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拝んでいたら推しが壁から出てきたので共に暮らします  作者: 花倉きいろ
第3章 ただの男の子
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主人公は誰?

 なあ、と高瀬くんに声をかけられてお皿洗いをしていた夢乃は声だけを飛ばす。

 

「なに?」

「もしかして『闘魂』ってさ……俺が主人公じゃない?」

 

 今日は高瀬くん特製オムライスだったからケチャップが落ちづらい。懸命にこすりながら夢乃はさもありなんと答える。

 

「え、そうだよ。主人公は中西くん」

 

 高瀬くんがごろりと床に転がる音がした。

 

「マジかー! 松崎さんの反応的に、てっきり俺主人公だと思ってたわー!」

 

 ゴム手袋を外してタオルで手を拭いたあと部屋へと戻れば、案の定高瀬くんがごねるように『闘魂』第一巻を読んでいた。

 

「そういえば初めて来た日に渡したの、高瀬くんが登場する二巻だったもんね」

 

 苦笑を浮かべて言えば、そうだよ、と不機嫌そうな声で返される。

 

「『高瀬直人、日本一速いショートになる男です!』 のシーンから見せられたら、俺が主人公だと思うじゃん」

「実際悩んだらしいよ、先生は。努力家の高瀬くんを主人公にするか、天才肌の中西くんを主人公にするか」

 

 夢乃は先生と呼んでいる作者が、トークショーで話していた。どちらにするか最後まで悩んで、脇に置く方が高瀬くんが輝くと踏んでの決断だったという。

 

「確かになー、アイツフォームにクセがあるけど、身長もあるし、なによりセンスあるからな」

 

 どうりで俺とじっちゃんのエピソードを松崎さんが知らないわけだ、と言った高瀬くんはまだ拗ねているのだろうか。漫画で顔が見えないから、高瀬くん? と漫画をずらしてみる。すると高瀬くんの口元はにたりと緩んでいて、私と目が合った瞬間驚いたように顔を隠した。


 (いったいどこを読んでそんな顔に……)

 

 と伏せられた漫画を開くと、普段弱気な中西くんが憧れの先輩の投球を見て、『俺もこんな風になりたい!』と感銘を受けるシーンだった。そこから高瀬くんと盛り上がった、エースになってみせる! という宣言に繋がる。

 

「や、中西から話としては聞いたことあったけど、こんな風だったんだなーと思ったらすげえこそばゆいというか、応援してえ気持ちになってさ」

「確かに高瀬くんからしたら不思議な感覚だよね」

「それを一番隣で見てるって優越感もあって……で、あの顔」

 

 中西くんと高瀬くんは作中でも親友の立ち位置だ。夢乃はあまりの尊さに両手を顔で包む。


「そうだよね……そっちの世界では本当にあったエピソードなんだもんね……尊すぎる」


 夢乃や読者の知らぬところで、この話が高瀬くんに伝わっているだなんて、それこそドリームだ。

 

「やっと俺のこっちの世界に対する感覚分かってくれた?」

「分かりました……そしてごめんね、主人公じゃないのを拗ねてるのかと思っちゃって」

 

 夢乃が床に手をつけ深々と謝ってから顔を上げると、高瀬くんはからりと笑う。

 

「や、だって松崎さんの中では俺が主人公だろ?」

「! それはもちろん」

「あと誰が主人公でも俺が一番だし」

 

『俺が一番』、作中でも大好きな彼の口癖に、夢乃は久しぶりにヲタクとしての感覚を取り戻して両手を合わせ拝んだのだった……。

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