第34話 秘めたる想い
「はぁ」
ため息をついたミューズは、お披露目が終わってからも気が抜けなかった。
自室として宛がわれた部屋で、ドレスを脱いでラフな格好にはなるが、緊張感は継続している。
先程とは違う緊張で落ちつかず、始終ソワソワしているのだ。
折角できた少しの自由時間なのに、大好きな本も全く文章が頭に入らず、同じページで止まっていた。
お付きの侍女チェルシーも何も言えず、お茶を淹れた後はじっと佇むだけだ、今のところミューズの力になれることは何もない。
つけているブレスレットを見ると、ティタンと別れる前に言われたことが思い出される。
「今夜、君の元へ行くから」
精一杯の気持ちで絞り出したのだろうなと思うような表情をしていた。
恥ずかしさで口元を隠し、目線も反らせたままだが、見える頬や耳は真っ赤であった。
遠くで見守っている護衛騎士がガッツポーズしていたのが、目の端に映る。
それを思い出し、ミューズも顔を赤くし、もう無理と本を閉じてテーブルに突っ伏した。
「嫌いではないの、寧ろ好きなのよ……」
ぽつりとミューズは小さな声で本音を漏らした。
最初にティタンの話しを聞いた時は、嫌悪し憎んでいた。
沢山の人を殺し、平然としている男。
でも戦がなければ、きっとあの人は剣を振るい人を傷つける事も、命を奪う事もしなかったはずだ。
そう思うくらい優しさにあふれた人だった。
国の為、民の為、その力と剣を振るい、アドガルムを守った。
勿論ティタンだけの力ではないだろうが、街の様子や、民たちの暮らし、そして城の騎士たちのティタンへ向ける視線が偉大さを語っている。
他の王子たちも素敵ではあったが、自分としてはこれ程までに武力に優れているのに、時々見せる人間味のあるティタンが一番好ましかった。
彼の表情や言動が好きだ、そしてあの逞しい体も。
赤くなる頬を押さえ、ミューズは艶のあるため息をついた。
自分の中にあるティタンへの好意を自覚してからは早かった。
誰にも言っていないが、昔から小さく非力なミューズはあのような筋肉や屈強な騎士に憧れている。
軽々とミューズを抱き上げ、多少の事ではびくともしないティタンは時に大胆で、時に臆病だ。
その彼は白い結婚を望まず、自分と本当の夫婦になりたいと望んでくれた。
妹たちを庇いミューズ自ら志願した結婚だったので、最初はティタンの本心はわからなかった。
彼はきっと妹を庇うミューズの心情に同情をして選んでくれたのだとすら思っていた。
本当は好意を持ってくれていたと、望まれていたというのが、のちにわかって嬉しかった。
今夜あるであろう夫婦生活を意識し過ぎて、数日前は淑女にあるまじき悲鳴を、馬車内であげてしまったが、今はようやく覚悟も出来、受け入れるつもりだ。
ミューズも数々の恋愛小説を読んできたのだから。多少の知識はある。
「恥ずかしいけど、きっと耐えられる」
またしても顔は赤くなるが、大声を上げることはなかった。




