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隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。  作者: しろねこ。
第三章 新たな戦の序章

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第49話 パルス国での異変

 レナンやラフィアはトゥーラの看病を率先して行う。


 キュアも回復魔法や薬草の知識を用いて、症状の進行を抑えているが、良くなる様子もない。


(この絡みつく黒いものはなんなのだろうか)

 トゥーラの魂に絡みつくこれが何なのか気になる。


 キュアの光魔法で一時的に追い払えるのだが、気づくと戻っているのだ。呪いであればキュアの魔法は効かない。


 何らかの魔法のはずだが、キュアはこのようなものを知らなかった。


「おかしい」

 キュアはレナンの護衛のため離れられないから、隠密隊に調査を依頼する。


 怪しいのはヘルガと王妃アリーシャ。彼女達が逆恨みをし、トゥーラに何かをした可能性は充分ある。


 あの輿入れ以来ヘルガの評判は地に落ち、レナンの評価が上がっている。レナンが大事にされているという事で、パルスの安全は保証されるし、数多くの捕虜が戻されたのだ。


 一旦は国元に帰ってきたものも、「アドガルムに仕えたい」と戻る者も少なからずおり、民のアドガルムへの認識も変わってきている。


 ついてきた騎士達にも警戒を怠らないようにと話をした。







「これはとてもまずいわ」

 偵察に出した隠密隊が戻ってこない。


 キュアは焦った、これは異常事態だと。


 今は深夜だし、確証のないままエリックに緊急の通信をするのはためらわれる。結果二コラにだけに告げる。


「トゥーラ様に黒い靄がつき纏い、その調査を依頼した隠密隊が戻らない。今のところまだ静かだ。けど、いつどうなるか……」

 心配で仕方ない。得体のしれない魔法も不気味だ。


「わかりました。すぐ別動隊を向かわせます。明日帝国との会談が終わり次第そちらへ向かいますが、くれぐれも無理しないように。緊急時は即連絡をください」

 二コラの言葉に安堵する。


 明日になればエリックが来る。それまでレナンを守るだけだ。


 キュアは気を引き締め、オスカーとも話した。


 翌日、変わらぬ朝が来るが、いまだに連絡はなく、戻るものもない。


 レナンには心配を掛けまいと何も話していなかったが、さすがに一晩立っても戻らない異常に話さざるを得まいし、このまま居るわけにはいかない。


 むやみやたらに怖がらせるものではないという判断だったが、こうまで連絡がないのではすでに殺されている可能性もある。


 異変と、即帰国する旨を伝えると、青ざめたレナンは心配そうだ。


「お母様はどうするの?」

 レナンの心配は最もだ。このまま置いていったのでは死んでしまう可能性が高い。


「もちろん連れていきましょう」

 キュアの独断となるが、エリックだって同じ事をするはずだ。


 このように泣きそうになっているレナンを見たら、置いていくわけがない。


「お母様、良ければ一緒にアドガルムに行きませんか?」

 レナンは早朝に母の部屋に向かい、トゥーラを誘う。


「でも私はヴィルヘルム様やアリーシャ様を支えないと……」

 こんなにやせ細ってもその事が気がかりのようだ。


「それに急に行ったら迷惑をかけてしまうわ」

 レナンの立場も慮る。


 トゥーラはパルス国国王の側室だ、急に出国することは出来ない。それを無理矢理連れ出したとあってはいくら娘でも許されない。


 ましてアドガルムの王太子妃で責任ある立場だ、余計な弱みとなって、レナンの立場を危うくしたくない。


「大丈夫よ、咎める人などアドガルムにはいないわ。皆優しいし、特にエリック様はとてもお優しい方なのよ。王宮医師のシュナイ先生はとても凄腕だから、きっとお母様の不調も治してくれる」

 咎める者などキュアも許さないので、うんうんと頷いた。娘の言葉だけでは心配なのか、トゥーラの目にキュアが映る。


(痩せてはいるが儚い美しさがレナン様に似て、また良い)

 思わず本音が漏れかけて表情を引き締める。


「えぇ。国王アルフレッド様、ならびに我が主エリック様はトゥーラ様の事を寧ろ歓迎します。あの方々は困ったものに手を差し出すことにためらいはありません。ヴィルヘルム様やアリーシャ様にも後ほど伝言をしますから、今は治すことを考えましょう」

 レナンとトゥーラはキュアの許可を得られたことで、安堵したようだ。


 その時、トゥーラの体にある黒い靄が膨張した。


 トゥーラがうなだれたのを見て、咄嗟にレナンの腕を引き、キュアは距離を取る。


「何があったの?」

 母の様子、そしてキュアの表情にただならぬものを感じるが、魔力が見えないレナンには状況がよく分かっていないようだ。


 ただ母が急に肩を落とした、そんな風にしか見えていない。


『この国を捨てていくの?』

 トゥーラの声が変だ。誰かと同時に話しているような、重なった声をしている。


『そんな悪い子に育てた覚えはないわぁ、王女が国から逃げては駄目じゃない』

 レナンを見るトゥーラの目はあらぬ方向を向いていた。


 まるで人間じゃないようだ。


「ひっ?!」

 小さく悲鳴を上げたラフィアの手を、オスカーが掴んで側に寄せる。


「オスカー! すぐ退避の準備を!」

 その言葉にすぐさま魔力を広げ、剣を抜き通信石に魔力を通す。


 繋いだ先は二コラだ。


「二コラ、異変よ。わからないけど、何かが起きている!」

 それだけ叫び、トゥーラを注視する。


「何なのよ、あの黒いのは?!」

 キュアほど精密ではないが、オスカーも異変に気付いた。


「わからない、でも逃げるわよ!」

 光魔法でトゥーラを照らすと黒い靄が一時的に離散し、動きが止まる。


 だが、また靄が集まりだしているのがわかった。


 自分達に認識阻害をかけ、部屋の外に飛び出し、追いかけてこないようにオスカーが草魔法で扉を蔦までがんじがらめにし、開かないようにする。


 専用の部屋にて控えていた騎士団にも声を掛け、逃走を促した。


「あなた達、逃げるわよ! トゥーラ様の様子がおかしい!」

 すぐさま騎士団にも認識阻害をかけ、城の外に向かう。


 途中すれ違う者達皆がおかしくなっていた。


 虚ろな、焦点の合わない目に、幽鬼のような足取り、まるで生ける屍のような動きだ。


 見知ったもの達の変わりようにレナンとラフィアは顔を青褪める。


「けして声を出してはいけません」

 キュアは二人に注意する。


 いくら気配を隠していても声を出せばわかってしまう。


 外まであと少しのところでラフィアはつい声を上げてしまう。


「母様!」

 庭にラフィアの母がいたのだ。


 乳母だった母は今もこの城で働いている。


 ラフィアにとっては尊敬するべき大事な母だ。


 城の変わりように呆然と立ち尽くしているように見える。


「母様、今すぐ逃げないと。一緒に来て!」

 ラフィアはオスカーの手を振り払って近づいた。


「ラフィア、ダメ!」

 キュアの叫びに、ラフィアの母親が振り向く。


 焦点の合わない目で。


「ひぃ!」

 凄まじい力で掴まれたが、オスカーが剣の柄でラフィアの母を突き飛ばす。


「急いで逃げるわよ!」

 今の悲鳴で見つかったようで、一斉に城のもの達がレナン達に向かってきた。


 まだ馬も手に入れてないし、逃げる準備もかかってしまう。オスカーが足止めの為に庭中のしょくぶつに魔力を込めて応戦するが、人数が多すぎる。


「お逃げください、レナン様」

 キュアがそう促す。


 キュアの頭上に大きな光の玉が現れる。


「あなた達、無事にレナン様を逃がすのよ!」

 光が弾け、人々を弾き飛ばすと靄も一時的に離れた。


 この靄は光に弱いようだ。


 皆が怯み、足が止まるのを見て、オスカーがレナンとラフィアの手を引いて走る。次いで騎士団たちが後ろについた。


「待って、キュアが!」

 レナンの声にオスカーは苦々しげになる。


「まずは御身の安全を考えてください!」

 オスカーとてキュアを置いて行きたくないが、この状況では足止めが必要だ。


 数が多すぎる、まさか城中の者が襲ってくるとは。


 機動力を考えると馬車は諦め、馬に乗る。オスカーがレナンを乗せ、ラフィアも騎士の一人と同乗した。


 アドガルムへ向かい、走ろうとしたその矢先に声を掛けられる。


「どこに行くつもりです、レナン」

 ヘルガの声が響き渡った。






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