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拝んでいたら推しが壁から出てきたので共に暮らします  作者: 花倉きいろ
夢と恋の狭間
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ディズニーランドへ

 二人で話し合った結果、最初で最後のデートには遊園地に行くことになった。この辺りで遊園地といえばやっぱりディズニーランドで。

 休日だから心配していたけれど、なんとかスマホでチケットが取れた。ディズニー好きの友だちが色々教えてくれたことが幸いした。

 

 開園一番に入って、「何から乗る?」と二人でワクワクする。


「まずはカチューシャだろ!」


 とワールドバザールに直行する高瀬くん。


「これ可愛くね?」


 そして、紫の大きいリボンがついたカチューシャを私の頭に挿す。


「ええ……二十五歳には派手じゃないかな」

「んーん、似合ってて可愛い」


 高瀬くんが綺麗な口元を上げて微笑む。

帰る日付が決まってから、高瀬くんは夢乃に対して甘々になった気がする。夢乃はその度に頬を染めて俯きそうになるのだが、一秒でも長く高瀬くんを目におさめておきたくてぐっと耐えた。


「じゃあ俺はこれかな」


 高瀬くんが選んだのは青のカチューシャ。ドナルドだ。夢乃の紫はデイジーだから、つまるところカップルカチューシャ。


「分かっててやってる!?」


 夢乃が肩をぽかぽか叩きながら言うと、


「うん。分かっててやってる」


 と目を細める高瀬くん。


 (ああもう、ずるい)


「今日は神様が俺たちにくれた時間なんだ。楽しもうぜ」


 まだ照れている夢乃の手を引いて、カチューシャをつけた高瀬くんが笑った。



「アトラクション並ぶ?」

 

 と出来ている大行列を指して高瀬くんが尋ねる。人気アトラクションに早く乗れる、プレミアアクセスも購入済だ。

 

「んー、キャラクターグリーティングしたいかも」

 

 キャラクターたちと触れ合え写真が撮れる場所だ。せっかくドナルドとデイジーのカチューシャを着けているので、二人がいるところへ向かう。

 

結局コミュ力の高い高瀬くんはドナルドとよく話して握手してもらい、高瀬くんと夢乃の関係を恋人同士と思ったのか、デイジーにはハートマークまで作ってもらった。


「はあ、デイジーちゃん可愛いぃー! 癒される」

「ドナルドもファンサービスすごかったな」

 

 二人でキャラクターの間に挟まり、撮ってもらった写真を見ながら高瀬くんが呟く。


「この写真も消えちゃうのかな……」

 夢乃はずっと抱えていた不安を呟く。


「え? なんで」

「タイムスリップものとかって、帰ったあとその人に関する記憶とか物とか消えちゃうでしょ。高瀬くんは漫画のキャラクターだから私の記憶からは消えないと思うけど、二人の写真とかは……」


 そこまで言って悲しくなった。夢乃の記憶から高瀬くんが消えることはないだろうが、もしかしたら二人で過ごした記憶は消えてしまうのかもしれない。

 高瀬くんに関しては、夢乃の存在ごと消えてしまってもおかしくないのだ。

 

 (この数ヶ月は、なかったことになってしまうの?

 高瀬くんにもらったいろんなものは、私の中から消えてしまうの?)


 すっかり意気消沈してしまった夢乃に高瀬くんが頭上から声をかける。


「こっち向いて」

 

 顔を上げれば、口に何か甘いものを押し込まれた。


「はひこへ!?(なにこれ!?)」


 よく見たらそれはディズニーランドの定番、チュロスで。


「俺も食べたいから早くかじろー」


 高瀬くんが面白そうにスマホを構えている。


 (これ絶対、動画だ!)


 急いでかじって口から外すと、高瀬くんが大笑いしている。


「もう! イタズラ好きなんだから」

「松崎さんがへこんでたからさ」


 高瀬くんが動画を止めてそのチュロスを一口かじる。飲み込んでから続けた。


「暗い気持ちになったら美味いもん食うこと」

「高瀬くん……」

「先のことは分かんねえよ。既にとんでもねえことが起きてんだからさ。だから、悲しくなったら美味いもん食え。俺が安心して帰れるように、約束」


 左手の小指を差し出される。夢乃は鼻の奥がつんとした。彼が帰ってしまうという現実になのか、今この瞬間の幸せになのか、分からない。

 小指を絡ませると、高瀬くんが満足そうに頷いた。


「よし、行こうぜ。夢乃」


 その指から夢乃の手ごと握りしめて、高瀬くんが夏の日差しに照らされて笑った。

 太陽のような彼が初めて口にした自分の名前は、まるで自分のために神様が用意してくれたプレゼントのようだった。


「うん!」


 そして、二人は時間の許す限りアトラクションを楽しんだのだった――。


 ◇


「楽しかったー!」


「けど、」


 夢乃が最後まで言う前に二人の言葉が重なる。


「「疲れたー!」」


 速攻で部屋着に着替えてソファにダイブする。


「カチューシャって意外と頭痛えんだな」

「確かに……」

「足パンパンだぜ」

「毎朝十キロも走ってるのに?」


 冷蔵庫からペットボトルを二本取り出して、夢乃がからかい半分、本気半分で尋ねる。


「あれとはまた違ぇよ」


 高瀬くんが少しだけ拗ねた口ぶりで答える。


「本当に夢の時間だったねー……」

 

「そういやさ、今日いっぱい写真撮ったじゃん」

「うん」

「このスマホ、持ち帰っても使えるか分かんねえし、その場ですぐ現像できるヤツってこの世界にねえの?」


夢乃はその手の類はチェキしか知らない。ネットで調べて、こういうの? と見せてみる。


「そうそう、そういうの。これならすぐ手元に置けるし書き込めるし、良くね?」

「いいね。最後の一ヶ月だし奮発しちゃおう」

「ありがとうございます!」

高瀬くんが勢いよく頭を下げる。

「ふふ、差し入れもらった野球部員みたい」


 二人は顔を見合わせて笑い合う。夢乃はこういう何気ない瞬間に心が満たされるのだった。


「先にシャワーどうぞ」

「サンキュ。……一緒に入る?」

「へ!?」


夢乃は思わず持っていたペットボトルを膝に落とす。


「濡れたらジョーダンじゃなくなるだろ」

「冗談だったの?」

 

あわててタオルで拭いてくれる高瀬くんに、夢乃は少し睨みをきかせる。すると高瀬くんが降参ポーズを取って告白した。


「どうだろ。さっきの夢乃と同じくらいかな」


 じゃ、風呂行ってきまーすと間延びした声を上げて脱衣場へ向かう高瀬くんを見送る。


 からかい半分、本気半分、ということか。


「身が持たないよ……」

 濡れた部屋着を拭きながら、夢乃は呟いたのだった。

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