第58話 交代と猛攻
ティタンはダミアンが距離を置いたのを見て、ライカの腕を掴む。
「セシル、受け取れ!」
そのままライカの体を、セシルに向けて投げた。
「はぐぅ!」
タイミングを見て防御壁を解くと、セシルの体がライカごと壁に叩きつけられる。背の痛みを我慢し再び防御壁を展開した。
「僕は戦闘員じゃないんですから……」
体格の良いライカを受け止めるなんて出来ない。痛みに呼吸ができなくなる。
「すまん」
ティタンは軽く謝った。
防御壁の中で直ぐ様治療が行われる。
「今傷を塞ぐから、頑張って」
ミューズが手をかざし、回復魔法を掛けていく。
「失った血はこちらの薬で回復する、飲むんだ」
二人がライカの治癒をしてくれるのを見て、ダミアンに向き直る。
「部下が世話になった、今度は俺の相手をしてもらおう」
「うわぁ、大きい。聞きしに勝るデカさだね」
ダミアンは感心していた。
「てか、すごい馬鹿力だ。ドアどころか壁も壊したし、何より結界張ってあったよね?」
フロイドが魔力、及び物理攻撃を遮断するものを張っていたはずだ。
「邪魔だったから切った」
事もなげに言うと、ティタンは大剣を担ぐ。
「お前は誰だ」
血の匂いと異変で敵と判断したが、ティタン達は詳細を知らない。
ルドも剣を抜いており、ミューズ達を守るように立ち塞がっている。そのルドにライカが何かを話す、距離があるため、ティタンには聞こえない。
「帝国からの使者だよ。そこの王女様を攫いに来た」
ティタンが怒りを隠しもせずに表情を変える。
「なら死んでもらおう」
ティタンが大剣を構えると同時に踏み込んだ。
あまりにも踏み込みが強過ぎて、床が割れる。
(大きいのに、速い!)
身体強化の術に優れたティタンはそれを駆使して動いている。
ダミアンは上から振り下ろされる大剣を避けたが、ティタンの大剣は振り下ろされる途中で軌道を変え、ダミアンを追跡する。
「おわっ?!」
間一髪躱し、距離を取った。
「何でそんな大剣を全力で振り下ろして軌道まで変えられるのさ! おかしいよ!」
「殺す気なんだ。あらゆる手を使って当たり前だろう。ミューズは連れて行かせないからな」
どんな手を使っても殺す、躊躇いはない。自分からミューズを奪おうとするものには容赦など不要だ。
「そんなに大好きなんだね、ならばその王女を僕が壊したら、どんな顔をするかな? あの目を抉り出して飾り、慰みものにしたら、それでも愛してられる?」
挑発する言葉にティタンの怒気が膨れた。
「下衆が。口を閉じろ」
「そんなの、力づくで」
止めろよ、と言おうとした時にはティタンは、眼前まで来ていた。
速い。
ティタンの大剣を受け止められる自信はないが、怒りに満ちた剣筋は単調だ。
(これなら倒せる)
技巧もない剣など、威力は恐ろしいが避けるのは簡単だ。
後は隙を見てライカと同じく背中から刺せば。
「死ね」
ティタンの大剣がダミアンを切れず、床にめり込む。
(いまだ!)
がら空きの背中に刃が出現する。
「ティタン様!」
それを見たルドが叫んだ。
だが刃はティタンの背には刺さらず、ティタンが繰り出した長剣で止められる。
「はっ?」
殺気を感じた瞬間大剣から手を離し、長剣に切り替えていた。
そのまま踏み込み、鋭い刺突を繰り出す。長剣は当然大剣より軽い。
凄まじい速さだ。
「ぐぅっ!」
ダミアンの肩に刺さり、そのまま壁に縫い留められた。
そのままティタンが左手を突き出したのを見て、傷の治癒を受けていたライカが跳ね起きる。
「見てはなりません!」
「うああぁっ!!」
ミューズの視界を遮るように立つライカの声とダミアンの悲鳴が重なった。
ミューズはただならぬ気配にガタガタと震える。ダミアンを殺したわけではなさそうだが、不穏な空気に血の気が引く。
「お前が抉ると言ったんだ。どうだ? された気分は」
ティタンの指はダミアンの眼球を周囲の皮膚ごとえぐり取っていた。
いち早くティタンのすることを察したライカが、せめてその惨状をミューズが目にしないようにと壁になったのだ。
「てめぇ、クソガキが! よくも俺の目を!!」
憎悪と痛みに耐え、ダミアンが吠える。
長剣を無理矢理抜いて、ティタンに投げつけるが、危なげなくそれを受け止め、構え直した。
「?」
ダミアンのその体がブレて見える。
「お前がミューズにしようとしたことだろ。自分がされるとは思わなかったか?」
ティタンは愛でる気もないので肉片を床に叩きつける。
「殺してやる!!」
剣を握るダミアンの腕がかき消える。それは突如ティタンの頭上から現れた。
「おかしな魔法だ、だが、殺気が駄々洩れで読みやすい」
ティタンは余裕でその猛攻を捌いていく。
痛みと怒りの為か、ダミアンの攻撃は単調だ。
(ライカが背中に傷を受けるなどおかしいと思ったが、こういうからくりか)
ライカが敵に背など見せるはずがない。
ミューズを守ったにしては距離がありすぎるし、セシルがいる。彼の防御壁は強力だし、その中にいるのだから、ライカが庇う必要など少ないはずだ。
「帝国はアドガルムに攻め入るつもりなのだな」
あちこちから現れる斬撃をかいくぐり、ティタンはダミアンに質問をする。
「違うな。根絶やしだよ」
手数の多さにティタンの肌のあちこちにうっすらと傷がつく。
気にした素振りもなく、淡々とした口調で続けた。
「では何故ミューズやレナン様を攫おうとした」
手を止めることなく話を続ける二人に別次元の強さを感じる。ミューズには全く剣筋など見えない。
「その方が面白そうだからだ。お前達アドガルムが大事にしているおもちゃを奪えば、どんな顔をするか愉しみだからな」
すっかり傷も癒え立ち上がるライカを見て、ダミアンはまた笑う。
「あの傷をこんな短時間で回復したか。その力も役立ちそうだし、益になるなら増々欲しい。あれだけの怪我を治せるものはそうそういない。なぁ、くれよ。その女」
ダミアンの剣が重みと速さを増した。
「やらんと言ったはずだ。大概にしろ」
ティタンの剣がダミアンのひと振りを折った。
だがまだ猛攻は続いている。
「じゃあ奪う、それだけだ」
ダミアンの姿がかき消えた。
現れたのはティタンの頭上だ。




