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プロローグ③  弟子、師匠とお城へ

 半ば強制的に、赤色の格闘系魔法美少女への弟子入りが決まった葉介を連れた四色たちは、夕焼けもほとんど沈み切り、夜が近づいている森の中を進んでいった。


 先頭を紫、シャルロッタ・ヒガンテ――通称シャルが、杖の先を光らせて歩いている。

 その後ろに青色、セルシィ・リー。セルシィ。

 最後尾が黄色、メアルダ・クレイン――通称メア。

 そして、その前が赤色――ミリアーナ・ヴェイル。通称ミラ。

 葉介は、五人の中心――紫と青の後ろ、赤と黄色の前の位置を、逃げないよう見張られる形で歩いている。


 歩きながら、赤色――ミラは、言っていた通り、葉介の質問に答えてくれた。

 四人の名前。四人がどういう人間か。ここはどこか。なぜ葉介が襲われかけたか。


 この四人は、今向かっている城とこの国を護る、『魔法騎士団』として働いている。今いる森は、城下町、および城をグルリと囲む形で広がる巨大な森。ここに、葉介がほとんど倒してしまったオオカミ、デスウルフが発生したことで、駆除しにやってきたらしい。


 そして、彼女らが生きているこの世界では、魔法と魔力は当たり前に存在していて、誰もが生まれつき魔力を持って、自然と魔法が使えるようになる。そして、魔力が全く無い人間というものは、今まで確認されたことがない。だから、もしかしたら人間じゃない何かなんじゃないかと考えて、攻撃しようとしたそうだ。


 ……と、かなりざっくりした説明ではあるが、知りたかったことには答えてくれたので、理解した、と、葉介は思うことにした。



「その、デスウルフという獣は、頻繁に現れるものなのでしょうか?」

「ヒンパンに、じゃない。けど、デスウルフに限らないけど、一度現れたら、どんどん増えてく。早いうちに駆除しとくに、越したこと、ない」

「今回の場合、駆除は完了できたのですか?」

「ん……あいつらは、一匹の親がいて、それがデカくなったら、そこから子供が増えていく。親は命令して、子供が働く。親を倒せば、子供は全部、勝手に死ぬ。他に親がいる様子もない。だから、あれで終わり」

「ということは、私が最初に倒したのは……」

「子供。デスウルフの。親は大きくて少し厄介。けど子供は、大して強くない……」

「道理で……動物にしては弱すぎると思っていました」


 あれだけいたオオカミたちを全て倒して、少しだけ、自分なりに鍛えてきた身体に自信を持ちかけた葉介だったものの、その事実を聞いたことで、肩を落とした。


「私でなくとも、その気になれば、誰でも倒せるのですね」



「…………」


 そんな葉介の様子をうかがいながら、先頭を歩くシャルは、表情をしかめていた。


(弱いだと? 確かに大した敵ではないが、それは普通に……魔法を使って戦う場合においてだ。魔法も使わず、己の肉体のみで、子供とは言えデスウルフを……デスニマを倒すことができる者など、我々魔法騎士の中でも、ミラくらいしか……)


 ついさっき、全く反応できない内に掴まれた、右手首と、首。そこをなぞりながら、最初にデスウルフの群れと、葉介を見た時のことを思い出す。


 デスウルフに人間が襲われている。特に珍しい光景でもない。セルシィはとっさに助けようと言い、メアは突撃したくてうずうずしていたが、それを、シャルが制した。

 アイツらがあの男を仕留めれば、それを届けようと、親の元へ案内してくれる。それを追えば、わざわざ無駄な魔力を消費することなく今回の任務は終了する。

 それが作戦だった。任務遂行のため、一般人の一人や二人を犠牲に、見捨てることなど珍しいことじゃない。だから今回も、いつも通りそうしようとした。


 だが作戦通りにはいかず、デスウルフの子供は、この男がたった一人で、ほとんど倒してしまった。魔法騎士にとっても、群れで掛かってこられれば厄介なデスウルフの子供をだ。

 そして、子供の数が少なくなった時に自ら動く、親が現れ、今度こそあの男も終わりだと思ったところを、ミラが飛び出し、そして、今に至る。


(ミラが部下に欲しがるのも、分からなくはないが……魔法が使えない代わりに、これほどに強いということか? それとも、本当に邪悪な存在か?)


 その疑問の答えが、少なくとも、森を歩いている間に出てくることはなかった。



「なーにガッカリしちゃってんの、おっさん! メチャメチャ強いくせしてさー!」


 最後尾を歩いていたメアが、いつの間にやら並んできて、その背中を叩いた。


「50匹はいたかな? あれだけの群れに囲まれたら、ボクらだって危ないんだよ? それを、魔法も無しに、たった一人で倒しちゃうんだから、十分すごすぎだよ!」

「50匹? そんなにいました?」

「あれ? 70匹だっけ?」


「……23匹」

「細か……いつ数えたんですか?」

「お前が、一匹ずつ順に倒していったから、数えるのは簡単」

「なんだ、そんなもんか。けどそれでもすごいよ?」

「おだてなくても良いですよ。確かにアレくらいなら、私はもちろん、誰でも倒せるでしょうね」

「いや、アレくらいって……」

「そう。アレくらいなら、倒すのは簡単」

「ですよね。はぁ……」

「…………」


 途中でミラに遮られ、メアはそれ以上、何も言えなくなった。だが、メアもシャルと同じように、23匹ものデスウルフの群れを、魔法も無しに、たった一人で全滅させてしまった葉介の強さには、戦慄を……そして、それ以上の、感動すら覚えていた。



(自分の強さに、自覚がないんですね……と言うより、自信がないのでしょうか?)


 セルシィも、歩きながらそんな葉介の様子を見ている。

 肩を落とし、落ち込みつつメアの言葉に謙遜し、恐縮している中年男。

 さっきまで、向かってくるデスウルフの群れをなぎ倒していた男と同一人物とは思えない。それでも間違いなく、自分たちの仕事を楽にしてくれたのは、後ろを歩くこの男だ。

 魔力が無いことや、さっきシャルにしたことへの警戒は消えないが、本心ではそれ以上に……


(かっこいい……)


 裸足のまま歩いているせいで、時々、枝や石を踏んでは痛そうにしている葉介をチラ見しては、そう思っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ん……アソコ」


 歩いているうちに森を抜け、ミラが声を出し指さした場所。


(わーお! エウロペ!)


 それが、葉介が真っ先に思い浮かべた言葉だった。

 ファンタジーゲームとか、おとぎ話の絵本で見かけるお城。現実でも、名前は言えないが、げっ歯類で有名な夢の国とか、一世代前のRPG、写真だがネットの画像検索なんかで見たことがある、中世ヨーロッパ式の大きなお城。

 そんな感じのイメージにぴったりなお城が正に、彼らが見上げる先、小高い丘だか、山だかの上に建立されている。

 今はあいにく、陽も沈んでもうすぐ夜だが、それでも僅かに残る明るさの下からでも荘厳さは伝わってくる。昼日中の明るい中で見れば、さぞ壮観だろうな……

 葉介は、そう思った。


(得体の知れんバケモンに、魔法、美少女、で、お城……中世ヨーロッパベースの、典型的なファンタジー世界みたいね。町とか生活水準を見んことには、中世だと断言はできんが、見た目まさに、お約束の『異世界』って感じだ、ココは)



「……お、帰ってきたぞ! シャル様!」

「メア様!」

「セルシィ様!」


 城を見上げて感動している葉介の声に、この世界で初めて耳にする、男たちと、女たちの声が聞こえてきた。

 全部で五人。男二人に、女三人が、馬車の前に並んでいる。

 全員、形やデザインはほぼほぼ統一されているようだが、この四人と同じ雰囲気の服を着ていて、それぞれ色が違う。紫色が二人。黄色が二人。青色が一人。


(わーお、美人揃い。男子はイケメンで高身長、女子はベッピンでスタイル良しって……もーイヤ!)


「こっち……」

「はい?」


 ミラに手を引かれ、下がった直後。笑顔を見せながらこちらへやってきた、若者たち。


「おかえりなさい! シャル様!」

「メア様、今日も楽勝だったでしょう?」

「セルシィ様、大丈夫でしたか?」


 目の前に立つ人間を敬い、慕い、憧れる。現代日本ではとんと見かけなくなった、爽やかで眩しい顔が、シャル、セルシィ、メアの三人に対して向けられている。



「あの三人の部下たち」


 後ろへ下がらせた葉介に対して、ミラはそう話しかけた。


「…………」


 それを聞いたところで、葉介は特に思うことはない。さっきも、弟子も部下もコイツ一人、つまり、ミラには葉介一人と言っていた。

 こういう光景も、彼女にとっては日常なんだろう。


「こういう時、わたしはいつも、邪魔者……」

「……まあ、今は私がいますから」


 笑いながら部下たちと話す三人を見ている、ミラに対して、葉介もそう語りかけた。

 それで無表情に変化は無い。何を考えているのかは、分からない。


「こんなおじさんで申しわけないですが……おかえりなさいませ。ミリアーナ様」

「……なんか、気持ち悪い……」

「よかった。私もです……」



「あれ? ミラ様、誰ですか? ソイツ」


 と、話している五人の内の、女が一人、二人に気づいた。

 その声を合図に、残りの四人も、二人の方を見る。

 葉介は、無難に会釈をした。隣のミラは、


「コイツ、ヨースケ。今日からわたしの弟子……部下」


 そう、ハッキリと口にした。


「…………」「…………」

「…………」「…………」

「…………」


 五人とも、その声に沈黙し、



「えええええええええ!?」「えええええええええ!?」

「えええええええええ!?」「えええええええええ!?」

「えええええええええ!?」



 そろって絶叫して、再び自身の上司へ向き直る。


「ちょ、本当ですか? シャル様?」

「……ああ。何度も聞いたが、本気らしい」

「いやいやいや! あり得ないでしょう! あのミラ様が……メア様、ウソでしょう?」

「いやー……ミラっちとは長い付きあいだけど、ウソじゃないっぽいよ?」

「今さらなんで? 私たちの同期にも、ミラ様の部下になりたいのを断られてる人、何人かいるのに……なんで今さら、それもあんな、チビで小汚いジジィが?

「失礼なことを言ってはいけません!」


 一人、葉介が密かに吹きだした声を、セルシィの叫び声がかき消した。


「……失礼しました、セルシィ様。あんまり驚いたもので……」

「分かればいいです……」


「さあ! 無駄話はここまでだ。全員、馬車に乗れ。城に戻るぞ」


 最後のシャルの号令で、四色の女も、五人の部下たちも、そして、葉介も、すでに運転手? のイケメン二人が乗り込んでいる馬車に、一斉に乗り込んだ。


(馬車に乗るほどの距離か?)




「…………」

「…………」


 人生で初めて乗った馬車。その揺れる感触や、そこから見える景色や人も、葉介は気にはなったが、最も気になったのは、ついさっき出会ったばかりの、若者五人分の視線だ。


 五人とも、あからさまに見てきこそしないが、時折チラチラと視線を向けていることは、割と鈍感な葉介でも気づいている。さっきの反応や話し声と言い、ミラが弟子を、部下を持ったという事実はよっぽどのニュースだったらしい。


 そんな好奇の視線に気づかないフリをしながら、誰がしゃべることもしない揺れる馬車の中で、葉介はただ、思っていた。


(男子の服装も、ぱっと見西洋風に見えて、形はカンフーっぽい感じなのな……)



 馬車に揺られること小一時間。夕陽の名残も失せて、黒と影だけの完全に夜となった時間。

 馬のヒズメの音、馬車の車輪のガタガタ鳴る音が同時に止み、正面から、ブルルル、という、馬の声が聞こえてくる。揺れていた感覚も消え、移動していた感覚も止まる。


「降りて」


 部下五人と、上司四人が馬車を降り、最後に赤色との二人だけになったタイミングで声を掛けられる。

 言われた通り腰を上げた。揺られていたせいか、立った瞬間にひざが軽く笑いだした。

 それでも普通に歩いて、馬車から飛び降りる。


(デカい城やけど、中はなんとなく狭苦しいな……)


 馬車で丘を上っていって、正門? を通った後も、しばらく走って降りた先。

 ここが城の中の、どういう場所かは知らない。下は普通に地面だが、最初から乗っていた二人が馬車を操って向かっていった先に、多分厩舎(きゅうしゃ)があるんだろう。

 逆方向や他を見渡せば、当たり前だが、そっち以外にも道はあるし、人工的な石造りの道もある。所々、場内のどこかしらへ通じているんだろう、通路やドア、窓も見えている。

 改めて、城を見上げてみるが、暗いうえに、距離が近すぎるせいでさっきみたいな全体像は見えないし、せいぜい、窓のいくつかから、おそらくは魔法の、小さな光が見えているだけ。


(さすがに電気なんか無いわな……まあ、これはこれで、貴重な体験だこと)



「お前はこっち……」


 周りを見ていると、そんな声が聞こえて、同時に手を握られた。


「シャル、メア、セルシィ……後は任せた」

「……まあ、いいだろう。だが、どこへ連れていく気だ? さっきも言ったが、私たちの部下と同じ扱いはできんぞ」

「大丈夫。みんなに迷惑かけない場所……」


 その言葉を最後に、葉介の手を引いて歩き出す。葉介も、大人しくミラに従った。



「足もと、気をつけて。この辺、夜はよく転ぶ」

「どうも……」


 言われた通り、足もとに気をつけながら、一歩一歩進んでいく。

 実際、転ぶのも無理はない。現代日本のように外灯がそこかしこにあるわけもなく、空には昇ったばかりの月が見えるが、周りが壁とか塀だらけなせいで足もとも見えない。

 実際、途中で石やら何かを踏みつけてしまって、素足にはかなり刺激的な道中だ。


「靴、後で渡す。他に、必要なものも……」

「……ありがとうございます。ミリアーナ様」



 そうこう会話して、しばらく歩いているうちに、城内の暗いエリアを抜けて、足が草地、それも、芝生を踏んだのが分かった。


「おお……」


 足の裏で分かった後は、目で見て芝生を認識した。

 昇ったばかりの月明りの下でも、そこが緑だと分かる。

 ゆるやかな斜面が正面へ下っているその先には、幅はそこそこあるが、大して深さを感じない、歩いて渡るには安全な程度の、川が流れている。その川に白い月と、白い星々が粒々と反射して、おかげでこの空間だけ、夜なのにかなり明るく感じられた。

 城は後ろにあるので見えないが、これはこれで幻想的で、ファンタジックな景色である。


「アレ……」


 川の方を見ている葉介に、ミラは一言だけ言って、歩きだした。景色に見惚れていた葉介も、ミラに続いて、そっちへ見える、小屋の方へ歩いていった。



「コレが今日から、お前の住まい」

「……中々、趣があるお住まいで」


 目の前まで連れてこられて、そんな感想を漏らした。

 月明りのみの暗い空間でも、目の前の木造小屋が、だいぶ古いものであることは分かる。板の表面は白っぽく乾燥しているし、下の方にはツタが絡まっている部分もある。

 形は縦長で、そこそこの大きさはあるようだが、使い道としては物置小屋がいいところだろう。


 と、住まいと言われた小屋を分析している間に、ミラは小屋のドアをひっぱり、手招きした。


「お邪魔します……」


 誰かが中にいるとも思えないが、反射的にそう声を出して、中に入る。


(おぉ……色々ある)


 最初に思った通り、どうやら用途は物置小屋で間違いないらしい。

 だが、目を凝らしてよく見てみると、所々ホコリを被っていて、人が度々出入りしている様子はあるが、あまり手入れはされていないようにも見える。物が散らかっている個所もあるし、たまに人は来るが、本当に必要な時にしか使われない。そんな雰囲気だ。


「この中にあるものは、好きに使っていい」

「好きにって、これ、全部この城の所有物でしょう?」

「大丈夫。わたしが許す。そもそも、わたし以外に来てるヤツ、見たことない」


(時々来てるのはアンタか……)


「それと……」


 話しながら、並んでいる戸棚をガサゴソと漁り、そこから、皿、ロウソク、マッチ箱を取り出していた。


(マッチあるんだ。ありがたや)


 ロウソクに火を点け、そのロウを皿に垂らして、そのまま皿に乗せた。


「わたしのことは、ミラでいい」

「分かりました。ミラ様」

「……様もいらない」

「はい、ミラ……」

「敬語もいらない。わたしに対しては、普通でいい」

「……んじゃ、遠慮なく。ありがとうね、ミラ。ここまで良くしてくれて」

「ん……」


 返事をしながら、ロウソクの皿を葉介に手渡した。


「ミラは、さっきの……紫色のご婦人みたく、光は出せないの?」

「出せるけど、今はできない。魔力切れ」

「へぇ……魔力って切れるものなの」

「明日の朝には、元通りになる。一日に使える魔力の量は決まってる。さっき、デスウルフの親をぶっ飛ばしたのは、『フルバースト』。強いけど、代わりに残りの魔力が全部なくなる、最後の手段……」

「詳しい説明ありがとう。まあ、魔法が使えない俺が聞いても、仕方ないかもだけど……」

「……あと、シャル。紫のご婦人は、シャル……」

「そうだっけ? 人の名前覚えるの苦手なんだわ。青色と黄色も、もう忘れた」

「……わたしは?」

「ミラでしょう? さすがに、お師匠になる人の名前だから、必死に覚えたよ。ド忘れした時はゆるしてほしいけども」


 キュルルルル……

 会話をしている最中に、そんな音が突然聞こえてきた。

 葉介の、腹からである。


「そうだった……俺、晩メシ作ろうと思ったタイミングでこの世界に来ちまったんだわ」

「……夕飯、持ってくる。靴に、着替えとか、布団も」

「あ、雑巾も四、五枚お願い。あとここ、バケツと、箒と塵取りとハタキある?」


 そんなやり取りを済ませてから、ミラは小屋から出ていってしまった。




「さぁーつてと……」


 改めて、ロウソクで小屋の中を照らし、今後の住まいになるらしい場所を確かめてみる。


「本当に色々あるな……電気も無いし、食料も無さげやけど、それなりの暮らしはできそう」


 どの道、こうも暗いと、ロウソクを使っても全てを確かめるには難しい。

 残りは明日にして、外に出てみる。


 まず、川を見てみた。さっき見て感じた通り、星と、緑と、川が作るキラキラした幻想的な光景は、ジッと見ていると、心が透き通っていく感覚がある。

 逆方向を見上げると、月の淡い光の下に、ドデカくて、立派な石造りの城郭がデンと立って、その荘厳さに身が引き締まる気がする。


 そんな、幻想的なファンタジー世界に身を置いてみて、感じること。


「テレビも、パソコンも、スマホも、ゲーム機もない。電気もガスも水道も、娯楽らしい娯楽も、多分ない。なのに……なんやろう、この開放感」



 平日は夜まで会社で仕事。休日は、疲れて昼も夜も泥のように眠るか、起きていても何もする気が起きず、スマホをいじるか、テレビやパソコンの前でジッと座っているだけで終わってしまう。

 そんなふうに生きてきた、物と便利さと多忙に溢れすぎた生まれ故郷に比べれば、全てが未熟で不便で不足し、何も無いのと大差ない。


 仕事も無い。

 楽しみも無い。

 この世界での過去さえ無い。

 先行きすら全く見えない。


 物の見事に何も無いおかげで、人生で感じたことのないくらいの身軽さを感じる。



 息を吸って、息を吐いて、また吸って、また吐いて……


 何度か繰り返すうち、直前まで感じていたはずの空腹は、不思議な満腹感に満たされていた。



「まあ……歯ブラシと、ウォシュレットも無さげなのは、ちと辛いかな」





コイツ、読めるぞ!

と思った人は感想おねがいします。

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