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隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。  作者: しろねこ。
第四章 奪おうとする者と守りたい者

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第80話 実地訓練

「あの、ここは?」


「戦場だ。本物のな」

 ロキに連れてこられた場所は、まさに今戦をし、人々が傷つけあっているところだ。


「アドガルムからは遠い国だ。争いが起きているという話を以前から聞いていたので、連れてきたのだ」


「連れて来たって……そういえば先程のは転移魔法ですよね?」

 不思議な感覚だった。


「それも後で教える。今はまず回復魔法と防御壁の精度を上げる事、そして戦の雰囲気に慣れる事を優先する」

 転移魔法はともかく、防御壁や回復魔法は戦いの場でしか磨けない。


「実際に戦に行くというならば、この空気に慣れねば使いものにならないからな。ここなら負傷者も多いし、あらゆるケースが備わっている。臆するなよ。臆せばティタン王子に万が一があった場合、助けることが出来ないからな」


「はい」

 ティタンを支える為ならば、血を見て悲鳴を上げることなど許されない。


 震える体を鼓舞し、身近の負傷者に向かう。


 突如現れた異国の者達に戸惑いが見られるが、治癒する様子を見て、文句も言われず見守られるに留まった。


 懐疑の視線と敵意が徐々に和らいでいく。


「驚かせてしまいすまない。我らは本陣の者より派遣された傭兵だ。ただ怪我を治すだけだ、害をなしに来たわけではない」

 燃えるような赤い髪に金の目をしたロキと、金の髪とオッドアイを持つミューズはこの場では異質だが、実際に傷が治る様子を見て、縋るような人が増えていく。


「人体の構造を思い出せ。どのように皮膚と皮膚を繋げばいいか感覚で覚えろ。いざという時に本で確認は出来ない。しっかりと目に焼き付け、肌で感じ、覚えていくんだ」

 命が失われるのは一瞬だ、だから回復するのには速さが求められる。


 生命が零れ落ちる前に救い上げなきゃいけない。


 最初こそロキも手伝っていたが、段々とミューズ一人に任せるようになる。


「うっ……」

 酷いケガに思わず呻く。


「躊躇うな。その数秒で、より死が近くなる」


「はい……」

 血の匂いと死臭に気分が悪くなるが、集中する。


 とにかく命を助けることに集中しなくては。


 丁度動きやすい服なのは助かった、ドレスではこのように動いたり血に塗れたり出来ない。


 突然現れた二人に驚きつつも、回復魔法を唱え味方を救うミューズを見て、また負傷者が集まってくる。


 力及ばず事切れるものも出るが、泣く時間も懺悔する時間すらない。


「これは……」

 思わず顔を歪めてしまう。


 ミューズが目にしたのは切られた腕を必死で抑える若い兵だ、ただ欠損部がない。


 急ぎ、傷口を塞ごうとすると止められた。


「リリュシーヌの娘のお前なら元通りに治せるはずだ」

 ロキがそう言って、ミューズの手を取った。


「想像しろ。人の手はどのような物か。腕はどのように動くものか。おい、お前もだ。自分の手はどのような物かを思い出せ」

 ロキは若い兵に魔法を掛ける、痛みを和らげるものだ。


「あいつの体に触れ、そして魔力を流し込め。そして想像だ。在りし日の姿を、失った部分が再び戻るようにと」

 二人は目を閉じ、集中していく。


「想像……」

 人体とは何か。


 回復とは何か。


 何故人を救いたいと思ったか。


 魔力が大幅に減っていくのがわかる、吸い取られているようだ。


「高度な魔法は知識と経験、そして才能からなる。その金の瞳は魔力の高さを意味するもので、ミューズの魔力は十分にあるんだ」

 荒療治だとはわかっていて連れてきた、このようなチャンスはそうそうないからだ。


 実際の自分達の戦いまで教えなければいけなかったので、この戦争は有難かった。


「出来た……?」

 時間はかかったが、腕が形成されている。

 その間ロキは周囲の者の傷を癒しつつミューズの様子を見守っていた。


「よくやった、及第点だな」

 神経の繋ぎが甘いが、これくらいは良いだろう。


 日常生活は問題なく遅れるし、お互い名も知らない。


 命は助けたのだから、これくらいで納得してもらう。


 まだまだ負傷兵は居るのだし忙しい。


 ふらつくミューズに魔力回復の薬を渡す。

「まだだ、もっと魔力を使え。限界を超える度に魔力は増える、頑張れよ」


「はい!」

 流れる汗を拭い、ミューズは集中していく。

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