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拝んでいたら推しが壁から出てきたので共に暮らします  作者: 花倉きいろ
夢と恋の狭間
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夢と恋、どちらを選ぶか

「高瀬くん、何観てるの?」

「んー、なんかの映画」


 お皿洗いを終えた夢乃が、カップを二つ持ってソファに座る。高瀬くんはコーラ、夢乃は麦茶だ。

 高瀬くんと初めてベッドで寝てからというもの、夢乃が定時で帰れた日は、二人でテレビを見るのが日課になっていた。もう一ヶ月近く続いている。


 自らの恋心を自覚した夢乃としては、一日の中で一番好きな時間になっていた。しかし先日、高瀬くんから野球への想いを聞いたことで、この幸せのタイムリミットを考える時間でもあった。


 テレビの番組情報ボタンを押すと、映画のタイトルは『After this time~あなたと過ごした時間〜』。


「あ、私これ途中まで見たことある」

「へぇ。どんな話? 途中から観始めたからさ」

「えっとね、夢に仕事にと忙しい主人公が恋に落ちるの。でも恋人が転勤で海外に行くことになって……ってところまでしか知らない」

「ふーん、じゃあ観てようぜ」


 そう言ったものの、高瀬くんはラブロマンスは好みじゃないのか、それとも男子高校生にはかったるく感じるのか、ソファからどんどん背中がずり落ちていく。

 最終的に、夢乃の膝に頭が落ちた。


「高瀬くん?」

「こうしないと寝ちまいそうだから」

「こっちのが寝ちゃうでしょ」

「や、これは寝れねえよ」


 よく分からない高瀬くんに夢乃は素直に膝を差し出す。


(高瀬くんって、こんな風に甘えるんだなあ)


 部活では副キャプテンだから、頼りになる印象だったため、違った一面を見られることに心が掴まれる。


(この幸せは、あと何日続くんだろう……)


 日付はもう五月の半ばになっていた。タイムリミットまで、あと一ヶ月と少し。


 映画がクライマックスを迎える。主人公が夢を捨てて彼についていくか、お別れするかを選ぶシーン。

夢乃はなんだか他人事のようには思えなくて見入ってしまった。


「高瀬くん、起きてる? 今いいところだよ」

「ん、観てる」


『さよなら……好きだったわ。いいえ、今も愛してる。でも、私には叶えたい夢があるの』

『きみならそう言うと思ってたよ、エリー』


 結局、映画の二人は別々の道を選んだ。悲恋のラブロマンス映画だった。

 

 夢乃はしばらく押し黙っていた。泣いてはいけないという理性だけを保っていた。


「なあ」

 高瀬くんが膝から声をかけた。顔はテレビの方を向いているから表情は分からない。


「もし叶えたい夢が二つあって、どちらかしか選べないなら松崎さんはどうする?」


 この質問の意図に気が付かないほど、夢乃は鈍くはなかった。けれど。


『好きなもので、日本一になりてえ。そのためなら何だってできる』


 先日の高瀬くんの言葉が頭をよぎる。暗闇に飲まれた街道の中で、彼だけが光輝いていたあの夜の言葉が、夢乃の心を固くした。


(そのためなら、私もなんだってできる)

 夢乃は自身の恋心を固く縛って答える。くるしくてたまらなかったけれど、彼の夢とこの日常を天秤にかけたら、考えるまでもなかったのだ。


「最初に夢見た方、かな」

「そっか……」 


 高瀬くんはそう口にしたきり何も喋らなかった。動くこともしなかった。


高瀬くん。いつかいなくなってしまう、大好きな人。


 夢乃の頬に涙がこぼれる。目尻からこぼれたそれが高瀬くんの髪の毛に落ちないように、夢乃はこっそりと拭った。

 

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