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第11話  炎上続行! 森林発光!!

 葉介の一連の行動が、後衛部隊に様々な感情を懐かせている間にも、当然ながら、前衛部隊の戦いは続いている――



「はぁ……はぁ……」


 第2の紫色の彼女は、戦いながら森の奥を目指し進んでいた。

 60匹以上のデスニマ。全部が全部、一匹の親から生まれた子供とは限らないが、間違いなく一匹はいる親を見つけ出し、倒すことができれば、あと何匹いようが少なくとも大半の子供は消滅させることができる。

 そのために、第2関隊、どころか魔法騎士団全体で見ても、葉介を除けば最年長の古兵(ふるつわもの)である彼女に限らず、腕に覚えのある魔法騎士らの中には、燃え盛る炎と、走ってくる子供の群れを押しのけて、森の奥へ進もうとする者たちもいた。


 だが、第一段階で木を伐採した箇所は、森の外周部分と、後衛部隊を並べた位置から、前方15メートルにも届かない範囲でしかない。

 また、伐採した木もまばらで更地になったわけでもなく、多くの木が残ったままでいる。

 そんな範囲から先は元の通り、木々やら植物が群生していて、そういう箇所から順に激しく炎を上げている。


 もちろん、勢いがあろうがすぐに燃え尽きるわけもなく、中途半端に燃えた木々は地面に倒れ、結果、地形や道の形そのものを変えてしまっていた。



「はぁ……はぁ……――ッ」


 たった今、飛び出してきたデスニマを打ち倒したところで、手近で倒れていない木にもたれかかった。

 呼吸を整え、鬱陶しげに汗を拭って、杖の先端を目の前に置き、呪文を唱える。すると、空気中の水分が集まり、一つの大きな塊となった。

【水操作】の魔法で空気中の水分を凝縮させ作り出した、あまり綺麗とは言えないその水の塊をすすり、飲み干して、息を整える。


「さっきの雷みたいな音……レイちゃんかしら? まあ、とにかく戻らないと……」


 デスニマを倒しつつ、通れそうな箇所を通って、それなりに奥の方まで進んでみたものの、それなりから先はもはや、木々と、炎で、通れそうな隙間はどこにも見えない。

 もちろん、魔法を駆使すれば、通り抜けることはできなくはない。実際、それなりまで進むまでにも、他にどうしようもない場合は、周囲の安全を十分に確認した上で、魔法を使ってきた。

 おかげで、戦闘と移動のために、だいぶ魔力を消費させられて、結果、これ以上は無理だと見切りをつけて、こうして元来た道を戻っているわけだ。


(ちゃんと戻ってるのかしら……そこがまず心配だわ)


 さっきも言った通り、激しく燃え盛る炎のせいで、わずかの間に道も、地形も、どんどん変わっていく。おかげで、通ってきて見つけた目印になりそうなものすら燃えてしまう上、炎と木々に囲まれていては方向さえ分からない。


(でもまあ、一応、あたしが魔法でどかした木も見つけたし、このまま真っすぐで、間違いない、とは思うんだけど……)


 休憩しながらそう判断した後は、歩き出そうとした。

 そんな彼女がもたれかかっていた木も、幹の部分はともかく、上の部分は燃え上がっている。やがて、葉の部分はもちろん、枝にも炎は燃え移り、枝の脆くなった部分は、やがて自重を支えられなくなり――


「……ッ!?」


 バキバキッという音に上を向いた瞬間には、すでに燃えた枝が落下していた。

 デスニマを警戒し、前後左右を見回していたが、上からの反応には遅れた。

 すでに避けるのは間に合わない距離で、できたのは、顔を両腕で覆ってしゃがむことだけ……



「……?」


 枝が落ちてくる音が聞こえた。だが、その枝がぶつかって、やってくるはずの痛みや熱さは、来ない。


「……え?」 


 両手をどけて、目を開くと、そこには、黒いフードを被った男が、自分に覆いかぶさる形で、木の幹に両手を着いて立っていた。


「……熱っつい!! 熱っつい!!」


 すぐに木から離れつつ、背中やら手やらを手で払っていた。


「え、あ……」


「おケガはありません?」


「あ、ええ……」


 そうして、体に炎が残っていないと分かったようで、服装を整えだした。


「今みたいなことになって、とっさに逃げられないと思った時は、とりあえず背中を向けるのをお勧めしますわ」

「背中?」

「背中。背中の頑丈さは、正面の七倍という話なので。頭もかがめて、首をこんなふうに両手で守っていれば、なお良し」

「へぇ……何にせよ、ありがとう。確か、シマ・ヨースケ、だったかしら――」


 彼女が話している最中――

 そのすぐ左側に、斧が振り下ろされた。そして、彼女の足もとまで迫っていたデスフォックスを叩き潰した。


「ダリ! ダリ! ダリッ!」


 直後には、すぐ近くまでやって来ていた、新たな三匹のデスフォックスを蹴り倒した。


「おお……!」


 更に直後――森の奥から、倒れて燃えている木々を踏みしだきながら、こちらへ走ってくる巨大な影……


「デスホース……!」

「クマよりデカいな……!」


 女は焦り、葉介も慌てはしたが、すぐ冷静に、最初のデスフォックスを潰した斧を手に、歩く。


「ちょ、無茶よ! そんな斧じゃ倒せないわ!!」

「でしょうな。けどこのままじゃ、アナタが危ないでしょうに」


 そんな言葉に、女は初めて、自分が、この男に守られていたということを自覚した。


「アナタ……!」



 女の呼びかけには答えず、走りだす。クマは倒せたが、それよりデカい怪物に、葉介自身も勝てるだなんて思っちゃいない。彼女さえいなければ、どうにかしてやり過ごすことも考えたのだが……


(デスニマとしての、体の脆さに期待するしかあるまいて……ウマいこといくか――)


 あるか無いか分からない可能性に、ウマくいくことを期待しながら、立ち止まる。


「ダリダリダリダリ――」


 目と鼻の先まで、巨大な馬は走ってきた。そのタイミングで、体を左へずらしつつ、両手に握った斧を振りかぶり……



「ダリッッ!!」



 クマの時と同じ、だがより硬いものを、斧が通り過ぎていく感覚。

 と同時に、巨大な馬の、右前脚上部、馬体用語で言う右前腕を斬り飛ばした。

 結果、巨体を支えられなくなった馬は転倒、走っていた勢いそのままに地面を転がった。


「蹴ったり……駆けたり――」


 転んだ後もなお、立ち上がり、走ろうともがいている馬へ、今度は葉介が走り寄る。馬の目の前で足を止め、再び両手に斧を振りかぶり――



「ラージッ!!」


「バーンッ!!」


「ダリィィィイイイイイ!!!」



 今の若い子たちは知らないであろう、著名人の名のもとに振った、計三回の斧。

 バキリッという音と共に、馬の巨大な頭を斬り飛ばした。


「折れたぁぁあああああああ!?!?」


 そうとう無理をさせたらしい、斧の命と引き換えにして……


「OH NO……」



「えっと……大丈夫?」


 二つに折れた斧を両手に、哀愁漂わせる葉介に、女は話しかけた。


「……あれ? まだ逃げてなかったんです?」

「逃げるわけないでしょう……魔法騎士よ? あたし」

「……アナタは私を見て、軽蔑しないのですか?」

「なんで、あたしがアナタを軽蔑しなきゃならないの?」


 質問の意図も意味も分からない。そんな女に対して、葉介は説明することにした。


「さっき、後衛の方たちの前まで戻って、デスニマを三体倒しました。全員に軽蔑されました」

「はぁ? デスニマを三体も倒したのに、なんで軽蔑されなきゃなんないのよ!」

「倒した三体のデスニマは、騎士服着た人間のデスニマでした」

「ああ……その三人も、さっきみたいに、武器で倒したわけね」


 そりゃあ軽蔑もされるわ……

 最初聞いた時はおかしいと思ったものの、理由を聞いて、その場面を想像してみれば、それも仕方がないと納得させられた。


「まあ、どっち道、武器が折れちゃいましたから、戦闘不能ですけれども……」


 蹴りだけでもある程度戦えはするが、蹴りで倒せないデスニマとは、もう戦えない。

 不本意ながらも、戦線離脱するしかない。


 そんな現実に悲観しつつも……それでも今は、感謝する。


 今日までの自身の生活と、ここまでの戦闘を支えてくれた(マサカリ)に。



 そして他でもない……


 馬をも倒す力をくれた、偉大なりしダブルダッチに……



「大丈夫よ」


 落ち込む葉介に対して、女は、明るい声を掛けつつ、折れた斧に杖を向けた。


「――ッ」


 何度も聞いているのに、やはり聞き取ることができない。そんな呪文の直後、両手に持っていた斧が、ひとりでに動き出し、折れた箇所同士がくっつき、固定され――

 結果、折れる前の、元の形に戻った。


「おおー……すごい! ありがとうございます」

「こちらこそ、守ってくれてありがとう。でも、【修復】の魔法も使えないの?」


 女からのお礼と質問に、答えようとした、その時――



《皆さん、聞こえますか?》



「……!」

「え……セルシィ様?」


 葉介に、女、そして、森の中で戦っている前衛組、上で結界と炎を使う者たち、全員の耳に、その声は聞こえてきた。


《たった今、【探査】の魔法で森の中を調べました。現在、森の中に残っているデスニマは、六匹。これだけ倒せば十分です! 全員、今すぐ出口まで戻ってきて下さい》


「……これは、なんの魔法ですか?」

「なにって……【拡声】の魔法。声を大きく響かせて、遠くにいる人にも声を届けるための魔法、だけど」

「ほぉほぉ……」

「……アナタ、そんなことも知らないの?」

「うちの関長、なんっにも教えてくれませんもん」


 やや大げさな口調で、そんな文句を垂れている。そんな葉介の姿に、思わず吹き出してしまっていた。


「え――」


 吹き出した直後、胸倉を掴まれ、引き寄せられる。そのままひざを着かせられ、頭を胸に抱えられて。そのすぐ後に、小さな振動が伝わってきて――


「……熱っついッ!! 熱っついッ!!」


 葉介は悲鳴を上げながら、すぐさま飛び退きつつ服の炎を払いのけていた。


「火事なんだから! 頭上注意してなきゃダメでしょうがよ!?」

「ご、ごめんなさい……ていうか、あれだけしゃべってたのに、しっかり頭上注意してたのね」


 そのことに感心している間に、炎は全て払いのけたらしい。


「危ないなぁ、もう――これ、被っといて下さい」

「え――」


 涙目ながら、葉介は着ていた黒のパーカーを脱ぐと、女の頭に被せてやった。


「こんな物でも、無いよりはマシですので。汗臭いのはガマンして下さい」

「いや、でも……」

「出口まで歩けます?」

「え、ええ――」



 葉介に助けられ、会話して、その分休んで、笑ったことで、ここに来るまでに感じていた疲労は回復していた。おかげで、葉介と並んで、元来た道を歩いていくことも、苦に感じることは無かった。


「それにしても、魔法も使わずに、デスホースまで倒すなんて……アナタ、ミラ様の下でどんなことしてるの? 二回炎から庇ってくれた時も、熱い熱い言いながら平気そうにしてたし」

「ただ体鍛えてるだけですよ。あと厚着……」


 葉介との簡単な会話を楽しみつつ、歩いてきながら、斧一本でデスホースに挑んだ理由や、炎から庇ってくれた時のことを、頭に被った上着を握って思い出す……


「…………」

「どうしました?」

「……ッ、別に、なにも……!」


 思い出して、葉介を見ていると、若干の息苦しさと共に、顔やら総身が熱くなって……

 そうなってしまう原因が、この火事だけではないことに気づくのに、そう時間は必要としなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 やがて、セルシィの声を聞いた前衛部隊も、入り口に近い者から順に戻ってきていた。


 戻ってきた者のほとんどが、その場に座り込んだり、【水操作】で生成した水をがぶ飲みしたり、騎士服の上着を脱ぎだす者もいる。

 ケガをした者は第3関隊から治療を受けたり、熱さに参って体を冷やしてもらっている者もいる。


 戻ってきてから平然としているのは、ミラとリリアの二人くらい。


「……シマ・ヨースケは?」


 戻ってきて、リリアが最初にそれを気にした。


「……戻ってきてない」


 ミラも気づいて周りを見渡し、火事に振り返った。


「まだ、あの中にいるんですか?」

「まさか……デスニマにやられたりしていないわよね?」


 ひざに両手を着いていたメルダが漏らした、不安の声に、リムやセルシィはもちろん、レイも、誰もが信じられなくも不安に駆られる。


 葉介の実力は間近で見せられた。その驚異的な立ち回りも見た。

 簡単に倒れる人間じゃないと、この場の誰もが認めていた。

 だが同時に、一部の者たちは、彼が魔法を使えないことを知っている。だから、何かあれば、逃げることは難しいことも知っていた。


(ヨースケが、死ぬはずない……)


 それを、根拠も無しに思っているのは、この場ではミラ一人だけ――



「あ……あれは?」


 遠くで爆発音が聞こえたその時、正面の、炎の中から走ってくる影が見えた。

 影は二人分。一人が、もう一人を背負って、こちらへ走っている影だ。


「あれって……ヨースケ!」


 メルダが声を上げた瞬間には、頭に黒い上着を被った、紫の騎士服を着た女が、赤い騎士服の男を背負って走ってきている姿がハッキリと見えた。


「リーシャさんだわ!」

「リーシャさん……いなかったこと全然気づかなかった……」

「リーシャさん、その男のこと、助けていたの?」


 紫色の女を知る者たちが、そう声を上げていた。

 やがて、走ってきたリーシャは立ち止まり、おぶっていた葉介を下ろしてやった。


「……すみません、ここまで送っていただいて」

「気にしないで……本当はもっと、ノンビリ話していたかったんだけど」


 借りていた上着を返しながらの、そんな意味深な表情と発言に、リムは口をポカンと開き、メルダは苦笑し、セルシィは顔をムッとさせていた。


(てか、おぶってくれるなら、おぶられて上になる俺が上着着なきゃだったんじゃ……)



「……全員、揃ったな」


 前衛部隊16名、全員がこの場に戻ってきたことを確認して、再びレイが号令を掛けた。


「残りは確か、六匹だったな?」


「ここに戻ってくる時、一匹倒したわよ?」


 走ってきたリーシャの声に続いて、自分も、私もと、口々に言葉が連なった。


「セルシィの【拡声】の後で四匹は倒したということは、残りは二匹……一匹は間違いなく親だろう。親は前衛と後衛、全員で畳みかける――セルシィ!」


「はい!」


 セルシィは、杖を自身のこめかみに当てて、呪文を呟いた。



(メア、聞こえますか?)


 空飛ぶ箒にまたがって、森の上から【結界】を維持していたメアの耳に、セルシィの声が聞こえた。直前に使った【拡声】とは全く別。事前に話をしたい相手の魔力を判別し、その相手の頭に直接声を届ける、【念話】の魔法による声だ。

 メアは弾んだ様子で杖の一本をこめかみに当てて、呪文を呟いた。


(はいはーいッ!! セルシィの声ッ!! よーく聞こえてるよーッッ!!)

(うるさっ! もっと魔力を抑えて! ただでさえメアは人より魔力が高いんだから)

(アハハ、ごめんごめん……セルシィのキレイな声、バッチリ聞こえてるよー。【拡声】も、一言一句逃さず聞いてたよー)

(では、分かっていますね? 作戦の最終段階です)

(オッケー……けど、作戦会議の時点でも言ったけど、それをしたら最後、ボクら上の連中は全員、魔力が無くなって使い物にならなくなるからね?)

(分かっています。私たちは、ただ信じましょう。ヨースケさんの作戦を!)

(……はいはい、オッケー。全員、森から下がらせて!)




「よーし! 全員、作戦の最終段階、いっくよー!!」


 メアが、大声で号令を掛ける。その瞬間、結界内に炎を送っていた者たちもその場から離れ、森の先端の上空、レイたちの並ぶ出口とは真逆の位置に集まった。


「じゃあ全員、一斉に行くよ――」


 メアの号令のもと、箒にまたがった全員が杖を、結界に囲まれた森に向け……



「フルバースト!!」



 メアが叫んだ瞬間、淡く光を発する程度だった透明な壁が、眩い光を発し、森の輪郭をハッキリと浮かび上がらせた。

 その数秒後、【結界】の左右幅はそのままに、メアらの並んだ方向から、その長さを縮めていった。

 結界が通った後には、踏みつぶされて、消火はされたが灰となり、踏みしだかれた地面だけが残り、それが、徐々に、徐々に、レイたちの並ぶ、森の出口へ向かっていく。


 どれだけ広い森だろうと、【結界】に全てを包んでしまって、それを徐々に縮めていけば、森は結界に踏みつぶされて、同時にデスニマさえも踏みつぶすことができる。

 もちろん、それで確実に倒せる保証はないが、たとえ生きていたとしても、結界で押し出す以上、結界に踏まれて何もない更地に姿をさらすか、彼らの待つ場所に現れるしかなくなる。


 だが、タダでさえ巨大な森をスッポリ包むだけの【結界】を作りだし、それを維持することにも莫大な魔力を要する。そのうえで、その【結界】の形を丸ごと変えるとなると、上にいる者たち全員でフルバーストしなければとてもできない。

 正直なところ、たかが合計48人で足りるかどうかも怪しいと思っていた。だが、ゆっくりではあるが、【結界】は形を変え、縮んでいき、森を上手いこと踏みつぶしている。


(にしても、できるできないは別に考えたって言っても、よくこんな大胆な作戦思いつくよなぁ……セルシィが、好きになるわけだよなぁ)




「――ッ!」


 後ろに並ぶ青色の一人が呪文を唱え、杖を振う。すると、前に並ぶ前衛部隊の頭上から、大量の水が、雨となり降ってきた。

 火災の熱さに参っていた前衛組には正に、ささやかながらも恵みの雨となり、全員がそれに打たれながら癒される。


「――ッ!」


 直後、メルダも呪文を唱える。すると、魔法騎士ら全員の前に、美しく輝く透明な、氷が浮かび上がった。


「メルディーン家直伝、この国一番の氷よ。全員食べて、体と頭冷やしなさい!」


 その言葉に甘えて、ミラもリリアも、葉介も氷を取り、かじる。

 熱くなっていた体が瞬時に冷やされるのを感じ、体力を回復させることができた。



「……全員、戦闘準備!」


 上を見上げていたレイが、号令を掛ける。そこへ、箒に乗った者たちが、彼らの頭上へ集まってきた。


「ギリギリここまで【結界】を縮めた! 親が生きてたら、姿を現すよ!」


「【探査】! 上空部隊は、そのまま上空で待機!」


 第3の一人が、もはや森とは呼べない、横に広い二階建てのスーパーくらいにまで踏みしだかれ、縮んでしまった、小規模な雑木林に杖を向けて、呪文を唱えた。


 主に第3関隊が使用する、魔力や魔法の有無を、熱源感知のように探る魔法。だが、距離が離れ、範囲が広がるにつれ、使用する魔力や、探査に掛かる時間が増すのはもちろん、対象の数が多くなるほど、探査の正確さも曖昧になってくる。


 燃やす前の、巨大で広大なままの森では、下手な一般騎士は元より、たとえセルシィでさえ、デスニマの大よその数さえ把握することはできず、おまけに60匹やら100匹以上もいたのでは、せいぜい、デスニマの大群がいる、程度にしか認識することはできない。


 だが、対象の数が一桁にまで減った後の、目の前で僅かに奥行きを感じる程度まで縮こまった、これだけ小さな森ならば……


「……います。まだ一匹、大きなデスニマが残っています!」


 ほんの数秒目を閉じた後に聞こえてきた、その声を聞いて、全員が再び、身構えた。



 今度はレイも、前へ出た。

 リリアは杖を構え、ミラは拳を鳴らす。

 葉介は斧を両手に構え、リムとメルダも杖を握りしめる。

 後衛に並んでいた者たちも、作戦第四段階以上に、空気が張り詰めていた。


 陽は沈み、辺りは暗くなり、火も完全に消えた今、そんな森の中を、全員が凝視した。


「……ミラ様よ?」

「なに?」


 そんな張り詰めた空気の中で、不意に葉介が、ミラに話しかけていた。


「俺の感覚がおかしいならそれで良いんだけど……陽が沈んだ後の森って、あそこまで見えるもんかな?」

「……え?」

「いくら小さくなったと言っても、普通は木が密集してたら影になるよね? そんな森の奥がさ、こんなに見えるもんなんかね? 日暮れにもなってさ」

「…………」


 言われてミラも……葉介の言った通り、日が暮れて、光源なんかどこにも無い暗い中で、森の奥まで見渡せるその光景が、不自然なものだと感じた。

 ミラに続いて、横から聞いていたレイも……


「出てこないわね……本当にこの中に――」



「結っかああああああああああい!!!」



 リーシャが疑問の声を上げたのと同時に、レイが絶叫した。それに反応した、葉介を除く前衛全員【結界】の魔法を唱えた。


 直後、森の奥から巨大な丸太が飛んできて、【結界】に直撃。黒焦げの丸太は砕けたが、その大きさと重さで、全員が後ろへと吹っ飛んだ。


「うお! 眩し――!」


 すぐに立ち上がった葉介は、正面を見た時、その白い光を見た。

 小さく残った森の奥から、彼らの並ぶ場所に届くほどに、強く、大きなその光は、その大きさの割に一ヵ所のみから発しているのが分かった。

 その光が徐々に、弱まっていき、やがて収束し残った、そこにいたのは――



「なに、あれ……?」


 前衛組の誰かが、疑問の声を漏らした。

 光が消えた場所にいたのは、馬が一頭。白い毛に覆われ、長く伸びた緑のタテガミを揺らしている。体は大きいが、それは葉介もさっき戦った、馬のサイズの域を出ていない。デスニマとは思えないほど美しく、親には見えないほどに小さな、馬。


 そして、そんな美しい馬の、最たる特徴が……


「角……? 角の生えた、馬?」


「あれが、本当に、デスニマの、親なの?」

「あんなに美しい動物が、デスニマ?」


 美しい外見と、その頭から真っすぐ伸びる、長く鋭い一本角。

 直前に光を発していたのは、あの角だ。



「……ああー、はいはいはいはい」


 そんな、誰もが見たことがないという動物の姿に、一人、納得の声を上げた者。


「はいはいはい……そういうことね」

「ヨースケ、さん?」

「なによ? どうしたのよ?」

「どうもこうも……死んだ人間が、デスニマになっても魔法を使えるって聞いて、だったら普通の動物だって使えるんでないかとは、思ってたんですわ。残りカスとは言え魔法を宿してるなら、理屈で言えば、魔法に変わった後の魔力を宿してるってことですし」

「え……いえ、だとしても、魔法を使うには呪文が必要です。人間ならともかく、動物に呪文なんて……」

「呪文無しに、魔法だけが使えるようになったのかもね。それとも、何かしらの方法で、魔法が使えるよう作られたのかな? 見た感じ、できるのは光を照らすことだけみたいですけど」


 一連の説明を聞いても、リムやメルダ、多くの魔法騎士は理解をするのに時間を要した。

 だが、すぐに理解した者もいた。


「つまり……あの馬は、光の魔法――【光源】の魔法が使えるデスニマだと、そう言いたいのか?」

「そういうことです」


 レイの分かりやすい説明に、リムもメルダも、その場の全員が理解させられた。


「【光源】の魔法を使う、角の生えたデスホース……」


「それよかピッタリの呼び名がありますよ……あれは、『一角獣(ユニコーン)』です」



 葉介が名前を言った直後。ユニコーンは、手近に転がっていた丸太を角に突き刺し、持ち上げた。

 さっきしたように、丸太を投げてくる。それを理解したレイとリリアは、すぐさま【光弾】を撃った。

 だが、それより早く丸太を投げられて、【光弾】を撃ち消しながら飛んできた。


「クソッ、伏せろ! 後衛部隊は散れ!」


 全員がその場に伏せて、後ろに並んでいた後衛や第3たちも避難した。


「――ッ!」


 レイとリリアを含む魔法騎士たちが、ユニコーンに向かって【光弾】を撃つ。だが、それが当たる前に――


「うわっ!」


 また、ユニコーンは角を掲げ、光を発した。その光の強さに全員が両目を閉じるか、手で覆ってしまった。やがて、その光を消して、また元に戻る。


「光ってる間は動けないってわけね」


 とっさにフードで目を保護しておいた葉介は、角を光らせた場所から、ユニコーンは一歩も動いていないことに気づいた。

 だが、周囲を見回すと、葉介以外は、未だに目を閉じるか、マトモに視界が戻っていないようで、その場で動けずにいる。

 そんな前衛に向かって、ユニコーンは、その足を走らせ――


「……チィッ!」



「うおっ!」


 誰かに押されて、突き飛ばされる感触を、レイは感じた。

 案の定、体が地面に転がった。視力がマトモに戻ったのは、その直後のこと。


「……え?」


 ちょうど同じくらいのタイミングで、光を見た者たちの視力は回復した。

 だから、その光景を、全員がほぼ同時に見上げることになった。


 前衛部隊の、レイの、目の前まで走ってきていた、ユニコーン。


 そのユニコーンが掲げている角。


 その、長く鋭利な角が貫く、赤い騎士服――


 ユニコーンの角に、背中から胸を貫かれ、ぶら下がる、志間葉介を――



(お腹かゆいてゆーか痛いてゆーか熱いてゆーか寒いてゆーか動けんてゆーかよく見えんてゆーか――)


 ――ベタすぎるやろ、展開も、なんもかんも……


 ――マジでムカつくな、この、せかい……



「ダリ……ダ――」





さすがにこの回まずくない?

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