お風呂でばったり!?
四月も半ばになった頃。土曜日は珍しく別々に過ごした。夢乃は仕事で疲れ果てて一日中寝ていたが、高瀬くんはバッティングセンターに出かけたようだった。
一応「一緒に来る?」と誘われたけれど、肉体的に限界だったので今日だけは遠慮させていただいた。夢乃がいない方が彼も集中できるだろう。
休んでいたせいで溜まった家事を終わらせて、お風呂へと向かう。
(高瀬くんのために買った、体がほぐれる入浴剤を入れてっと……)
後はボディークリームを塗って上がるだけ、というところで、扉がガチャッと音を立てた。玄関のドアではない。
「うわああッ」
「――ッ!?」
そこには半裸の高瀬くんがいた。
お互いに数秒固まった後、高瀬くんは電源が落ちたかのように停止していた。しかし、顔だけは真っ赤である。
引き締まった肉体に、運動後の汗で火照った肌、そして首筋に張り付く髪。夢乃は自分が見られていることも忘れて見つめてしまう。
夢乃が「あの……」と呟くと、高瀬くんは慌てて背を向けた。
「ごめん! 風呂から物音しなかったから気づかなくて……」
耳たぶまで真っ赤に染めた高瀬くんが夢乃にタオルを差し出す。一方の夢乃は高瀬くんの素っ裸を見てしまったことへの罪悪感に苛まれていた。
「こちらこそ、尊いものを汚してしまってすみません……!」
「その言い方なんか語弊があるから!」
「ごめんねホント。高瀬くんの体なんて一億円払っても見ちゃいけないのに……」
(原作でなら見たことあるんだけど……)
タオルで体を隠して、高瀬くんの後ろを通り過ぎようとする。すると、高瀬くんがぼそりと呟いた。
「裸見られてそれって、俺のこと微塵も意識してねえのかよ……」
「え?」
「なんでもねえ」
さっきまで着ていたであろうシャツを着て高瀬くんが脱衣場をあとにする。
(聞き違いじゃ、ないよね……?)
小さな声だったけれど、確かに夢乃の耳に届いたそれに、今度はこちらの顔が熱くなる。
(じゃああの赤面は、私の裸を見たから……?
思春期とか、そういうのではなくて?)
どくどくと心臓が一気に脈を打つ。その一方でこれらの意識は夢乃を切なくさせた。
高瀬くんは別次元の人だ。あと数ヶ月で夢乃の元を去り、一生会えなくなってしまう存在。触れることも、見つめ合うことも叶わない。
「そんなの、意識したって苦しいだけだよ……」
護るべき存在だとか、色々言い訳してきたけれど、元より世界で一番好きな人なのだ。意識しているに決まっている。
でも、夢乃は大人で、高瀬くんを甲子園で優勝させるという目標がある。気持ちを誤魔化さなければやっていられない。
高瀬くんの赤面が頭から離れなくて、夢乃の心がぎゅっと痛んだ。




