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隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。  作者: しろねこ。
第五章 人と人の想い

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第94話 サミュエル②

「お礼よりも欲しいものがあるの」

 二人ともまだフードを握ったままの拮抗状態だ。


「うん。とりあえず手を離してもらっていい?」

 サミュエルの嘆願に渋々手を離す。


 ひと息ついて、向き直る。


「僕に出来る事ならば、何でもするよ」

 これまで助けてもらったお礼はしたい。


 サミュエルが知らなかった婚約者騒動もだが、シフが話し相手になってくれてからは孤独から救われることも多かった。


 だから出来る限り恩返しはするつもりだ。


 シフが何故ここまで親身になってくれたのか、その意味にサミュエルはまだ気づいていなかった。


「戦が始まる前に、正式な約束が欲しいの」


「約束? 何の?」


「お父様がアドガルムにいる内に、正式に私と婚約して」


「婚約?!」

 サミュエルはシフから距離を取る。


「待って、シフ。身分もない、顔も知らない胡散臭い男と婚約なんて言ってはいけない、そんな約束は出来ない」

 牽制するように今度は防御壁を目に見える形で張る。


 最初から張っておけば弾き飛ばすことはない。


「顔? そんなのサミュエルは優しいし、私を想ってくれてるわ。それだけで充分。それにサミュエルはシュナイ医師が後見してくれてるもの、養子にだってすぐになれるのに、サミュエルが拒んでるって聞いているわ」


「シュナイ医師には助けられて恩もある。養子の話はとても有り難いけれど、僕には貴族になる資格もない。セシルが跡継ぎでいるのだから、わざわざ僕のような汚点を養子にしなくていいんだ」

 セシルはサミュエルの弟弟子にあたる。


 彼はセラフィムからこちらへ移住する際に、シュナイ医師の養子として来た。


 薬師の腕を買われたからだ。


 王宮医師であるシュナイが認めた薬師ならばと信用を得ることも容易く、重宝されている。


 サミュエルもシュナイに拾われた身で、最初は養子にという話だったが、それを断っていた。


「その資格がまだありません、決意が出来た時にはぜひお願いします」

 と話し、断り続けていた。


 だが大人になり更に頑なになったサミュエルに、最近のシュナイは無理矢理にでも養子にしておけば良かったと、周囲に愚痴を言っているようだ。


「シフにはもっと相応しい男性が現れるはずだよ。僕なんかよりも君を愛し、幸せにして、大事にしてくれる人が必ずいる」


「何よそれ。そんな人いないわ」

 怒ったシフが近づいてくるが、防御壁で阻まれる。


「君が求婚を受けているのも知っているよ」

 ロキの人となりはともかく、魔力の高さは有名だ。


 フェンとシフの魔力の高さも、そしてキールの腕前も知られている。


 そんな武と魔法に優れ、そして伯爵位の家系。


 何より、見た目も可愛らしく、分け隔てなく優しいシフは引く手数多だ。


(ミューズ様の従妹だというなら納得だ)

 知ったばかりではあるが、確かに共通点は多い。


 ロキは金髪を赤く染めているので叔父と姪には見えないが、ミューズとシフが並べば姉妹だと言わんばかりに似ている。


 金髪も金の目の、可愛らしい容姿も。


 そしてとても頑固なところも。


「求婚なんて受けても、私が好きな人じゃないと嫌だわ」

 ぷんぷんと怒っているが、シフは人前でこういうことをしない


 皆の妹分として可愛がられている様子しか知らなかったから、最初見たときは驚いた。


 気も強く、サミュエルの方が年上なのだが、押しの強いシフによく言い負かされる。


 絆されるといったものもあり、基本的にサミュエルはシフの我儘も希望も受け入れてあげていた。


「それともサミュエルは、本当は私の事が嫌いなの?」

 泣きそうな顔で言われてサミュエルは困ってしまった。


 これではただ傷つけるだけだとサミュエルは防御壁を解く。


「じゃあシフ、約束するよ。必ずロキ様と婚約の話をするって」

 ロキが家族想いなのは知っている。


 だから本当の自分を知れば反対するはずだと、サミュエルは簡単に考えた。


 そんな血統の者達ではないのだが、引きこもり且つ自己肯定感が低いので、ロキが断ってくれると疑っていない。


 常識に捉われる人ではない事がすっかり抜け落ちていた。



「これを見ても、そう言える?」

 シフの間近でサミュエルはゆっくりとフードと仮面を外した。








お読み頂きありがとうございました。


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今後も作品をよろしくお願いします(*´ω`*)



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