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隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。  作者: しろねこ。
第五章 人と人の想い

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第97話 戦の前に(ライカ①)

「ライカ様、お忙しいところ失礼します」


「フローラ様」

 ライカに声を掛けたのは、長身の美女だ。


 黒髪に紫の瞳、平均よりも高い身長の彼女は騎士服に身を包んでいる。


 身分も高く、そして凛とした佇まいは王城内でも慕う者が多く、少なくともライカのような粗雑な言葉遣いはしない。


「仕事中ですので、お話は後で聞きますから」

 今はルドがティタンの側にいるので、ライカは部屋に戻る途中であった。


 そこをフローラに見つかり、明らかに挙動不審になっている。


「そう言ってあなたはいつもわたくしから逃げるではないですか!」

 フローラの怒りの声が廊下に響いた。


「セラフィムから戻ってきてから一度も話をしてくれない、何度訪れても逃げてばかりで会話もしてくれない。なのに後で話を、ですって? その言葉すら信じられない程約束を破っていますよね?」

 ルドが聞いたら怒りそうな案件だ。


「忙しくてその時間がないだけです。それにフローラ様。気軽に俺に話かけたら周囲に誤解を与えます。あなたは憧れの近衛騎士なのですから」


「憧れというならば、騎士としての年数も実力もあなたの方が上で、人気です。それに誤解とは何ですか。あなたはわたくしに剣を教えてくれたではないですか。言わば師と弟子……それは親しく話をする間柄でしょう」


(最初の頃は一時の、子どもの戯れだと思ったのです。まさか近衛騎士にまであがるなんて……)

 フローラとの出会いは本当に偶然だ。


 登城した父に付いてきたフローラが、仕事の話をしてる間に騎士の訓練を見たいと言った。


 女の子にしては珍しく、庭園の散策ではなく汗臭い訓練をみたいとは、誰もが驚いた。


 その内に剣を持ってみたいと言われ、誰かが渡す。


 実際の剣は重く振れるはずもない、だからすぐに諦めると思った。


 だが数回の登城の後に再び剣を所望する。


 フローラは今度は持つことが出来たのだ。


 家でこっそりと体を鍛えたとのこと。


 ライカは気になり、話をする。


 鍛え方も間違えれば成長の妨げになる。


 親身に話を聞き、食生活のアドバイスもした。


 見た目と話し方が怖いとよく言われるが、フローラはライカ相手でも物怖じしなかった。


 本当は怖かったが、我慢していたとは後から言われたが。

「そこまで俺が面倒を見たわけではありません。あなたが近衛騎士になれたのは、実力があったからです」


「皮肉ですか? 本当はあなたと同じ護衛騎士を目指してたのは知ってますでしょ? 試験官があなただったから落ちましたが」


「厳正な試験です。俺だけで決めるものではない」

 護衛騎士は危険と、そして忠誠心が試される。


 騎士としてどの立場でも主を命がけで守るのは当然だが、常に付き添い、休日も関係ない。


 ずっと気を張り続け、周囲の者を疑い、主の障害になるものを取り除くのに躊躇ってはいけない。


「あなたは優しすぎると判断された。それではいざという時に相手の命を奪えない」

 フローラはもと侯爵令嬢だ。


 幼い頃の王城での体験で自然と剣の道を目指し、家族の反対を押し切って貴族である事を捨て、騎士となった。


 フローラは勘当された身ではあるものの、所作や話し方、そして実力がある事から令嬢としてではなく城の騎士として尊敬されている。


 そんな身分の高かった者が騎士として入り、更に護衛騎士を目指すなど異例であった。


 だから今まで人の命を奪ったことはなく、先の戦でも城の防衛に努め、戦場には出ていないのだ。


「わたくしが弱いと言いたいのですか?」


「違います。あなたの性格と戦い方は守りに向いているのです。細やかな気配りも出来るし、剣の腕もいい。ただ汚れ仕事はできないだろうという話でした。けして弱いとか、腕が劣るとかそういう訳では無い」


「その件についてはわかりました。では本題を。何故話をしてくれないのです?」

 フローラが迫ると、ライカは罰が悪そうに、そして少々拗ねたように言う。


「だって、怒られると思いましたから。あんな負け方をして」

 先のセラフィムでは力が足りず、帝国の剣士ダミアンとの戦闘で死にかけた。


 あの時の映像は今後の対策として、上位の騎士には見てもらっている。


 帝国の剣士の力実力を知る事、そして万が一対峙した時の対応策を考える為に。


 師と仰いでもらってるのにあんな無様を晒したから、きっと激怒してると思ったのだ。


「怒るわけがありません、あんなに立派に戦い抜いたのに」

 戦とは違う戦いだった。


 明確な悪意とそして残虐さ、ライカの力をもってしても倒せないなんてと、戦慄だった。


 そしてティタンも、ダミアンを退けたものの無傷ではない。


 帝国の戦士との力の差を見せつけられ、他の騎士たちもフローラも呆然となった。


「あんな敵を前にしても、あなたは屈しなかった。そして生きて帰ってきてくれた」

 すぐに回復してもらえる環境だったのも大きいだろう。


「またあの恐ろしい男と戦うのですよね」

 あの場で捕まえることは出来ず、逃げたという事は次の戦でまた会う可能性が高い。


 意を決してフローラは告げる。


「今度はわたくしも連れて行ってください。貴方の力になりたい」


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