十七歳の誓い
試合が始まる前に、甲子園名物のカツを注文する。高瀬くんはコーラ、夢乃はビールも一緒に頼んだ。
いたたぎます、と大きく口を開く。
「松崎さん、がっつきすぎ」
「こういうところの揚げ物、好物なんだもん。そういう高瀬くんだって、ひと口が大きい」
「育ち盛りだもーん」
「よしよし、もう一個食べたまえ」
「松崎さん、おはねはいひょーふ?(お金大丈夫?)」
「カツくらい大丈夫だから、食べ切ってから喋りなさい」
二人で名物のカツを食べてわいわい言いながら、夢乃は生まれそうになる恋心にきっちり蓋をした。
試合は決勝戦に相応しい打撃戦だった。投手戦も好きだけれど、やっぱりスコアが動く試合は好きだ。
(推しがホームラン王ってところもあるけど……)
隣をちらりと見やると、大声で声援を送る高瀬くん。
「今のは俺なら刺してたな」
などと自信を添えながら解説してくれるのを、心地よく聞いていた。
その目は旅行に浮かれていたものとは違って真剣だった。
白熱した試合は延長にまでもつれこみ、十二対十一で広島県の高校が優勝した。
二人で大きく拍手する。夢乃は自然と泣いていた。高瀬くんは拍手をしながら、じっとグラウンドを眺めていた。
選手たちがはけ、閉会式に向けて整備が行われているグラウンドを見ながら、高瀬くんが強い声で言う。
「ねえ、松崎さん」
「ん?」
「俺も必ずここに来て、あの土を踏む。チームメイトと一緒に。そして、優勝する」
強い風が吹いた。高瀬くんの前髪が揺れる。視線は前を向いていてとても力強い。
先ほどまで年下の男の子だったのに、その姿は自分よりずっと大人に見えた。現実でも、高校球児が年下に思えない現象と同じだろう。
凛と立つその姿と強い視線に、夢乃は自分の使命をさらに実感した。
(この人の行く末を見届けたい)
まだ弱冠十七歳の、夢に向かう強い姿勢は、太陽の光より眩しかった。
◇
センバツから帰ってきてから、高瀬くんはより一層練習に励みを出した。早朝に十キロのランニングの後、新たに契約したジムで筋力トレーニング、ストレッチ。そして社会人サークルのアテが見つかるまでは夢乃とキャッチボールすることになったのだが。
「……松崎さん、体育の評価いくつ?」
「……二」
「マジで!?」
「ちなみに十段階です」
「嘘だろ……」
高瀬くんが投げる、ゆるーい球すら取ることもできない。ボールがコロコロと後ろに転がっていく。その度に夢乃が走って取りに行く。
(せっかくこのために グラブもう一つ買ったのに!)
高瀬くんに呆れられたかな、と落ち込みながら俯いていると、揶揄を交えた声色が頭上から振ってきた。
「へったくそー」
グラブでぽん、と頭を叩かれる。その顔は笑っていた。
普通、運動のできる人間はできない人間に呆れる。けれど高瀬くんはそんな目で人を判断しない。自分ができることを人もできて当たり前とは思わないのだ。
(こういうところを好きになったんだよなあ)
もちろん推しとして、だが。
彼は努力の天才だが、他人にそれを押し付けはしない。だからこそチームの要とも言える四番を背負っていてもキャプテンにはならなかった。
でも、悔しいものは悔しい。好きでできないわけじゃないのだ。
「くっそー、絶対取ってやる」
「お、やる気じゃん」
結局その日は、ムキになった夢乃のキャッチボール練習になってしまったのだった。




