第77話 戦に向けて
「ダミアン、次はどうする気?」
ルビアは新たに増えた魔石を見つめながら、そう聞いた。
「そろそろヴァルファルに戻ろうか。戦もそろそろ始めなきゃいけないだろうし」
血の滴る剣を携え、狂気の目は死屍累々となった大地を見つめている。
海を渡り、名も知らぬ国を潰しても尚満たされていない。
それもこれもまだあの男を殺せていないからだ。
「目と体の調子はどう?」
血に塗れたイシスが黒い手袋から血を滴らせて話しかける。
「順調、もう大丈夫。いつでも攻め入れられるよ」
ダミアンはギルナスに目線を移した。
「お前はどうだ? その機械の指は?」
失った指の代わりに義手をつけ、重いメイスを振るっていた。
「多少ラグはあるが、動作に問題はない。次は後れを取らない」
あのような小娘と少年に負けたままではいられない。
次は遠慮なく叩き潰す所存だ。
「大規模な軍の移動で一気にあの辺一帯の国を蹂躙するつもりだ。最後の砦はあのアドガルムだろう」
そこさえ崩せばあとは簡単だ。
力のない国がいくら抗っても自分達には敵わない、逆らった事を後悔させてやろう。
「ルビアも充分力は集めたか?」
「えぇ、いい死体も手に入ったし」
健康で勇猛な体を幾つも手に入れた。
その魂も全て。
あの王女の力は脅威だが、それ以外には有効なのだから。わざわざ近づくことはない。
周辺国を落とせば更に力は増やせる。
そうすればあの王女の力を軽々と上回れるだろう。
「あの王子を今度こそ斬り刻むんだ、そしてその目の前で王女の四肢を切り刻み、無力さを見せつけてやる。あんな若造に負けたままではいられない」
ダミアンはその時を今か今かと待っていた。
燻った怒りをすでに死んだものの体を切り刻むことで抑えているが、本当は今すぐにでも攻めに行きたい。
舐められたままでいるわけにはいかないのだ。
「物騒ね、そんなにその王子と王女が嫌いなの?」
イシスは信じられないとばかりに顔を歪める。
「殺したいのは王子だけだ。王女は側に置いて飽きるまで遊ぶよ、あんな美人をすぐ殺すなんて勿体ない。愛でて愛でて最後にようやく絶望に落としたいんだ。今いるアレももうすぐ壊れるからね。繋ぎでこの国の王女をもらってこうと思ったけど、呆気なく壊れちゃったから。早くアドガルムへ迎えに行かなきゃね」
イシスはダミアンの部屋には入ったことはないが、ギルナスが言うには見たら発狂すると言われた。
ルビアもダミアンも人を人とも思ってない、こうして一緒に戦場を駆けてもその残虐さはやはり胸糞悪い。
「イシスだってどうしたのよ。あれだけ人を殺したくないなんて言ってたのに」
今回のイシスは武器を振るい、人の命を躊躇いなく奪っていった。
昔と違い監視の目がギルナスだけになったのを良いことにしばらく戦闘を離れていたのだが、今また再び腕を振るうようになった。
「ギルナスが怪我をしたのは私の責任だから。いつまでも甘えてばかりではいられないもの」
自分の油断が窮地に陥らせたのだ、我儘ばかりは言えない。
(そして、あの男)
頭に浮かぶは青い髪の青年。
からかうようにこちらを見つめ、ずっと笑顔を浮かべていた。
好青年のように見えた彼は見た目と反して、チャラい。
実直そうに見えて、そうではないそのギャップが何とも苛立ちを誘う。
「無性に腹が立つの。愛だなんて軽薄な事ばかり言うあの男に知らしめたい、そんなものはまやかしだって」
愛する家族を守ろうとして死んだ男の遺体が目につく。
愛など、死んでしまえば関係ない。
力がなければ守りたいものなど守れない、この世は力が全てなんだ。
「あらあら、拗らせてるわね」
歪んだ者たちの中でルビアはコロコロと笑う。
殺したいといいつつも、本当は執着しているのに気づいていた。
短くされ、不揃いだった髪はきれいに整えられていた。
「お前とてあの王太子が欲しいと言ってたな。同じではないか」
「だってあんな美形よ。まやかしじゃなく本物のイケメン。そりゃあ側に置きたいじゃない」
気づかれないようにダミアンをちらりと見て、嘆息する。
「切れ長の目に綺麗な金髪。優雅にグリフォンを操る様も綺麗だったわ。剣も振るいなれてたし、相当鍛えているのでしょうね。どんな肢体が服の下に隠れてるかを想像するだけで、ドキドキしちゃう」
妙に体をくねらせるルビアにギルナスは目を背ける。
「お前はバルトロス様のお気に入りだろ、あまり羽目を外すなよ」
「それはそれ、これはこれよ」
自由奔放な様子のルビアは好みのタイプをすぐ誘惑してくる。
敵味方問わずに。
飽きられた男性がどうなってるかはギルナスは知らないが、母国に帰される事はなさそうだ。
「そろそろ帰国しましょう」
イシスの呼び掛けで皆が動く。
「帰ったらお風呂入りたいわね、汗と埃が凄いもの」
殆ど自分では動いていなかったが、ルビアは汚れを気にしていた。
「早く新しい力も試したいよ。いっぱい殺そう」
にこりと微笑むその目は期待と狂気に満ちていた。
「今度は皇子達も一緒だ、後れをとるわけにはいかない」
彼らにも独自の部隊がいる。
それぞれの獲物を取られたくはない。
「そうね……私も詳細は知らない。どこのどのような者達かも」
イシスは手柄が欲しいわけではないし、兄達と争うつもりはない。
余計な諍いは起こしたくないが、獲物を奪われたくない。
「あいつらは僕達のものだ、奪われないように気をつけないとね」
先手を打って出るしかないか。
「誰が来ようと構うものか、俺達が討つのだ。皇帝陛下の為にも」
最初に命じられたのは自分達だ、その役目を奪われてはならない。
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