このバカデカい森の中を、全部回って、動物の死骸を探すの……第5だけ、ミラ一人で?」
「今は、ヨースケもいる」
「そういう問題じゃなかろう……」
想像しなかったわけじゃない。
一つの部署として残されるくらいには必要とされ、だが関長一人いれば事足りる。
今までのミラの様子からして、毎日しなければならないような仕事でもなく、だがミラや葉介程度には体力を必要とする。
よっぽど後ろ暗い仕事か。よっぽどつまらない仕事か……
答えは、その両方だ。
(地味な上に、生産性もまるで無い。おまけに、城から遠く離れてる上に、監督する人間がいるわけでもない……)
「ちょっと聞くけど、もしここに来て、仕事せずにサボってるとして、誰かに咎められることは?」
「ない……」
まさかと思えば案の定、ミラは即答を返してきた。
「誰も見てる人、いない。魔法騎士も。国民も。見張る意味、ないから。一日中、森の中歩いて、死骸を見つけたら燃やす。もし、デスニマが出たら倒す。ゴロツキが出たら、それも倒す……」
「どれも無かったら?」
「歩くだけ……そんな作業を見張る意味、ない。だから、一日二日、森に行かなくても、なにも言われない。修行したりサボったり昼寝したり、そんなことしてても、文句、言われない」
「誰も内容を知らんわけだ……」
あまりの内容に、思わず頭を抱えてしまう。目を閉じてしまう……
「この仕事の内容、知ってる人間は?」
「シャル。あと、レイ……二人だけ」
「……だから、代わりをシャルに頼んでたわけか。メアとセルシィは?」
「知らない……話したこと、ない」
仮に話したところで、それでミラのことを非難するようなことはしないだろう。
納得できるかどうかは別にして、だが。
「……ヨースケは、第5の仕事、意味ないって、思う?」
「……まあ、必要なのは理解できるよ。体力が必要な理由も、分かった」
さっき通った、城からここまで繋がった脱出用の横穴。片道一時間ほどの距離。特に坂道になっていたり、足場が悪かったりするわけでもない、ただ真っすぐな道の通路。
葉介やミラは、普通に歩き通すことができるが、普通の人間には辛い距離。しかも、葉介目線で、人並み未満の体力しかない魔法騎士たちでは、あの道を通ってきただけで体力が無くなるのは想像に難くない。
それも、魔法を使えば解決はする。実際、リムやメルダも一緒に城下町を周っていた時はそれをしていた。
しかし、町の見回りはせいぜい午前か午後の数時間ほど。だがここは、朝から日の入りまで歩き回る。魔力量の基準も個人差も、葉介には全く分からないが、少なくとも最初の横穴ごときで魔法に頼っていたのでは、ここでの仕事なんかこなせるわけが無い……
「ん……それじゃあ、歩こう」
葉介が仕事を理解し、納得したのを見て、ちょうど死骸を燃やし尽くしたミラは、魔法で水を掛けてから立ち上がった。
そこからは本当に、ただ森の中を歩く、それだけだった。
城下町や、馬車から覗いた時に感じた通り……
森自体は、かなり広い。遠くから見ても分かるくらい、城下町とその周辺の平野を、町への出入り口の通路を除けばスッポリ覆えるだけの範囲と、それに見合った面積を感じさせる。
そんな森に生きる動物も様々で、三十分ほど歩いただけでも、野ウサギに野犬、シカを見かけた。
そういう動物を警戒して口笛を吹いたりしているが、ミラが咎める様子は無い。
代わりに、最初に見つけた犬の死骸以外、燃やすようなものもなく――
歩いている内に、気がつけば日が高く昇り、腹の虫が鳴くころになっていた。
「ここで休憩……お昼にしよう」
座るのにちょうどいい岩場で言われて、葉介もそれに従う。
ミラは、魔法の革袋からパンを二つ取り出して、一つを葉介に手渡した。
「…………」
「…………」
二人とも、特に会話は無い。食べ終わった後も、ただジッと、お互いを普通に意識する程度で、話すことはせず、時間だけが経っていく……
「……気になったんだけど」
先に沈黙を破ったのは、葉介。
「無心でミラの後ろ歩いてきたけど、帰り道、分かるの?」
城下町を囲んだ森である以上、歩いていればいずれ、城下町か、反対側の平原には出られるに違いない。だが、それをするにも、この森は大きすぎる。
「大丈夫……城への隠し通路の場所は、全部、覚えてる」
「この森のこと、全部覚えてるのか?」
「ん……全部、必死で覚えた。今は、一人で歩き回れる。どこをどう歩けばいいか、全部知ってる」
それを言う声色には、確かな自信と自覚が感じられる。
実際、ある程度広い森でも、何度も足を運んでいれば、覚えることは難しいことじゃない。葉介自身、実家にあった山の中を、散歩や遊びに何度も昇っているうち、どこを通ればどの場所に繋がるか。たまに間違えることはありつつも覚えることはできていた。
最近なら、住まいの川向こうに見える森も、ココよりだいぶ狭いとは言え、大よそどうなっているかは覚えている。
自然か町かでだいぶ勝手が違うのは間違いないが、空間を認識し、記憶できる能力を人間は持っている。
それも、何度も繰り返すことができれば、だが……
「ミラは、何年かけてこの森のこと覚えた?」
「……三年、くらい」
また、過去を思い出しながら、語り始めた。
「最初は、師匠についていくだけで、疲れた……何度も立ち止まって、転んだ。けど、師匠は、待ってくれなかった。姿が見えなくなったら、それだけで、怖かった。一生、会えなくなるって、思って……だから、必死で追いかけた。それで自然と、師匠が通ってた道、通る道、覚えられた……森の中も、頭に入った」
「そうやって体も鍛えたわけね」
淡々と。平然と。過去の仕事を語っていく。
「さっきも言ったけど、デスニマとか、ゴロツキが、出る時もある……そういうのも、一緒に対処する。そのために、鍛えた」
「この森で?」
ん……一つだけ、頷いた。
「けど、いくら体力や強さが身についても、たった一人で周るには、無理がありすぎる広さやで?」
内容だけ聞けば、確かに人手を割くほどの仕事には聞こえない。しかし、こうして実際に見て、やってみれば、全くそんなことはない。
「城下町でそうしてるみたいに、人数増やして、担当エリアを決めて見回りさせれば、短時間で森の全部を調べることだって難しくない。体力の問題だって、箒や絨毯使えば解決もできよう?」
「…………」
「そうした方が、今よりは確実にデスニマの発生を抑えられるんじゃないの? 少なくとも、俺が出くわした、デスウルフが親になって群れを作るまで放置される事態は防げる。防げなかったのは、ミラ一人じゃ限界だったからじゃないん?」
外から見えていたこの森の広さと大きさからして、丸一日使っても、徒歩で見て回ることができるのは全体の一割にも満たない。日暮れがタイムリミットなら、更にその半分程度だろう。
それだけあれば、たった一つ見逃した動物の死骸がデスニマになって、親に成長する時間としては十分すぎる。
「なんで人数も増やさず、箒も絨毯も使わない?」
「…………」
「できないのか?」
短い疑問を尋ねると……ミラは、ため息を一つ吐いた。
「レイも、シャルも、そう言ってくれた……二人から、上の人にお願いもしてくれた」
「結果は?」
「今まで一人でできてたんだから、必要ないだろうって……箒も絨毯も、必要ないだろうって、断られた、みたい……」
「やろうとはしてたのな」
「元々、デスニマの発生自体、増えてはいるけど滅多に起きないこと。発生したら、すぐに倒さなきゃいけない。けど、発生する前のことまで、考えたくない。お金かけたくない……それが、お城の本音」
「仕方がないことだろうが……それなら、なんで第5なんか作ったんだって話よな?」
「――――」
何気なく口からこぼれた、葉介の素朴な疑問。それを聞いたミラは、さっきよりも遠くを……と言うよりも、はるか過去、はるか昔、歴史を見つめる、そんな目になった。
「……魔法騎士が生まれた理由、聞いた?」
「周りの国が勝手に始めた戦争に巻き込まれて、生き残るために急造した。それで、戦争が終わって用無しになった後も、国民からの税金欲しさに残り続けた。そう聞いたけど」
「ん……それで間違いない」
葉介の認識を肯定して、そこから更に、発展させる。
「師匠は、戦争してた時代を知ってる人……師匠が言ってた。元々、逆だったって」
「逆って、何が?」
「魔法騎士の数字……その役割と、価値」
役割と価値……その二つの言葉を聞いて、瞬時に思い出す。
第1関隊――城下町から離れた、各地方の村々を守るのが仕事の精鋭部隊。
第2関隊――城や要人を警護するのを目的とした、格式高いエリート部隊。
第3関隊――他の部隊のサポートおよび、国民の病気・ケガの治療を目的とする部隊。
第4関隊――城下町の見回りと、城での書類整理を主とする落ちこぼれの集まり。
第5関隊――森の見回りが仕事。今や名前と関長しか残っていない消えかけの部署。
「昔は第1が一番下で、第5が一番上だった……そう言いたいん?」
「ん……第1関隊は、攻撃される心配は少ないけど、たくさんある村を護るために、あんまり強くない魔法騎士が割り当てられてた部隊。第2は、お城の中で、偉い人たちの相手をして、護るための人たち。第3だけは、役割も価値も、今と同じ。第4は、国で一番大切な、城下町とその周りを護るための部隊。で、第5関隊が……げ、げー、げーげ……」
「……迎撃部隊?」
「それ」
思い出し、肯定し、声を上げた。
(そう説明されると、順番はともかく確かに関所みたいやな)
「国の端っこ――国境、て言っても、海岸線だけど……そこを護って、敵が近づいたら、攻撃して、倒したり、追い返したりするのが目的。だから昔は、第1は下っ端の部隊で、第5が精鋭って、言われてた、みたい」
「道理で……なんとなく違和感感じてたけど、騎士服の色の意味はそういう……」
第1から順に、白→紫→青→黄→赤。
黄色は確かに黄色だが、白のような明るい色というよりも、赤色寄りの活発な印象の色だった。
逆に紫は、まるで花や虫みたいな、赤や青よりも、白寄りの淡い色合いをしていた。
数字が下がるにつれて色が優しくなり、上がるにつれて派手になる。それと、各部隊の重要度合いに漠然とした違和感を覚えつつ、特に意識してこなかったが……
今思えば、消えかけの第5が最も目立つ色をしているのは疑問だった。
「でも……戦争が終わって、戦う必要なくなった後は、価値観も、順番も、真逆になった。遠くの村を、少ない人数でもデスニマとかから護らなきゃいけない第1に、強い人を割り当てられた。第2は、人に余裕ができた後は、偉い人たちの相手もできる、お嬢様やお金持ちが選ばれた。第4は、町の見回りくらいしかすること無くなって、第5は――」
「仕事も居場所も、無くなった」
「ん……第1とか、他でやっていける人は、他へ行ったりしたらしいけど、元々、戦うために集められた連中。戦い方しか知らないような連中……そんな連中にできるのは、城下町がデスニマに襲われないよう、森の中を周って、死骸の片づけするくらい。すごくつまらなくて、第4よりも退屈で、しかも、疲れる仕事。サボったって文句言われないから、給料も他より、ずっと少ない……段々、城からも相手にされなくなって、精鋭って言われて集められたはずの人たちは、みんな辞めていった。それで最後には、師匠一人だけが残って、その師匠が、わたしのこと、拾ってくれた」
「なるほどねぇ……そのことみんな知ってるの?」
「それも、レイと、シャルにしか話してない……本当言うと、これが本当のことか、わたしも知らない。けど二人とも、一応、信じてくれた。メアやセルシィは知らない。多分、若い子は誰も、知らない」
詳しい説明を聞いて、大いに納得できてしまった。
時代が変わるのが常なら、それに合わせて人間や場所の価値が変わるのも常。
そんな、止めようのないものに流された結果が、ミラ一人しか残っていない、このつまらない仕事、というわけだ。
「俺以外に部下を持とうと思わなかった、本当の理由はそれ?」
「…………」
すぐには答えなかったが……視線を下げながら、語りだす。
「魔法騎士の中で、一番つまらなくて、一番疲れて、一番給料も安い仕事。それが、第5関隊。体力もそうだけど、続ける力がないと、絶対に続かない。わたしがいない時に変わってくれたシャルも、代わりに仕事してくれた後は、すごく、辛そうにしてた……他の誰もしたがらないだろうから、わたしがやればいい。わたし一人で、やればいい」
「――――」
「そもそも……人を増やしたいって言って、断られてる」
今まで頑なに、第5関隊の部下を持とうとしなかった、本当の理由……
つまらない。給料が安い。シンドイ。やりがいも無い。
唯一良い所があるとすれば、サボっているとしても咎められはしないということくらいだろうが、そんな、仕事と呼ぶには半端にすぎる環境で、やる気がもつはずもない。
それが分かっているから、人を増やす意味もない。
それ以前に……
「みんなに話したら話したで、批判とか文句も出そうやしな」
仮に、第5のこの仕事内容を他の隊にも知ろしめたとしたら、今度こそ、そんな部署いらん、潰してまえ、そんな声が上がるに違いない。ただでさえ、ミラがサボっていると思っているヤツは多いのだから。
第4とは違った形で城下町の住人を護っているという意味では、間違いなく必要な仕事だろうに……
「今まで、よくがんばったね」
ようやく、第5関隊という場所と存在のことを知って……そんな所でたった一人、今日までやってきたミラを見ていると、自然と言葉が口を突いた。
「……なに?」
「ミラは、よくがんばった……アナタはすごい人だよ。弟子として誇らしい」
「…………」
「けど、今は俺もいるから、せいぜいこき使いなよ」
「ヨースケ……」
「あなたの命令に従いますよ。ミラ様」
「…………」
ミラはしばらく、葉介と見つめ合った後……
「……どした?」
「分かんない……急にこうしたくなった」
座っている葉介に近づいて、抱き着いた。
「…………」
それ以上は、特になにもせず、なにも言わない。
頭にそっと手を添えてやって、ただ一言……
「四日前みたく、このまま寝んなよ」
そう言うと――ガバッと慌てて離れて立ち上がった。
「……そろそろ、休憩は終わり。早く行こう」
「了解しました」
無表情は変わらない。そんな無表情が、若干高揚している。態度も顔も慌てていると見て分かるミラに応えつつ、急いで歩き出したミラに続いた。
(寝落ちしかけとったな、コイツ……)
それ以降も、やることは同じ。今歩いている場所の隅から隅、草むらの中や、木の下、岩の近くとかにも目を通す。
途中で様々な野生動物を見かけるも、ミラも、葉介も、特に慌てることはない。
途中、イノシシに近づかれて身の危険を感じたりもしたが、落ち着いて対処すれば向こうから離れてくれた。
「ヨースケ……クマとかイノシシ、倒せる?」
「デスニマはともかく、生きてるのは無理かな……どっち道、武器がなきゃ話にならんし」
「そっか……」
「まさか、修行で生きたクマとかイノシシ、丸腰で倒してこい、なんて言わんやろうね?」
「…………」
「おい」
「それは無い……ただ、時々……本当に時々、人間の味覚えた動物は、出る」
「……そら出るかぁ」
そもそも動物の死骸なんか、葉介がいた山でさえ滅多に見かけるものじゃなかった。
他の動物に喰われたか。それとも土に還ったか。それは分からないが、デカい虫やデッカいミミズ、後は、せいぜいヘビくらい。車が通る道路や町中の方が、ネコとかタヌキの轢死体をよく見かけたくらいだ。
そんな葉介の感覚からして、最初の犬に出会えたこと自体、ほぼほぼ奇跡と言っていい。
だから、仕事とは言え、まさか二匹目の犬に出くわすとは、葉介も思っていなかった。
「さっきのよりもだいぶ小さいな。まだ子どもか」
「この大きさなら、デスニマになる心配はない……けど、葬ってあげた方がいい。ヨースケが燃やしてあげて」
「持って帰っちゃダメ?」
「……持って帰って、どうするの?」
「晩メシ」
「燃やしてあげて」
命令……そう言うので、従うことにした。
「土に埋めてやるのがベストな気もするけど……魔法使えねーしやな」
そう言いつつ……黒い上着の下に掛けてある、魔法の革袋を探る。
そこから……いつだかリムも使っていた、怪しげな液体の入った瓶を一つ、取り出した。
「もしかして、ここに来る前に渡された、これの使い時?」
「ん……『魔法の油』。かけたら、マッチ一本でよく燃える」
「へぇ……てか、マッチは今でも使われるのな」
言われた通り、蓋を開けて、子犬の表面全体が濡れる程度の量を掛けてやる。そこに、持ってきておいたマッチを一本擦って、投げてみる。
「うお!」
「かけ過ぎ……半分でも、多いくらい」
「早く言ってよ……まあ、実際に見なきゃ信じられんかったろうけど」
後はこのまま、子犬が燃え尽きるのを、待つばかり……
「ちなみに、この魔法の油ってのは――」
「食べたら、お腹壊すと思う」
「あっそ……火事になった時のための、魔法の水とかないかな?」
「そんなもの、ない」
「無いんかい。魔法でできるできないの差がよく分からんな――」
「ん……誰も分からないから大丈夫――」
二人でそう、会話をしつつ――
二人同時に、後ろに向かって裏拳を飛ばし――
「ぐぅふ――!!」
そこに立っていた男が、太い木の棒片手に鼻血を散らして、後ろへ吹っ飛んだ。
「……なんか、今の、初めてした気がしないんだけど?」
「わたしも……なんでだろ?」
二人して、なぜか感じる既視感の話をしつつ、殴った手を拭いながら、殴り飛ばした男の周りを見てみる。
「そう言やぁ、ゴロツキも出るんやったね」
「ん……久しぶりに見た」
杖を持った中年の男女が、全部で五人。
「ケガはさせたくない。大人しく帰れば見逃すけど――」
「ざけんなクソ魔法騎士!! さっさと死ねえええええ!!」
そう言うなり杖を向けて、【光弾】を撃ってきた。
「やれやれ……最初からそうすりゃ早かったんじゃないの?」
「目的は、憂さ晴らしか、八つ当たり。当たるかも分からない魔法より、直接殴った方が気持ちがいい……師匠がそう言ってた」
「バカの考えることは同じってことな」
ミラが【結界】を張り、葉介は手近の木に隠れる。背中を預けた木越しにも分かる、魔法騎士らには及びもしない、弱々しい威力の【光弾】だった。しかも、半分以上はあらぬ方向へ飛んでいく上、途中で呪文ではなく、汚い言葉を吐いているせいで、飛んでくる【光弾】の間隔もまばらになっている。
「城下町じゃ、攻撃されても魔法で仕返しするのは禁止って聞いたんやけど?」
「ここは城下町じゃない……他に見てるヤツもいない。だからアイツらも、好き放題に魔法を撃ってくる」
「そもそも、魔法必要ないものな。ミラも、俺も――」
木と【結界】の後ろで会話しつつ、葉介は革袋から、靴下を取り出して――
「フッ――」
木から飛び出して、投げつける。ぶつかった誰かは後ろへふっ飛び、倒れた。
「――――」
それに仲間が気を取られた数秒の間に、一気に距離を詰める。
残っていた全員、突然走ってきた葉介が一発ずつ殴る蹴るしただけで、杖を落として、地面に倒れてしまった。
「コイツらどうする?」
「杖だけ折って、放っておけばいい」
「また仕返ししにくるんじゃないの?」
「そんな根性があるくらいなら、こんな所に来ない。ゴロツキにもならない」
「どうかな、それは……?」
ゴロツキにしかなれないようなヤツほど、どうでもいいことに執念深い。葉介はそう認識している。だからどうせなら、二度とここへ来る気も失せる目に遭わせるべきとも思うが……
「今まで、ここで相手したのは、そんなヤツらばっかだった……森にも、城にも、仕返しにきたこと、ない」
「そう? まあ、ミラがそう言うなら」
言われた通り、杖だけ一本残らず折って、痛がりうなだれ、ゲロまで吐いているソイツらは放っておいた。警戒はしていたが、離れるまでの間、こちらに何かしてくる気配はない。
ちょうど、子犬の死骸も燃え尽きたらしく、土を掛けた後はそのまま歩き出した。
「修行の相手にもならんな」
「帰ったら、わたしが相手する……」
「ありがとうございます」
「だから……また技、教えてほしい」
「もちろん」
話しながら、取り出した靴下を振り回して、投げ飛ばす。ちょうど、起き上がろうとした男が握ろうとしていた木の棒にぶつかって、今度こそ、ゴロツキたちを退散させた。
「……それも教えて?」
「これは、魔法で良いんじゃないの? 杖は必ずしも必要ないんやろ?」
「教えて……」
「……良いよ。たくさんあるし。今後も、捨てる靴下は貰えることになったし」
そんなことがあった後も、二人がやることは変わらない。特に、どちらかが疲れて休む、ということもせず、必要以上に会話も交わさず、ミラはいつも通りに歩いて、葉介は、可能な限り森の中の見回りコースを頭に叩きこんでいく。
その間、撃退したゴロツキ以外で特にトラブルが起きることもなく、動物の死骸が見つかるということもなく……
オレンジ色に染まった空から、太陽が目の前に生える木の裏に隠れるまで、二人で森の中を周っていった。
「……今日は、ここまでにしよう」
「もういいの?」
「ん……明日からまた、別の場所、回る。最終的に、一人で回れるようになってもらう。そしたら、二手で見回りできる」
「……つまり、デスニマが出ても、一人で処理できるようになれってわけか」
「……わたしの弟子なら、そのくらい、余裕」
「分かりました。師匠」
いずれにせよ、これが第5の仕事であり、第5のやり方だというなら、葉介に逆らう気はない。
ミラの役に立つ。
今日、彼女がたった一人で全部をこなしてきた第5の仕事を知って、そんな方針が霞むどころか、ますます強まった。
「もっとも……数が多かったり、ヨースケには大きすぎたり、親が出た時は、一度城に帰ってきていい。大群は、わたしも一人じゃ辛いから……」
「それを聞いて安心しました……生きて帰れるのか知らんけど」
「……じゃあ、今日の仕事の、ご褒美」
突然そう言ったかと思えば、葉介をその場に置いて、走り出した。かと思ったら、走り去った先でなにやらデカイ音が響いて。直後、こちらへ歩いてくる足音が聞こえて……
「……もしやして、城の森にいたシカ、ミラが置いといてくれたん?」
小さな肩に、そこそこの大きさのイノシシを担いで歩いてきたミラを見て、葉介が思い出したのは――シカの、死か。
「……テストに合格したご褒美。何がいいかって考えてた。で、いつも食事がマズイって言ってたし。魚と草だけじゃ、辛そうだったから……」
「……この森から、わざわざ捕まえてきてくれたの? 朝っぱらから?」
見つけたシカを思い出しつつ尋ねてみる。体温も少し残っていて、死臭も特になく、虫も湧いていなかった。そういう過程が死後何時間で起きる物かは葉介も知らないものの、死んで間もないことだけは葉介にも分かった。
「朝じゃない……前の日に捕まえておいたのを、朝になった後で殺して置いておいた」
「てことは、テストの後でわざわざ森に戻ったの? 俺が夕飯作ってた間に?」
コクリ、と一つ頷いた。
「あの森に動物がいないのは、さすがに分かっちゃいたけど……ごめん、わざわざ」
「ん……あの森、どころか城にも、城下町にも、この森から出た内側の全部、【害獣除け】の魔法が掛けられてる。人間がわざと入れない限り、虫も動物も、入ってこれない」
「……けどさ、気持ちはすごく嬉しいけど、それならわざわざ森の中に置かなくても、直接渡してくれたって……」
「見つけやすい場所、選んだ。それに、ヨースケなら、見つけるって思ったから……」
「……見つける見つけない以前に、もし万が一、殺したシカがデスニマになったら――ミラなら簡単に倒せるか。シカなら俺でもギリ戦えるし」
「ん……もし、デスニマになった時は、責任持ってわたしが倒す。そしたら、シカも消えちゃうけど……何度でも取りにいく。師匠のわたしが、弟子に美味しいもの、食べさせる」
「……ありがとうございます。師匠」
魔法の話や、理屈の話以上に、一番言うべき言葉を贈った。
「……ていうか、首の骨折ったから、デスニマにはならない」
「ああ、首の骨か……骨なんやね、肝心なのは」
礼の言葉を贈って、ミラにも届いて、いよいよ帰路に着こうかというタイミングだった。
「――ミラ」
「ん……」
風向きが変わって……葉介も、ミラも、振り返った。
「臭いな……ただの死臭じゃないよね?」
この世界に来てからというもの、魔法が使えないながら、そう日数を置かないうちに、散々デスニマに関わってきた。おかげで、目の前の動物がデスニマかどうか見て分かるのに加えて、死んでから発する独特の匂いまで、区別ができるようになった。
「ん……臭い。しかも、一匹じゃない」
「数も分かるん? 距離が近いってことしか分からんけど……」
「それは、【探査】や【感覚強化】の有るか無いかの差」
ただ人より体を鍛えているというだけで、特別鼻が敏感なわけでもない葉介ごときの嗅覚では、風上の、それも、近い距離にデスニマがいると分かる程度が限界である。ミラも、魔法無しでは似たようなものだ。
「親?」
「多分、違う……親がいるなら、もっと匂う。一度に二匹とか三匹とか、一緒に出てくるってことも、無いことはない。五匹以上出たら、親がいる可能性は高い。十匹以上出たら、ほぼ確実。親は子供を生むし、小さいデスニマ以上に、そこにいるだけでデスニマができやすくなるから」
「追いかける?」
「大丈夫……デスニマは、生きてる動物――特に、人間がいたら、喜んで襲ってくる。放っておいても、必ずここに来る。来ないのは、火事から逃げてるヤツと、親だけ」
「待ち伏せってこと……魔力はまだあるん?」
「余裕……けど、まだ親になってない、小さいヤツ。わたしたちなら、魔法はいらない」
「そっか……」
そう会話している内に……
死臭と一緒に、足音も近づいてきた。ミラの言った通り、枯れ葉や草、木の葉が擦れあう音からして、大きさは普通だろう。だがそれが、一方は正面の、地上から。もう一方は、正面の、上から聞こえてくる。
二人とも、正面以外からは何も来ないことを観察しつつ……
「来た……」
一匹は、木の陰からサッと飛び出した。
薄汚れた白の毛皮に、目を真っ赤に血走らせ、異様に長く伸びた耳を揺らしつつ、前歯を光らせ跳ねている。大きなウサギ――デスラビット。
もう一匹は、木の上から枝を揺らしている。
ボロボロな体毛に、なぜか二本に別れた尻尾を揺らしている。以前、火事の森の中では見えなかった、いかにも狂暴だと牙を光らせているのがよく見える。サル――デスモンキー。
「二匹か……俺が――」
上着の下の、革袋に手を突っ込みつつ前に出た、葉介を、足もとにイノシシを置いたミラが制した。
「わたしがやる……」
「ミラが出るほどでもなかろう?」
「……戦わせるだけが、師匠じゃない。お手本見せるのも、師匠」
そう言うと、葉介をその場に残し、前へ進んでいく。
葉介から、ある程度の距離……目の前に生える木の一本の、すぐそばに差し掛かった時――
地上からデスラビットが、木の上からデスモンキーが、同時に飛び掛かった。
小さな女の子に、二匹の怪物が襲い掛かる。
普通なら目を覆いたくなる光景だが、その女の子は、ミラである――
「――――」
瞬きするかのほんの一瞬、葉介は、ハッキリと見た。
ウサギの牙と、サルの爪。同時に振われたそれらを、少し傾く程度の紙一重の動きでかわしつつ、ウサギは足で踏みつけ、サルは、右手に生えている木へ押し出しぶつけ……
それを同時にやってのけ、ウサギもサルも、同時に動かなくなった。【身体強化】はもちろん、【感覚強化】さえも使わずに、だ。
(カッケェ……)
右手と左足のデスニマが、杖無しの【発火】で燃え上がる光景を見ながら……
改めて、最初にリムと話したことを思い出す。
若くして関長の位を与えられたことで、妬みや嫉みの声も多い。第5の仕事が知られていないことで、批判の声も数多い。だが、その強さを知る魔法騎士らからは、憧れも向けられている。
もちろん、葉介と、他の若い魔法騎士たちでは、目線や見方はかなり違うだろうが、これだけの強い姿を見れば、魅せられないわけがない。強さだけ見れば、他を束ねる関長という位はむしろ、妥当以上に違いない。
「……ヨースケにも、同じこと、できるようになってもらう」
しばらく見入っていた葉介の耳に、静かな声が聞こえてきた。二匹のデスニマが燃え尽き消えたと同時だった。
「わたしが、できるようにする。約束する……だから――」
ミラは振り返り、葉介と真っすぐ、目を合わせた。
「だから……わたしに、ついてきてくれる?」
「もちろん――」
その右手には、さっき掴んでいたデスモンキーの、毛やら、泥やら、ホコリやら、悪臭やらが残っている。そんな強い少女の手を、手袋を外した素手でしっかりと握りしめ――
「シマ・ヨースケは、アナタについていきますよ。ミラ様」
気遣いも無い。ウソも無い。心からの本音で応えた。
最初の修行に合格した夜に、やり取りした時と同じ……
「…………」
ミラ自身、今言った言葉に根拠はない。
タダでさえ強いヨースケのことをこれ以上、自分がどうやって強くしてあげられるんだろう? 自分で言っておいて、今になってそう思った。
今、デスニマを倒した動き……ヨースケに出会う前なら、単純に殴って倒していた。それでも倒せる自信はあったけど、もしかしたら避けられたかもしれない。デスニマは獲物から逃げないけど、単純に時間が掛かってたかもしれない。
ヨースケに出会ってなければ……
ヨースケから教わらなければ……
足の使い方も、体の使い方も、木や地面の使い方も知らない。今みたいな戦い方を一生知らない、ただ闇雲に殴るしか能が無い、ただそれだけで満足していた。
そんな、マヌケなわたしの手を……ヨースケは、つかんでくれた。
デスニマと戦った後は、必ず手や体は汚れていた。他の魔法騎士たちとは違って、魔法を遠くから撃つより、殴る方が戦いやすいから。そうなるよう、鍛えてきたから。
デスニマを倒した後、賞賛してくれる子たちはたくさんいた。けど少なくとも、そんなわたしに触るどころか、近づくような子も、今までいなかった。
デスニマと戦って汚れた手。それを握ってくれた人なんて、師匠くらいしかいなかったのに……
「急にニヤついてどうした?」
「……! もう帰ろ――」
「急に慌ててどうしたん?」
「もう帰ろ」
握られたその手を放して、イノシシを担ぎ上げるなり歩き出した。
どうすればいいのか、ミラは分かっていない。
ただ、葉介の言葉に対する嬉しさに、今は満たされていたかった。
「てか、この森の動物は獲っても大丈夫なん?」
「ん……獲りすぎなきゃへーき。死骸が欲しくなったら、首を折って、持って帰っていい」
「子犬ぇ……」
歩いていって、辿り着いた先。ソコを覆っている草をどかすと、さっきと同じ、古井戸が出てきた。
「こんな所に抜け穴なんか作って、誰か忍び込んできたりしないのかね?」
「……抜け穴は全部、最初の道と同じくらいの距離。で、すごく暗い……仮に降りたとしても、進もうと思うヤツ、いない」
「まあ確かに、俺も仕事じゃなきゃ通りたくないけど。狭いし暗いし怖いし……」
「戸締りも、ちゃんとしてる。鍵が無いと開かない。魔法でも壊せない扉……」
「なら安心かね……ちなみに、間違って人が落ちるってな事故は?」
「ハシゴがあるし、こんな奥まった場所まで来るの、ゴロツキくらいだから大丈夫」
そこまで会話した後で、古井戸の中へ。ミラがハシゴで降りていき、葉介も、下から草で元通りソコを覆い隠した後で降りていった。
「で、またここ通って帰るわけか」
「すぐ慣れる……わたしも、何度か通って慣れた」
『話数が進むごとに文字数がどんどん増えてく病』
の治し方知ってる人いたら感想お願いします。




